- Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309411569
作品紹介・あらすじ
東西、古今の「事件」に材を採った、十蘭の透徹した「常識人」の眼力が光る傑作群。「犂氏の友情」「勝負」「悪の花束」「南極記」「爆風」「不滅の花」など。
感想・レビュー・書評
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まちがいなく洋装ではなく和装の言葉。背筋をただして纏う着物のような。壮大な史実や有名な事件を背景に、そこにいた一介の人間の事情を描く。ノンフィクションからフィクションを編み出し卑金から金へ。まさに錬金術。渡仏した十蘭の目に映るフランスも味わえた。
「爆風」には、月齢と月相で敵の爆撃機の入来時期に検討をつけたとある。満月を間に前後五日間は襲来があるかもしれず警備隊は眠れないと。そこから月が憎らしくもなるのだが、月はこのように描写されている。
「癇性が白眼でギョロリと睨みつけるような、見るからに酷薄無情な月である」。
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初出は1927(昭和2)年から1954(昭和29)年。
数冊出ていたらしい河出文庫の久生十蘭短編集シリーズ、明示されていないが、一応各巻に編集テーマがあったのかもしれない。本書は事実に基づいて書かれた小説か、あるいは事実っぽく書かれた小説が中心ということなのだろうか。
後者の「事実っぽい」作品、事実と見分けがつかないほど巧みに書かれているし、相変わらず隙の無い文体・構成で、迫真の重さがある。語彙の豊富さは言うまでもなく、実に多様な領域に渡る博識も相当なもの。1編の短い小説を書くに当たってもすこぶる周到な資料収集を心がけた作家であったのかもしれない。
がっちりと堅牢で意味内容が濃密な十蘭の短編小説は、一つ一つに重みがあって、短編集を読み通すとおなかいっぱいになる。凄く高カロリーなこてこてで多様な料理が次々と出されてくる感じだ。だから正直言うと、短編集を読み通すと少々疲れる。
本書中では「公用方秘録二件」(1943《昭和18》年)が特に面白く、気に入った。 -
十蘭先生の不真面目に、僕はいつも真面目に付き合わされます。ある着眼点でまとまった新聞記事のようなネタに、詩的で遊んだ描写を入れる、十蘭先生のレトリックにはいつも書き方とは何か考えさせられまする。
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短編集。実際の事件や記録から小説に仕立てあげたような作品多し。
仏蘭西を舞台にしたもの、南方の戦地を舞台にしたものが多いなと思ったら、後ろの年表を見て納得。どちらも筆者自身が行ったことがあったんですね。
記録系でないような「彼を殺したが……」と「勝負」が好き。
「勝負」は、男二人に女一人、飛行機乗り、気だるい雰囲気、そのあたりがツボ。危うい3人と部外者だる語り手の関係性もいい。 -
特に中盤各編で感じられる、淡々とした筆致がいい。「公用方秘録二件」と、最後があっけないものの「海と人間の戦い」が特に印象に残った。
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新しくなつて 読みやすかったです。 どれも良かったですが、しいていえば、「勝負」ですか、絵で見るフランス風土紙を読んでいたので、景色を想像して、
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2013/1/15購入
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ドキュメンタリーのような文章は読みづらくてちょっと退屈だったけど、小説はどれも面白かった!
「彼を殺したが……」は非常に短いながらドス黒い人間の心理が炸裂していて冒頭から引き込まれたし、「カラスキー氏の友情」は石亭先生のマヌケっぷりと語り手の冷静さの対比が笑えた。「勝負」は戦時下における二人の男の心の駆け引きに夢中になった。
ちょっとキザな日本語表現も、美しくて読んでいて気持ち良い。 -
河出文庫での十蘭短編集もとうとう5冊目になった。3冊ぐらいで打ち止めと思っていたので嬉しい。続編が出るのか気になる。本編でも、事実をもとにして、驚くべき物語を生み出す錬金術に驚かされる。大戦直前のフランス、戦争中の東京、南方の戦地を舞台とする魅力的な男女が繰り広げる刹那的な行動を描く「勝負」が気に入った。