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Amazon.co.jp ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784150727017
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歴史的な人物の真実に迫るミステリーが描かれており、特に悪名高いリチャード3世の人間像を再評価する視点が魅力的です。入院中のグラント警部が肖像画をきっかけにリチャード3世について調査を始め、彼の悪名の裏...
感想・レビュー・書評
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入院中のグラント警部は退屈しきっていた。女友達(恋人?)舞台女優のマータは「主人公になった歴史人物の肖像画」を持ってくる。グラントは人間の顔に興味を持っている。顔を見れば、被告側か、裁判官側か、判断が付く。それはもともとの観察眼に、自分なりの研究を行って培ったものだ。
写真に目を通すグラント。
これがルクレチア・ボルジアか。こっちはエリザベス女王の恋人か。これは誰だ?
グラントが目に留めた肖像画は、見事な装飾品を付けた35.6歳の男。ほっそりとして髭はない。目は遠くを見て、大きい顎。けれども口元は生気がないなあ。きっと責任のある立場にいた男だ。良心的で悩める人物。完全主義者で病気を持っていたな。職業は裁判官か、軍人か、王子かもしれない。
グラントは写真の裏の名前を確かめた。
「リチャード三世」
え?これが?醜いせむし男。王位につくために幼い二人の甥を殺した悪逆の王位簒奪者。
グラントは人々に写真を見せて感想を聞いた。博物館職員は「聖者」、医師は「身体障害者」、刑事は「容疑者ではなく判事側の人間」。それがリチャード三世と知った上では、伝わるとおりに「典型的な化け物顔」という看護師、「絶望的に不幸な顔。苦しんだ人」と評する婦長。
グラントは、果たしてリチャード三世は本当に歴史に刻まれているような卑劣で悪辣な人物なのか、自分が感じたような人物なのかを調べてみることにした。
グラントは入院しているので考えることしかできない。彼が考えて、資料を恋人や友人に持ってきてもらう。途中ではアメリカ人歴史研究者のキャラダインが協力者となり、二人でノリノリで調査を進める。
(シェイクスピアの「リチャード三世」はこちら
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/410202011X)
グラントの調査方法は、警部であり、自己流だけど顔面判断の研究もしているだけあって論理的。でも入院中の退屈しのぎなのであんまり堅苦しくならないのが小説として読みやすいです。
グラントは「そもそも薔薇戦争ってどんな位置づけ?」ってことから初めます。まだまだ緑の平地だったイギリスで、30年に渡り繰り広げられた薔薇戦争。でもそれは「戦争」ではなくて内輪揉めのようなものではないか。別にイギリス中「ヨークか!?ランカスターか!?」で大戦争をしていたわけではない。
グラントの調査方法の根本は「伝聞ではなく、直接知っている人間の証言。当時の証言」です。
たとえば、「今日に伝わるリチャード三世の悪行の「史実」は、偉大なるトマス・モアによって書かれたもの。しかしグラントはトマス・モアの記録を読んでなんとも不快感を覚える。どこか歪められていると感じたのだ。そこで確認したら、トマス・モアが活動したのはその後のヘンリー七世、ヘンリー八世の時代。さらにリチャード三世のことを彼に教えたのはヘンリー七世側の人物でした。」ってことが明らかになるとグラントは警部らしく「そんなもん裁判に証拠として出せるかーー!却下!ヽ(`Д´)ノ」となる。
リチャード三世最大の悪行は「二人の幼い甥を殺した」なので(しかしこう言っては何ですが、権力争いで幼い親戚を殺した歴史上の人物はいくらでもいるよね…)、グラントの思考もここが中心になります。
そして、伝わっている証言した人間の立場(ヘンリー七世側ならでっち上げの可能性高い)、当時の証言はどうなっているか、を調べていき、彼としての結論に達します。
ここに辿り着くまでも警部らしく「法廷で証拠として認められるか?」「この人物は信用できるか?」を考えます。
そしてグラントとしては、事実を捻じ曲げたとしてトマス・モアとヘンリー七世に対してかなりの嫌悪感を持って悪口三昧です・笑
アメリカ人キャラダインは「この説を発表します!」と大張り切り。
しかしこのような説は、ずっと前から歴史愛好家や、歴史研究家、政治家たち(貴族政治家で作家のホレス・ウォルポールの名前も出てきた)によって提唱されていたのだ。
まあそうだよね、ド素人のアメリカ人と入院中の警部が専門家より優れた大発見なんてできるわけないよね。
しかし!大事なのは、当たり前の史実として伝えられていることが、実は全く違ったことだった、ということ。そしてそれがどのようにでっち上げられるかを知ったこと。キャラダインはそれに対しての研究をできるんじゃないか?
