緑衣の女

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010010

作品紹介・あらすじ

数十年のあいだ封印されていた哀しい事件が捜査官エーレンデュルの手で明らかに。CWAゴールドダガー賞・ガラスの鍵賞受賞作。世界が戦慄し涙した。究極の北欧ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • ページをめくる手が止まらないとはこういう事か。過去の話と割り切れない生々しいDVの描写やエーレンデュルの娘エヴァの周りにいる厳しい環境下の子供たちの様子には目を背けたくなったが、地道な捜査が鎮魂に繋がったと思いたい。

  • 住宅建設地で見つかった人間の骨
    かなり古い年代のものと思われ部下たちを含む警察ではあまり興味を示さないが主人公の刑事エーレンデュルは事件の解明に執念を見せる

    捜査の進行と平行して語られるある家族の物語はドメスティックバイオレンスの詳細な描写とともに凄惨さを極めていく

    このシリーズはどうやら家族の物語のようだ
    作者であるアーナデュル・インドリダソンはDVをより詳細に描くことで問題提起をしているようだ

    思うに家族の問題は家族だけでは解決しないのではないか
    地域社会や政治や行政の力がどうしても必要だと思うが行政は何時でもどの国でも人手不足だ

    本作では3つの家族が出てくるがどの家族も問題は次の代にも引き継がれているように思う
    実社会でもそうだろう
    そしてその悲劇の鎖は人の善意だけで断ち切れるほどにはやはり細くない

    主人公エーレンデュエルの家族の問題は微かな希望を残しつつも解決には程遠い状態で次作へ引き継がれる

  • 評価の高いアイスランドのミステリ。
    ある女性の過去の人生がさしはさまれ、捜査官エーレンデュルの人生にもある転機が訪れる。
    印象深い作品です。

    首都レイキャビクの郊外にある住宅建設地で、古い骨が発見された。
    現場近くにはかって古いサマーハウスがあり、第二次世界大戦の終わる頃には、イギリスやアメリカの軍人が住むバラックもあったという。
    捜査に当たるエーレンデュルらは、緑色の服を着た女性がたびたびその地に現れたという話を聞く。
    一体何者なのか‥?

    若い女性と幼い子供が夫に虐待される悲痛な現実が、挿入されていきます。
    それがどこでどう事件と関わっていくのか‥?
    あまり酷いので目を覆うばかりですが、作者が家庭内暴力を甘く見られがちなことに義憤を感じ、問題を明らかにしたかったようです。
    暴力で命の危険にも晒されて、被害者は判断力を失ってしまう。拒否すればいいとか、家を出ればいいということで済むような問題ではないのだと。

    エーレンデュル自身の幼い頃の悲劇と苦悩も明らかに。
    若くして離婚、妻にはいまだに恨まれています。
    そのいきさつと、音信普通だった間に壊れてしまった子供達の問題も。
    娘エヴァ=リンドは妊娠していて、薬を減らそうと努力していましたが、家を飛び出します。必死に探す父親。エヴァ=リンドは危機に陥りますが‥
    絶望的に見えた状況に奇跡が‥!
    一筋の希望がともります。

    この作品で、北欧ミステリの賞「ガラスの鍵」賞を連続受賞したばかりか、CWA賞ゴールドダガー賞も受賞しています。
    邦訳2冊目ですが、シリーズとしてはもっと前から書き継がれているので、ずっと読んできた読者の感動はさぞかしと思わせます。

  • 「湿地」に続いてアーナルデュル・インドリダソンのエーレンデュル刑事もの。これでもか、というくらいの暴力、人間のえぐい心理。それがアイスランド、北、暗い、寒い、という先入観で灰色にしみ込んでくる。

    今回はレイキャビクの周縁部、第二次世界大戦から戦後にかけて住宅地として広がったところが舞台。初めの骨発見の場面が衝撃的。8歳の男の子の誕生パーティーで赤ん坊が何かをしゃぶっている、それが人間のあばら骨だったのだ。これはこの男の子が近所の住宅建築現場で見つけたものだった。

    その骨は誰か? 第二次世界大戦開戦前夜から終戦後あたり。そこで生活していた家族がいた。夫婦はともに生まれてすぐ両親を亡くし、親戚や里親のもとで転々として育つ。女性は最初の子供の相手は子供が生まれる前に海で遭難して死んだ。・・寒いアイルランド、きっと若死にする人が多かったのかな、などと先入観で読んでしまう。が、あの時代は今ほどの長生きではないか。

    とにもかくにもこれでもか、という夫の暴力が描かれる。最後まで読むと夫の幼少期の場面もあり、幼少期の愛情の欠如が問題なのか、と思わされる。またエーレンデュルの亡くなった弟のことも描かれ、それがエーレンデュル刑事の生活に影響を及ぼしている描き方。

