残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344018853

感想・レビュー・書評

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  • 「自己啓発」を批判する「自己啓発書」といった感じ。
    確かに、と頷ける部分と強引かな、という部分が入り交じっている。
    引用されるネタはなかなか豊富で面白いのだが、
    肝心の筆者の主張が今ひとつ弱い、というか面白みがない。
    話もあちこちに飛びすぎて一貫性に欠けているように感じる。
    自分の読解力不足かもしれないが、期待ほどではなかったかな。

  • この本のテーマ、言わんとしていることは?
    つまり、残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法とは?
     
    やりたくないことはガマンを続けないで、好きを仕事にしよう。 
    自分が好きなこと、得意なことを絞り込んで、
    自分が勝てる土俵(マーケット)を作ろう。
    そして、自分のルールでゲーム(仕事)をしよう。
     
    自己実現のためのもうひとつの方法。
     
     
    能力は開発できない。自分は変われない。
    ということをかなりのページを割いて説明している。
    でもね、
    その好きを仕事にするために、
    好きなことを事業化したり、
    ビジネスの仕組みを作ることがまた能力が必要なのではないか
    と思ってしまう。

  • 面白かった。学校でも企業でも、ヤフオクでも、評判獲得ゲームが行われているというのは分かりやすい。
    本当に日本の企業の過酷さは自殺者の多さと関係があるのかな〜。

  • 自己の形成を決定するのは遺伝か、それとも環境か?
    読者は自らの資質をあらためて振り返ることになるだろう。自分の傾向や能力は何によるものであったのかを。

  • メモ



    残酷な世界で生き延びるたった一つの方法

    自分に有利なゲームをする。


    能力主義は道徳的に正しいおお

    グローバルな能力社会ではクリエイティブクラスとマックジョブに二分化する。

    私が変われば確かに世界が変わる。だが残念なことに、私はそう簡単に変われない。

    囚人のジレンマ
    日本人はアメリカ人より一匹狼的な行動をとる。

    貨幣空間のトリックスター
    格差社会の底辺にいるのは、社会の犠牲者というよりは、貨幣空間(信頼社会〕のルールに適応出来ない人たとかもしれない



    せかいじゅうすべての人と六次以内でつながる

    政治空間の権力ゲームは複雑、貨幣空間のお金持ちゲームはシンプル

    貨幣空間が政治空間を侵食

    貨幣空間のフラットな人間関係
    友達のいない世界

    世界はよりフラット化し、人間関係はますます希薄になり、政治空間は貨幣によって侵食されていく。


    20世紀少年


    人は常に他人の評価を求めて生きている

    日本型の人事制度
    上司と部下や同僚の評判を獲得しないと出席できない


    評価獲得ゲームのグローバル化

    幸福のあたら可能性をみつけやいのなら どこまでも広がるバザールへと向かおう

  • 「人間の能力というのは遺伝的に大方決まっている」という大胆なメッセージが印象的。読み進めるとそれはやがて「そうなんだろう」という理解にもつながる。

    一卵性双生児の研究や、様々な教育実験の研究を持ち出し、人間の能力のどれだけ多くの部分が遺伝子で決まってしまい、環境要因のほとんども思春期までの間の子ども同士の人間関係でほとんど決まってしまうことを説明している。

    となると、教育ってなんだ?という疑問が出てくるだろうが、それについても本書の中には書かれているので、気になる人は読んでみてください。

    って、俺が読み直しそうだな…

  • それぞれの具体的な例題はとても面白い。
    だが、結局何が言いたかったのかよくわからない。
    その「たったひとつの方法」がよくわからないのだ。

    ■この本を知ったきっかけ
     岡田斗司夫がTwitterで紹介していた
    ■読もうと思ったわけ
     タイトルに惹かれて

  • 自己啓発本でうまくいかない理由がわかる一冊。
    悲観的じゃないラストで救われる・・・かな。

  • 中盤に理解しにくい部分があるが、全体的に主張は一貫していて、共感できた。
    遺伝によって能力は決まってしまうから、やってもできない、という視点はおもしろかった。

