- Amazon.co.jp ・本 (161ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309464671
感想・レビュー・書評
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ヨーロッパの最西端と言われるポルトガル領の群島、アソーレス諸島。その近海を泳ぐクジラと島の捕鯨手たちの物語を、虚構混じりの断片から浮かび上がらせていく掌篇集。
再読。何度読んでも美しい本、同じフォーマットを使って自分の好きなものを語りたいと憧れる本だ。史実に即した事柄を語るときにもタブッキは夢を見ながら語っているかのようで、それがクジラの泳ぐ大海を身一つで漂うような読感を生みだす。
深夜に見たNHKの番組でアソーレス諸島近海のクジラを取り上げていたのをきっかけに再読したのだが、あの海の青さを見てからだと、本書を読んで頭のなかに結ぶ像の色彩設計がガラッと変わってしまった気がする。「水みたいに薄い空色の目」の持ち主が何度かでてくるけれど、瞳の色が薄く見えるのは海があまりに青いせいなんじゃないだろうか。そう感じる青だった。
タブッキと同じく断片的な記憶のイメージを積み重ねて物語を編み上げる名手である須賀敦子の訳者あとがきと、堀江敏幸の端正な解説を読める文庫は本当に贅沢。堀江さんの「ネタばらし」は、浅学な読者にはとても有り難い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
まえがきからあとがきに至るまで、すべてのテキストが作品の要素となっている詩的な作品集でした。
まず自分はアソーレス諸島がどこにあるのかも分からず、どこか空想の産物のような気がしつつページをめくっていました。世界地図で確認したら、ポルトガルから大西洋へだいぶ行った先にちゃんとあるではないですか。この世にアソーレス諸島はあります。
とはいえ大陸からはなれて地図の1番端にあるため、世界からはみ出しているというか、まるで世界の果てにあるようです。タブッキの文章と合わせると、やっぱりどこにもない島のような気がしてきます。文章を通してたどり着ける島は、逆に言えば、永遠にたどり着けない島でもあります。テーマやなんかは違いますが、ルネ・ドーマル『類推の山』を思い出しました。
現実に存在する島や旅行体験と、この本は同じようでいて違うという、その部分に詩があるんじゃないでしょうか。スナップ写真のような情景や、諸島の歴史、名も知らぬ詩人の伝記、港町の歌い手が語る物語など、はっきりとこれだと示さないままに、断片的に重ねられるテキストそれ自体は散文的なのですが、それぞれが「タブッキのアソーレス諸島」を暗に語りつつ、本としてのまとまりの中で、手触りに近い存在感を読者の想像世界に念写してくるあたり、形式としては、やはり詩なんだと思いますし、詩とは言葉でのみ体験できるリアルな別世界なのだと思います。
しかも死や難破のイメージがくり返される割に、暗くもなく、不吉でもないのがいい。懐かしむような、すでに失われたものを愛しむようなどこか夢を見ているような心地さ。これがいわゆるサウダージというのでしょうか。この技巧力とおしゃれ度とカッコよさに痺れます。
実はこれが自分の初めてのアントニオ・タブッキ作品です。読む前からなんとなく予感していましたが、案の定すっかり好きになってしまいました。カバーデザインのイメージどおりです。
もともとペソアが好きなので、名前だけは頭にあったのに、今日にいたるまでご縁がなかったのが不思議なくらいです。さっそく『インド夜想曲』を手に入れました。もうタイトルからして好きになってます。 -
とても薄い本だけれど、一口にはとうてい要約できない。けれども本書は自分にとって決定的な影響を与えた本だということは断言できる。それはこれから本書の意味を探っていくかいのある本だという意味ではない。謎は謎のままに、無意味は無意味のままに。「敢然たる無意味」。そんな言葉が思い浮かんだ。
読みながら、気まぐれに、ハサミで紙を切るイメージが思い浮かんだ。しかしその結果、できあがった形は、まさに、偶然できた、島のかたち。 -
①文体★★★★★
②読後余韻★★★★★ -
虚構と隠喩
仕掛けられた世界を始終彷徨うも
掴めそうで掴めない島・クジラ・女の話
詩的情緒湛える散文は
時間と空間を歪める印象を残す
150頁に満たない物語
思考するほど厚みが増すような
タブッキ…煩雑な出会い