グラントやキャラダインが調べるまでもなく、歴史上の研究でリチャード三世の悪行は否定され、彼を倒して王位についたヘンリー七世の残虐さも証明されている。
しかし相変わらず関わらず教科書では「リチャード三世は卑劣、ヘンリー七世は治世の人」(ヘンリー七世の血筋が現代イギリス王室の元です)と書かれる。
当時の人たちだってリチャード三世を出した良い法令を歓び、リチャード三世は庶民人気もあった。しかしヘンリー七世の時代にリチャード三世の悪行が言いふらされると、当時はリチャードのみかただった人たちもみんなで口をつぐんだりその悪口に乗っかったりした。
グラントの結論は「歴史って手に負えないよなあ。┐(´д`)┌」でしたとさ。
歴史検証としても面白かったのですが、やっぱり捜査対象がリチャード三世なので、「入院中の退屈しのぎ」として気軽に読めるといのがあります。
個人的に難しかったのが題名の「時の娘」。「真実は、今日は隠されているかもしれないが、時間の経過によって明らかになる」という言い回しなんだそうです。その意味ではこの小説に合っているし、リチャード三世の名誉回復を願う意味でもいいんだけどさ、やっぱりこの題名では内容がピンとこない。
そして作者は本気でリチャード三世の名誉回復ではなくて、「歴史の書き換え」「思い込み」について書きたかったんでしょう、するとここで検証されたことも歴史論文ではなくて「退屈しのぎの頭の体操」として軽く読めば良いのかな。
そもそもグラントの捜査の初歩が「自分は顔相診断には自信がある!!」ですからね。あくまでも個人のおもいこみなわけで。
歴史的小ネタ。
●後のエドワード四世と、弟の後のリチャード三世は、イギリスからブリュージュに落ち延びて板敷きがある。このとき経済支援したイギリス出身の商人カクストンは、エドワードが王位に付いたときにイギリスに戻った。そしてイギリスで最初に印刷された本を出版することになる。それはエリザベス王妃の兄が書いた(本当に本人が書いたのかは読み取れなかったが)エドワード四世に捧げる書物だったのだ!
●戯曲「リチャード三世」でリチャードと敵対して生き残った人たち(前王妃エリザベス、その娘エリザベス、クラレンス公ジョージの子供たち、戯曲に出てこないけどリチャード三世の庶子)のその後。
⇒ヘンリー七世の時代に監禁されたり処刑されたりしていた(-_-;)。
シェイクスピアが戯曲でリチャード三世を悪として華々しく書き、それを生き残った人たちが、現実のヘンリー七世にみんな排除されただなんて。ああ、現実って情緒がないなあ(´•ω•`)
以下、シェイクスピア戯曲で疑問だったけれど、この本で納得したこと。
●リチャード三世は、エドワード四世の二人の王子は殺したのに、クラレンス公ジョージの息子のエドワードのことは「あいつはアホだから心配ない」って抜かりありすぎじゃないか?