    2003発表 アイスランド
    2013.7.12初版 図書館

  • 北欧・アイスランドを舞台とする社会派ミステリである。
    アイスランドは火山と氷の小さな島国、人口は30万人ほどである。ミステリ小説王国であるイギリスの後塵を拝し、この著者以前にはほとんど国産ミステリはなかったという。
    著者によるアイスランドの風土を盛り込んだミステリ・シリーズは爆発的な人気を得て、すでに12作が発表されているという。うち、邦訳は、シリーズ3作目の『湿地』に続き、シリーズ4作目の本書が2冊目である。2003年ガラスの鍵賞(北欧推理小説対象の文学賞)、2005年CWAゴールドダガー賞(英国推理作家協会が主宰する最優秀長編作品に与えられる賞)をダブル受賞している。

    シリーズの主人公となるのは、やもめの捜査官エーレンデュルである。結婚して2児の父となったが、妻との間がしっくりいかずに離婚。元妻には激しく恨まれ、息子・娘とは疎遠なままとなった。
    エーレンデュルとは「異邦人」の意だという。事情があって小さい頃に田舎からレイキャビクに出てきた彼は、いまだにここを自分の居場所だと思えずにいる。決して優等生ではなく、スーパーマンでもない。自らも問題を抱えるいささかくたびれた捜査官が事件に向き合うところが本シリーズの魅力の1つだろう。

    アイスランドの地理や歴史が織り込まれている点も、物語を読み応えのあるものにしている。
    さしたる産業を持たない国が、戦時に英軍・米軍の駐留で賑わい、やがて近代化の波に揉まれていく。厳しい自然の中で遭難する失踪者も珍しくない気候を背景に、そうした変遷が綴られていく。

    物語の軸は主に3つである。
    住宅建設地で発見された古い人骨を巡る捜査。
    妊娠中であるのに麻薬中毒である娘とエーレンデュルの間のわだかまり。
    そして、時代は不明だが、激しい家庭内暴力に耐える女性とその子どもたち。
    3つのストーリーが巧みに織り上げられ、終末へと向かっていく。

    ミステリ部分のプロット自体はあっさりした感じである。派手などんでん返しはなく、犯人との息詰まる対決があるというタイプでもない。
    著者は、スリルやサスペンスやトリックよりも、「なぜ」「誰の」骨が「どのような顛末で」埋められたのかを丁寧に追っていく。骨を取り出す担当となった考古学者が急がずに発掘を進めていくのに合わせるように、著者の分身のようにも思えるエーレンデュルも時間を掛けて真相に迫っていく。
    犯罪を糾弾するのではなく、弱者を深く見つめようとするまなざしが印象的である。
    人生どうにもならないこともあることを知る世代、特に男性読者には響くものが多いように思われる。

    主要人物の出産直後の行動にいささか無理が感じられたり、各登場人物の視点転換がときにぎくしゃくした感じを受ける点は、瑕疵とまでは言えないが、個人的には引っかかりを感じた。
    しかし、暴力や貧困、家庭の不和といった問題にじっくり取り組み、腰を据えて描いていく本シリーズは、機会があれば別の作品もまた読んでみたいと思わせる魅力を持っている。


    *登場人物の1人、ソルヴェイグという名を聞いて、「ペール・ギュント」を思い出した。旅に疲れたペール・ギュントに優しく子守歌を歌う女性。北欧ではよくある名前なのだろうか。

  • アイスランドのミステリ邦訳2作目(原作シリーズでは4作目にあたるもの)。安定の読み応え。住宅地から人骨が見つかり身元を特定するために捜査を開始するエーレンデュルと部下たち。シグルデュル⁼オーリはこんな誰も気にしていない過去の遺物を特定してなんの意味があるのか、地味で不毛な資料を調べる任務に不満たらたら、一方のエリンボルクは捜査の中で知る事になった女性たちの人生に思いを寄せ、不満を公言して憚らないシグルデュル⁼オーリにいらいら。エーレンデュルは赤ん坊を流産して助けを求めて来た娘エヴァ⁼リンドを見つけ出し医療機関に託したものの意識がもどらない日々を重ねて身も心も疲弊しており余裕がありません。人骨の身元が分かっても、それまでの経緯を思うといたたまれない気持ちになります。どんなことにも事情はあり、法だけでは裁ききれないやりきれなさ。ミステリ作品という道具を使って人間を描き出すシリーズだと思います。前作も女性に対する暴力のリアルさが読んでいて辛かったですが、この作品でも、理不尽な暴力と暴言を受け続けて心を失っていきながらも子供たちを必死に守ろうとする女性の描かれ方が非常に真に迫っており、息が苦しくなるような気がしました。訳者の柳沢由実子さんによる巻末の解説文も素晴らしいです。

  •  北欧ミステリを読むにつれ、どんどんその魅力にはまりつつあるのが最近の私的読書傾向。独自の気候風土が持つ異郷としての魅力に加え、警察小説として修逸である作品がこれほど多いのには驚かされる。世界的に翻訳され、海外小説にはいつも分の悪い日本であれ、最近はどんどん翻訳が進められ(数少ない北欧言語の翻訳家は大変だろうと思う)、我々の手に触れるようになったことは喜ばしい限りである。