  • 橘玲すきなんで購入。
    著者のほかの本と同じく、雇われる生き方からフリーエージェントになろうというメッセージが根幹になってる。

    ==メモ==

    自己啓発本に書いてあるような①能力は開発できる②わたしは変われる③他人を操れる④幸福になれる を遺伝、生物学、医学、心理学などをひっぱりだして否定する。

    ①能力は開発できない
    資本主義社会では、論理・数学的知能や言語的知能など特殊な技能が発達した人が成功できる(身体的知能や音楽的知能は絶対優位が必要だが、論理や言語的知能は比較優位でも評価される)。こうした知能は遺伝的で意識的に開発することはできない。

    ②自分は変えられない
    →人の性格は無意識からくるものなので、意識的にかえることは不可能

    などなど

    結論として、人が幸せになるためには下記をするべきと言っている。
    ・伽藍を捨ててバザールに向かえ
    →日本の会社では、社員コミュニティのなかの評判で人事が決まる。
    世間から隔絶された伽藍のなかでのムラ社会ゲームですり減るより、グローバル市場を舞台としたゲームを行う。
    ・恐竜の尻尾のなかに頭を探せ
    →自分が好き、得意なニッチ分野で他者の評価を得る。
    ロングテールのなかでショートヘッドになる。

  • 第1章、第2章は面白かったですが、第3章以降はちょっと残念な内容でした。

  • 明快。斬新。鋭い切り口。
    多岐に渡る分野からの引用には舌を巻く。

    とにかく面白い。
    敢えて内容は言いません。大満足。

  • マイノリティの視座なのだろうか。しかし、知っておくべきである。

  • 内容紹介
    伽藍(がらん)を捨ててバザールに向かえ!
     恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!
    ワーキングプア、無縁社会、孤独死、引きこもり、自殺者年間3万人超など、気がつけば世界はとてつもなく残酷。だが、「やればできる」という自己啓発では、この残酷な世界を生き延びることはできない。必要なのは、「やってもできない」という事実を受け入れ、それでも幸福を手に入れる、新しい成功哲学である。
    自己啓発の伝道師たちは、「やればできる」とぼくたちを鼓舞する。でもこの本でぼくは、能力は開発できないと主張している。なぜなら、やってもできないから。 人格改造のさまざまなセミナーやプログラムが宣伝されている。でも、これらはたいてい役には立たない。なぜなら、「わたし」は変えられないから。 でも、奇跡が起きないからといって絶望することはない。ありのままの「わたし」でも成功を手にする方法(哲学)がある。 残酷な世界を生き延びるための成功哲学は、次のたった二文に要約できる。 伽藍を捨ててバザールに向かえ。恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。 なんのことかわからない? そのヒミツを知りたいのなら、これからぼくといっしょに進化と幸福をめぐる風変わりな旅に出発しよう。(本書「はじめに」より)

  • ちょっと理解しにくい部分がある

    バザールにむかえ
    しっぽの中に頭を探せ

  • 我が家で積ん読になっている本を著者はたくさん読んでおり、その引用を並べる形で本文は展開されていく。世の中では能力主義が蔓延っており、カツマーらによって自己啓発・努力の重要性も喧伝されている。でも人の能力はしょせん、遺伝半分、環境半分なので、努力によって向上する部分はほとんどない。「私」は変えられないし能力は増強しない。「好き」なことを仕事にして能力主義から脱出しよう。普通の生活の場である閉じた世界(伽藍)では周囲からの否定的な評価に反応しがちだけど、広い世界(バザール)ではそんなものは気にしなくてよい、問題が出てくればリセットして他に移ればよいだけ。というのが著者の主張。橘玲という人にはずっと正体不明の違和感のようなものを感じていたのだが、ニッチでそこそこのポジションを目指すというのが基本スタンスなのか、と思うと全てが腑に落ちたように思う。■社会環境はものすごい勢いで変わっていくけれど、進化のスピードはおそろしくゆっくりだ。その結果ぼくたちは、石器時代のこころを持ったまま、情報が光速で飛び交う超近代都市のアスファルトジャングルで暮らさざるを得なくなった

