星落ちて、なお

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913650

感想・レビュー・書評

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  • <練>

    文章に格調と品格があり、けれど大変に読みやすい作品です。まさにエンタメ嗜好よりも文学的要素の強い「チョッキ賞」級の筆力とでも云うのでしょうか。真似ようにも、とても真似られない文学の本流あふれる作品です。また一方で、数多の手練れ作家の文体をいくつか足して適度に割った様な感じも漂います。別にそれは悪い事ではありません。格調高き文章というのは自然とそうなってゆくのでしょう。で、例えば浅田次郎兄貴と朝井まかて姉さんがうまく混ざっている様な。とにかく文章は超絶級に上手く,そして作品はすこぶる面白いです。



    主題の江戸終期-明治維新期の絵師河鍋暁斎のことを僕は全く知りませんでした。でもなんと漢字変換で きょうさい とタイプすると何個目かの候補にはこの 暁斎 が出てきます。こりゃあめっちゃ有名な画家さんだったらしい。すわ 知らなかったのは僕だけか!



    物語中盤には暁翆とよ が短期間ではあるが教鞭をとった(東京)女子美術学校の事が書かれている。これは前に僕が読んだ日本初の女性イコン画科の物語と時代的にかなり近いのではなかろうか。あの主人公女子の名は、確かそう りん 山下りん である。このりん も女子美術学校に少し関りがあった様な記憶があるが定かではない。また調べておこう。そしてその作品は『白光』だ。奇しくも作者は朝井まかて。僕の読書はこういうふうに不思議な部分で僕の中で繋がってゆく。



    この先作者澤田瞳子がどんな題材を選んで作品を書くかが僕はとても楽しみ。それまでに既刊の作品もぼちぼちと読み進めておく事としよう。

  • 絵師河鍋暁斎を父に持つ、河鍋とよの人生譚。
    変わった境遇に翻弄される人生を丁寧に描くものの、やはり何かを成した人ではないので、後半は読んでいて少し辛かった。

  • 河鍋暁斎の娘であり弟子でもある暁翠の半生の物語。
    日本画はあまり知らないので、初めて知った。

    絵に打ち込む芸術家・暁斎に翻弄された娘暁翠の心の葛藤を描いていると読み進めてきましたが、最後のほうに書かれた清兵衛の言葉を読んで、生き方を示す本だなと改めて思いました。

    ここに登場する絵の展覧会があれば行ってみたくなりました。

  • あら、いきなり冒頭が暁斎の葬儀だわー。
    暁斎に「北斎にとっての応為」にされそうになった娘・とよの目線で、明治23年から大正13年までを駆け抜ける。朝井まかて『眩』よりは梶よう子『ヨイ豊』の読後感に近いかな。
    まあでも、関東大震災の時、当時皇太子だった昭和天皇が、品川の東宮御所を避難所に開放したとか、護国寺前から千石までの坂道って昔からあったんだとか(当たり前か)、色々なトリビアがありました。

  • 読書備忘録651号。
    ★★★☆。
    引っ越しタイミングのBOOK-OFF購入本。

    読もうと思って購入した訳ではなく、BOOK-OFFの陳列棚にあったので手にとった。
    明治から昭和にかけて実在した女性日本画家のお話。

    主人公とよ。河鍋暁翠。
    父は、江戸後期から明治に活躍した日本画家の河鍋暁斎。暁斎が没後、欧米から洋画の波が押し寄せる激動の時代の中で、暁斎の日本画の画風を継承しつつも、既に古い画風と評価され、されど、家というしがらみの中で上手く立ち回れなかった人生、という感じでしょうか。

    ただ、関東大震災で命の尊さを感じ、それぞれの選択は全て、その人生の幸せに繋がると達観し、幸せな人生だった、と。

    ちょっと読むのが辛かったですが、苦痛では無かった。笑

  • 導入部分で主人公と敵対する登場人物の描き方で、単純な勧善懲悪の物語かと思ったが、読み進めるうちにそうではないことが明らかになっていく。こねくり回した設定ではないが深い。

