昨日がなければ明日もない

著者 :
  • 文藝春秋
3.77
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909301

作品紹介・あらすじ

『希望荘』以来2年ぶりの杉村三郎シリーズ第5弾となります。中篇3本を収録する本書のテーマは、「杉村vs.〝ちょっと困った〟女たち」。自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザーを相手に、杉村が奮闘します。収録作品――あらすじ――「絶対零度」……杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの品のいいご婦人だった。一昨年結婚した27歳の娘・優美が、自殺未遂をして入院ししてしまい、1ヵ月以上も面会ができまいままで、メールも繋がらないのだという。杉村は、陰惨な事件が起きていたことを突き止めるが……。「華燭」……杉村は近所に住む小崎さんから、姪の結婚式に出席してほしいと頼まれる。小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席するため、中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというわけだ。会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する……。「昨日がなければ明日もない」……事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。「子供の命がかかっている」問題だという。美姫は16歳で最初の子(女の子)を産み、別の男性との間に6歳の男の子がいて、しかも今は、別の〝彼〟と一緒に暮らしているという奔放な女性であった……。

感想・レビュー・書評

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  • 杉村三郎シリーズ第5弾です。
    前作から私立探偵としてリスタートして良いインパクトを残した三郎くんですが、今作も面白かった。

    中編3本が収録されていますが、それぞれに特徴のある困った女性たちがテーマ。

    「絶対零度」では悪役の者たちにマジで腹立てたし、「華燭」は軽い感じで楽しめたし、「昨日がなければ明日もない」では、ハッピーエンドかと思いきや…。ハッピーエンド好きの私としては残念だが、物語としては面白かった。

    星5つに近い星4つです!

  • 杉村さんは犯罪を呼び込んでしまう「体質」を逆用して探偵業を始めた。杉村さんの願いは、「相談」が「犯罪」になってしまう前に食い止めることだ。その点で、杉村さんは正しく、杉村さんほどに適する人はいない。

    と、私は思っていた。
    「絶対零度」は、まだ慰められる部分がないわけでもない。蛎殻オフィスの所長からも、杉村さんが「もっと早くに介入できていたらと後悔が多いです」と愚痴をこぼしたことに「それは無理です。全世界を1人で背負おうとするようなものだ」と評価する。「それもそうですかね」と杉村さんも自分で自分を慰めた。

    もう一つの(短編はあと2つだけど、そのうちのひとつ)事件に関しては、杉村さんは「私立探偵の形をした石になって、私はただ立ちすくんでいた」と終わる。いろんな意味で、杉村さんは深く後悔することと思う。

    でもね、杉村さん。
    人の心は、ましてや犯罪という結果に至るまでの心の闇は、日常からダダ漏れになるタイプの小人と、私たちを含め日常はなんとかやり過ごし普通ならば人生を大過無く過ごすけど小さな人物よりもはるかに広い池にかなり大物を、黒も白も飼っているタイプの人と、あるものだと私は思います。作家の宮部みゆきさんは、ずっとそんな様々な人の闇を描いてきました。その闇は、時には時空を超える物語にさえなりました。石になる必要はありません、大丈夫ですよ。やっていけます。がんばれ。

    ひとつ気になるのは、中学1年生の漣(さざなみ)さんの明日だ。悪い条件ばかりが彼女の上にはある。けれども、人は変わり得る、良くも悪くも。いつか、その顛末を物語の中に紡いで欲しい、宮部みゆきさん。

    でももうひとつ気になるのは、杉村さんの物語が未だに2012年の5月に留まっていること。杉村さんの愛娘桃子ちゃんは、この時点で11歳である可能性が高いので今は19歳になっているはずだ。人生の岐路に立っているだろうか。その間、杉村さんは桃子ちゃんのために自分の命を顧みずに飛び込まないとも限らない大事件が、必ず起きるだろうと私は予測する。その時は短編ではなくて大長編になるだろうけれども、杉村さんの超人的な人の良さと洞察力は、その時のためにもう少し磨いて欲しい。私としてはきっと出てくるそのパートのために、あともう2〜3冊は欲しい。というのはファンのわがままかな。