  • 身も蓋もないタイトルに惹かれて購入。

    誰もが能力を伸ばすことで豊かな人生を生きられると説く自己啓発書がいっとき大流行したが、本書では自己啓発書を一刀両断している。
    曰く、性別や年齢など努力ではどうしようもない性質での差別は禁じられているから、社会は道徳的・政治的理由で能力による区別を選択しているが、実際には、一定の年齢から能力は向上はしないし、自分は変えられない、閉塞した社会では幸せにはなれないし、他人を動かすこともできない、と。
    そんな残酷な社会で生き残るには、やってもできないことを認識し、閉塞した社会から出て行く哲学が必要。

    タイトルの通り、身も蓋もない内容だけど。
    人生経験のない若い人に、道徳的に正しいかもしれないけど、実際には間違っているかもしれない価値観を押し付けるよりは現実を示す本書の方が優しいのかもしれない。

    ちなみに、タイトルでは、そんな残酷な世界で生き残るたったひとつの方法が書いてるかのようになっているけど、現状の認識がほとんで、だからどうしたら良いかは書いていない。

  • 序章 「やってもできない」ひとのための成功哲学

    第1章 能力は向上するか?

    1. 「やってもできない」には理由がある
    2. 能力主義は道徳的に正しい
    3. 「好きを仕事に」という残酷な世界

    第2章 自分は変えられるか?

    1. わたしが変わる。世界を変える。
    2. 『20世紀少年』とトリックスター
    3. 友だちのいないスモールワールド

    第3章 他人を支配できるか?

    1. LSDとカルトと複雑系
    2. こころを操る方法

    第4章 幸福になれるか?

    1. 君がなぜ不幸かは進化心理学が教えてくれる
    2. ハッカーとサラリーマン
    3. 幸福のフリーエコノミー

    終章 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!


    伽藍(がらん)を捨ててバザールに向かえ! 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!ワーキングプア、無縁社会、孤独死、引きこもり、自殺者年間3万人超など、気がつけば世界はとてつもなく残酷。だが、「やればできる」という自己啓発では、この残酷な世界を生き延びることはできない。必要なのは、「やってもできない」という事実を受け入れ、それでも幸福を手に入れる、新しい成功哲学である。 (中略)

    残酷な世界を生き延びるための成功哲学は、次のたった二文に要約できる。 伽藍を捨ててバザールに向かえ。恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。 なんのことかわからない? そのヒミツを知りたいのなら、これからぼくといっしょに進化と幸福をめぐる風変わりな旅に出発しよう。(本書「はじめに」より)

    .勝間香山論争の根底にあるもの
     勝間は、料理教室でアップルパイをつくったり、自動車教習所で縦列駐車を教えるように、幸せになるための"レシピ"や"技術"を教えているだけだ。ナショナリズムや共産主義のような政治主張があるわけでもなく、特定の宗教を伝道しているるのでもない。(中略)

     だとすれば香山の異議申し立ては、ただの空回りなのだろうか。勝間個人に対しては、おそらくそうだろう。二人の対話を読むと、なぜ自分が批判されるのかわからず困惑する勝間の様子がありありと伝わってくる。
     だがその"言いがかり"が、勝間のスキルの核にある自己啓発に向けられているのなら話は別だ。自己啓発は縦列駐車のような生活技術ではなく、ひとつの強固なイデオロギーだからだ。

