- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480431554
感想・レビュー・書評
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「てんやわんや」。獅子文六さん。1948~1949に連載された小説だそうです。
原爆、終戦が1945年夏。憲法施行が1947年。
獅子文六さん、というのは、徐々に再評価されている人だと思います。
いわゆる、流行作家だったひと。
その当時から、言ってみれば「軽い」のが持ち味で、決して純文学でも重いテーマでもなかった。
この「てんやわんや」も軽いんです。
そして、連載物っぽい。つまり、ラストを考えずに適当に書いているんだろうなあ、という。
主人公の犬丸順吉さん、というのが、まあ恐らく30凸凹のサラリーマン。
上役社長の言いなりになってきて、終戦を迎え。
ホッと一息と思ったら、社長が戦犯になりそうで。つまりまあ、社長はかなり戦前社会で美味しい思いをしてきたわけです。
対岸の火事かと思ったら、「君も戦犯になるよ。逃げたまえ。この書類の包みを持って逃げたまえ。決して見ないように」。というわくわく展開。
この犬丸さん、実は社内の、積極的なパワフルガールとちょっといい感じになっていたんですが、命が大事、と紹介された愛媛宇和島に逃げます。
ここから、愛媛宇和島に舞台を移すや、荒廃した東京とは打って変わって桃源郷。食べ物はあるは、人心は穏やかだわ。
ここンところで戦後直後の都市と田舎の風俗の差を見せながら。
話しはこの地方での、さまざまな風俗や祭りを織り込んでのてんやわんや。
犬丸さんは、辺境山地の娘に恋い焦がれたり、このままではイカンと思い直したり、このままでずっといようと願ったり。
かなりイケてない主人公の右往左往を、あははと笑っているうちに。
件の社長がやってきたり、パワフルガールが社長の愛人になっていたり(そうかと思うとそうではなくて純潔だったり)。
つまりは、面白そうなトコロに向けて、実に節操も無くよろめいていくストーリー。
ところが、そのはざまで煩悩に焼かれてみっともなくてんやわんやを繰り返す主人公には、戦後直後でも、きっと多くの人はこうだったんだろうなあ、という「人間味」が溢れていて、実に飽きない。
最終的には、どうやら伏線を回収しきれないままに勢いで終わった、という匂いが充満するのですが。
それでも、なんだか楽しいからいいや、というのも、これまたある種の完成度。
うーん。噺家で言えば...昔々亭桃太郎...。独特の味わい。志の低さをテクニックの高さと確信犯なアドリブ感。
この軽さ、テキトーさ、なんとも腰砕けな明るさ。
こんな小説が、太宰治や坂口安吾と同時代にのほほんと完成度の高さを醸し出していたことを思うと、なんだか灰色で重苦しく勝手にイメージしていた戦後直後っていうのも、結局はひとの営みでしかなかったんだなあ、という視野が開けてきて、楽しからずや。パチパチ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
★3.5
まるで浮草のように東京から四国へと流れ着いた、ドッグさんこと犬丸順吉。残念ながら、タイトルからイメージするようなドタバタコメディは見られないものの、ドッグさんを始め、花兵ちゃんや相生町で出会う人々が個性的でとても楽しい。そして、食べ物や秋祭り、闘牛に牛鬼等、地元ならではの文化が興味深い。戦時中、実際に著者は四国に疎開をしていたそう。それにしても、ドッグさんに佐野周二、花兵ちゃんに淡島千景、鬼塚社長に志村喬を配した、映画「てんやわんや」が気になる!また、ドッグさんと花兵ちゃんのその後は如何に!? -
てんやわんやになることを期待して読んだが終ぞ盛り上がらず。ただ、序盤の周旋直後の描写にはとても興味をそそられました。執筆当時に読んだ読者は伊予での衣食に困らない、仕事も片手間の家庭教師のみで羨ましく読んだのかとも想像しました。