  • 久しぶりに杉村三郎シリーズ。4~5年前かな?希望荘を読んだの。今多コンツェルン会長の娘と離婚した杉村三郎が探偵として「地味に良い仕事」をする。今回は困った女性との対峙。宮部作品の最も長けている所は、登場人物を丁寧に描写し、喜怒哀楽が気持ちよく伝わり、さらに心の揺れ動きも明快。ただ事件の核心に読者が容易に辿り着けないところにドキドキ感が拡大する。3話からなる面倒な女性が巻き起こす事件。全て最後で痛い(遺体)。最初の話の「絶対零度」自分が当事者だったら絶対に相手に殺意を抱くと思う程の悲壮感。流石の宮部さん。⑤

  • 宮部みゆき先生の作品は、20代の頃一気読みしてから割と遠のいていた。
    またまた会社の方からお借りできたので久々に読んでみることに。

    どうやらこの本は杉村三郎さんという探偵シリーズものらしい。

    最初の依頼人は筥崎夫人。
    娘が自殺未遂をし、一ヶ月以上入院している。
    しかし娘の夫が母親の面会を断っており、娘に会うことができない。
    娘の夫からは、自殺未遂の原因は筥崎夫人たの関係性にある。彼女はあなたに会いたくないと言っている。

    杉村探偵が真相を探るべく、動き出す。


    宮部先生ってこんなタッチの小説でしたっけ?
    あら、この感じ、とても私の好きな感じだわ、、、と気がつくと一気に引き込まれて、小説の世界に没頭。

    本書の半分くらいのところでこの一作目が幕を閉じる。
    え!?幕を閉じちゃうの!?

    そう、この本は絶対零度、華燭、昨日がなければ明日もないの短編3部作でした(^^;;

    一作目を一気に読み好き、短編に落胆して暫く放置してからの二作目、三作目。

    短編なのにとても濃い内容となっておりました。

    探偵作品なのに、ハードボイルドではなく、どちらかというとイヤミス系。

    三作読み終わり、この杉村三郎探偵のことが大好きになりました。
    穏やかで落ち着いていて、優しい人となり。

    本編は杉村シリーズ第五段のようだが、これ以外の作品も最初から読んでみたい。

    誰か
    名もなき毒
    ペテロの葬列
    希望荘

    誰かは既読だが、すっかり忘却の彼方、、、
    再読したいなぁ。。。

  • ★4.5

    『希望荘』以来2年ぶりの杉村三郎シリーズ第5弾
    本書のテーマは、「杉村vs.〝ちょっと困った〟女たち」。
    自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、
    自己中なシングルマザーを相手に、杉村が奮闘します。


    ・「絶対零度」
    杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの品のいいご婦人だった。
    一昨年結婚した27歳の娘・優美が、自殺未遂をして入院ししてしまい、
    1ヵ月以上も面会ができまいままで、メールも繋がらないのだという。
    杉村は、陰惨な事件が起きていたことを突き止めるが……。

    ・「華燭」
    杉村は近所に住む小崎さんから、姪の結婚式に出席してほしいと頼まれる。
    小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席するため、
    中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというわけだ。
    会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する……。

    ・「昨日がなければ明日もない」
    事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。
    「子供の命がかかっている」問題だという。
    美姫は16歳で最初の子(女の子)を産み、別の男性との間に6歳の男の子がいて、
    しかも今は、別の〝彼〟と一緒に暮らしているという奔放な女性であった……。


    2年振りの杉村三郎シリーズ。
    待ってました~読める事がとても幸せでした

  • 杉村三郎シリーズ第五作。
    帯に「杉村三郎vsちょっと困った女たち」とあるらしい。(図書館本なので帯がなくて知らなかった)

    そのフレーズ通り、今回は女性が主役の三編を収録。
    自殺未遂の末、夫が親族に会わせない女性。
    過去に姉の婚約者を奪った女性の娘の結婚式での因縁トラブル。
    何でも自分の都合の良いように解釈し攻撃する女性。

    宮部さんは、特にこのシリーズではよくぞここまでと思うほど人の悪意を描いてくれる。
    その点、若竹七海さんの葉村晶シリーズと似ている部分があるのだが、違うのは晶がもう身も心も文字通りボロボロになりながら容赦なく真実を顕にするのに対し、杉村三郎はどこか余裕がある。
    二人とも何度もピンチに陥ったりとことん辛い目に遭ったりしているのにこの違いはなんだろう。

