日の名残り (ハヤカワepi文庫 イ 1-1)

  • 早川書房
4.08
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200038

感想・レビュー・書評

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  • 執事が語る。
    英国の良き時代、執事の品格。
    どこのなく懐かしいような、静かな作品。

  • 土屋さん訳、すっと頭に入ってくる。すごいなあ。夕方が1番いい。人生においても余生が1番いい。そんな風に思えるのがよいなあと思う。
    remains =名残り。 残りが名残となるだけで奥深さが全然違うから言葉は楽しい。

  • 淡々と叙述されていく。どこかに盛り上がりがあるわけでも、思わぬ展開があるわけでもない。もしも小説の価値が、エンタテインメント性で決まるとすれば、この作品の価値は低いだろう。しかし良い。すっと沁み込んでくる。良質な鉱泉水を口にしたような読後感。

    • kame3hoさん
      すごくわかります!

      ところで、機会があればジュンパ・ラヒリの停電の夜に、をぜひに。カズオイシグロと並んで大好きです
      すごくわかります!

      ところで、機会があればジュンパ・ラヒリの停電の夜に、をぜひに。カズオイシグロと並んで大好きです
      2018/05/14
  • イシグロ作品初読み。
    美しい文章で綴られる老執事スティーブンスの回想。読後は温かい余韻が心の中に残った。
    英国の名家の戦前戦後を支えてきたスティーブンスが、かつての同僚と再会すべくひとり旅に出る。
    そして道中、のどかな田園風景の中をドライブしながら、これまでの自分の人生や執事としての仕事についての思い出に浸る。。。
    実直を絵に描いたようなスティーブンス、自分の感情も押し殺して主人に仕え、ただひたすら執事としての品格について考え追い求める半生だったが、真の意味の品格って何なのか?それは本当に正しい事だったのか?品格にこだわり過ぎたがために気づくことができなかったミス・ケントンの本当の気持ち。最後の数ページ、すべてに気付き衝撃を受けるスティーブンの心の描写が見事だった。
    旅先で出会った元同業の男性の言葉が深い。
     -人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。

    ジョークが上手くなったミスター・スティーブンスとまたいつか再会したいなぁ。

  • 「忘れられた巨人」[ https://booklog.jp/item/1/4151200916 ]よりも、こちらの方が自分には面白かった。こういうのを「信頼できない語り手」というのだろう。
    強烈な職業意識のもと、自分の感情を律して完璧な執事であろうとする主人公の視点から思い出が語られる。真面目な人だなぁという程度の素直さで読み進むと、だんだん違和感が生じてくる。
    彼はこの女性の想いに気づいていないのか?気づいていながら、気づかないふりをしているのか?いやむしろ彼自身が相手に特別な感情を抱いているのに、自ら気づいていないのか?それすら、気づいていながら気づかないふりをしているのではないか?
    読者としての疑いが積み重なっていった先に、主人公の信奉する「品格」や、前主人への敬慕さえひょっとすると怪しいものではないか、繰り返される表白そのものが欺瞞ではないかという疑いが現れてくる。ラストシーンでは主人公自身がそれらの疑いに気づくが、そこで崩壊でなく再出発となっているのが優しい。
    [ https://booklog.jp/item/1/490707283X ]を読んだ時、執事という職業はまさに感情労働であるという感想を抱いたのだが、望まれる振る舞いを演技するのが得意になっていくという職業的性質が、この小説の背骨になっている。

  • 意識高い系執事による品格を追い求めるストーリーです。

    かつて英国で社交界の中心的存在だったダーリントン・ホールの執事スティーブンスは、現在の雇用主である米国人実業家ファラディの許しを得て、北イングランドへのドライブ休暇をとる。その目的はかつての同僚ミス・グランドを訪ね、人手不足に悩むダーリントンホールに戻ってくる気はないか誘う、というもの。旅の途中、これまでの執事人生を誇りとともに振り返るスティーブンスですが、読者は彼の静かな口調の中に、そこはかとない違和感を覚えます。

