逝かない身体―ALS的日常を生きる (シリーズ ケアをひらく)

著者 :
  • 医学書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784260010030

感想・レビュー・書評

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  • とても難しい問題だから、何が正しいとか間違ってるとかは言えない。ただ、生まれたからには必ず死ぬ。どれだけ頑張っても100歳を超えることは難しく、少しずつ機能が衰えて衰弱し死を迎えるのは生物の自然の帰結だと思う。
    まだまだ寿命と言うには早すぎる年齢で神経難病になり、意思疎通が出来なくなったとして、他者から「こんな状態だったら死んだ方が本人の幸せ」などと決められるのはおかしいとは思う。でも、老衰で全身の機能が低下して、まもなく自然死を迎える人にはどこまでの医療が必要なのだろうか。

  • 2015.1.23

  • とてつもなく遠い場所の話のように読みながらも、これが自分たちの場所と地続きであることがしみじみ伝わってくる。文章はたまに、恐らく感情が表現しきれない部分で、読みづらかったりするが、この人しか書けない文章として味わう。そして、想像していたよりもずっと昔から寝たきり患者の生活を支える機器を開発していた人達が沢山いたことに感動した。この後にもういちど『ホーキングInc』を読むと別の発見がありそう。

  •  いつか必ず回復する、良くなる、と言うことの無いALSという病。
     その傍らに寄り添い、在るだけで……何というか、何だろう。既成の枠組み「介護は大変、可哀想」「生きている間は頑健で有るべき」「ぽっくり死にたい」と言うことだけではないのだな、と感じる。感じるだけだけれども。
     いざというときに読むのでは無く、いま普通に生きる時に読んでいいし、(実際に普通にあることなのだから)と感じた。

  • 著者はALS(TLS)に罹患した母親の介護をする長女。当事者でなければわからない苦労や葛藤、そして幸福が記されている。家族の疾病は多くの喪失を伴う。それまでの生活、仕事、家族との別居。人工呼吸器の装着に迷い、尊厳死の是非に迷い、周囲の無理解に悩む。疲労と孤独に晒され生活が立ちいかなくなる。著者が辿り着いた「わからないから殺さない」という考えがとても腑に落ちる。慣れ親しんだ自宅で家族や親しいヘルパーに囲まれ安定した介護を受ける。疾病や障害を持つと他者は不幸を哀れむけれど、生活の営みの中にささやかな幸せがあるのは皆同じこと。

  • ALSという神経疾患がに罹ると徐々に全身の筋肉が萎縮してゆき、四肢の筋力低下だけでなく呼吸筋までマヒしてしまいます。
    難病中の難病です。
    自分の母親がALSを発症し、そのまでの自分の生活も投げうって介護生活を行った方の体験記です。

    著者の川口さんは、淡々と自分のつらい状況や心境を読みやすい文章で綴っています。
    無駄な延命治療を止めようという社会風潮があります。
    川口さんとお母さんの生き方をみると「無駄」ってなんなのだろうか考えさせられます。
    安楽死について考えている方には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

    http://ameblo.jp/nancli/entry-11949589430.html

  • 著者は夫と子供2人とともに住んでいたロンドンから夫を残して帰国。ALSにかかった母の介護を始める。生きること、そして死ぬことの意味を自問自答しながら、母の世話をする。時制が行ったり来たりするので少々読みにくかったが、一気に読了。
    ロンドンでの親子水入らずの生活をなげうったことがきっかけなのか、夫は数年後、帰国し同居するもののその後離婚している。僕自身、子供に会えなくなっているからか、夫に同情してしまう。著者の選択によって夫は子供の成長をしばらくは見れなくなったのだ。
    著者のとった行動、これはこれで正しい。だけど著者の明晰さがあまりに影響力を持ちすぎて、呼吸器をつけるのが当たり前、延命が当たり前といった同調圧力になったりしてないのか。そのことは大いに気になった。