    読んでいるだけでもこの悪意に毒されそうで、読み終えた途端に疲れがドッと来るような作品なのに、直にその悪意に触れたはずの杉村三郎がいつもと変わらぬ涼しい顔というのはそのメンタルに恐れ入る。
    勿論、内なる部分では打ちひしがれているし悲しみも怒りも後悔もあるのだけど、悪意に中てられることなく通常運転が出来るというのはすごいことだと思う。
    その辺りは男性と女性との違いなのか、人生の来し方の違いなのか。

    ここまで非常識なことが、こんなありえないことが、と思いながら読み進めつつ、現実に起こる事件を思い起こしても「こんなありえないことが」起こるから事件に至るわけで、こういうこともないとは言えない。
    勿論無いほうが良いのだけど。

    この作品から登場する立科警部補、これから杉村の良いコンビになるのか、はたまたライバルとなるのか。

  • 杉村三郎シリーズ第5弾。
    このシリーズは、いつも杉村三郎の人柄に救われる。彼自身の生活も天変地異を経ているのだが、ダメージを受けながらもどこか自分を静観していて、堅実な歩みを止めない。
    寛容さが失われつつある今の社会。ごくごく普通で真っ当な杉村三郎…名前からしてインパクトがない…の考えや行動にハッとさせられ、ホッとするのだ。

    三編収録の本作。最初の絶対零度は正直、胸くそ悪くなる(失礼)。だが、これが今の世の人の現実なのだろう。最後の表題作も、ハッピーエンドにして欲しかったなぁとどこかで思ってしまうのだが、甘くはないのだ。

    その時々の社会問題をタイムリーに物語に紡いで我々に投げかけるこのシリーズ、次も期待している。2019.1.31

  • 探偵稼業が板についてきた杉村三郎が「ちょっと困った」女達と向き合う3編。取っ掛かりは確かにちょっと、なのにそれがどんどん不穏な方向に転がっていく。その結末は容赦ないし誰にでも起こり得る可能性にゾッとする。自殺未遂をしたという娘に娘の夫が会わせてくれなくて困る「絶対零度」家族間のトラブルと思っているとまさかのとんでもない闇に突き落とされる。大家の竹中夫人と一緒に結婚式の代理出席に行く「華燭」はまだ最後救いがあってほっとした。表題作は誇張されてるけどいるよなこんな人、なので最後が理解しやすく本当に苦しい…。杉村さんの日常のほっこりする場面もあるけどその分事件パートでの牙が際立つ。やはり上手いな宮部さん。

  • 『昨日がなければ明日もない』―杉村三郎と「ちょっと困った」女たちの物語

    『昨日がなければ明日もない』は、『希望荘』から2年ぶりとなる杉村三郎シリーズ第5弾で、杉村が「ちょっと困った」女性たちと対峙する物語が展開されます。自殺未遂をした主婦、訳ありの新婦、自己中心的なシングルマザーと、それぞれが抱える深い問題を前に、杉村三郎はどのように対応していくのか。この作品群は、家族という絆の中で起こる様々な葛藤と、その影響を深く掘り下げています。

    「絶対零度」では、娘が自殺未遂をした背景にある陰惨な真実を追います。「華燭」では、結婚式という人生の節目で起こる思わぬトラブルを描き、「昨日がなければ明日もない」では、奔放な女性の背負う「子供の命がかかっている」という重大な問題に杉村が挑みます。

    これらの物語を通して、著者は、自己中心的な行動が周囲にどれほどの影響を与えるか、そしてそれでもなお杉村三郎がどう人々を救おうとするのかを描き出しています。特に、家族関係における人間同士の複雑な繋がりが、よくも悪くもなる可能性を示しています。

    中篇3本から成るこの作品集は、一見身勝手に見える人物たちがなぜそのような行動を取るのか、その背後にある深い理由や状況を理解することで、人間の多様性と複雑さを感じさせます。最後の意味深な終わり方は、次作への期待を大きく膨らませます。

    杉村三郎シリーズをすべて読破し、次作の発表を心待ちにしている今、この作品群は、現代社会のさまざまな問題を考えさせるだけでなく、杉村三郎というキャラクターの魅力を再確認させてくれました。『昨日がなければ明日もない』は、杉村三郎シリーズの中でも特に印象深い作品となり、次の物語への橋渡しとして、その役割を果たしています。

