- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480420534
作品紹介・あらすじ
幾度も戦乱の地となり、貧困、内乱、難民、人口・環境問題、宗教対立等に悩むアフガニスタンとパキスタンで、ハンセン病治療に全力を尽くす中村医師。氏と支援団体による現地に根ざした実践から、真の国際協力のあり方が見えてくる。テロをなくすために。戦乱の地での医師の実践。
解説=阿部謹也 「アフガニスタンと日本」
今、内外を見渡すと、信ずべき既成の「正義」や「進歩」に対する信頼が失われ、出口のない閉塞感や絶望に覆われているように思える。十年前、漠然と予感していた「世界的破局の始まり」が現実のものとして感ぜられ、一つの時代の終焉の時を、私たちは生きているように思えてならない。
強調したかったのは、人が人である限り、失ってはならぬものを守る限り、破局を恐れて「不安の運動」に惑わされる必要はないということである。人が守らねばならぬものは、そう多くはない。そして、人間の希望は観念の中で捏造できるものではない。本書が少しでもこの事実を伝えうるなら、幸いである。
(「文庫版あとがき」より)
「本書によって私たちはアフガニスタンの状況だけでなく、私たち自身の姿を見ることが出来るだろう。」――阿部謹也 (「解説」より)
感想・レビュー・書評
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アフガニスタンの診療所から
著:中村 哲
ちくま文庫 な 33 1
良書、テレビや新聞が報道する世界と全く別の世界がそこにはありました
2019年にアフガニスタンでお亡くなりになられた中村哲先生が、パキスタンのテジャワールでライ病の治療を始められ、1991年にアフガニスタンで病院を開院されるまでの話です
気になったのは、以下です
・われわれのアジア観はたいていヨーロッパからの借用である
・中央アジアでいえば、カスピ海からペシャワールまで、地図上の国境線ではみえぬひとつの文化圏が存在する
イスラム自体が一種のインターナショナリズムを基調としており、部族的な割拠性は保ちながらも、人々は「イスラム教徒」として同一性を自覚するのが普通であった
彼らにとって、国家とはつけ足しの権威であり、自分の生活を律する秩序とは考えられていないのである
日本人には、この事実がなかなか伝わりにくい
・アフガニスタンのど真ん中をつきぬける巨大な山脈、「ヒンズークッシュ」という名は、「インド人殺し」という物騒な意味である
・人のやりたがらぬことをなせ 人のいやがる所へゆけ
・イスラム住民の伝統を無視した強引な近代的改革は人びとの反発をまねき、各地でイスラム僧がジハードを宣言、反乱は、全国に拡大した
・自分もまた、患者たちとともにうろたえ、汚泥にまみれて生きてゆく、ただの卑しい人間の一人にすぎなかった
ただ一つ確信できたのは、小器用な理屈や技術を身につけてドクター・サーブと尊敬されていても、泣き叫ぶ患者とまったく同じ平面にあるという事実だけであった
・英語は必要最低限度だけ使い、原則として国語のペルシャ語やパシュトゥ語でとおす
外国人に技術協力してもらう場合は、外国人にペルシア語を学んでもらう
英語は奴隷の言葉である、と誇り高い彼らがもらすのは、決して負け惜しみではない
いささか、乱暴で回り道のようでも、こちらのほうが長続きする
・重要な点は、抗議の暴動は政治的にあおられたものではなく、ごく自然発生的はものだったことである
我々は時局がら、意外なはげしさと広がりに不吉なものを感じていた
ペシャワールではほとんど見聞きしなかった外国人への襲撃・誘拐が頻発するようになったのは、その直後であった
・そもそも、伝統的なイスラム社会では、「女性」について外来者がとやかくいうのはタブーである
胸をはだけて歩く女性の権利、や、自然の母性を無視してまで男と肩を並べることが追求される、男女平等主義、こそ、アフガニスタンからみれば異様だとうつる
・太平洋戦争と原爆の犠牲、アジアの民2000万の血の代償で築かれた平和国家「日本」のイメージは失墜し、イスラム民衆の対日感情はいっきに悪化した
対岸の野次馬であるには、事態はあまりに深刻であった
世界に冠たる平和憲法も、「不戦の誓い」も色あせた
・追い詰められた時こそ、ふだんは見えない実態が明らかになる
・電気もない夜の楽しみは、時には旅する客をまじえて食事し、歓談することである
・日本人がかたまるとロクなことはない 訪問者に気をつかうな
・人のために何かしてやるというのはいつわりだ
援助ではなく、ともに生きることだ、それで我々も支えられるのだ
・現地は外国人の活躍の場ではなく、ともにあゆむ協力現場である
・「アフガニスタン」をとおして、むきだしの人間と文明の実態にふれえたことを私たちは感謝している
目次
帰郷―カイバル峠にて
縁―アフガニスタンとのかかわり
アフガニスタン―闘争の歴史と風土
人びととともに―らい病棟の改善と患者たちとのふれあい
戦乱の中で―「アフガニスタン計画」の発足
希望を求めて―アフガニスタン国内活動へ
平和を力へ―ダラエ・ヌール診療所
支援の輪の静かな拡大―協力者たちの苦闘
そして日本は…
あとがき
文庫版あとがき
解説 阿部謹也
ISBN:9784480420534
出版社:筑摩書房
判型:文庫
ページ数:224ページ
定価:740円(本体)
発売日:2005年02月10日第1刷