    能力主義は道徳的に正しい
     能力主義がグローバルスタンダードになったのは、それが市場原理主義の効率一辺倒な思想だからではない。
     会社はヒエラルキー構造の組織で、社負は給料の額で差をつけられるのだから、なんらかの評価は必要不可欠だ。その基準が能力でないならば、人種や国籍、性別、宗教や思想信条、容姿や家柄・出自で評価するようになるだけだ。すなわち、能力主義は差別のない平等な社会を築くための基本インフラなのだ。

    日本人はアメリカ人よりも個人主義だ
     安心社会で暮らす日本人は、仲間内では集団の規律に従うが、相互監視・相互規制のくびきから離れれば個人主義的(というか自分勝手)に行動する。それに対してしっぺ返し戦略を基本とする社会で育ったアメリカ人は、仲間であるかどうかとは無関係に、人間関係をとりあえずは信頼(協力)からスタートさせる。このちがいが、社会的ジレンマに直面したときに、協力か裏切りかの選択の差となって表われるのだ。

    貨幣空間で成功する人々
     貨幣空間の成功者は、ひととひととをつなぐことに喜びを見出している。でもこれはたんなる善意ではなく、優秀な人材を紹介することで人間関係の貸借対照表に資産を加えることができることを知っているからだ。紹介されたほうは心理的な負債を負うけれど、これは金銭とちがって返済義務はなくて、逆にそのひとを受け入れることが貸しになったりもする。
     それと同時に彼らは、いろんなひとたちと積極的に知り合おうとする。パーティで立ち話をしただけでビジネスにつながったり、ウマい話が転がり込んできたりするわけはない。でも世界じゅうのすぺてのひとと六次以内でつながるスモールワールドの貨幣空間では、たくさんの弱い絆の向こうに大きな鉱脈が眠っている。グローバル時代のビジネスでは、その"真理"を本能的に知っているひとが成功の果実を手にできるのだ(いつもではないけど)。

    マルチ商法にひっかかる人の特徴
     マルチ商法の被害者に決定的に欠けていたのは社会常識だ。預金金利が0.1パーセントの時代に、元本保証で年利36パーセントの投資商品など存在するはずがない。だけど多くのひとは、こうした経済(経済学ではない!)の常識にはまったく興昧を持たず、楽してお金が儲かることを夢見て漫然と日々を過ごしている。
     社会的な知性の高いひとは、他人を信用する。だけど、社会常識のないままに他人を信用するのは自殺行為だ。

    人は無意識のうちに支配と被支配の関係をつくりだす
     人間の耳には、500へルツより低い周波数は意昧のない雑音(ハミング音)としか聴こえない。ところがぼくたちが会話をすると、最初はハミング音の高さがひとによってまちまちだが、そのうち全員が同じ高さにそろう。ひとは無意識のうちに、支配する側にハミング音を合わせるのだ。
     声の周波数分析は、アメリカ大統領選挙のテレビ討論でも行なわれている。1960年から2000年までの大統領選挙では、有権者は一貫してハミング音を変えなかった(すなわち相手を支配した)候補者を常に選んできた。わざわざ選挙などやらなくても、討論のハミング音を計測するだけでどちらが勝つかはわかってしまうのだ(ドウ・ヴァール『あなたのなかのサル』)。


    あなたのなかのサル―霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源

    7.日本的雇用が生み出す自殺社会
     ムラ社会的な日本企業では、常にまわりの目を気にしながら暖昧な基準で競争し、大きな成果をあげても金銭的な報酬で報われることはない。会社を辞めると再就職の道は閉ざされているから、過酷なノルマと重圧にひたすら耐えるしかない。「社畜」化は、日本的経営にもともと組み込まれたメカニズムなのだ。
     このようにして、いまや既得権に守られているはずの中高年のサラリーマソが、過労死や自殺で次々と生命を失っていく。この悲惨な現実を前にして、こころあるひとたちは声をからして市場原理主義を非難し、古きよき雇用制度を守ろうとする。しかし皮肉なことに、それによってますます自殺者は増えていく。
     彼らの絶望は、時代に適応できなくなった日本的経営そのものからもたらされているのだ。

