- Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150116347
感想・レビュー・書評
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アルフレッド・ベスターの『虎よ、虎よ!』はもはや半世紀前の作品で、文庫版が出た頃に読んだのだろうから、30年ぶりくらいの再読なのだが、読む側の年齢差から来る印象の違いもさることながら、まったく時代を越えたインパクトがあることを痛感した。当時、ショッキングに感じたところはそれほどでもなく、多義的な結末は現在の方が楽しめた。
正直、マンガ的である。これは褒め言葉ととっていただいても、貶し文句ととっていただいても構わない。実に『ゴーレム100』とそのあたりは一貫している。コミックスの原作を務めたキャリアが生きているのかもしれないが、それが発表当時は斬新で、今はいささか陳腐、というわけでもなく、時代的な制約を飛び越えてしまっている。ジョウントなる名称で呼ばれるテレポテーションが超能力ではなく、普通の能力として訓練によって習得可能となった社会などという設定にしてからが、実にマンガ的。
お話のほうは『モンテ・クリスト伯』に想を得た復讐譚。宇宙で難破したガリー・フォイルは宇宙船ヴォーガに見捨てられ、復讐を誓い、惨めな生き物であることを辞める。知力と財力をつけ、「虎」と化すのである。
「虎よ、虎よ!」とはブレイクの詩の引用だが、万人が超能力者というこの話の中でさらに普通の超能力者を越えるのが「虎」であり、どこかニーチェを思わせる物言いだ。
それとともに顔に彫り込まれた入れ墨を消したはずが、怒りとともに虎のように浮き出ることも虎の謂いである。石ノ森章太郎のマンガ版『仮面ライダー』はこれに影響を受けている。
他方、われわれ日本人としては「虎」の謂いに、どこかで「山月記」が反響してくるのも感ずる。
そして「虎」と化したガリー・フォイルは他の「虎」たち、すなわち、この世界の有力者たちとまみえるのだ。
しかし、このお話の肝要は野獣のガリーが人間になることである。そのあたりの教養小説的な真面目さが、マンガ的荒唐無稽さを緩和して、ある迫力を生み出しているのだが、ベスターの本質は実はそこではない、と今回思った。彼の本質は雑多さ(猥雑と悪趣味といってもいい)であり、脈絡をいささか逸脱しながら、あちらこちらへとジョウントしてしまうことなのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
表紙から凄い。ストーリーは、モンテクリスト伯から 騎士道精神と華やかさを引いて、近未来の終末論を足した感じ
ウイリアムブレイクの詩の意味は この本よりネット検索した方が、わかりやすかった
最初から戻って読んでみたら 面白く感じた。フランケンシュタインの怪物の悲哀、カラマーゾフの兄弟の悪人論も盛り込まれていると感じた -
1956年(60年前!)に出版され、SFオールタイムベストの常連という古典SF。
宇宙で難破しているときに、助けずに素通りしていった船に復讐を誓い追いかける。「え?それで復讐?なんか単純すぎない?素通りした船にも事情があったんじゃ・・」とか思ったりしたけど、展開の勢いが凄くて一気に読み終わってしまった。素直に面白かった。古典で名作と呼ばれる本に外れなし、でした。 -
SFの古典。
サイバーパンク小説の原点でもあるらしい。
復讐の物語はところどころ破錠しながらも
ダイナミックに進んでいく。
細かいことは気にしない。 -
鬼才が放つ不朽の名作! らしいのだけど、正直全然わからなかった。原文のせいか訳文のせいか、文章や比喩も理解できないものが多かったし、ストーリーにもまるで面白みを感じることができなかった。登場人物も誰一人魅力的ではなく、その関係性もよくわからなかった。
唯一驚愕したのはラストのいきなりの急展開と文字の映像化(苦笑)だったが、あまりの唐突さについていけなかったです。。。 -
復讐を糧として生きる男の劇。余計な説明を挟まないスマートな、読者を信頼した場面切り替えや文章が心地よかった。
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翻訳者、物語の状況を理解してるのかしらとあやしむくらい訳がひどい。あるいはもともとの文章がひどい。
とにかく怒りと狂気にめらめら燃え続けてる主人公と、彼に振り回されては唐突にキレる女の子。
心情はなくセリフは棒読み感。
設定はすごく面白い。 -
もちろん名作なのだが、合わなかった。
そこまで憤怒するような描写とは感じなかったし、淡々としている。
刺青の怖さもあまり伝わらない。
復讐も中途半端?
ちょっとがっかり。 -
大変スケールの大きな復讐譚で、ハリウッド的な波瀾万丈の面白さがある。
時代は25世紀、人類は太陽系の他の惑星や衛星に移住し、また「ジョウント」と呼ばれるテレポーテーション技術を手中にしていた。ある時、火星と木星の間で難破した宇宙船にたった一人残されて漂流する男性がいた。170日間生き延びたところで、ようやく船が近づいてきて救助されるかと思いきや、その船は故意に彼を見捨てていった。彼は怒りのあまり復讐鬼として目覚めた。そうして、ガリヴァー・フォイルの物語が始まる。
最初は無気力な一労働者として描かれているフォイルは、復讐を果たす道のりで知識を身につけ、粗野で荒々しい自分をコントロールする力を身につけ、金の力で上流社会に食い込んでゆく。目的達成のためには殺人・強姦まるでお構いなし、という生き方は道徳的にかなり難があるが、凄まじいまでの生への執着には、つい引き込まれずにいられない。
荒れた岩山をよじ上るような復讐譚もスリリングで面白いが、この世界独特のギミックが非常に面白く、後世の作品の多くに影響を与えている。
顔中に施された虎柄の刺青。奥歯に仕込まれた加速装置。前歯の視覚強化装置。改造された肉体。子どもの姿をしたテレパスの老人。美しく残酷なアルビノの令嬢。混乱した神経系統の表れとしての共感覚。宇宙を旅する意識。
最後、良心に目覚め、世界の本当のありように気づいた主人公が、聖者か超人のようになって宇宙へ飛び出してしまうと、さすがについていくのが大変になるが、それまでは、人間の業がうずを巻いて大きくなってゆくようなストーリー運びがとても魅力的だった。