⇒実際にはリチャード三世は自分の後継者にこの甥のエドワードを指定していたんだそうです。
●戯曲のリチャード三世と、母親ヨーク公夫人の関係が悪すぎ。母が極端なくらいにリチャードだけを嫌い呪っているので「母からこんな扱いされたら性格歪むよ」と思った反面、リチャードだって自分の王位継承正統性主張のため「兄のエドワードとジョージは、母が不倫して生まれた私生児」とか公表する。こりゃーどっちもどっちだ。(=ω=)
⇒二人はそこまで嫌い合っていた根拠がないし、母のスキャンダルなんて公表するはずがないから、でっちあげだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
甥っ子たちを殺害して王位を継承したとして、「稀代の悪王」と呼ばれたリチャード3世。
映画『ロストキング』では、リチャード3世推しの主婦が、名誉回復のためにアマチュア歴史家として500年越しに推しの遺骨を発見する実話が描かれたが、こちらのテーマもリチャード3世は本当に悪王なのか?というもの(書かれたのはこちらの方が古く、1950年代)。
怪我で入院中のグラント警部は、暇つぶしのために様々な歴史上の人物の肖像画を眺めていた(警部は人相占い?みたいなことが得意で、人相からその人の性格がわかっちゃう)ところ、リチャード3世の顔が気になってしまう。そして、どうしても悪人とは思えない。
そこで、看護師や友人たちの手を借りて文献を調査し、リチャード3世の真実に迫ろうとする歴史ミステリー。
ほぼ病室で繰り返される会話がメインなので、特に盛り上がりはしないのだが、歴史に興味のある方には面白いと思う。 -
2018にも読んだが、映画ロスト・キングを見たので、またリチャード三世の話を読みたくなり再読した2025.5。
リチャード三世の遺骨発見は本当にすごいニュースだよね〜。
改めて、時の娘。面白い。
そして、こういう物語(安楽椅子探偵の歴史ミステリ)が、高い評価を受けていることが嬉しいです。
顔。このリチャードの顔から始まる。
そう、たしかにインパクトがあるよね。
悲しそう。でも貴族らしい誇りも見られる。
ここに惹かれる、というか、忘れられない顔だよね。
歴史にはこういう歪められた人物がたくさん居るんだろうなと思わされた。
ヘンリー7世は出どころの怪しい海千山千の人らしいし。
それにしてもさ〜、王室関係みんな名前被りが多すぎて泣きそう。
男子はヘンリーかエドワードかリチャードかジョンだし、子女はエリザベスかアンかメアリーかマーガレットだよね。
うん、やめて? -
犯罪が絡むわけでもなく、日常の中に不可思議なことが起こったわけでもない。それでも時に人は無や常識から疑問を見いだし、謎を設定し、そして真実を見つけようとする。研究なんかもそうですが、こうやって謎や疑問を自ら定め、そして自分の興味を第一の理由にそれに挑むのが、ある意味最も純粋な謎解きではないか、と思います。
そんな謎解きに挑むのが、足を骨折し病院で暇を持て余すグラント警部。警部はふとしたきっかけから、歴史上では悪人と名高いリチャード三世に対し疑問を抱き、様々な文献をあたり、彼が本当に大悪人だったのか推理を始めます。
推理の過程が非常に面白い! 史実に対し頼りになるのは、文献や当時の記録のみなのですが、グラント警部はその文献の記録の妥当性や公正性すらも考慮に入れます。例えば、その文献の著者は、当時の関係者なのかだとか、立場であるとか、伝聞のみで文章を書いたのではないか、だとか。
こうやって考えてみると、グラント警部は探偵としても優秀なんですが、情報リテラシーの鏡でもあるよなあ。ネットはもちろん、マスコミや新聞だって100パーセント中立はあり得ないわけで、必ず編集する側の意思は入ります。それも考慮して、日々の情報を読み解くことが大事なのですが、グラント警部はぜひニュースの解説員にもなってほしい(笑)
当時の歴史上の人物の行動と、その行動を取った意味と妥当性、そして利益。グラント警部はイメージに彩られた歴史の通説を排し、純粋にそうした観点のみで、歴史に思いを馳せ推理、考察していきます。この観点は非情に単純なのに、それだけで歴史の意味が変わってくるのは面白い!
