- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334926014
感想・レビュー・書評
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一風変わった設定、それを受け入れる人々。奇抜なようでいて、「ちょっとありえるかも」。
知らないこと見たことないものは興味深い。「ちょっとありえるかも」は、ぐっと近づいて、わくわくしたりときめいたり、ときどき怖い。
そういうさじ加減の上手な作家さんだと思います。
言いたいことを、現実の綻びに押し込んで、ちくちく繕ってみた感じ。
ただ、短編集だからか、私はややおなかいっぱい。
もちろん、短編だからこそ映える物語ばかりで、それはそれでよかったんですが、
同じこと(テーマ?)を、手をかえ品をかえ…ってやってる印象。せっかく奇想天外な設定のはずなのに、おもしろみが薄まってしまったように感じました。
たまたま読んてたファッション雑誌とかに、この中の一遍がさりげなく掲載されていたのなら、私的には最高だったな。
「小説読むぞー」っていう気分じゃないときに出会ってみたい。そのページを切り取って、飴を口の中で転がして遊ぶように、読みたい。
どれも面白かったけど、「鼓笛隊の襲来」「突起型選択装置」「欠陥住宅」「同じ夜空を見上げて」がお気に入り。おしつけがましくなく書くのって、結構難しいと思う。
「見ているのに、見えていないものって、案外たくさんあるのかもしれないね」
人間には聞こえない音、判別できない色、そういう、この世界に在るのに「ないと思い込んでいるだけ」のもの。
普通って何だ?日常生活とか、あたりまえとか、そういう言葉に傲慢になり過ぎないように。
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赤道上に、戦後最大規模の鼓笛隊が発生した。
鼓笛隊は、通常であれば偏西風の影響で東へと向きを変え、次第に勢力を弱めながらマーチングバンドへと転じるはずであった。だが今回は、当初の予想を超えて迷走を続け、徐々に勢力を拡大しながら、この国へと進路を定めた。
これがこの世界の秩序だ。
これから私の前に積み上げられてゆく秩序だった日々の積層を思う。私は、この世界の秩序の上を、踏み外すことなく一歩一歩だどっていく。それは惰性であり、諦観であり、安穏であり、ある種の「幸せ」であるのかもしれない。そしてそれらすべてを包含しての「日常」なのだ。
列車の光は、あまりにもあっけなく通り過ぎてしまい、私も、そして他の乗客たちも、何もつかむことができぬまま見送るしかなかった。
それは、決して手を伸ばすことのできない、幻の光だった。まるでありふれた日常というものが、ある日突然に、いともあっけなく消え去るのだということを思い知らせるように。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ショートストーリーよりも
少し長めで読ませる作品の方が
この作家の話は好きかも知れない。
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三崎亜記お得意の奇抜な設定が存分に堪能できる短編小説集。彼の作品を読むと、自分が今いるこの世界とは別に、常識が通用しない歪んだ世界が実在するのではないかと思ってしまう。書き出しの一文に、がしっと掴まれる。「本は三行読めば面白いかどうかわかる」という人は結構いるけれども、これはまさにそうだと思います。図書館で借りたのだけれども、手元に置いておきたいくらい面白い。濃密。
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三崎亜記の小説は大概何かを暗示したところがあり、その構図も大体において共通している。それは人々が半ば盲目的に信じている価値観への強烈な批判的メタファーであると思うのだが、時としてその批判的な香りは鼻につくことがある。しかし不思議なもので、その鼻につく位の態度に満ちた作品、例えば「となり町戦争」は、三崎亜記を読みたくなる気持ちの支えともなっているのだ。
その意味で、この短篇集に収められた作品たちには、言ってみれば三崎亜記臭さというものが薄いように思う。もちろん、ノンケを装って何かを痛烈に暗示しながら皮肉るという形は残っている。しかし、その余りにも三崎亜記印的メタファーの使われ方は、短篇という枠組みの中では充分に批判的精神を展開し切れていないのではないだろうかと思うのだ。メタファーの奥に潜んでいる作家自身の価値観のようなもの、そこまで暗喩のナイフは深く届いていない。