     日本の書店を賑わして最近とみに注目されるようになっているのが、北欧五ヶ国で最も優秀なミステリに贈られるという『ガラスの鍵』賞ではないだろうか。本書のアーナルデュルは、この賞を同じエーレンデュル捜査官シリーズで『湿地』に続き二作連続受賞。本書ではさらに権威のあるゴールドダガー(CWA=英国推理作家協会)賞も受賞している。受賞すれば書店の本棚に並ぶのは日本の書店の通例であるが、とりわけ『ガラスの鍵』賞が日本人に馴染みが出てくるとともに北欧ミステリが根強く人気を博してゆく状況は、この先も明るい材料であると思う。北欧ミステリの水準の高さを見るにつけ、それは妥当なことのようにしか思われないからだ。

     さて、本シリーズはアイスランド警察の捜査官エーレンデュルの物語。アイスランドでは数少ないといわれる女性捜査官エリンボルクとUS流の捜査の仕方を学んできた若き捜査官シグルデュル=オーリとの三人コンビである。それぞれに強烈で、互いに主張の強い個性が捜査の中でもぶつかり合う中で、エーレンデュルは感情を表に出さず、捜査方針を纏めては通常ならとても使いにくそうな二人の部下に捜査内容を淡々と配分する。捜査においてはエーレンデュルは一貫してプロの仕事に徹しているように見える。

     アイスランドでは犯罪発生件数が極端に少ないらしいが、本書でも何十年も前に葬られたであろう死体の発見から本書は始まる。現在の事件というとさほどないのだそうだ。そんな犯罪の少ない土地で、犯罪として取り上げられなかった過去の死体にこの国が他国家と同じように内包する現実を墓と一緒に掘り出して見せたのが本書『緑衣の女』である。

     ずばりテーマはDV=家庭内暴力である。凄まじいほどの夫の暴力に晒される女性の姿が捜査とは別の章で語られる。女性には連れ後の長女、暴力男との間に長男と次男がいる。時に長男の視点で悪魔の行動が描かれる。父親には見えず悪魔にしか見えない父親。恐怖にさらされる家庭の様子が淡々と描かれる。

     さらにエーレンデュルは失われた家庭を抱えている。前作『湿地』でも、離婚して二十年になる妻の一向に冷めやらぬ元夫への憎悪の様子や、音信不通の状態になった長男、薬漬けになって人生を破壊している長女の様子が描かれ、とりわけエーレンデュルに助けを求めるかのように現れたエヴァ=リンドとの歪みながらも必死の父娘のやりとりは見ものであった。

     本書ではそのエヴァ=リンドに試練が訪れる。父親のエーレンデュルにとっても自分の実人生以上の試練である。

     このように捜査の進行状況、捜査官の家庭問題、事件の渦中の人々……と、三つの視点で物語を描きながら、本書は緊張のままに全巻を終えてゆく。国の真実を描くにはミステリという形がよい、と判断してミステリ作家の道を選んだアーナルデュルは、父親がまた作家であるという。血統を継いで、父親とはまた別のミステリという分野に表現の道を見出したアーナルデュルは、これからも土と時とに埋もれた真実を暴き出す作業を決してやめはしないだろう。

  • 三つのパートから構成されている。人骨捜査とエーレンデュルの娘の災難は現在のお話。その合間に挟まれる、十数年前のとある家族のストーリーが、本作品の屋台骨をがっちりと支えている。人骨捜査もエーレンデュル・ファミリーの話も気にはなるが、とにもかくにも、この家族の歴史が凄まじく陰惨で、序盤は怒りを通り越して吐き気を催すほどだった。

    “暴力”という表現は、それを経験したことのない人たちが使う言い回しだ──という台詞に思わず背筋が寒くなった。肉体的、精神的に破壊される様が淡々と繰り返し描かれている。目を背けたくなる心情に反比例するかの如く、なぜかページを繰る手は止まらず、気付けば一気に読み終えていた。強さと弱さ、惨さと慈悲、そして冷酷と優しさ、真逆の印象が秒刻みで、しかもそれぞれMAXで襲ってくるので、精神的にかなり翻弄されるが、読後感は悪くない。余韻は尾を引くが、一定のラインで折り合いをつけることで、沈静化するはず。

    ミステリ度は低めたが、鋭角に食い込んでくる辺りに、シリーズとしての確実な成熟を実感した。やっぱり柳沢さんの訳だと安心するのかしら。

  • 序盤読んでいてヘニング・マンケルが頭に浮かんでしかたがなかった。なぜこうも北欧ミステリの湿度感は似ているのだろう。

    挿話として挟まれるフラッシュバックや、事件捜査の過程で得られる噂から、「果たして真相は?」的な展開ではないのだが、後半なぜだかぐいぐいページを捲らされた。

    悲劇の辿った道筋をしっとり読み込む物語。

    過去の白骨の事件捜査の過程で、度を過ぎた聞き込みが元で人を一人死に追いやってしまうというエピソードはなんなのだろうと思った。

  • とても辛く悲しいストーリーでした。

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