ゼロ時間へ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300820

感想・レビュー・書評

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  • クリスティの野心的な作品。
    殺人が起こってから犯人を推理するのではなく、殺人が起こる時点へと向けて物語が進んでいくのだ。
    その前に一つ殺人事件が起こるが、それすら犯人の目的を達するための一段階でしかない。
    凶悪な犯人の完全犯罪は成功するのか否か。

    クリスティの生み出した探偵役としては地味な存在のバトル警視だが、本作品では奮闘する。

  • ある人物を殺害するために綿密に練られた計画、その計画が実現する「ゼロ時間」へ向かって物語は進行していく。犯人と目的が何だったのか分かるまで、自分も危険なカウントダウンに加わってしまっているようなスリル感があった。再読すると、犯人の特異性が際立って書かれているように感じ、最初に読んだ時には気が付かなかったクリスティーの伏線に驚いた。

  • 犯人が怖すぎる…。真相が分かってからはオードリーがただただ気の毒。やたらトマスとメアリーの会話が多いと思ったらそこがくっついたので、納得した。冒頭のシルヴィアの話関係あるのか?と思っていたらしっかり拾われて脱帽。

  • 殺人事件は始まりではなくて、物語の結末、つまりゼロ時間。

    館の老婦人が殺された。証拠が出揃い、犯人は明らかかと思われたがバトル警視には引っかかることがあった。スポーツマンと離婚した元妻と現在の妻、友人、親戚、使用人たち。人間関係を追った後に明らかになった真相とは——。

    クリスティーはナイルでもそうなのだが、殺人事件が起こるまでのストーリーが読ませる。作中でバトル警視も述べているように、多くの殺人事件を描いた物語は、まず殺人事件が起きてそこに探偵がやってきて、と始まる。しかし本来、誰かが人を殺すには、そこまでに至る物語がある。

    クリスティー作品は登場人物が多くてもその一人ひとりの顔がしっかりイメージできるのがすごい。今回も登場人物たちの動きに惹きつけられて一気に読んでしまった。

    最初の妻であるオードリーが語る自分の変化。追い詰められて、もう楽になりたいからやってもいない罪を自白しそうになる。現代でいえば精神的DVだろうか。この男女の関係は書かれてから半世紀を超えても新鮮に読むことができる。

    この物語の探偵役はバトル警視。ポアロほど個性が強いわけではないが、地道に捜査と考えを進ませていく。物証に乏しい今回の犯人を追い詰めるシーンは、読んでいてもハラハラする。なぜ出てきたのかわからなかった自殺未遂者の登場で一気に展開が進むのもすごいが、その後で彼が持ち出した決定的一打も綱渡りだったことを読んで、さらにクリスティーの筆力に感服。

  • いつもながら、素晴らしい筆力。
    誰もが怪しく見えるのに、ラストはいつも驚かされる。今回は自分でも推理に挑んでみたけれど、大外れだった。
    クリスティー女史はいつも事件が起こる心理的な要因に着目していて、そこが他のクライムサスペンスとは一線を画しているが、本作にはそのエッセンスが詰め込まれているように感じた。作者ご本人もベストテンに選び、江戸川乱歩はベスト8に挙げたとあとがきで読んだが、それも納得の珠玉のミステリ。シリーズものではないが、バトル警視が出てきたのも嬉しかった。

  • 「アガサ・クリスティ」のミステリ長篇『ゼロ時間へ(原題:Towards Zero)』を読みました。

    『無実はさいなむ』、『蒼ざめた馬』に続き、「アガサ・クリスティ」作品です。

    -----story-------------
    残忍な殺人は平穏な海辺の館で起こった。
    殺されたのは金持ちの老婦人。
    金目的の犯行かと思われたが、それは恐るべき殺人計画の序章にすぎなかった―人の命を奪う魔の瞬間“ゼロ時間”に向けて、着々と進められてゆく綿密で用意周到な計画とは?
    ミステリの常識を覆したと評価の高い画期的な野心作を新訳で贈る。
    -----------------------

    1944年(昭和19年)に刊行された「アガサ・クリスティ」のミステリ長篇、、、

    「エルキュール・ポアロ」も「ミス・マープル」も登場しないノン・シリーズモノですが… 以前、「ミス・マープル」モノに変更されて、アレンジを加えられた映像化作品の『ミス・マープル3 ゼロ時間へ』を観たことがある作品です。


    テニスプレーヤーで万能スポーツマンの「ネヴィル・ストレンジ」は二番目の妻ケイは、9月の初旬、「ネヴィル」を養子として育ててくれた金持ちの老婦人「カミーラ・トレリシアン」の住む屋敷ガルズポイントで休暇をとることに… そこには毎年9月に「ネヴィル」の前妻「オードリー」が滞在しており、今年はその時期に「ネヴィル」と「ケイ」が一緒に滞在することになった、、、

    「ネヴィル」の計画では家族的な雰囲気の中で、「ケイ」と「オードリー」の仲を取り持つことだったらしいが… 気の強い「ケイ」は、ことあるごとに「オードリー」につらくあたる。

    そんなケイの言動を目の当たりにした「ネヴィル」の心は徐々に「ケイ」から離れていき、別れた「オードリー」の方に傾いていくが、それが「ケイ」の気に障り、「ケイ」は「ネヴィル」にも突っかかることも… そんな様子を「カミーラ」と同居している「メアリー・オルディン」や「ケイ」の友人で近くのホテルに滞在している「テッド・ラティマー」、「オードリー」の従兄「トマス・ロイド」などが各々の思いをこめて見つめていた。

