遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫 イ 1-2)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200106

感想・レビュー・書評

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  • 初めてカズオイシグロの小説を読んだ。訳者が優れているのだろう、元が英語の小説とは思えないほどである。主人公の悦子の、戦後長崎の回想と現在のイギリスの生活が交互に表現されている。
    全体的に暗い雰囲気がある。人の内面が会話に表れていて、すこし気持ちが悪い。そこがいいところかもしれない。
    訳者あとがき、解説 を読むと理解が進む。

  • とても読みにくい本だったと思います。いや読む事は出来たんだけど、読み解くというか理解するのが困難でした。佳境となる部分は分かるんだけど、この会話や展開が意味する事はつかみ切れなかった気がします。だけど、そんな不確実さがこの本の魅力だったりするのかなとも感じてなんだかよく分かりません。とりあえず、時間を忘れて夢中になれたので良かったです。

  • カズオ・イシグロの処女作。
    叙述トリックというのか、文を連ねるうちに、人物の背景が明らかになる。あっという間に迷路の行き当たりにぶちあたったような地点があり、そこが訴えることの意味(日本の戦後の卑屈な欧米主義、自虐史観による教育の骨抜き)が立ち現われてくるときの、驚きに目を啓かれる。

  • 英国に住んでいる悦子は、いま娘がロンドンから来ている。娘のニキは実家に退屈しているようでロンドンに帰りたがっている。悦子は長崎にいたころの思い出を振り返っていた。あのころにはアパートで二郎と住んでいた。景子がお腹にいたころだった。近所に住んでいた佐知子という女性とその娘の満里子のことを思い出す。米国人の男性とアメリカに行くとよく話していた。現在と過去。価値観の変換。その風景は薄墨色。カズオ・イシグロの描く風景だ。

  • ノーベル賞受賞者カズオ・イシグロ氏の処女作品。
    上品な訳文で定評があり、かつて大学で英文学講義の際にご指導を受けた翻訳者小野寺健氏の逝去報道を受けて読んでみました。

    氏の物語はかなり曖昧模糊としており、初期作品は特にそれが顕著。読み進めていくと、現代と過去の出来事が語られるという二重構造がうすぼんやりと見えてきます。

    イギリスに暮らす主人公の悦子は、娘の景子を自殺で喪った喪失感の中で自分の半生を振り返ります。

    戦後の昭和30年代の混乱した長崎で過ごした日々。そこで知り合った、米兵と渡米することを夢見る佐知子と、その娘の万理子との交流。

    当時の悦子の目には、佐知子は母よりも女としての人生を優先する身勝手な女性に移り、そんな母にふりまわされ、いつも何かにおびえている万里子に同情的。妊娠中ということもあってか、母性をもって接します。

    会話で成り立っているような物語。なぜ長崎弁でないのか気になりますが、冒頭で悦子が「私はついに佐知子のことがよくわからなかった」と語るように、二人の会話は完全にすれ違い、お互いが言いたいことを言っているだけで、対話の形をなしていません。対照的な二人の女性を描いた物語のように思えましたが、そうではなさそうだということが次第にわかってきます。

    長崎時代の悦子は、渡米を夢見る佐知子のことが理解できませんでしたが、その後当時の日本の夫と別れ、娘を連れてイギリスに渡り、再婚した現在の悦子は、当時の佐知子と状況が重なります。

    渡英した悦子は、娘の景子に幸せを与えられませんでした。彼女もまた、母よりも女としての人生を選んだということでしょう。

    当時は佐知子の言動が理解できず、不安を抱えて見守ていたはずなのに、気が付けば同じような人生を歩んでいた悦子。深くは語られませんが、共通項が多すぎるため、佐知子と万理子は自身と娘景子の姿だと思って読む方が、おそらくしっくりきます。

    戦後の日本では、まだ女性が自立できる場は少なく、海外に新たな人生を求めても、犠牲にしたものが大きかったことを示唆しているのかもしれません。

    悦子がかつていた遠い場所、長崎。もう戻ることはない、現在と完全に遮断された過去。イシグロ氏は5歳の時に離れたきりの長崎を記憶を頼りに書き表したといいます。

    悦子がなぜ離婚したのか、なぜ長崎を離れて渡英し、イギリス人と再婚したのかというストーリーは作中で一切語られないため、謎めいています。
    ケーブルカーで長崎の丘の上に登った時の、物語中で唯一明るさを感じるシーンが、タイトル『遠い山なみの光』に反映されています。

    現在の悦子は、イギリス人との間にできた娘ニキに「あなたの好きなように生きなさい」と自立を促します。これは、長女景子を自分の勝手で日本からイギリスに連れてきて、幸せを奪ったことへの償いのように思えます。

    はじめは『女たちの遠い夏』として出版されたこの物語。どちらのタイトルも、戦後の非力な女性たちにとって、自由と幸せは遠いものだったと示しているのかもしれません。

    二つの時間軸で話が進んでいき、静かで落ち着いた文章の中に、時折ふっと狂気に近い、ひやりとした感情があらわになるという、現在のイシグロワールドがすでにほの見えるデビュー作品です。

  • 大変疲れる本だった。
    価値観の違う人間同士が、表向きどうにか平穏にやっていこうとする時の、ちっとも噛み合わない、気持ち悪いような会話が延々と続く。
    大きな諍いは起きないものの、静かに、着実に遠ざかっていくものが見える。そういう諦念を描いているように思える。
    遠い山なみの光を目指すようにして生きる女たちを描いた物語。
    評価云々というより、単純に好きだとか再読したいだとか、そういうこの本から受け取れるものが薄い気がするので★は3に。
    カズオ・イシグロ全般に言えることながら、壮年、老年になってから読むと印象が変わりそうだ。

  • カズオ・イシグロの作品は好きだけど、これは難しかった。
    読後、祖母と話すなかで戦中戦後を生き抜いてきた世代が読むのと、戦後、それも平成に生まれ育った世代が読むのとでは受け取りかたも随分違うのだなぁと思いました。
    『浮世の画家』もそうですがカズオ・イシグロの日本を舞台にした作品に関しては舞台となっている時代の雰囲気を知っているか否かが共感できるか否かに繋がるのかなと思います。
    私自身が年を重ねればまた受け取りかたも変わるでしょうか。何年かしたらまた読んでみたい作品です。

  • 記憶と回想の物語。今はイギリスで暮らす女性が、戦後の長崎で暮らしていた頃を回想する。女性の微妙な心の動きを描いた作品。読み応えはあるが、今ひとつ気持ちが乗らなかった。

  • イシグロ作品読破ツアー3作目です。
    静謐な文章に惹かれるが、疑問が残ったまま置いていかれ
    終了してしまう感じです。
    特に気になっているのが、悦子と二郎に何があって別れ、
    その後イギリス人と結婚・渡英にまで至るのか?
    緒方さんとのあまりに親密そうな関係は?
    フランス映画のように閉じないまま終了する作品のようですね。
    あとがきを読んで、やっと少し納得できました。
    後々まで考えさせられる作品でした。

  • あまり見えない双眼鏡が象徴的
    みようとしてもみえない、でもあながち間違ってない、暗がりの中にぼんやり浮かぶ日本像

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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