そして、この本で何より楽しいのは、グラント警部と、話の途中から警部に協力する研究生のブレントが新たな発見や、推理を純粋に楽しみ興奮しているのが、伝わってくることでもあります。
上記したように、巻き込まれた・持ち込まれた謎ではなく、自ら謎を設定し、具体的な被害も無く、興味だけで推理を進めていく物語だから、より純粋に”謎”それ自体を楽しんでいる感覚が、伝わってくるような気がします。なのでリチャード三世もイギリス史も全く詳しくない自分も、彼らと同じように純粋な謎解きを楽しめたのだと思います。
小説の中で様々な文献の名前が出てくるのだけど、これもそれぞれ面白そうで、これが架空の作品なのか、実際の作品なのかも気になるなあ。そして、そうした文献に対するグラント警部の辛辣な評価(レビュー)も、なかなか面白い。
ニュースの解説員はさっき書いたけど、書評家にもなってほしい。でも流行小説に対する評価は手厳しいので、出版社からは煙たがられるかも(笑)
本編とは関係ないのですが、ブレントを”むくむく仔羊ちゃん”とたとえてるのも印象的。どんな見た目だったんだろう。 -
1951年に出版された歴史ミステリ。探偵小説評論家アンソニー・バウチャーはこの作品を年間第一位とし、さらに全探偵小説のベストの一つと激賞。江戸川乱歩氏も同感だそうです。
『リチャード三世がロンドン塔の王子たちを殺害したのか?』
安楽椅子探偵アラン・グラントとアメリカの歴史好き青年ブレント・キャラダインがその謎に挑みます。
「(トニイパンディとボストン事件について)現場に居合わせた一人一人がみんな、この話は作り話だと知っていながら、しかもそれを否定していない。今となってはもうとり返しがつかん。この話は嘘だと知っている連中が黙って見ているあいだに、そのまったく嘘っぱちが伝説になるまでにふくれ上がってしまったんだ。」
「そうですね。じつに面白い、じつに。歴史はこうして作られるんですね。」
「真実は物語にはなく、家計簿にあり。本当の歴史は歴史として書かれたもののなかにはありません。衣装代の計算書のなかに、皇室内廷費のなかに、個人の手紙のなかに、財産目録のなかにあるんです。」
この本の最初のほうに話題にのぼる「ルイ17世」は、2000年にDNA鑑定がなされ、2004年に解決しました。この小説の登場人物におしえてあげたいです。
そして、2012年には「リチャード三世」の骨が見つかり、確認できました。
>調査チームはリチャード3世の姉の子孫であるカナダ生まれの家具職人を探し出し、DNA鑑定を実施した。http://www.47news.jp/CN/201302/CN2013020401002216.html
おそるべし、ミトコンドリアDNA。 -
入院中の刑事グラントは、ふとしたことから一幅の肖像画を目にする。思慮深そうなその人物はしかし、悪名高きリチャード3世その人であった。
な、なんだこれは・・・! 私の好みにどストライクの本ではないか・・・!!
本編の1ページ目から心臓を鷲づかみにされてしまった。理知的で抑揚の効いた文章。それでいてウィットに富んだ、軽妙な語り口。主人公の警部が入院中とあって、舞台は病室から一歩も外に出ないのに、全く窮屈さを感じさせない展開。
話の発端も素敵だ。肖像画だけを見て、これはいったいどういう人間だろうと想像する。主人公のグラント警部による、人間の顔談議も非常に説得力があって、人間の顔に対する興味をかき立てられ、面白い。
そして、文献からの理論的かつ客観性に優れた推理。常識として世間に知れ渡ったことを、病室のベットの上で覆してしまうというワクワク感。
何もかもが、私の好みにドンピシャである。こんなミステリーを待っていた!
というわけで、非常に楽しませてもらった本であった。今年最後の締めくくりに、この本が読めて幸せ!
・・・しかし、題材が英国王室の歴史というだけあって、とにかく歴史上の人名が覚えられず、それには泣きそうであった。巻頭のほうに家系図は掲載させているものの、この家系図には載っていない人物も大勢出てきて、そのたびに「この人は誰だったっけ?」と前のページを捲る羽目になった。
また、私はリチャード3世についても全く予備知識がなく、お芝居にも疎遠なため、自分の知識が覆される快感を十二分に味わうことができなかったであろうことが、少々もったいない気がした。
でも! それでもこの本が持つ魅力は、十二分に伝わってきたと思う!
知的好奇心を満たす読み物として、ミステリーに私が求めるものが、理想的な形で体現したのがこの本だったのだ。
一度読めばおしまい、なアトラクションのようなエンターテイメントではなく、何度でも繰り返し読みたい素敵なミステリーであった。
とはいえ、次に読むときは、もっと英国王室の歴史について勉強しておいたほうがいいかもしれない(^^;)。-
>kumakuma10さん
レビューを見て読んでくださったなんて、私もとても嬉しいです。こちらこそありがとうございます!
はい、文章が素...>kumakuma10さん
レビューを見て読んでくださったなんて、私もとても嬉しいです。こちらこそありがとうございます!