    スティーブンス自らの語りで物語が進みます。
    自分の心情を吐露しているはずなのに、どこまで本気なのかわからない。
    「偉大な執事は、紳士がスーツを着るように執事職を身にまといます」というスティーブンスにとって、スーツを脱ぎ捨てるのは、完全に一人でいる時だけ。
    語り口調ということは他人を前にしているということであり、その間はスティーブンスは、自らを犠牲にしてでも主人に仕える執事だからです。

    その自己犠牲を尊ぶ彼の執事感がもっとも現れるのが、父の死に際に立ち会わなかったことを思い出す行。
    同じ屋敷の中の、ほんのすぐそこの部屋で父が死の床に伏したにも関わらず、設宴での接客を続けたときを振り返るスティーブンスの言葉は、静かな執事言葉にも関わらず、壮絶な「職業意識」が現れています。

    「私にとりまして、あの夜はきわめて厳しい試練でした。しかし、あの夜のどの一時点をとりましても、私はみずからの「地位にふさわしい品格」を保ちつづけたと、これは自信をもって申し上げられます。」

    「そして、あの夜の私をうらやまぬ執事がどこにおりましょうか」

    揺るぎのない断定口調なだけに、スティーブンスの葛藤が伝わってきます。

    旅の終盤、ある人物との出会いをきっかけに、その口調に変化が見られる。
    執事のスーツに綻びが生じたとも受け取れる変化は、スティーブンスにとって幸福だったのか、救いになったのでしょうか。

    「あたし執事さんだから」的な自己犠牲を賛美するでも批判するでもなく、人間としての「品格」に迫る傑作です。
    みんなのうたの歌詞に炎上する人もそうじゃない人も、ぜひ読んでほしい一冊です。

  • 映画を先に見ていたのでどうしてもアンソニーホプキンスとエマトンプソンで人物がかたまってしまっているが、かえってそのイメージでさらに楽しめた。
    すごくイギリスな雰囲気が日本土着の自分にはたまらない。
    最後は、ユーモアに対する、ジョークの圧倒でしょうか。
    訳が素晴らしい。
    そして、丸谷才一の解説で二度とおいしいです。
    しかしこの小説はあまりに切ない。

  • 読み終わってまた深い満足感に包まれた。
    執事という、日本の(私の)日常生活からではほぼ想像のできない仕事についている男の独白で物語は進んでいくが、その内容が非常に興味深い。
    イギリスの歴史、地理、執事という仕事について、奥深く語られる。すべて興味深かった。
    イギリスへ行ったことがないので、想像力をかき立てられた。
    また他の作品も読んでみたい。

  • 「結局、時計をあともどりさせることはできませんものね。架空のことをいつまでも考えつづけるわけにはいきません。」p343

    スティーブンスは現在の主人から暇を出され、以前いたミス・ケントン(現在 ミセス・ベン)に会いに行きます。その道すがらダーリントン・ホールで開催された重要な外交会議や「理想の執事」に近づくべく仕事をしていた過去に思いをはせます。スティーブンスの胸に去来するものは一体なんでしょうか。

    ブッカー賞授賞作。主人に忠実であること=品格ある執事。と思い仕事を遂行していたスティーブンス。しかし、自分が思い付かない事が起こるのが人生の面白みであり哀しみです。その変化にスティーブンスは戸惑い、旅の最中に出会う人々と話すことで「自分の価値観」や「自分が当たり前」がそうではない事に気づくのではないでしょうか。ミス・ケントンと会った後にくる哀しみを和らげてくれたのは、たまたま会った初老の男性のひと言です。哀しくても後悔しても過去は変わりません。「これから何をしていくのか。」変えられるのは自分だけだと思いました。

  • <内容紹介より>
    品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々ー過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。

    ーーーー
    土屋政雄の訳によるところでありましょうか、文章が非常に美しい言葉で綴られていましたことを、述べておかないわけにはまいりますまい。
    みたいな文体で、「品格」を自身のアイデンティティとしていた執事のスティーブンスが、過去の思い出を語っています。
    自分の感情や考え等を明らかにすること無く、「忠誠心」をもってダーリントン卿に仕えるスティーブンスの姿勢は、まさに「執事の鑑」と思わせるものでした。

    「古き良き」時代であるのか、「過去の遺物」であるのか、評価は別れるかもしれませんが、個人的にはプロに徹する、時として冷徹にも見えるスティーブンスの在り方に魅力を感じました。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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