老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
- 早川書房 (2005年8月9日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150308094
作品紹介・あらすじ
偵察機の墜落により、おれは惑星パラーザの海に着水した。だが、救援要請は徒労に終わる。陸地を持たず、夜が訪れない表面積8億平方キロの海原で、自らの位置を特定する術はなかったのだ-通信機の対話だけを頼りに、無人の海を生き抜いた男の生涯「漂った男」、ホット・ジュピターに暮らす特異な知性体の生態を描き、SFマガジン読者賞を受賞した表題作ほか、環境と主体の相克を描破した4篇を収録。著者初の作品集。
感想・レビュー・書評
-
良いですねー。社会科学的な観点も含めて、本寸法のハードSFですね。
「環境による意識の変容」を共通のテーマとした4篇を収録。といってもそれぞれの作品に繋がりはなく、テイストも様々で、同じ素材を様々な手法で調理したコース料理を味わった感覚です。なかなか贅沢。
あまりSFを読み慣れていない人が「SF」と聞いて想起するイメージをそのまま作品にしたような、無駄なく引き締まった端正なハードSF揃い。冒頭の「ギャルナフカの迷宮」はSFの「S」風味薄めですが、社会科学系SFと言えますし、普段SFを読まない人にもお勧めできる、文句なしの傑作。
明るい結末の話ばかり、ではありません。暗い未来が待ち受けている不穏な雰囲気を漂わせたまま幕を閉じる作品もあります。それでも、登場人物たちが(時には悲壮な決意混じりながらも)共に協力し合い、前向きな勇気を持ち続けていることが、爽やかな読後感を残します。ちょっと理想的過ぎやしないか、と思うところも、正直ありますけどね(^_^; SFだもん、これぐらいキレイでも良いじゃないか!
小川一水氏の作品は、これまでアンソロジー収録の短編をいくつか読んだことがあるのですが、実はその「理想的過ぎる」ところが少々鼻についてしまい、あまり楽しめなかったのでした。この作品集に納められている短編群は、バランス感覚が絶妙で鴨的にもとても楽しく読むことができました。他の作品も、機会があればチャレンジしてみたいと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
小川一水という人は『天冥の標』で超有名なSF作家。
日本SF界では次世代の日本SFを代表する一人と言われている。
『老ヴォールの惑星』は初期の中編4話を集めたもの
表題作「老ヴォールの惑星」
他の惑星に住む住人、生命体、知性という概念が、人間の想像を超えるとすると……。
この作品では、生み出される生命体の様式はその惑星の環境が決定づけている。
イメージすることがなかなか難しいが、不思議と納得できる物語。
「漂った男」
誰もいない惑星にたった一人取り残される物語といえばアンディ・ウェア「火星の人」が思い浮かぶ。
不時着した惑星の環境がこの人の幸福と悲劇をもたらすことになる。
全て水面の大きな惑星に浮かぶ人間ひとり、もう砂漠に蟻を探すより気が遠くなる。
頼みの綱が通信機。昔の遠距離恋愛のように画像のない電話だけで他人と繋がるようすが、とてもリアルに展開される。
悲劇も長く続くと日常になり、いい人ばかりではなくなる。
エンディングがとてもいいので、爽やかな読後になる。
その他の中編2話も「孤独と社会」や「幻想と実体」などのテーマを持ちながら、物語自体の面白さですっかりファンになってしまった。 -
どれも好きだ。特殊な言葉もすっと入ってくる読みやすさがあって、話に入っていきやすかった
-
この作品を根底に持っている作家さん
なので、他の作品の時
だいたい安心してる自分がいる。 -
SF作品集。普段あまりSFを読まないので、頭ん中のいつもと違う部分が刺激されました。いきなり訳のわからない世界に放り込まれて、手探りで進む内に色々と判明してきて楽しくなり、もっと先へと進みたくなる。そんな感覚を楽しみました。
過酷な環境の惑星に適した姿を得た知的生命体が、自分たちと別の存在へコンタクトしようとする「老ヴォールの惑星」には、小説ならではの味わいがありました。この惑星に住む生命体や生存法は、それこそ映像にすれば一目瞭然なのでしょうが、文章で表わされたものを想像する時の刺激は、何とも言えない面白味がありました。その後で表紙のイラストを見て改めて感嘆の声が出たものです。
また水の惑星に漂着した男を描いた「漂った男」では、究極状態に於いて人は何をもって人と為されるのかが問われます。絶対的孤独の恐怖を淡々と描いた後のラストの盛り上がりには身が奮えました。
SFとしての面白さはもちろん、人とは何か、知的好奇心の行き着く先は何かという普遍的な問題も提示されています。何より未来へのまなざしが明るいのが素敵です。 -
小川一水を読むのは2冊目。
至極読みやすくてサクサク読めてしまうので、
ラノベっぽいのかなと思いきや、
この中編集で改めました。
不親切じゃないかと思えるようなSF特有の難解さは一切無く、
やはり読みやすいのですが、面白い!