  • 杉村三郎シリーズ第5弾。
    あいかわらず闇と向き合うシリーズで、読後感も重め。
    一見普通にみえる日常の中から現れる、悪意。
    当たり前の常識と論理が通用しない人間を相手する、むなしさ。
    「絶対零度」「昨日がなければ明日もない」は、強烈なパンチ力だった。
    大家さんと中学生がさっぱりしていて、「華燭」は唯一すがすがしさがあった。
    3つの中では、まだ救いがある方。

  • オール讀物2017年11月号:絶対零度、2018年3月号:華燭、11月号:昨日がなければ明日もない、の3編の連作に加筆改稿を行い、2018年11月に文藝春秋から刊行。杉村三郎シリーズ5作目。探偵業も板についてきた杉村さんの閃き推理が楽しい。杉村さんの人柄が救いです。

  • 中編3作品、逆玉の輿から離婚で放たれ今やたまの娘との再会だけが楽しみな杉村三郎探偵の物語。宮部さんには読者の見る目も期待度もハードルが高い昨今ですね。2編目までは☆3つかなぁ?と思いつつ読んでいたけど、3作目の タイトルにもなっている作品で俄然評点が上がりました!やはり上手い。

  • 相変わらず救いのない女達が出て来るんだろうなと……覚悟はして読んだ。

    一話目は救いの無いのは女達だけではなく、後味が悪すぎる。が宮部さんの語りはうますぎてグイグイ引き込まれてしまった。
    最後、優美の目は覚めたのか?それとも好きだと言う理由だけで夫から離れられないのか気になる。
    結婚した娘がこう言う事に巻き込まれた場合、別世帯であると言うだけでとてつもない困難が立ちはだかる可能性があるんだなぁ……ゾッとする。

    2話目、結婚式のドタキャンは相当な迷惑な話だと思うのだが、あえて当日を選ぶのはあまりに身勝手なんじゃないだろうか?
    花婿の所業にも呆れて物も言えない。

    三話目。家族の中にモンスターが居たらどんなにか辛いだろう。宮部さんはよくこう言う設定を書くけど、今回はそのモンスターの娘の方も末恐ろしく背筋が寒くなった。
    親の影響でそうなってしまったのか、人によって態度が激変する様子があまりにも怖い。
    別に育てられた弟は素直に育っているみたいなので、やはり親のせいなのかと思えば気の毒だが、もう遅いみたいで今後が思いやられる。

    そして杉村三郎は探偵としてはあまりに優しすぎるが、それがこのシリーズの救いなんだろうな。
    新たに登場した立科警部補が、今後杉村が巻き込まれる事件がもっと悲惨なものになる前振りみたいでちょっと憂鬱になった。そうなりませんように!

  • 杉村三郎シリーズ。前作「希望荘」に比べると、操作手段などは、格段に探偵らしくなっていて、驚きますが、探偵として働くのだから、身についていかないとということでもありますね。最初の3作の辺りの手探り感も味だったので、ちょっと寂しい感じもあります。
    3編中2編は、小規模な事件かと思いきや、発展していくという感じで、これまでと少し毛色が変わったように感じました。しかし、このシリーズ特徴の、人の持つ悪意がキーになることと、杉村の解明していく謎が、依頼人に対して、よい展開にならないと言ったところは、これまで通りで、個人的にこのシリーズの好きなところでもあります。

    「絶対零度」
    終盤に明らかになる元々の依頼の元となる事件自体は、ひどい話としか言いようがない。
    しかし、周辺にチラチラとある過干渉や、盲目的な関係なども、何気に怖さを感じる。


    「華燭」
    3編の中では事件性は低いが、根本にある妬みなどの心情が重い。ドロドロの怨嗟の一端に触れた加奈ちゃんが気になった。

    「昨日がなければ明日もない」
    単純に怖い考えをする人の話かと思っていると、最後にガーンとくる。人の悪意が呼んだ悲劇なんだろうが、ここでも、その悪意になかで育った子が、この後どうなっていくのかと気になった。冒頭や途中では、巻き込まれてしまった感があったのに、最後は同じように悪意を持ってしまったようだったので。