    .人が幸福になるには
     高度化した資本主義社会では、論理・数学的知能や言語的知能など特殊な能力が発達したひとだけが成功できる。こうした知能は遺伝的で、意識的に"開発"することはできない。すなわち、やってもできない。
     ところがその一方で、金銭的に成功したからといって幸福になれるとは限らない。ヒトの遺伝子は、金銭の多寡によって幸福感が決まるようにプログラムされているわけではないからだ。ひとが幸福を感じるのは、愛情空間や友情空間でみんなから認知されたときだけだ。


    ◆ただ、本書の冒頭から展開される、「勝間香山論争」を含む「自己啓発ブーム」の分析は、「目からウロコ」でした。

    お恥ずかしながら、本書を読んで、初めて「社会進化論」なるものを知ったワタクシ。

    本当に「やればできる」のか、それとも「やってもできない」のかは、本書を読んで、各自考えて頂きたく。

    個人的には、「分野」の問題と「程度」の問題は、まず前提としてあるのではないかと……。

    さて、この本の最初の章は「自己啓発」についてだった。
    自己啓発本やセミナーに関しての著者のスタンスは実に明快だ。
    「やってもできない」が答えだ。
    人はなんらかの努力により自分を変えることができ、より高い能力を身につけて、高い報酬を得ることができるようになるという前提で様々な自己啓発本が書かれている。
    しかし僕自身、そういった自己啓発本や自己啓発セミナーで本当にそのように成功した人物を全くといっていいほど知らない。
    なぜだろうか?
    答えは「人間の能力というのは遺伝的に大方決まっている」だ。
    橘玲は一卵性双生児の研究や、様々な教育実験の研究を持ち出し、人間の能力のどれだけ多くの部分が遺伝子で決まってしまい、環境要因のほとんども思春期までの間の子供同士の人間関係でほとんど決まってしまうことを説明する。
    これは僕の経験とも一致するし、周りを見渡してみても非常に説得力がある。

    多くの親が自分の子供にそういう会社で働き、高い給料を稼いでほしいと願い、教育に多大な労力とお金をかける。
    そんなに教育のような環境要因が重要なら、僕の周りの同僚はみんなそういう教育熱心な親に育てられた人間ばかりになりそうだが、そんなことは全くない。
    貧乏な家で育ったもの、金持ちの家で育ったもの、放任家庭で育ったもの、過保護に育ったもの、本当にバラバラだ。


    しかしこういった本当のことはマスコミからは決して聞こえてくることはない。
    なぜならそれは「政治的」に正しくないからだ。
    テレビで誰かが「犯罪者の子供は犯罪者になる確率が高い」なんていったら、それこそ犯罪者のごとく大バッシクングされるだろう。
    また能力の多くが遺伝的に決まるし、環境要因とて幼年期の子供同士の人間関係が大部分だとしたら、それは美しい教育の理念を全面否定してしまうことになりかねない。
    多くの人は醜い真実よりも、美しい嘘の方を好むし、それで何の問題もない。

    この本の幸福論もまた面白い。
    人間の心というのは長い進化の過程で、それが生存上有利だからという理由で獲得されたものだ。
    つまり人間の心は個体の生存と繁殖に有利な行いをすると快楽や幸福を感じるようデザインされており、不利な行いをすると不快や不幸を感じるようになっている。
    食べ物に貪欲でない個体は飢え死に、性愛を激しく求めなかった個体も子孫を残せなかったのだ。
    しかしこうした人間の進化というのは何十万年という途方もない時間の中で起こるものであって、人間の心の大部分は狩猟採集時代に最適化されたままだ。
    それがこの50年ぐらいの間に科学技術が爆発的に発展してしまったために多くの奇妙なことを起こるようになってしまった。