  • 介護制度もまだ整備されない時期に自宅でALSの母親の在宅介護をはじめ看取りを行うまでの記録。ALS患者である母や周りの家族やヘルパーの心理など丁寧に描写してあり、また実際の介護や医療の技術的な話もあってとても勉強になった。

  • 10万人に3〜4人が発症するというALS(筋萎縮性側索硬化症)、なかでも重症患者は進行すると自発呼吸器ができなくなり気管を切開し空気呼吸器をつけることになるのだがこれが患者のおよそ1/3。さらには眼球も動かせなくなり全く意思を示せなくなる患者がさらにその1/3いる。およそ100万人に5人ほどしかいない難病で当時は発症すると予後平均4年、海外赴任した夫についてロンドンで暮らし始めた著者が母親のALS発症のために実家に帰って始めた看病はその後12年間続くことになる。

    ALSにかかると体は動かなくなるが脳の働きは正常で、有名な理論物理学者スティーブン・ホーキングは21歳で発症したが進行が止まり研究を続けており、意思伝達装置を使って会話もできる。重症患者でも看護する側のなれと努力次第で文字盤を使って意思疎通を図ることができるし、最近ではPC入力もできるようになってきている。最終段階でも眼球さえ動かせればYES/NOは伝えることができる。

    母親の症状の進行は早く次々に決断が求められる。人工呼吸器をつけるのか、今なら保険でカバーできるが当時はこれだけでも300万円、保険師の話は「娘と持ち家があるなら、呼吸器をつけても自宅で生きていく資格がある」という現実的な話になって舞い戻ってきた。「それからご家族は仕事をやめて介護に専念できますか?」

    これほど介護が大変なのには訳がある。食事、排泄、入浴とどれをとっても重労働で目を離せない。それ以上に患者が寝たきりになっても体が動かせないのでいちいち介護者に指示して体位を決めないと寝ることもできない。健常者は寝心地が悪いと寝返りを打ったりして勝手に調整するがALS患者はそれができないのに感覚は正常なので眠れなくなるらしい。そして自分が目覚めると介護者を起こしてまた指示することになる。

    重症患者の気持ちは外部からは窺い知れないが医師によると意外にも脳波は穏やかなα波を示すという話もでている。しかし、苦痛があっても自分では何もできないような状態で穏やかでいられるというのもなかなか想像するのは難しい。著者も大変な時期を乗り越えると後にはALSの別の姿が見えてきたという。「患者を一方的に哀れむのはやめて、ただ一緒にいられることを尊び、その魂の器である身体を温室に見立てて、蘭の花を育てるように見守れば良いのである。」発症して4年半、母親は夜昼なく深く眠るようになっており介護の負担感が減ったからこそたどりついた境地かも知れないが。それまでには安楽死をさせた方が良いのではないかなど色々思い悩んでいるのだ。

    著者が知り合った元気なALS患者として橋本みさおさんという方が紹介されている。家には介護者や友人、ボランティアを含めて多くの人が集まる中で橋元さんは自由気侭な療養生活をするALS患者として世界的に有名だという。2003年に橋本さんが日本ALS協会の会長に就任すると著者はその活動を手伝い、口文字を読み取り意訳して講演会の手伝いなどもするようになっている。この人は「生きる義務」という言葉を多用するとともに「自分の生を誰のために使うかは自分の勝手だ!」とも「私は私のために生きる」とも言う。そのうちに著者もわざわざ確実に死なせるための準備はしない、そしてどのような生き方や死に方がよいかなどと健常者の物が教えたりしないというところに落ち着いていった様だ。なかなか考えさせられます。

  • ようやく夏休みになったし、読みたかった医療・介護系の本を読みますか!どこまでも自分と地続きの課題で、感じて考えなくてはと思う事柄です。

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著者プロフィール

NPO法人ALS/MND サポートセンターさくら会副理事長。
著書に『逝かない身体』(医学書院、第41 回大宅壮一ノンフィクション賞)、
『末期を超えて』(青土社)など。

「2021年 『見捨てられる<いのち>を考える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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