発売日:2019年12月25日第5刷詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アフガニスタンの情勢を普段は一考だにしないのに大きなニュースとなるとその字面だけ追って、想像できる範囲内で断定する日本人。中村氏曰く「ノリとハサミでつないだような議論」に、私は違和感を覚えていた。価値観の押しつけ、ヨーロッパ近代文明の傲慢さ、自分の「普遍性」への信仰が、いかにアフガニスタンで暴挙を振るい、その土地を、無辜の人々を蹂躙してきたか。日本では見えにくくなっているものを知るために、この本はあらゆる人に読まれる必要がある。行動してきた人だから云える言葉にあふれている。「もともと人間が失うものは何もないのだ」これは中村氏だから発せられた言葉だ。
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中村哲さん死亡の報せをきっかけに購入した1冊。
自分たちが当たり前のように感じて不思議にも思わないことを、淡々とした事実ベースで根底から覆してくれる、そんな中村さんのストレートな表現に心打たれると同時に、深い共感を覚えた。
「人がやりたがぬことをなせ。人のいやがる所へゆけ」
中村さんのこの決心が、何よりも心に響いた。 -
中村医師のこの行動力の源泉はなんなのか。あえて難しい方、厳しい方を選択し、進んでいく。そこには本当に困っている人がいるが、他の誰も行かない。
短期的な成果を求める多くの国際協力チームとは対極にあり、地元の人の育成まで含めた長期的なビジョンを実践する。あの朴訥とした中村先生のどこのそのパワーがあったのだろうか。
中村医師のことは知ってはいたが、実際の活動は知らなかった。現地でハンセン病の治療に携わり、さらに近年では自ら重機を操縦して灌漑をつくる。
本当の国際貢献の在り方を知るとともに、我われがいかに無知で無関心であったか、恥じる思いが沸き起こる一冊であった。 -
すごく印象的なのは、ハンセン病の女性のクリスマスケーキのエピソード。
中村哲さんの考え方には100%同意できない。国連/国際NGOを一緒くたにまとめすぎだし、アメリカがやろうとしているのは文化侵略だというのはある面では正しいと思うけど、やっぱり女性の就学機会があれだけ抑圧され望まない結婚を強いられている社会を、「女性は女性でその人生を全うしている」とは僕は言えない。
それでも、中村さんのいう通り、現地のアフガニスタンで暮らすものの声だと思って欲しいというのはすごくハッとさせられたし、それほどまでに共に生きる中村さんの生き方、ペシャワール会の活動はやはり大変示唆に富むと思った。 -
国際協力のあり方
現地の実情を知ることができました
部族の誇りなど、こちらの価値観で
よしと思ったサポートが相手には失礼だったり
現地に根を落とした活動をしないと
感じることができないと思いました -
自分たちの主義や思想が正しいと思って疑わない先進国の傲慢さと戦い、砂漠に水をまくような支援活動に命を捧げた中村氏の言葉は重い。
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12月新着
東京大学医学図書館の所蔵情報
https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_search/?amode=2&kywd=4311487211 -
多民族国家、テロ組織の温床、イスラム国家、オリエンタリズム、アラビアンナイト…ほんとうに、私はこの辺りの地域について、わからない。
中村哲さんが亡くなり、その活動や信念に触発されてこの本を読んだ。やはり、歴史的、政治的な背景はなかなか理解できなかった。とにかく日本と状況が違うのだ。おそらく、現地に行って生活してみないとわからないことなのだ。そのあたりのことは諦めて最後まで読んだ。
この本はアフガニスタンでハンセン病治療にあたった10年間の活動を記録したものである。ただ、ハンセン病治療だけを記録したものではない。むしろ、中村哲さんがアフガニスタンに降り立ってからの10年間で得た「人間の根源とはなにか」を日本人に問う哲学書のようなものと感じた。
後書きにある「人が守らねばならぬものは、そう多くはない」という言葉を忘れずに生きていきたいと思った。国家だの政治だの経済だのネットだの、大局を見ると正しいことがわからなくなってしまう今の世界で、結局は個人が何を守りたいのか、そのことを絶対に見失いたくない。また、理解できぬ相手だからといって、一方通行の価値観を押し付ける人間にも絶対になりたくない。ボランティアや国際協力で一番大事なことは何か。人を助けるということはどういうことなのか。この本は中村哲さんの実体験をもとにそういったことを伝えようとしている。
私にとって、生涯にわたって読み返したい大切な本になった -
亀岡図書館では、この本っが学童書のコーナーに置かれている。なぜ?漢字のほとんどにルビが振ってあるから?笑
さて、この本、何かの小説で出てきたのをきっかけに借りてみたんだけど、内容は1992年出版のものだけど中東の世界を医療の現場の目からすっごく分かりやすく紹介されており、なぜアメリカを嫌っているのかも十分にこの本だけで理解できます。
アフガンといえばついつい映画ランボーの世界やフセイン率いる湾岸戦争、911のビンラディンを思い浮かべるけれど、イスラム教のなんたるか、郷土、民族、集落など、この中東がなぜ国境という得体のしれないもので区切られてしまったがために無駄な抗争が起こったのかもよくわかる。
らい病根絶という途方もない目標に活動されている医師団やNPO、多くの国際的な救済組織も現場目線から捉えるとこういうことなんだなぁと考えさせられた。ボランティアと言えば響きはいいけれど、その多くが親切の押し売りでこれはアフガンに限ったことではなく災害地に押し掛ける国内のっ現状でも迷惑千万な話をよく聞いたりする。
最後のまとめはありがちでありながらも日本国民の民度の低下はアルガン人にも劣るなぁと痛感する。
作られた小説ばかりでなく、時にはこんなドキュメンタリーを読むのは必要と再認識した。