はい、文章が素晴らしいですね。ただ謎を解くだけでなく、説得力のある考察がされていて、ぐいぐい引き付けられました。私も読み終わるのがさみしかったです。
この度はこのようなご縁を、どうもありがとうございました(^^)。2012/07/22
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リチャード3世は本当に悪者だったのか
歴史上の人物の謎にせまる安楽椅子探偵
中世イングランド史
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ロンドン塔の王子たちを殺害したのは本当にリチャード三世なのか?ベッド探偵が真実に迫る歴史ミステリの傑作。
シェイクスピアの戯曲では清々しいまでの極悪非道の人物として描かれていたリチャード三世。そのイメージが広く流布したまま時は流れ、本書が発表された20世紀半ばに至っても彼の悪名は依然として世間に轟いていた。退屈な入院生活中にふとその肖像画を目にすることになったグラント警部は、人間の顔分析についての職業上の経験と独自の見解から、「この人物は本当に悪人だったのか?」と疑問を抱く。退院までベッドで暇を持て余す警部は、歴史的人物の真相に迫るべく文献の調査と推理に乗り出していくのだった。
英国の歴史とか、薔薇戦争とかおぼろげな知識すらないレベルだったけれど、直前にシェイクスピアの『リチャード三世』を読んでいたおかげですんなり入り込めた。あの悪王のイメージと、表紙にある神経質そうな彼の肖像画とは、確かにイメージが合わない。加えてグラント警部の鋭すぎる「人間の顔」分析が面白く、警部がこの肖像画とその人物伝とのギャップに抱く疑問に読者としても俄然興味がわき、冒頭から引き込まれた。
焦点となるのはリチャード三世が殺害したとされるロンドン塔の二人の甥についての真相。文献と友人たちの調査から推理を重ね、次第に見えてくる、「歴史」とはまったく異なるリチャード三世の人物像に驚愕する。なぜ真実はゆがめられたのか?グラント警部は、とある人物の思惑につきあたる……。
もし、リチャード三世がボズワースの戦いに勝利していれば、歴史と彼の評価はまったく異なるものになっていただろうという「歴史のIF」について分析するところも面白い。本作の中で一つの結論にたどり着くが、この点について調べると、リチャード三世を擁護する説そのものは古くからあり、現在でも評価は分かれるようだ。ただ本書の面白さは知的好奇心を刺激する歴史の謎を題材としながらも、推理を重ねる「ミステリー」の部分が主体であり、どちらの説を取るかということよりも、その過程にこそ魅力があるのだと思う。最初から最後まで興味が尽きない、引力のある傑作だった。 -
史実の裏には隠された真実があるのではないか?というフックから始まる歴史ミステリーで、これまで読んできた推理小説とは一風変わっており愉しい。冒頭で軽く薔薇戦争のことを説明し、事件を追う過程でより丁寧に歴史検証を重ねていくため、リチャード3世のことをよく知らずとも、興味が持続するよう出来ているのも巧い。歴史とは何か。歴史はどのように作られていくのか。そうした視点は、どんな時代であろうとも忘れてはならず、先入観を疑い、知的好奇心を刺激してくれる物語だった。この本もまた、私にとってミステリーの概念を少し変えてくれた本であり、そのことが嬉しい。
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斬新!安楽椅子探偵がまさか時代を遡って推理をするなんて。そして、回想や再現VTRではなくあくまで思考を書き連ねてるのに飽きさせない。正直歴史の知識不足も多々あるので、混乱することもあったけど、楽しめました
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史実は歴史書と違う場合がある
史実を如何に読み解くか。歴史は勝者の物と言われるくらい勝者の史実として作っていることだ。イギリスの王位継承権での争いも「裏切り・利権・名誉」等において、次期王が前王に全ての悪名を被せ裏工作を淡々と成し遂げた「汚い」歴史だ。だが、この小説では史実を掘り下げだけではなく時代に登場する人物に「得する人間vs損する人間」を警察官の様に検視する目を持つ事だと感じた。 -
さすがに歴史ミステリの名作といわれるだけあって、面白かった! ただ歴史ものなので、多少の前知識がないと分かりにくそうだった。予習としてシェイクスピアの「リチャード三世」を読んでいて良かった。
調べたところ、タイトルの「時の娘」はフランシス・ベーコンの言葉「真理は時の娘であり、権威の娘ではない」に由来するようだ。真実は隠されていても時の経過によって明らかになり、権威によって明かされるものではない、という意味らしい。まさにぴったりのタイトル! -
ミステリの名作だと思うが読了するのに苦労した。
