- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344421714
作品紹介・あらすじ
彼氏がいるのに、別の人にも好意を寄せられている汐梨。バイトを次々と替える翔多。絵を描きながら母を想う新。美人の姉が大嫌いな双子の妹・梢。才能に限界を感じながらもダンスを続ける遙。みんな、恥ずかしいプライドやこみ上げる焦りを抱えながら、一歩踏み出そうとしている。若者だけが感受できる世界の輝きに満ちた、爽快な青春小説。
感想・レビュー・書評
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そう、二十歳の誕生日は少し違ったな、どの歳も人生で一度きりには違いないけれど。
もういちど生まれるってそんな感じがしたかな。随分前に置いてきた、けれど忘れはしない、あの頃の自分の感情、過ごした空気を思い出し、懐かしさとともに苦しくもなった。
様々な思いを抱える20歳前後の学生の日常。
特有のノリには付いてゆけない場面もあったがその辺りはさらっと読んだ。
自分と重ねるところも多かった。
自分は何者でもなく(本当は何者かになりたいのに)、華やかなあちら側を遠目で見、才能のある人にはかなわないと一歩引き、とりあえずふつうという場所に寄り添っていたかもしれない。
「すごい」と人から思われるような自分だけのものが欲しいし、それはいつまで経っても同じだろう。
羨ましがられる、あちら側の人たちにも葛藤はあり、人から見られる一面だけでは生きていないということ。
「僕は魔法が使えない」と、「もういちど生まれる」が特によかった。僕は魔法が、の主人公の新が、母親と向き合うことをこう表現している。
「足し算よりも簡単で、ほうきで空を飛ぶより難しいことだった」年頃の青年にとっての母の存在。ああそうかも。
この年頃のすべての感情描写が光っていると感じ。
各章の主人公が今の自分を見つめ直す姿が眩しく、瑞々しさに、遠い過去に思いを馳せてしまった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本を読んで、正直何か明確な答えや大きな発見を得られた訳ではない。けれど確実に、思いを馳せることがいくつもあり、今の自分の悩みにも光が差した気がする。
学生ならではなの蠢く葛藤とか自己嫌悪とか自尊心とか、これほど繊細に、丁寧にリアリティを持って描けるなんて、この作家さんはもしや現役大学生?と思ったけれど、私よりも歳上だった。
著者自身、学生の頃をよく記憶し、心の機微を表現できる方なのかなと、この本を創るに至った経緯はどんなものだったのだろうと気になる。
中二病なんて言葉に置き換えたら簡単だけれど、そんな単純なものじゃなくて、かなり本気で、命懸けで、がむしゃらに闘っている何かを描く。
年齢関係なく隣の芝生は青く見えるけれど、
羨むあの人も、恋焦がれるあの人も、
見えないところで沢山それぞれ悩みや葛藤を抱えきれないほど持っていることが分かる。
色んな視点から人を観察できるような構成。
「自分の目で見てないのに、そんなこと言うの、よくないよ」
「その映画、もしかしたら、ハルが見たらすごく面白いかもしれないじゃん。自分の目で見て、初めて分かることって、あると思うよ」 -
朝井リョウさんを初読みしてから、
作者さん自身に興味を持ち色々調べたり、エッセイまで買ってしまったー笑
こちらは、2読目。若者の短編ですが、それぞれの短編が登場人物繋がりがあり面白い!!
人の心の中のイヤーな心情を表現するのがこんなに上手いのはなぜなのか!面白い!