優柔不断な主人公が雇い主の社長とその秘書に半ば自己の妄想のように飼い殺し状態、そして片思いの娘との半年に及ぶ実らぬ片思い。こんな主人公に間を置いて執拗に言い寄る秘書の思いも分からず。「コーヒーと恋愛」はよかったがこちらは残念。 -
読書会のため読んだが、いや、これは困った。。。
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終盤の展開はてんやわんやならぬ「踏んだり蹴ったり」
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0153
2019/10/19読了
流れ流されまくる男のてんやわんやな話。
話自体はのどかだが、戦後日本の大変だった様子が要所要所で入ってくる。都会と田舎の違いにはびっくり。
社長や花兵がもっと引っ掻き回してくるかと思ったらそうでもなかったなあ。
求心運動の面々が好き。 -
主体性というものを持たず
「先生」のいいなりに利用されてきた男が
戦争の時代を経て、侮辱されていると気づき
呪縛を脱していく話
自我の目覚めというよりも、絶望からくるニヒリズムなんだが
1950年代の日本では、これが大変に売れて映画化もされた
話の舞台となった宇和島市では
作品にちなんだ饅頭が、今も土産物として売られている
「先生」の推薦で、軍の情報局に勤務していた主人公は
戦犯として逮捕されることを恐れ
やはり「先生」の勧めで
惚れた女に心を残しつつも
東京から愛媛県の南予地方へと逃れるのだった
長閑な田舎ぐらしのなかで東京者は珍しがられ
いろいろといい思いをさせてもらううちに
「先生」への反感も育てていく主人公は
やがて四国に根を張ろうと考え始め
地元民の提唱する四国独立運動にも、積極的に参加していくことになる
しかし新たな恋に破れ
新税制のために、居候先の家は傾き
さらには終戦翌年発生した南海地震の大混乱に巻き込まれて
結局は東京への帰還を余儀なくされるわけだ
今風にいえば
戦後文学であると同時に、震災後文学ということにもなるだろう
話の舞台は、大江健三郎の生家に近いので
「森」のサーガと比較してみるのも面白いと思う -
ヒロイン?の花輪兵子がツボ。
「アッハッハッハ」って笑い飛ばす性格が最高だった。
もうちょっと本筋に絡んで欲しかったな。
今まで読んだ文六作品は全て三人称で書かれていたので、一人称がまず新鮮だったし、戦後の町や人々の描写が克明で、なんだか感動してしまった。
本作は四国に疎開していた文六先生が東京に戻って6年ぶりに書いた長編小説で、戦中〜戦後の様々な経験がこの小説に反映されていることを窺わせる。新聞小説だし、娯楽映画として愛された作品かもしれないけれど、歴史的価値のある小説だと思うので、もっとたくさんの人に読まれてほしいな。 -
平松洋子によると、獅子文六 敗戦三部作の一つ。主人公 犬丸順吉が、戦後、流されるままに伊予 宇和島近くの相生町に居候して過ごす 1年間を描く。花兵は言うまでもなく、勘左衛門、越智、拙雲といった脇を固める登場人物が誰もかれも個性的で、土地の風俗や食べ物、言語とあいまって独自の小説世界を作り出している。もともと終戦直後の混乱期を描いた小説は好きなのだが、これはそれらの中でも秀逸な部類に入るだろう。獅子文六を平成の世に紹介した平松洋子自身による解説も良い。
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図書館で。
大衆小説って時代が変わると読まれなくなるものとその時代背景を知る上でも読まれ続けるものとに分かれるんだなぁなんてぼんやり思いました。
面白かったけどさすがに敗戦直後の混乱期に右往左往していた主人公に共感するのは難しかったかな。
個人的にはチャカチャカの兵子さんが良い味出してるなぁと思いました。男どもが不甲斐ないからこれからは女性の時代よ!とばかりに戦後しゃしゃり出てきてまあある意味上手い事使われて男性に出し抜かれてしまうという辺り非常にリアル。でもやっぱり男性は隠れ里に住む神秘的なお嬢さんの方が好きなんだな、という辺りも非常にわかりやすい。
田舎の名士ってのも大変だったんだろうなぁ…
ぼっちゃんの大人になってから版、みたいな感じで面白かったです。