希望格差社会: 「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫 や 32-1)
- 筑摩書房 (2007年3月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480423085
感想・レビュー・書評
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日本社会が、将来の安定を期待することが難しいリスク化の時代を迎え、従来の教育と職業のシステムがさまざまなところで機能不全を起こしていることを明らかにした本です。
フリーターのように将来に希望を持てない人びとや、オーバードクターのようにそれまでの投資を無駄にすることを受け入れられない人びとが、みずからの心理的な安定のために夢にしがみついているという指摘も、非常に鋭いと感じました。
ただ、経済的なセーフティ・ネットだけではなく、心理的なセーフティ・ネットの整備が必要だという主張はまだ抽象的で、「希望格差」という事態にどのように対処していくべきなのかという道筋はそれほど明確にはされていないのではないかという印象も持ちました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今まで安全度と思われていた日常生活が、リスクを伴ったものになる傾向)というリスク化と戦後縮小に向かっていた様々な格差が拡大に向かうという二極化がなぜ近代社会において起きたのか述べている。
希望格差という、将来に希望がもてる人、もてない人を克明に書いている。
(ゆうじん) -
少し前に話題になった本である。今さらと言われるかもしれないが、自分自身の中に切実な問題意識が出てきたことを機に手にとった。
読んでいて、暗澹たる気持ちにならなかったといえば嘘になる。実際に自分の身の回りで見聞きする様々なことが、この本に書かれている分析にピタリと当てはまっていく。そういう「当てはまっていく」という感覚は、本来気持ちのいいものであっていいものなのだけど、この本の場合は、むしろ背筋が寒くなるという感じがする。
この本が世に出てから随分経っている。おそらく、ここに描かれていることは現実のほぼ正しい分析であることははっきりしているように思える。では、その警鐘に対して、何らかの対策が取られているだろうか。例えば、というものがなかなか思い浮かんでこない。
僕自身、若者の未来についてある程度関与するべき仕事をしている。この本の分析に従うならば、「パイプラインからの水漏れを防ぐため、全力を尽くす」のが職業人として今できることだろうし、現に全力を尽くしている自負はある。しかし、問題が構造的なものであるとすれば、やはり心のどこかに無力感が忍び込んでくるのを感じざるを得ない。
確実に目の前に存在する「希望を持ち得ない若者」に対して、僕にできることは何なのか。目をそらさず考え続けるしかないのだろう。なによりも、自分自身が希望を持ち続けるためにも、そうやって考え続けなければならない。考え続ける努力は報われると、葉を食いしばって希望を持たなければならないのだと思う。 -
2013/08/27読了。「パラサイト・シングル」という言葉の生みの親、社会学者の山田昌広氏の著作。『下流思考』(内田樹)で引用されていて、興味をもったので読んでみました。
「希望格差」とは、希望を持てる層と持てない層の二極化が進んでいるということ。経済的・量的な差だけでなく、内面的・質的な格差に着目している点がポイントです。
高度成長期の終身雇用、サラリーマン・主婦型家庭、学校教育パイプライン(この位の学校にいけばこの位の職業につける)の確立という「オールドエコノミー」に対して、「ニューエコノミー」は、雇用、結婚生活、学校教育→就職のすべてが不安定化。一見うまく波に乗れたと思っても、いつ崩壊するか分からない高リスク社会である、という説明は非常にしっくりきました。
2004年の出版(文庫は2007年)ということは、今から10年近く前に書かれているのですが、いまの時代に読むほうがずっと重く受け止められるのではないでしょうか。
「オールドエコノミー」時代の考え方を引きずって、いつか安定した社会がくるんだと思っていてはダメですね。これから正社員や公務員のイスは減るばかり。その少ないイスに座れないと生活が厳しく、希望をもてないよ、という社会では立ち行かないのです。じゃあどうすればいいの、という点に関してはこの本でもふんわりとしか書かれてなく、これから「ニューエコノミー」世代が背負っていく課題ですね。 -
結局根本的な構造改革を図らなくては何もなしえないし、意欲の格差にまえつながるといううわぁぁぁ。
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もともと社会学に興味がある自分はよく社会評論を読みます。その中で、この本はとてもよく現状を分析していて実感が伴って理解できます。
私は2000年に社会人になりましたが、その前の年の大変厳しかった就活、その前の年の「山一、拓銀ショック」はよく覚えています。この本はそんな時代を大学生として過ごし、就職したいわゆる「ロスジェネ世代」の自分には納得のいく現状分析の本です。
作者の言わんとするところは単なる経済的な格差ではなく、「希望=先が見えること」に格差ができてしまい、「努力しても報われない」閉塞感を豊富なデータや学問的分析にて記してあります。
その処方箋の記載はわずかしか記されていませんが、この現状分析はとても鋭いなぁと感じました。現状把握には最適な1冊なのではないでしょうか。 -
きっと出版された当時(2004年)は衝撃的だったのだろうなぁと思える本。今や日本社会は就職や家庭、教育などあらゆることが不安定で、しかもそのリスクは個人が自己責任の名の下に引き受けなあかんのが当然の風潮なので・・・。読んでいて希望はなくなる内容だけれど、でもそれを理解しておくことがとても大切だと思える。
以外本書の中で一番心に刺さった箇所を。
「いつかは受かるといって公務員試験を受け続けても、三十歳を過ぎれば年齢制限に引っかかる。どうせ正社員として雇ってくれないからと就職をあきらめ、単純作業のアルバイトをしていた高卒者は、仕事経験や能力が身に付かないいまま、歳だけとり続ける。よい結婚相手に巡り会えないからと結婚を先延ばしにしていた女性は、四十歳を過ぎれば見合いの口もかからなくなる。当の若者は、考えると暗くなるから考えない。若者自身が、不良債権と化すのだ。」
あと本書の中で非正規雇用が多く、就職の口がない職業の一つとして図書館司書が挙げられて「需要より供給が多い」みたいなことが書いてあるけれど、決して供給が多いことだけが就職の口が少なく理由ではなく、日本は本来司書を置くべきところに人件費の削減を理由に司書を置いてないからだということも付け加えておきたい。 -
少し古い本になるので、内容が現代にそぐわないのではないかという不安があったのですが、そんなことはありませんでした。この本が世に出されてから、今に至るまでの日本の状況はたいして変化していないようです。希望格差という言葉を初めて耳にしましたが、自分の日常に引きつけて考えやすく、理解のしやすい内容でした。
読むと不安感を煽られ、少し暗い気持ちになります。最終章において、これからの私たちの方針のようなものについて言及されているのですが、個人的に行うことのできる策が少なく、なかなかこの本自体が「希望」になりきれていないように感じてしまいました。
いまの日本を取り巻く環境を見つめ直す、よい機会になりました。現在、義務教育のパイプラインを流されている方に読んで欲しい一冊です。