むしろ、短篇の中で物語を成立させるために用意されているきれいなエピローグばかりが目立ってしまって、「となり町戦争」の三崎亜記を期待するモノにとっては大いに意外といわざるを得ない。
もしかすると、この作家はもっと読者に親切な語り手になろうとしているのかも知れない。解り易い喩えと、解り易い感情の起伏。そのような小説を書こうとしているのだろうか。であれば、その試みは成功しているとも言えるのであろうけれど、何を皮肉っているのかがようとして知れないメタファーの中で、徐々にその変成を支える批判的精神が明らかとなってくるような作品を求めるモノにとっては、少々もの足らない気持ちも残ってしまうのだ。
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シュールな短編集。
日常のなかに潜む不安を描く作家。
『鼓笛隊の襲来』と『覆面社員』が良かった。 -
戦後最大規模の鼓笛隊が襲い来る夜を、義母とすごすことになった園子の一家。避難もせず、防音スタジオも持たないが、果たして無事にのりきることができるのか―(「鼓笛隊の襲来」)。眩いほどに不安定で鮮やかな世界をみせつける、三崎マジック全9編。『となり町戦争』の著者、1年4ヶ月ぶり待望の新刊。
日常のなんてことないヒトコマに潜む不思議・・・この著者の書くものはそういう話が多いですが、それが謎のままというパターンが多くて、私はやきもきしてしまいます。しかもたいていちょっと怖い系・・・今回もそうでした。ボタンの話とか、それ押すとどうなっちゃうの〜〜!?と思いましたが、結局謎は解かれずでした。でも「遠距離・恋愛」はHAPPY END(?)でよかったです。明るめな話だったし。 -
やっぱり三崎さんは短編が面白い。
『バスジャック』同様、日常の中にちょっとした「異変」を加える作風は星新一のショートショートを読んでいるようで小気味良いです。 -
短編集。それぞれ目の付け所が意外で驚きます。
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<table style="width:75%;border:0;" border="0"><tr><td style="border:none;" valign="top" align="center"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334926010/yorimichikan-22/ref=nosim/" target="_blank"><img src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/317sXqy%2Bh8L._SL160_.jpg" alt="鼓笛隊の襲来" style="border:none;" /></a></td><td style="padding:0 0.4em;border:0;" valign="top"><a href="http://blog.fc2.com/goods/4334926010/yorimichikan-22" target="_blank">鼓笛隊の襲来</a><br />(2008/03/20)<br />三崎亜記<br /><br /><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334926010/yorimichikan-22/ref=nosim/" target="_blank">商品詳細を見る</a></td></tr></table>
<blockquote><p><strong>戦後最大規模の鼓笛隊が襲い来る夜を、義母と過ごすことになった園子の一家。避難もせず、防音スタジオもないが、無事に乗り切れるか。表題作ほか、鮮やかで不安定な世界を描く短編集。書き下ろし1編を含む全9編。</strong></p></blockquote>
表題作のほか、「彼女の痕跡展」 「覆面社員」 「象さんすべり台のある街」 「突起型選択装置(ボタン)」 「「欠陥」住宅」 「遠距離・恋愛」 「校庭」 「同じ夜空を見上げて」
三崎さんである。設定、前提条件からまず尋常ではない。しかし、大分慣れたので、大方すんなりと物語に入り込めるようになった。
それでもそれぞれの物語には、不思議があふれていて、だからこそ本質が露わになったりすることがあり、ドキリとさせられ興味深い。
なんの疑いも持たずにのうのうと暮らすわたしたちが失いかけているものを思い出させ、完全に失くしてしまうのを踏みとどまらせてくれるような一冊である。 -
「失われた町」は未だ放置中ですが、こっちを先に読んでしまいました。とくに好きなのは、象のすべりだいの話です。