そもそもイギリスの歴史を知らなくて、名前が全然頭に入ってこない。複雑な王室の系図を結局最後までしっかりと理解できないまま読み終わった。本作を楽しむには、最低限のイギリスのこの時代の知識が必要かも知れない。
歴史上の事実として認められているものを覆すエンタメは、それなりに数もあると思うが、学会において、その本を契機に定説が変わったことってあるのかな。
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こんな本を今まで知らなかったなんて恥ずかしい。ミステリだからと思って敬遠しちゃってたのかな? ハヤカワ文庫だけど、私が借りたのは表紙が(よく見ると)ロンドン塔の絵のもの。
ハヤカワ・ミステリに入ってるけど、そして実際ミステリの形式を取って刑事さんと助手が調査をしているけど、これは歴史書、あるいは歴史についてのある考察書なのだと思う。
怪我療養中のアームチェアーどころかベッド探偵たる刑事のペダンティックさはちょっと鼻につくけど、彼らの発見はとても興味深かった――というか、興奮した。
そうなのか、私もてっきりリチャード3世って悪い人だったんだと思ってた。強力な通説だし、何百年もそれで通ってきたから、実際覆すのは大変なことだけど、今年レスターで遺骨も発見されたかもしれないそうだし(DNA鑑定ではっきりするらしい)、もしかしたら一気に名誉回復のチャンスかも? そうなったら面白いんだけど。 -
リチャード三世の遺骨が発見されたと聞いて購入したものを、積ん読の山の中から発掘。
スコットランドヤードの警部が入院中に、甥殺しで悪名高いリチャード三世は本当に非道な王だったのか、を検証する話。
歴史物は好きですが、イギリス史は学生の頃の世界史の授業で軽く習ったくらいの知識しかなく、冒頭の薔薇戦争の説明で挫折しそうになりました・・・。ヨーク家とランカスター家も、元を正せば親戚同士なんですねぇ。家系図もあるけど、いまひとつわかりにくい。もうちょっと親切な家系図をつけてくれればいいのになぁ。
が、本文はスイスイいけます。歴史の検証というよりも、主人公が警察なので、犯罪捜査のように論理的に進みます。警部とワトソン役の青年との会話で成り立っているのもわかりやすい。それでも、当時の関係者にはエドワードもリチャードもエリザベスも何人もいて、どのエドワードだよ!と混乱することも。おまけに、同一人物が身分(ヨーク公とか)で書かれたり名前で書かれたり。人物を確認するため、行きつ戻りつ。
おかげで、すっかりイギリス史に興味が湧いてしまいました。
リチャード三世を再評価する動きは、この本以前からちゃんとあることが、本文中できちんと触れられているのも、フェアな姿勢で好感が持てます。登場人物のがっかり感がちょっと微笑ましく思えます。
しかし、どこまでが史実でどこからがフィクションなのかわかりません。二人が見つけたものがすべて史実だとしたら、リチャード三世、これっぽっちも非道な人ではありません。気づく人がもっといてもおかしくない。
ただ、歴史は勝者によって作られる。決して、すべてが「真実」というわけではない。だけど、それでも遠い過去の話、現代でどれだけ史料を掘り起こしても、決して「本当のこと」を知ることはできないし、同時に「その時」を生きている人は、後世にどんな影響を及ぼし、どんな評価をされるかは知りえない。時の流れ、というものについて、しみじみと感じさせられる一冊。
間違いなく、名作です! -
ミステリーの古典的な作品。負傷療養中のヤードの敏腕警部がベッド上で、リチャード3世の悪行と言われた数々を覆して行く、と言うもの。看護師や彼に代わり調べ事を請け負う青年など、リアル登場人物との会話も生き生きしていて、歴史上のモノ言わぬ人との対比も良かった。ロンドン塔で謀殺されたとされる金髪の美形の兄弟の話が有名なのでホッとした。肖像画見ながら読むのも楽しかった。
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薔薇戦争の頃のイギリス王室についてほとんど知らなかったため、勉強になった。リチャード3世は数々の物語の題材になる有名人なんだね。
当時の人たちの認識と全然違う歴史書が捏造されて、真実として扱われる「トニイパンティ」。
刑事の直感から始まり、だんだんリチャード3世の人柄を理解していくあたりは楽しめた。
でもタイトルの「時の娘」は一体誰のことだったのか?読み終わった今もよくわからない。 -
英国旅行(しかもリチャード三世をめぐる旅)出発前日に、紀伊國屋書店店頭で出会ってしまった。
前々からこの小説の存在を知ってはいたけどさー、運命だと思ってそりゃ買ったよね。
リカーディアン的には誇らしくなる内容ですよね。
もっとも、フィクションとしての極悪人リチャード三世も大好きですが。 -
ミステリ小説を読んでは、
「あ~ぁ、私もヤードの一員となって…」とか
「気のいい呑気な相棒を引き連れて…」とか
そんなんで「難事件を解決したかったなー」
なんて叶わない前提で気楽に想像したりなどしているけど、
実はこの本みたいなことは、今この瞬間から私でもできること。
(なので言い訳無用!)