    なかなかスッキリした解決感がないのが、良いところだと思っているが、今回もそこはしっかりと感じられました。

  • 探偵杉村シリーズ、3編。
    ・「絶対零度」結婚した娘が自殺を図りメンタルクリニックに入院しているが、面会できない状態だという。杉村は調べると凄惨な事件が…。
    ・「華燭」近所に住む小崎さん。小崎さんの姪の結婚式に出席することになる。小崎さんは姪のお母さん(小崎さんの妹)と絶縁している。結婚式の謎はその姉妹の問題があり…。
    ・「昨日がなければ明日もない」大家さんの知り合いで、自己中心的なシングルマザー(朽田)の依頼を受けることになる。別れた男に親権があるという子供が事故に巻き込まれ、子供の命がかかっているという。朽田の対応に周りも手を焼き、取り巻く問題を解決したが…。
    どれも後味が悪かったね。しかし、社会的な大きな悪ではなく、普段の生活の陰にありそうな悪を解決する、描いているところがいいと思います。朽田さんのような方が身近にいたら困りますが…。今回も地道に生きている杉村さんをみれて良かったです。探偵っぽくないこの路線で続けて欲しいところです。

  • このシリーズは決して読み心地が良くないと重々わかっていたはずで、心して読んだのだけど、いやあこれはつらかった…。

    最初の「絶対零度」冒頭からあっという間にひきこまれて、これはまずいよ、いやな展開になる気がするよと思いながらも、ページをめくる手が止まらず、明かされた真相のむごさに打ちのめされてしまった。続く「華燭」にはそこまでのダメージは受けなかったが、最後のタイトル作で決定的に沈没。うう、しばらく立ち直れないかも。

    まったくこういうのを書かせたらみゆき姉さんはうますぎる。心のどこか柔らかいところにやすりがかけられているような気持ちになる。本当にほっとする温かさもまたあるのだが、それがかえって痛みを強くするようにも思ったり。

    信じがたいほどイヤなヤツ(本当にひどい!)が出てきて、強烈なパンチを食らうのだけど、それよりむしろずーんと重いボディブローのようにきいてくるのが、ごく普通の人たちが見せる悪意や自分本位の行動だ。たとえば「絶対零度」に出てくる、むごい犯罪に加担した娘を「巻き込まれただけ」と思う母親。こんなにイヤな気持ちになるのは、たぶん自分にも同じような面があると感じるからなんだろう。そう思わせるところが、宮部みゆきと凡百のイヤミスとの違いだと思うが、その真実味の分、痛みは深いのだった。

  • 杉村シリーズの中編が3本。
    このシリーズ独特の人間の汚い部分や、とんでもない人達がたくさん登場する。

    「絶対零度」。
    娘が自殺未遂後連絡が取れないという母親からの依頼を受ける杉村。娘はどうしているのか。
    イヤミスというか、謎が解けても全然スッキリしないし胸糞悪かったな。
    読みながら私が想像してた何倍も嫌な内容だった。宅飲みとは…。

    「華燭」。
    絶縁状態の親戚の結婚式に参列したいという中学生の付き添いを頼まれた杉村。
    絶縁した理由は、その中学生の母の結婚目前に、母の妹が結婚相手とできてしまい妊娠、母は結婚相手と別れ妹がその人と結婚したという過去があるから。
    その妹の娘の結婚式に参列しようとするが、披露宴が始まらず、破談だと騒いでる…。
    うーむ、謎が解けてもなんでそんなことするのか謎が残る話だった。

    「昨日がなければ明日もない」。
    間借りしている竹中家の孫娘の同級生とその母から依頼を受ける杉村。
    離れて暮らす小学生の息子が交通事故に遭っており、それは息子を殺すための陰謀だという。息子の心配ではなく、言いがかりをつけてお金を引っ張りたいだけの母親。
    話の通じない母親の描写は、仕事で相談を受けることが多い私には苦しくなった。
    こういう無理難題いう人、私は全く悪くない(というか無関係)なのに私に苛立ち、私に暴言をはき、私は責め立てる人、実際にいるんだもの。
    だから、まぁ一番ラストはすっきりしたような。でも、結局はずっと搾取され困らせられていた人が割りを食ってしまう現実が、つらい。
    そしてその母に育てられた娘もまた、相当なモンスター。
    姉モンスターの次は姪モンスターに搾取され続けるくらいなら、捕まって強制的に離された方が、心は平穏だろう。
    昨日がなければ明日もない。当然のことなんだけど、その「昨日」とは、本当にその人自身の昨日なのか、別の誰かの昨日ではないか。
    過去を取り上げられた人は、未来をどう描けば良いのか。
    家族の病理を見せつけられた思いだった。