    世界中に食料が溢れ返るようになると、他人から承認されたり、社会に貢献したりというより高次元の快楽の実現が困難になったアメリカの貧困層は、非常に安価で簡単に手に入る快楽、つまり高カロリーのジャンク・フードを食べ続け、飢餓ではなく肥満に苦しむようになった。
    貧困層が肥満に苦しむのは今や途上国でも同じだ。
    世界的に安価な食料が溢れかえっているのだ。
    子孫を多く残すためのセックスへの衝動も、セックスの快楽だけが分離され、ポルノをはじめとするヴァーチャルなセックスが溢れかえっているし、セックスだけが目的ならそれを提供する性産業がいくらでもあるのが現状だ。
    そして生身の人間との恋愛はずっと面倒で、子育ては経済的に大きな負担だ。
    こうして先進国ではどこも少子化が進んだ。

    こういった人間の「心」を誤作動させることは簡単で、ドラッグなどがそのいい例だ。
    脳のある部分に電気刺激を加えると1000回のオーガズムが同時に襲ってくるほどの快楽を感じることが大脳生理学の研究からわかっている。
    ボタンを押すとそこに刺激が行く装置を作り、それをサルに与えると、エサも食べずに餓死するまでひたすらボタンを押し続けることが実験により確かめられている。
    そういえばそんな感じで自分は死ななかったけれども、運悪く相手が死んでしまって、塀の向こうに落っこちてしまった芸能人が最近いたような気がする。

    ここに書いたことは一例で、その他にも公立学校の先生まで簡単に首になる「市場原理主義」のアメリカで自殺率が低い一方で、なぜ終身雇用で会社が社員を首にすることが絶望的に難しい日本で自殺率がこんなに高いのかについての考察など、面白い話題がいろいろ読める。


    本日の一冊は、ビジネス書作家として絶大な人気を誇る橘玲さんに
    よる、「現実的な」成功哲学書。

    著者いわく「自己啓発へのイデオロギーへの違和感から生まれた」
    一冊で、自己啓発の旗手である、勝間和代さんをネタに、教育至上
    主義が生まれた背景と理論、そしてそれに対する著者なりの見解を
    示しています。

    ハーバート・スペンサーが唱えた「社会進化論」を使って現在の適
    者生存の価値観を説明しつつ、人間の知性が7割遺伝で決まってし
    まう現実を指摘。

    また、人間が複数の知能を持っていたとして、そのすべてを教育で
    伸ばせない現実や、市場がいろんな知能を平等に扱わない現実を説
    き、なぜ格差が生まれるのか、その本質を論じています。

    あらゆる働き方、稼ぎ方の人間を一律に評価できるゲーリー・ベッ
    カーの「人的資本論」の話を読めば、ハイリターンの投資や宝くじ
    で儲けたといって人を集めるのがいかに愚かなことかわかりますし、
    起業した人間が大企業に勤めるサラリーマンより給料が高くても何
    ら不思議ではないことにも気づきます。

    自己啓発に過剰にはまる人が、夢から覚めるには、絶好の本ではな
    いでしょうか。

    しかし、「努力しても変わらない」という本書のような考え方が広
    まれば、本来開発できるはずの能力が開発できないリスクはあります。

    もし土井が勉強していなかったら、英語やパソコンはできていませ
    んし、ゲラの赤入れの方法も知らなかったでしょう。

    だとしたら、外資系企業にも就職できていませんし、現在の仕事に
    も就けていないでしょう。

    たとえ人間の知能が遺伝で7割決まるとしても、どの能力を伸ばす
    のかという「目利き」と、それを伸ばすための努力の余地は残され
    ているのです。

    われわれは、キャリアにおいても能力開発においても、ソクラテス
    の「無知の知」を尊重すべきだと思います。

    どんなに頭のいい人が何を言っても、その人がどんなに成功してい
    ても、本当の才能は「試してみるまでわからない」のですから。

    ただし、本書が人生やキャリアの現実を説いているのも事実。

    ぜひ読んで、自己の能力開発に活かしてみてください。




    残酷な世界を生き延びるための成功哲学は、たった二行に要約できる。
    伽藍を捨ててバザールに向かえ。
    恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。