    そんな中、最初の事件が起こる… ガルズポイントを訪れた弁護士の「トレーヴ」が深夜になって近くのホテルに帰るとエレヴェーターに故障中の札が下がっており、心臓の弱い「トレーヴ」がやむを得ず部屋のある3階まで階段を上がることに、、、

    ホテルまで送ったロイドがその姿を見たが、それが「トレーヴ」が生きているのを目撃された最後となる… 翌朝「トレーヴ」はホテルの部屋の中で死んでいるのが発見された。

    「トレーヴ」の死因は心臓麻痺だった… 「トレーヴ」の心臓では階段を3階まで上がること自体が自殺行為だったのだ、、、

    しかし、ホテルではエレヴェーターは故障などしていないという… 誰かが故障中の札をエレヴェーターに下げたらしい… イタズラか、それとも「トレーヴ」の心臓のことを知っている誰かが故意にやったことか。

    続いて第二の事件が起こる… 「カミーラ」が部屋の中で殺害されていた、、、

    凶器と思われるゴルフクラブが部屋に残されており、そのクラブは「ネヴィル」のものと確認され、しかもゴルフクラブには「ネヴィル」の指紋しかついていなかった… さらに、「ネヴィル」のスーツの袖に血痕がついているのが見つかり、使用人の証言からカミーラと「ネヴィル」が激しく言い争っていたこともわかった。

    だが、捜査にあたったバトル警視は「ネヴィル」が犯人とは思えなかった… あまりにもできすぎているのだ、、、

    非情な計画的犯罪と一時的な感情がごちゃ混ぜになった、相容れない二つの要素が入り混じった、まるで辻褄の合わない事件… 「ネヴィル」にはアリバイが成立することが判明し、次に「オードリー」が疑われる。

    「オードリー」がカミーラを殺害し、「ネヴィル」に罪を被せようとしたのか… 「トレーヴ」の死は病死なのか… 「バトル警視」の捜査が本格的に開始されたが、事件は意外なところから解決に向かい始める、、、

    自殺でし損なった男「アンガス・マクワーター」が、終盤に意外な活躍を見せ、

    「バトル警視」の娘が学校で遭遇した盗難事件との類似性が、本事件解決のヒントとなり、

    「トレーヴ」の語った昔話… 弓矢で遊んでいて誤って友人を射殺した少年の話が事件の重要なカギとなっていた、

    と、全く関係ないと思われていたエピソードが、うまーく繋がったときは、パズルのピースがぴたっと嵌った感じで気持ち良かったですね。

    まさかね… (偽装の)アリバイが成立することを前提に、敢えて自分に容疑を向かせ、その後、「オードリー」に容疑が向くように仕掛け、「オードリー」を絞首刑にするのが目的だったとは、、、

    その目的を達成するために、身近な人たちを殺めるなんて許されない犯罪ですよね… しかも、その動機は、自分が捨てられて自尊心を傷つけられたという、あまりにも利己的な理由ですからね。

    自殺し損ねた男「アンガス・マクワーター」が印象的でしたね… しかも、「オードリー」と一緒になるというハッピーエンドで、事件の陰惨さを忘れて、希望を持つことのできるエンディングが良かったです。


    以下、主な登場人物です。

    「カミーラ・トレリシアン」
     金持ちの老未亡人

    「メアリー・オルディン」
     トレリシアンの遠縁の親戚

    「ネヴィル・ストレンジ」
     万能スポーツマン

    「ケイ」
     ネヴィルの2番目の妻

    「オードリー」
     ネヴィルの最初の妻

    「テッド・ラティマー」
     ケイの友人

    「トマス・ロイド」
     オードリイの遠い従兄

    「ハーストール」
     執事

    「ジェーン・バレット」
     小間使い

    「アリス・ベンサム」
     小間使い

    「エマ・ウェイルズ」
     小間使い

    「スパイサー」
     料理女

    「アンガス・マクワーター」
     自殺しそこねた男

    「トレーヴ」
     有名な老弁護士

    「ロバート・ミッチェル」
     警察署長

    「ラーゼンビイ博士」
     警察医

    「ジョーンズ」
     巡査部長

    「バトル」
     警視

    「ジェームズ・リーチ」
     警部、バトルの甥

  • 全体的にはかなり好きな作品ながら、テーマとストーリーの相性が良くないのか惜しい印象が残った。タイトルのTowards zero「ゼロ時間へ」が、一つの事件に集約されていく強烈な流れを感じさせて素晴らしいのに、焦点となる企て自体がアガサお得意の見た目と違う人間関係から導き出される、つまり解決の時まで謎のため、例えばZの悲劇のような冤罪の死刑執行阻止を目指すカウントダウン的な緊迫感など得られようもなく、後付けの肩透かし感が残ったし、二次的な理由から起こってしまった凄惨な事件が悲しい。
    犯人造形や、バトル警視、法律家等のサイドストーリーも面白かったし、追い詰められて無実なのに罪を認めてしまうところなど現代でも考えさせられる要素が多く古さを感じさせない。タイトルや語り方が違ったら大満足だったかもしれない。
    クイーン の先行作と同じトリックというコメントがあって、最近読んだアガサの短編に当該作らしいタイトルをいじった話があった。あちらの犯人は探偵が見逃さないのが腹立つような正義漢で、本作と対照的なのも面白い。

  • ラストが謎展開だがサイコ犯人は面白かった

  • ただ単に、面白い。

  • どのように話がつながっていくのかな、と思って読んでいったけど、後半から話がどんどん進んでいって、いろんな要素が噛み合っていって、犯人が特定される過程がおもしろかった。犯人の特徴がちょうど読んでいた別の本と関連していて、いつの時代にもこんな人は存在しているんだな、と複雑な気持ちになった。ポワロは出てこないが、登場人物の会話にポワロのことが出てくるのがなんだかうれしかった。

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