翔太が好きだなあ✨笑 -
明らかに自分の大学で、ああこれはここだとかこういうひといるよなとかやたら描写がリアルに見えたし、だからこそ「無責任を背負って、自由を装っている。」って言葉が刺さって抜けなくなった。
意図的にひらがなで書かれてるんだろうなって所も苦しかった。
でも、ただ日常と絶望を突きつけるだけじゃなくて私たちの、「私たちの」大切な日々を描いてくれてた。 -
ほんの数ヶ月前まで大学生活を送っていた自分に重なるような話ばかりで胸が締め付けられそうになったり、救われた気になったり。
自分に特別な何かを期待する学生、好きな人が違う誰かを好きになるのを見届ける学生、自分に無い物を羨ましく疎ましく思う浪人生
どの話も自分の過去の体験を振り返っているようで、懐かしいようなむず痒い気持ちが溢れてきた。
青春って上手くいかないことばかりなんだよな。でもそんな日々も楽しかったなあと振り返るきっかけになりました。
定期的に読み直して、過去の自分の答え合わせをしたいと思える、宝物になりそうなそんな小説でした。 -
戦後最年少の直木賞作家の「若さ」と「瑞々しい」がふんだんに含まれた連作短編集です。
西加奈子さんの解説も良かったです。
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大学生に戻ったような気持ち。
あの頃の抱いていたいろんな感情を懐かしく思い出しながら読了。
短編でも繋がってるから、単なる短編ではない面白さ。独特の言葉と表現力は、相変わらずすごいなぁ。 -
朝井リョウさんの若者を主人公にした5つの短編からなる青春小説
大学生の校内生活や日々の食生活に恋愛等…
親元を離れて一人暮らしを始めた自分の大学生活時代と重なって甘酸っぱい気持ちになれた。
登場人物が、時に各章で重なりあい目線を変えて同じ場面が出て来る構成が、彼等を取り巻いているまだまだ大きくない社会の象徴となっている様に感じた。
「ひーちゃんは線香花火」
子供以上大人未満の瑞々しくて純粋な恋愛観や、友の恋心が切なく響いた。まさかの三角関係…
「燃えるスカートのあの子」
何者でもない大学生たちが何者かになろうとする日常が何とも愛おしい。
最後の、椿×。つばきばつ。あ。に笑った。
「僕は魔法が使えない」
父の死を経験したばかりの美大生のお話。
20歳で片親を亡くした主人公の心情描写がとても繊細で、身近な人の死を経験した後で周りと自分とを対比している様子がリアルだった。
「もういちど生まれる」
小説のタイトルにもなっているお話。
双子の姉妹、椿と梢…「双子なのに椿と梢を分母と分子にしても1にならないわね。」母がつぶやいた言葉は、解釈なしでは時に途轍もなく残酷なものになる。
「破りたかったもののすべて」
高校を卒業してそれぞれの進路に向かった先での、夢や挫折、葛藤、妬みなど、大人になる過程での瑞々しさの一方で、その若さゆえの苦しさが迫ってくる様なお話。
こういう小説、自分が等身大で読める時期に読むと、感じ方が違って視界が開けたり、見え方が変わることがあるのかもなぁと思った。
そういう意味で、是非若者(?って何歳まで?笑)に読んでほしい一冊。
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もういちど生まれる、他5作の短編集
各話の主人公と周りの人間関係が
それぞれ少しずつ重なっている。
見える他者の姿は、決してその一面だけじゃない。
見えない一面が隠れてる。
誰かに強く惹かれると、その分その人が嫌いになる。憧れが強いと反対に憎くなったりする。
何者かになりたいのに、何者にもなれない。
そして何者でもない、ただの自分を嫌悪する。
前に進みたいと強く願いながら、一歩も進めない
自分がもどかしくて喉を掻きむしるような苦い感覚。
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あまりにも瑞々しい感性で、20歳前後のあのひりひりした時代を書き起こしていて、胸がぎゅっと締め付けられました。
若さ特有の焦燥感だとか、自分が「何者か」であるという夢や期待、甘酸っぱい恋心、友人との距離感、何もかもが懐かしくて、輝かしく感じました。
改めて、朝井さんの感性とそれを表す絶妙な比喩表現に舌を巻きました。
「そう褒めてくれた桜の声だけが、ミルクティーの中に落とした角砂糖のように溶けて耳の中に沈殿している」
「あたしはベッドの上にとぷんと横になる。火を通す前のホットケーキ記事に放り込まれたチョコチップのように、ぬくぬくと体が埋もれていく。今日1日の疲れが体の中でじっとりと熱されて、手足の先から見えないけむりとなって蒸発していくみたいだ」
この物語はそれぞれ、登場人物が連作となって繋がっている。
西加奈子さんの解説がまた秀逸でそこに書かれている通りなのですが、ある一面ではかっこいいクールな子が、実際のところは劣等感を抱えながら生きている、とか、その描き方が絶妙で。
どの章も好きですが、ままならない恋をしているひーちゃんが登場する「ひーちゃんは線香花火」と自分が特別であるという自負と才能の限界の板挟みになりながらもがいている「破りたかったものすべて」が特に好きです。
あまりにもいい物語で、読了後もう一度最初から読んでみた。2ターン目もやっぱりよかった。
同じ時代に生きれて嬉しい作家さんです。