サクッと読めてしまう小説は残らない物が多いのですが、
残るし、結局後でまたじわじわ読みなおしてしまいました。
「漂った男」が一番お気に入りです。
最後まで描き切らない、読み手の思考の余地を残す描き方が
どれも秀逸でした。
もう少しボリュームのある物が読みたいので、
今度は続きものにしようかな。 -
−−希望が百億光年星の彼方だとしても、それは確かにあるのだ。
『老ヴォールの惑星』。書店でふと手に取った、名も知らない作家の、SF中篇集。
寄ったマックで熱中し、最後まで読んで、動揺を隠せない自分に気付いた。
すごいものを読んでしまった、という驚きだった。
それが「ギャルナフカの迷宮」。これは二段三段と展開が急スピードで変化に富み、まったく退屈するヒマがない。
社会を作るって正しいこと?統治者は必要か?
主人公と一緒に自分の価値観もがつんと揺さぶられた作品。
この短編集は、ひとつひとつの物語の世界観がものすごくしっかりしている。
それゆえに、一気には読めない。
ひとつひとつ丁寧に噛み砕いて、読んでいった、そして最後の作品を読み終えたのが今日だった。
「老ヴォールの惑星」。
最初読んだ時は一番意味がわからない話だったけど、読み終えて思い返してみると、壮大さに心がふるえる。
老ヴォールの願いが、たわごとが、引き継がれていって、最後には強く輝く光になった、というような。
「幸せになる箱庭」。
おまえはどうやって自分が自分だと証明できるんだ?現実が現実だと認識できるんだ?
幻覚を現実として認識させ、理想の世界を差し出してくる異星人。
人類の前に立ちはだかる絶対的な力をもった存在と、それに翻弄される人間の姿を描いた作品。
「漂った男」。
絶望って、なんだ。
それを、絶望を経験した男が言うような、そんな気持ちよさ。
ある星に遭難して、Uフォン越しの会話だけを支えに生きていく男の話。
その星には生命を維持できる水があって、ただ生きる目的だけがなかった。Uフォン越しに会話する相手は、いつしか友となっていた。
「君が心の支えになっていた。どんな戦火も、君には届かないんだと思うとね」は、すごくすてきな台詞。まさにこのシチュエーションで言うべき台詞!
小川一水の作品では、登場人物たちは一度どうしようもない絶望を経験する。
時には正論だったり、環境だったり、そういうものに打ちのめされて、でも主人公たちは「それでも生きよう」と立ち上がるのだ。
それは宇宙の彼方で光る星の姿にも似ている。
こんなに高レベルの短編集があっていいのか、と正直思う。読まないで死んだら損以外の何者でもないなと思う。 -
・短編集。ぼくにとっては正統的なSF作品。古いタイプとも言う? その分安心して読める。
・個と社会、といったふうなのが主潮低音のような気もするが単純にSF設定を楽しんでおけばいいとも思う。
・「ギャルナフカの迷宮」政治犯とされ人工的な地下迷宮に放り込まれた主人公は誰も他者を信じない弱肉強食が確立された世界であがく。
・表題作は地球とは全く異なる生物が日々サバイバルしている過酷な星に迫る終末の日。個体であると同時に全体がひとつであるような社会性を持つ生物がおもろい。
・「幸せになる箱船」限界までリアルになった仮想現実は本当の現実と何かが異なるのか? それは誰にもわからないとは思う。
・「漂った男」海しかない惑星に不時着したパイロット。絶対沈みそうにない装備と重くて沈みにくい海水だし何よりその海水は「食べる」ことができる代物で命の心配もなく通信機はどんな状態でも使える優秀さで会話にも不自由なく、ただ未知の惑星なので座標を割り出すことができず救助が来るまでひたすら漂うことになった。そんな彼の存在は? 安部公房の作品でも読んでる気分になった。 -
日本人作家自体あまり読まないうえに、ごく最近の若い作家だという事で、最初は抵抗があった。何というか、薄っぺらい?軽薄?ラノベか?という感じが拭えなかった。でも、いつの間にかのめり込んでいる自分に気づいたとき、不思議な感覚に襲われた。「漂った男」では涙すら流しそうになってしまった。