    明治時代を生きる女絵師の人生を描きながら、「女性の自立」「時代の変化に対応できず取り残される恐怖」「親の呪縛への苦悩」「自己実現の難しさ」など現代人が持つ悩みや問題点は普遍的なものであるということをメッセージとして込めている。

    時代小説の書き手としての矜持を感じられる作品である。直木賞にふさわしい。

  • 河鍋暁斎の娘からの視点で。
    画鬼と自ら呼んだ暁斎の死後、明治大正の幾時代を経て、家族そして「絵」という芸術を巡って新しい時代を迎えながらもその意志を途絶えさせないということ。
    ただ大事なのは、後を継ぐというよりも今のままの自分であり続けるということ。大きすぎる星は落ちても尚、子どもたちを巻き込む枷にはなるけれどプラス思考で考えれば。

    明治大正時代のことなのに、家族視線でみれば充分、現代のことにも通ずる。
    親、先祖とかは有名なのに越したことはないけれど過ぎるのもタイヘンだなぁ

  • 江戸の絵師の話が好きで読んでいる。
    澤田さんの小説では、「若冲」についで2作目。
    北斎の娘応為のごとく、父を助けて活躍する絵師の娘、ではなく、娘のとよは、父河鍋暁斎を失った後、自分の力不足を知りながら、流派をいかに残していくかに腐心する。すでに師である父はいないのだ。

    才能ある兄、しかし折り合いは良くない。妹は病弱で夭逝する。弟は、絵の修行より遊び人だ。
    父の後、どう受け継いでいくのか、絵師として生きるか、夫婦で暮らすのか。こんな苦労を自分の娘にはさせたくないと、絵を継がせまいとするとよ。

    かつてパトロンだった清兵衛は、大店を追われた。
    その後、笛に生きた清兵衛は、惨めな生き方だったろうか?
    芸術とは何か、をとよに語りかける清兵衛のことばは、潔い。
    幕末から明治、大正まで、浮世絵が衰退していくなか、女として、絵師の娘として、または一家の家長を立てて生きる、
    さまざまな役割が、とよに課せられていた。
    最後にとよがたどり着いた場所に、ホッとさせられた。

  • 昨今では奇想の絵師としても人気の河鍋暁斎。本作はその暁斎の娘で、同じく絵師として生きた、とよ(河鍋暁翠)の半生を描いた作品。第165回直木賞受賞作。
    画鬼、今北斎とも言われ、弟子が二百人もいた人気絵師の暁斎は、父親ではあるが絵の絶対的な師匠。彼から幼少より絵を叩き込まれ、結果絵師として同じ稼業をすることになる。しかし才能としては、父にも、また反発ばかり繰り返す異母兄の周三郎にも及ばない。身近にいる天才、そこからくる呪縛。それでも最後の河鍋派の絵師として、激変の明治、大正期を生き続けるとよの人生に心を揺さぶられる。

  • 『若冲』で奇想の絵師・伊藤若冲の生涯を鮮やかに描き出した澤田さん。本作では幕末から明治期に活躍した画家・河鍋暁斎……ではなく、その娘であり弟子でもあるとよ(河鍋暁翠)を主人公として、親子の絆や芸術家としての生き方などに苦悩する姿を描く。若冲とは違いこの親子(次男の暁雲も含め)は知らなかったのでより興味深く読んだ。流行遅れになり忘れられていく悲哀は西洋美術だけではなかった。

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著者プロフィール

1977年京都府生まれ。2011年デビュー作『孤鷹の天』で中山義秀文学賞、’13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞、’16年『若冲』で親鸞賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、’20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、’21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『漆花ひとつ』『恋ふらむ鳥は』『吼えろ道真 大宰府の詩』がある。

澤田瞳子の作品

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