蝶を飼う男:シャルル・バルバラ幻想作品集

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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336061034

作品紹介・あらすじ

友ボードレールにエドガー・ポーと音楽の世界を教えた影の男、シャルル・バルバラ。
《知られざる鬼才》による、哲学的思考と音楽的文体、科学的着想、幻想的題材が重奏をなす全5篇の物語。

* * *

ヴァイオリンに取り憑かれた狂気の名演奏家のあまりにも痛ましく愛おしい生涯
「ある名演奏家の生涯の素描」

パリ河畔の奇怪な屋敷に住まう孤独な天才発明家を描く、「未来のイヴ」に先駆ける自動人形小説
「ウィティントン少佐」

ある実在の事件をモチーフにした驚愕の犯罪小説
「ロマンゾフ」

世界の無数の蝶をパリの自宅で飼育する人間嫌いの男の物語
「蝶を飼う男」

聾者たちの滑稽で哀しいすれ違いを描いた寸劇
「聾者たち(後記)」

感想・レビュー・書評

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  • その存在自体が知られていなかった幻の一冊。

  • 如何にも『国書の本』らしい装丁で、店頭でやけに目立っていた。これは買わないわけにはいかないだろう……ということでいそいそと買って帰ったのだが、何でも本国でも150年近く忘れられていた作家だったらしい。色々な意味で吃驚した。
    乱歩の『パノラマ島奇談』のようなキッチュさがある幻想小説で、古いタイプと言えばそうだが、こういう作風に惹かれる読者は確実にいるだろう。国書はこういう作家を拾い出すのが本当に上手いな……。

  • 覚悟のある固い中心の詩人とでも言いましょうか、世界観が装丁を含め濃厚かつ重厚。

  • リズミカルであり、みずみずしい文体。。。とか思ってたら、バイオリニストのようで。二百年くらい前に精神科講義みたいのが流行っていて、受講してみたけども、いまいちで、文章を書くことをすすめられる。ってことで、支離滅裂な印象。本人だって治療の一貫としてウ●コのように排出したものを、まさか二百後に出版されるなんて、色々しんどい。この支離滅裂を幻想的と片付けていいものなのかよくわからん。でもこういう読む側に媚びてない読み物というのもなかなかいいんではないかな?

  • 刊行当時、タイトルに惹かれつつ見送っていた。じわじわレニエを読んでいる流れに乗ってようやく手を出す。19世紀ど真ん中……!
    「ある名演奏家の生涯の素描」「ウィティントン少佐」「ロマンゾフ」「蝶を飼う男」「聾者たち(後記)」を収録。訳者註がけっこうなボリューム。

    収録作を全部読んでから解説を読むと、原著のタイトルが惜しくなる。「蝶を飼う男」、たしかに魅惑的だけど! しかし全作に通底するテーマを表すものとして『僕の小さなお家たち』はやはり愛らしくも諧謔的で素敵。とはいえ美しい装丁との合わせ技には唸るしかない。
    抑圧される人、排斥される人、理解されない「奇才・奇人」を描く語りの手並みが秀逸。明晰で理性的、夢の陶酔よりも科学の研鑽を思わせる端正さを、鋭い比喩や皮肉をまじえたユーモアと多彩なイメージが取り巻いて、知的で動的で、内的にも外的にもどこか昏く危うく華やかな感触。これにはなんだか、たまらないものがある。
    著者は時代をよく見つめた人であるらしく、当時の科学、文学、音楽をふんだんに作品に取り込んでいる点も興味深い。「ある名演奏家の生涯の素描」のイタリア人演奏家、「ウィティントン少佐」の自動人形は鳥肌物。訳者註を逐一併読しながらおおいに堪能した。すごい仕事ぶりだ……。
    ド・サルキュスが自動人形に見る「奇異で、悪夢のような効果」と、彼が持つ「人間の知性を抹殺する傾向のある機械」への興味にまた鳥肌。はじめ奇異に思われた自動人形の価値を、彼らが行う芸術活動によって認めたなら、科学が芸術≒文学を殺し、人間の手から奪うという警鐘ないし風刺でもあるのか。盗みに入った詩人の始末は一見慈悲深く、その実どこまでも詩人を認めていない。著者自身文学の人でありながら、この容赦のなさはいっそ恐ろしい。

  • 装丁とタイトルが気になって手に取ってみた。フランスの知られざる幻想作家(翻訳者は必ずしも幻想文学には当てはまらないとしているけれど)の作品集。5篇収録されている。いずれも、1850年代前後に書かれたもので、世間への批判的精神と内的世界の豊かさ、危うさが、あの時代特有の妖しさを持ってると思った。ちょっと、「ジキル博士とハイド氏」を思い出したり。
    「ある名演奏家の生涯の素描」は、音楽の表現が美しい。ただ、現実と主人公が見る幻影との区別がつかなくて、やや読みづらい感じ。
    「ウィティントン少佐」は、驚いた。この作家の想像力たるや。あの年代に、インターネットやアンドロイド、パソコンを想起させる機械が登場する。それらを作り出した理由が、他人とかかわらず全部自分だけで完結したいから」、というのが、現代の状況と考え合わせると何とも考えさせられる。
    「ロマンゾフ」は、魅力的な人物の裏の顔が暴かれる推理小説風。
    「蝶を飼う男」はちょっとウィティントン少佐に似た世界観。博物学的な知識と、蝶などの表現の美しさが楽しくありつつ、主人公の悲しみも感じて、もどかしい感じ。
    「聾者たち(後記)」は、4人の聾者たちがてんでに思い違いをしてすれ違いを起こす寓話的なお話。しかし、こんな思い違いのすれ違いって、耳が聞こえない場合だけじゃやくて、実は普通の人たちの間でも起こってるよなあ、と思う。

    解説がしっかりあって、そちらもまた面白い。「世に理解されず自らの座標軸のみで生きるしかなかった天才的な奇人・奇才の物語」という表現をされていて、この作品集をうまく言い表しているなあと思った。

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著者プロフィール

フランスのオルレアンで、弦楽器製造業の家に生まれる。12才でパリの名門校ルイ・ル・グラン中学校に転校、ここで学業を終える。1836年にパリ高等音楽院(コンセルヴァトワール)に入学。自然科学にも強い興味をもち理工科大学校(エコール・ポリテクニック)に入る準備をしていたが、転じて文学の世界に入る。20代半ばで〈ボエーム〉の仲間入りをし、詩人ボードレール、写真家ナダール、作家シャンフルリらと交流する。その後、短篇小説を書き始め、ポーに傾倒。1848年の二月革命頃に、オルレアンで新聞の創刊や文芸欄の編集に携わり、ポーの翻訳や、友人たちの作品を紹介した。1850年にパリに戻ると精力的に創作に打ち込み、多くの短篇を発表した。1855年には初の中篇『赤い橋の殺人』をベルギーで出版。翌年『感動的な物語集』を刊行。1858年には本国フランスで『赤い橋の殺人』が出版され人気を博して版を重ねた。

「2019年 『蝶を飼う男』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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