  • 杉村vs"ちょっと困った"女たち 3編集。
    それぞれで困った女が出てくるのだけど本当に現実にその辺にいる本人的は普通だと思っていそうな女たちだった

    一気読み
    後味が悪いと言われるけれど、2話の娘の夫となる人の素行調査を依頼してきた件は、夫となる人がやっぱり相当のワルだったぐらいまで想像してしまっていた
    杉村は圧倒的善人なので、困った女がより強調される。困った度がこの本の程度ほどではないけど、軽く困った人というのが読み手の側のどこにでもいるから引き込まれ共感してしまうのかな
    そして、杉村さんが困った女の対処方法もきちんとできるからそこまで後味が悪くないのだとも思う
    おもしろかった

  • 宮部さんなので読み始めたら止められずどんどん読んで二日で読了しました。宮部さんの時代小説が人情噺なのに対して、現代ものはフィクションと割りきれないリアルさをもって現代社会の闇を現しており夢中にはなってしまうけれどダメージを受けずには読めない怖い作品の場合が多いのは重々承知で読んでいるのですが、今回はひときわしんどかったです。3つの事件のうち2つはそれはもうやりきれない救いのないもので、その辛い事件に挟まれた間の残りの一つの事件は、これだってやりきれない話ではあるものの、その中にも一筋の光というか希望というか、やりきれない状況に立ち向かうのだという気概が感じられて少しだけ息が継げた感じでした。そして気になる新しい登場人物として出てきた一癖ありそうな刑事も居たりして、純粋に楽しむだけでは済まないのが分かっていても、続きを読まずには居られないシリーズです。今回は蛎殻さんの登場が無くて残念でしたが、代わりに大活躍(?)だった竹中夫人の気っ風の良さが、作品全体を覆うどんよりした空気に窒息しそうになりそうなところに換気して新鮮な空気を入れてくれるような感じで、ああこの人が居てくれて良かった、と助けてもらった気持ちです。

  • 目次
    ・絶対零度
    ・華燭
    ・昨日がなければ明日もない

    杉村三郎シリーズの第5弾。
    今回は”ちょっと困った”女たちと杉村三郎のやり取りが、どの作品でも重要なモチーフとなっている。
    いやいやいや、”ちょっと困った”どころじゃないよ。
    ”相当コマッタ自己中”な女性がうんざりするほどの毒をまき散らして、周囲を汚染していく。

    思うに杉村三郎は、人の悪意にさらされている人に寄り添う習性を持っている。
    寄り添って支えていればことが治まるのなら問題はない。
    けれども世間というのは、一人の悪意に振り回されることはあっても、一人の善意ですべてが解決することはほとんどないのだ。

    押し付けられる理不尽な悪意に耐えて耐えて耐えて、その挙句に起こる悲劇。
    3作品中2作品で、杉村三郎が警察に付き添う羽目になるのはなんでだ!?
    それとも彼に付き添われることが最後の救いということなのか。
    ”五月の青空の下、私立探偵の形をした石になって、私はただ立ちすくんでいた。”

    「絶対零度」を読んだとき、登場人物のあまりに身勝手な振る舞いに胸が悪くなり、この後の作品の印象が薄くなるのではと思ったけれども、表題作もまた強烈なインパクトを与えるものだった。

    「姉がやらかしてきたことが全部、わたしに覆い被さってくるんです。」と訴える妹は、占い師に説教される。

    ”どれほどつらい過去だろうと、それはあなたの歴史です。昨日のあなたがあってこそ今のあなたがあり、あなたの明日があるのです。受け入れて前向きに進まなければ、幸福な未来への道は開けません。”

    自分が選んだ昨日なら、それは自分の歴史として受け入れなければならないだろう。
    しかし、選択の余地なく巻き込まれてしまった昨日の責任まで受け入れなくてはならないのか。
    環境が変わらないままダメージを受け続けるのは、どれだけ苦しいことであるのか。

    読後、わたしもしばらく茫然としてしまった。

  • 杉村三郎シリーズもう5作目になるのですね。杉村あるところに事件あり。そうそう一度は結婚してたんですよね。
    三作品ですが、どれも重く後味が悪い物語。探偵杉村の人柄なのでしょう。すぐ周りの人はみんないい人なんですけれども。
    絶対零度は途中から読むのが辛かった。だんだん読むペースが落ちてしまいました。
    華燭は意外な展開でした。こういう心境になる人々の気持ちはやはりわからないですけれども。
    表題作は最後が救いでもあり残念な部分でもあるのかもしれません。
    タイトルが救いの名言です。フレーズ登録しました。

