- Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334746926
作品紹介・あらすじ
中学校の国語の時間。「走れメロス」の音読テープに耳をふさいだ森見少年は、その後、くっついたり離れたりを繰り返しながらも、太宰の世界に惹かれていった-。読者を楽しませることをなによりも大切に考えた太宰治の作品群から、「ヘンテコであること」「愉快であること」に主眼を置いて選んだ十九篇。「生誕百年」に贈る、最高にステキで面白い、太宰治の「傑作」選。
感想・レビュー・書評
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登美彦氏が「ヘンテコであること」「愉快であること」をテーマに選んだ太宰作品19編。
登美彦氏は編集後記で「私は、太宰が手を替え品を替え読者を愉快にさせようとしている作品が好きである」と書かれていますが、太宰治のサービス精神や愛矯が感じられる作品が多かったです。
テーマがテーマだけに、自虐性の弱い太宰作品が多いので気軽に楽しめました。
「走れメロス」「ロマネスク」などの有名どころもあれば、「『井伏鱒二選集』後記」などの初めて読む文章もあり。
「黄村先生言行録」は思わず笑ってしまいました。
「親友交歓」は何度読んでも中間でお腹の中がムカムカするのですが、最後になると妙な清々しさを感じてしまいます。
太宰流ユーモアのセンスに惚れ惚れしてしまう1冊でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
森見さんの、太宰治傑作集。
太宰治は中学の時に読んだ「走れメロス」と「人間失格」ぐらいしか馴染みがなかったので、印象がかなり変わった。
特に気に入ったのは「畜犬談」、読み終わった後に太宰治のことがちょっと好きになっているから、ずるいと思う。
最初の「失敗園」→「カチカチ山」→「貨幣」ぐらいまで「これは森見さんが書いたのでは?」と思ってしまうぐらい、文体もその雰囲気もよく似ていた。
読みやすいもので読者を釣って、「ロマネスク」あたりで太宰治の世界に引き摺り込んで、「黄村先生言行録」あたりから深い沼に沈まされる感じ。
100年程前の文章だから、読み難い所もあるし、時代錯誤で「ん?」と思う所もあったけど、それも踏まえて当時の様子や景色が見られて面白かった。
最後に「走れメロス」を持ってきたのもよかった。
濃い太宰治汁を発散させる、跳ねるような文体は見ていて気持ちが良い、フィナーレにふさわしい。
ただ、私も森見さんと同じでこの「正義!」っていう感じがどうしても恥ずかしく感じてしまう。 -
「畜犬談」が面白すぎて声に出して笑った。他、「黄村先生言行録」の、太宰治の心の中でされるツッコミが面白い。
星野源とか朝井リョウのくだらないエッセイが好きな人は、きっと好きになると思う。
森見登美彦は最後に「走れメロス」をもってきてくれてたけど、私はやっぱり好きじゃない。
中学生の頃読んだ時と印象が変わったことと言えば、最後はちゃんとオチつけてるなあ、と思ったくらい。 -
太宰治の印象が変わる一冊。
作者も編集後記で述べているが、自殺やらなにやらでネガティブで暗い印象を抱かれがちな太宰(がち、と書いたが、世間の人たちはそうではないのかも知らん)は、こんなにもユニークで、リズミカルで、面白い作品を書いているということを、この本を通じて感じることができる。そして、太宰治の、人間観察眼と、それをありありと言葉にして描き出して読み手にぶっ刺してくる表現力の凄さに感嘆する。
森見氏の編集後記と本編とを代わる代わるに読むと、さらに味わえるのかな?とも思った。
お気に入り?という言葉を使うのは、少し違うが、特に印象に残ったのは「親友交歓」。うへー、こんなやつ来よったらたまらんたまらん、と、もう読みながら顔をしかめたくなるような内容からの、痛烈なラスト一行。 -
太宰治というと、新潮文庫版の「人間失格」の真っ黒い表紙からの連想で、なんだかとにかく真っ黒い印象でしたが、こんなにユーモラスな文章も書く人だと知って嬉しくなりました。
本書の中では「畜犬談」が好きです。
「犬の心理を計りかねて、ただ行き当たりばったり、無闇矢鱈に御機嫌をとっているうちに、ここに意外の現象が現れた。私は、犬に好かれてしまったのである。」なんて、絶妙のリズムでおもわず笑ってしまいました。 -
「ヘンテコ」で「愉快」な太宰治傑作集。まさにその通り。いい意味で太宰のイメージが壊れた気がします。やっぱり文体は読みにくいのだけど、太宰ってこんなに楽しい話も書くのか、という感じ。太宰の他の話も読んでみたい。
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太宰のオマージュ作品。作者も編集後記で言及しているように、この小説は太宰の作品の中から「ヘンテコであること」「愉快であること」に主眼を置いて選別されたもの。太宰というと暗いイメージが強いが、この小説では所謂太宰らしい作品は掲載されていない。リズミカルな文章に堅実な構成。特に、これまで太宰を苦手としていた読者に固定観念は捨てて素直に楽しんで欲しい。
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太宰治を少し違った角度から焦点を合わせた作品。
「黄村先生言行録」「満願」「女の決闘」「走れメロス」など
30年ぶりに読んだ走れメロスは突っ込みどころが多かった。メロスは自分勝手極まりない、勝手に妹の結婚式の日取りを決めるし、走って帰る時もわざわざバーベキューかなんかしてるところを横切るし、王様はいい王様になった感じやけどそれま惨たらしいことしているのにとも思う。
ただこの短さと時代設定になんとなくうやむやにされてしまう。
つまり、恥ずかしいけど感動する。
この作品はまたタイトル勝ちなところがある。
倒置法的に動詞を前に持ってきて主人公の名前を持ってくるのは「桐島部活やめるってよ」くらいまで時代を降りてこなければなかなかない。 -
自虐的な太宰の文章のリズムがとても心地よかった。太宰の作品は暗いものばかりだと思っていたが考えを改めた。どの作品も面白かったが、ロマネスクと畜犬談、親友交歓は特に面白かった。女の決闘なども、なるほどなあとか思いながら楽しく読める、本当に読者に向けた解説文だと思った。