主人公は犯人を追ってマンホールに落ち、怪我をしたため
ベッドで横になっているしかないグラント警部。
入院中の暇つぶしに、ふとしたことから
リチャード三世が世間で一般的に言われているような
「悪辣で無慈悲な」男なのかを
様々な資料を通して検証していく…
グラント警部の彼女が人気女優と言うのがなんだかとても嬉しい。
舞台上でなくても持ち前の演技力で
看護師さんを虜にして、傅かれているところが面白い。
でもグラント警部の家政婦ミセス・ティンカーは
一枚上手のようなそうでもないようなところがまた楽しい。
いつしかグラントの助手となって、動けない彼のかわりに
あちらこちらへ調査へ行く真面目で気さくなキャラダイン青年、
もしやるならこの役やりたいな!(性別を超えて…)
ただ申し訳ないのはリチャード三世に対するイメージが
良くも悪くもほとんど無いもので、
あんまり驚かなかったんだ、ごめんね。
(日本のそれも平安時代と江戸の町人文化しか興味ないもんで…)
でもロンドン塔に幽閉の上殺された王子二人については
なぜだか知っていたな。(死ぬほど有名な話だからと察する)
でもこの本がとても面白かったので
今からリチャード三世についていろいろ読もうかな?というところ。
要するに、歴史上でこうじゃないか?と
ほとんどの人が信じてしまっているあるエピソードなり
人物像なりがあるけれど、本当は…って言うお話の訳さ。
そう言うのなら私も何個かあるの。
そのうちの一つは「安徳天皇は実は女の子だった」って言うの。
『平家物語』の安徳天皇が生まれたシーンで
ちょっと不思議な記述があったでしょ?
(はじめ「女の子が生まれた」って言ったのに
「やっぱり男の子でした」って言うところ)
ま、証拠というかなんというか、データはそれだけなんだけど。(少な!)
でも、とは言え、結構「女の子だった」と思って読むと
色々辻褄が合うっていうか…。
もはや壇ノ浦に沈むっきゃ無いって感じ…に、なるよね?
「女の子だった」だけじゃ弱い(?)のならさ
「両性具有だった(またはどっちでも無かった)」でどうかな?
それで生き残ったことにして山岸涼子先生に
漫画にしてもらって…!うーん、面白そう!!
この本の最後に歴史ミステリについて
「提供されるデータはすべて史書に記載されているものだけを使う」
という決まりがある、だって。
つまり創造するとまた違った話ってことだね、すみません。 -
イギリス中世&近世が大好きな私はおおいに楽しめた。「悪人」と名高い?リチャード3世は甥殺しをした悪者なんかじゃない、と入院した警部が推理していく。実は、リチャード3世の再評価は昔からあったのだけど、わかりやすい形で示してくれたのはうれしい。
対立者によって貶められることはよくあることで。(テューダー朝ファンにとっては辛いことだけど)
おそらくは政治の犠牲になった気の毒なリチャード3世が、静かに大聖堂で眠りにつくことを祈りたい。駐車場とかではなくて… ^^;
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