  • 主人公の探偵がキレキレの名探偵じゃないところが好感が持てる。一度解決したかに見える調査が後日不穏な予兆と共にどんでん返しを生む。という構図も単調ながらわかりやすい。

  • やっぱりさすがの宮部みゆきさん。久しぶりに読んだらレべちです。どうしようもない女たちが出てきてイライラするけど、止まらない面白さ。杉村さんの朴訥と淡々とした人柄大好きです。話の内容も淡々と一見ほのぼのとして進むようで、内容はサイコだしイヤミスだし、狂った人ばかり出てくる。でもそれを杉村さんが淡々と成敗(解決)していく姿がスゥっとする。杉村シリーズ、何か読んだ気もするけど、遡って制覇してみよ

  • 短編集ですが、読み終わったあとのどんより感というのか、毒がすごい。
    杉村さんも、よく毒に飲み込まれないなぁ。と思ってしまった。
    私だったら、とっくに飲み込まれている。

  • 杉村三郎探偵の活躍シリーズ、中編3章、事件に潜む人間の歪んだ闇を解き明かす。
    というとかっこいいようだが、杉村三郎さん、とてもとてもクールな探偵にはなれなくて、事件の重みを逡巡するのですけど。

    「人は誰もが独り、時の川をボートを漕いで進んでいる。だから未来は常に背景にあり、見えるのは過去ばかりだ。川沿いの景色なら、遠ざかれば自然に視界から消えていく。それでも消えないものは、目に見えているのではなく心に焼きついているのだ、と。(「華燭」より)」
    ​​
    「どれほど辛い過去だろうと、それはあなたの歴史です。昨日のあなたがあってこそ今のあなたがあり、あなたの明日があるのです。受け入れて前向きに進まなければ、幸福な未来への道は開けません。(「昨日がなければ明日もない」より)」

    過去事件は完結しても、主人公ともども新たな事件に遭遇するのでしょう。
    だからシリーズは続く。

  • 私立探偵・杉村三郎シリーズ。中編ということで、前作よりも各話の厚みが増し、より事件性の強い案件に対峙する杉村の手腕が読みどころ。

    あらすじにもあるように、「困った女性たち」が中心となって杉村を振り回していく展開。ありがちな女性キャラだと思って読んでいたら、実はなかなかヘヴィーな結末だったというギャップに困惑しきり。

    相変わらず巧みな人物造形でぐいぐい読ませてくれるけど、悪役がクズすぎて逆に興覚めしてしまった感がある。わかりやすいクズぶりに噓臭さを覚えてしまい、人情味溢れる脇役キャラとは嚙み合わない雰囲気は、静と動のストーリーが並走しているようで、なーんかバランスが悪かった。とは言え、読後にじんわり虚しさを感じる独特の余韻はさすが宮部作品。

    今回、杉村はある人物と知り合うのだが、この人物の存在が今後の探偵稼業にどう影響してくるのかが見もの。

  • 杉村探偵の連作モノ3篇①②③
    ①先輩後輩の腐れ縁で起きた強姦と敵討ちの殺人
    ③はキチ女の妹に産まれた悲劇
    どっちも胸糞な救いが無い話し、人も死ぬ。

    ②は結婚にまつわる因果応報でケリを付けて新たに生きていく物語
    マンネリ感もありながらさすが宮部みゆき、一気に読ませる魅力がある。

  • ふと手に取った本だがシリーズ第5弾とのこと。困った女性が登場する依頼にバツイチ探偵が奮闘,中編3編だが,大家さんたちのキャラも魅力的,展開も一ひねりあって期待以上のおもしろさ。前作も読まねば。

  • 話しにグイグイ引き込まれて、さすが宮部みゆきだと感じた。
    けれども救いのなさに後味が悪い。

  • 「絶対零度」は体育会の横暴な先輩の話。

    「昨日がなければ明日もない」は究極の自己中のおばさん。目に余って姉が殺してしまう。

    悪人登場は普通だけど、ちょっと後味に響く感じがある。

    杉本三郎探偵はどことなくユーモアのある青年風で、小説のタッチもそれに沿ったものになっている。

    つまらない話ではないのだが、読まなくても慌てないというレベルでは。



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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

宮部みゆきの作品

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