    アメリカの教育心理学者アーサー・ジェンセンは、一九六九年に知
    能(IQ)と遺伝の関係を調べ、知能の七〇パーセントは遺伝によ
    って決まると主張した

    知能や性格は“運命”のようなもので、努力によっては変わらない

    ぼくたちが複数の知能を持っていたとしても、そのすべてを教育に
    よって伸ばせるわけではない。時間も資源も限られているのだから、
    仲間との競争に勝って異性を獲得し、自分の遺伝子を残そうと思え
    ば、もっとも得意なものに資源を集中するのが最適な戦略なのだ

    市場は、いろんな知能を平等に扱うわけではないのだ。身体運動的
    知能や音楽的知能は、衆に抜きん出て優れていないと誰も評価して
    くれない(中略)それに対して言語的知能や論理数学的知能は、他
    人よりちょっと優れているだけで労働市場で高く評価される

    ライシュの推計ではルーティン・プロダクション・サービス(製造
    業の労働者)とインパースン・サービス(対面で顧客サービスをす
    るひとたち)に従事するアメリカ人は全労働人口の八割に及び、こ
    のひとたちは“ふたつの国際化”によって貧困層に転落していく

    金融市場でリスクとリターンが釣り合っているのなら、大きなリス
    クを取った投資家のなかから大儲けするひとが出るのは当たり前だ。
    こういうひとが「株で一億円儲ける」みたいな本を書くのだけれど、
    これは「宝くじ必勝法」と同じでまったく役に立たない

    人的資本が小さければ、大金を稼ぐには大きなリスクを取るしかない

    ひとの働く価値は、「学歴」「資格」「経験(職歴)」の三つで評
    価できる

    人的資本を介して教育と富が直結することによって、ぼくたちは、
    「自己啓発」の終わりなき競争に駆り立てられることになった。
    “自己啓発の女王”勝間和代の登場は、時代の必然だったのだ

    問題は、好きなことが常に市場で高く評価されるわけではないとい
    うことだ

    市場の論理は、顧客に対して誠実であること、公平であること、差
    別しないことを求める。となれば、貨幣空間の勝者であるお金持ち
    とは、こうした美徳を体現したひとということになる。彼らは楽天
    的で他人を信用し、その一方で嘘を見抜くのがうまく情に流されない

    「うまい儲け話」にひとが簡単に引っかかるのは、「特別な自分に
    は特別な出来事が起きて当たり前」と、こころのどこかで思ってい
    るからだ

    マサイ族が幸福なのは、家族や仲間との強い絆(愛情空間と友情空
    間)のなかで暮らしているからだ

  • (2010/10/2読了)

  • 自己啓発批判がテーマで,HowTo本ではない.ネタは進化心理学,ちょっと付け焼き刃的.リバタリアニズムについては触れていない.エッセイ集とも言い難いし,かと言ってまとまっているとも言えない.読み物としては相変わらず面白いが,「雨の降る日曜は…」の方が切れ味も深みも上に感じる.

  • 世界がどうして残酷なのかの記述が本質を捉えていて面白い。自己啓発ブームに、一言物申すの一冊。
    一報、その世界で生きのびる方法については、やや弱い感じがする。

  • 始まりは面白かったんだけどな。

    終りの方はイマイチ。

  • 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法、橘玲
    http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51751062.html

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著者プロフィール

2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)、『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(以上ダイヤモンド社)『「言ってはいけない? --残酷すぎる真実』(新潮新書)などがある。メルマガ『世の中の仕組みと人生のデザイン』配信など精力的に活動の場を広げている。

「2023年 『シンプルで合理的な人生設計』 で使われていた紹介文から引用しています。」

橘玲の作品

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