蝉かえる (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 44
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488424220

作品紹介・あらすじ

昆虫好きの心優しい青年・?沢泉(えりさわせん)。彼が出会う事件の真相は、いつだって人間の悲しみや愛おしさを秘めていた――。16年前、災害ボランティアの青年が目撃したのは、行方不明の少女の幽霊だったのか? ?沢が意外な真相を語る「蝉かえる」。交差点での交通事故と団地で起きた負傷事件のつながりを解き明かす、第73回日本推理作家協会賞候補作「コマチグモ」など5編を収録。第74回日本推理作家協会賞と第21回本格ミステリ大賞をW受賞した、連作ミステリ第2弾。

感想・レビュー・書評

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  • 前作の「サーチライトと誘蛾灯」が良かったので楽しみにしていた第二弾。5篇の短編集。
    いや~やっぱり面白かった。
    魞沢 泉のキャラクターがいい。飄々としているけど、大好きな昆虫については饒舌。人見知りだけど、実は昆虫と同じように人にも好意的に興味がある。そして、まっすぐ。
    どの話もラストは切ない。皆が切実で真剣だからこそ切ない。
    どの話も大好きだったけれど、特に
    「彼方の甲虫」での、明日が来ることと、僕に明日があることは、同じではない。という言葉が胸を打つ。そして、この話での友情が「サブサハラの蝿」に繋がってハッとさせられる。
    「サブサハラの蝿」では I beg your pardon?(もう一度言ってもらえますか?)の意味が変わるのが切ない。

  • 「サーチライトと誘蛾灯」に続く、昆虫オタクの青年・魞沢泉が登場する短編集。

    前作も独特な雰囲気を持った面白い作品だったが、本作は前作にあった脱力するようなノリ突っ込みが適度に抑制され、全体的により洗練されたユーモアとペーソスを感じた。

    ■蝉かえる
    女人禁制やセミ供養。女性から渡された別刷りのエッセイから過去の出来事と現在の人物がつながる推理が見事。

    ■コマチグモ
    子グモに食べられる母グモ。水たまりに産卵しようとする赤トンボを驚かせるために石を投げ続けるシーンが面白い。少女が持つ優しさと隠している激しさが印象的。

    ■彼方の甲虫
    スカラベ(フンコロガシ)のペンダント。たった一日で友情が出来上がる様子が微笑ましく愛おしく、その後に起こる事件がやるせない。

    ■ホタル計画
    ゼブラフィッシュとホタル。サイエンス雑誌でつながる3人の登場人物の関係が切ない。意外性溢れた展開に驚く。詩情旅情も溢れこの話が一番好き。

    ■サブサハラの蠅
    アフリカから持ち帰ったツェツェ蠅のさなぎ。病で大事な人を亡くした医師の心情が哀しく、彼を立ち直させる魞沢の不器用な友情が好ましい。第3話とリンクするところも友情の話として深みが出た。

    5つの話ではそれぞれ立ち位置は違うものの、いずれも魞沢の人間性がよく分かる話になっており、加えて、昆虫に関する知識を駆使した謎解きというだけでなく、それが、地方に残るタブー、母子家庭の母と娘、外国人に対する偏見、遺伝子組み換え、顧みられない熱帯病といった背景とうまくリンクして各話の内容を豊かにしているように思った。

  • 前作に引き続き、今作もとても・・・良かった・・・
    特に表題である「蟬かえる」と「彼方の甲虫」、「サブサハラの蠅」が良かったです・・・
    魞沢の人間味というか、人を思いやる気持ちが不器用ながらも直球で、
    昆虫にしか興味がなさそうに思える反面、人に対しても真摯に向き合っているように思えました。
    サブサハラの蠅の最後、友人との会話が魞沢らしい言葉で暖かい気持ちになりました。
    また続編ということもあり前作に登場した人物や、
    一部話が繋がっているところもあり、そういった意味でも楽しめました。
    相変わらずこの読了後の雰囲気が堪りません。
    また続編が出ることを心待ちにしてます。

  • 面白かった!
    虫は得意じゃないけど全然問題なかった。
    主人公の魞沢泉のとぼけたキャラや発言にクスッとくるし、あっという間に読了。

    "彼方の甲虫"の
    明日がくることと、ぼくに明日があることは、同じではないのです
    というセリフが今の私には刺さった。
    このセリフから予期せぬことが起きるなんて思ってもなくて切なかった…

  • 前作『サーチライトと誘蛾灯』の魞沢とはまた違った魞沢の魅力があった。いや、違ったというか別の印象も加わり膨らんだというのが正しいかもしれない。魞沢は「飄々としつつも真相を見抜いている」くらいにしか感じていなかったのだが、「真相を見抜いているのは、自分の中のブレない芯と相手に対する真剣さゆえであり、相手や周りに思いやりを持って気を遣うことで飄々としている」ように見えるという印象になった。ただ、もしかしたら再読してみたらまた印象が変わるかもしれないし、続編が出てきたら変わるのだろう。それだけ今回の短編は前作とは違う魅力溢れる5篇だった。

    「蝉かえる」
    冒頭では魞沢らしいやり取りがあるが、古いしきたりとそれ故の不幸に心が締め付けられる。解き明かされた真相から想像する10数年間はどんなものだったのだろう?

    「コマチグモ」
    母を想う娘の純粋な気持ちが強く胸を打つ。娘の決意と意志に愛を感じるが、もしものことを想像すると結末に安堵する。

    「彼方の甲虫」
    前作の登場人物が再登場して少しほっこり。悪意と善意を強く意識させられた。最終話にも関連があり、そこで魞沢の心の芯の部分が伺い知れる。良いエピソードだった。

    「ホタル計画」
    今までとやや違う印象を受けつつ読み進める。なんだろうと思うのだが、今までのような魞沢の登場がない?最後まで読むとそうだったのかと思うのと同時に、魞沢を知る上で欠かせないエピソードでこれもまた良かった。

    「サブサハラの蠅」
    友情、愛情、覚悟、決意。今までのエピソードが色々と思い出され、そのどれもを強く意識させられた。魞沢自身の人間性、友人の中での魞沢の人間性、共に最高だな。

    ついつい魞沢のことはがり書いてしまっているが、物語としてどれも驚きや深みがあって非常に楽しめた。でも、やっぱりまた魞沢に会えるのを楽しみにして、次作を期待して待っておこう。

  • 一体何が起こったのか、起こりつつあるのかを解き明かすホワットダニットが軸となる5編。絶妙な反転で思わぬ真相が待ち受ける連作で、表題作の結末は鳥肌ものだし「ホタル計画」のミスリードにはまんまとしてやられた。「彼方の甲虫」から最後の「サブサハラの蝿」への流れもいい。何と言っても、ふんわりした人間味ある探偵役・魞沢泉の魅力に尽きる本作。シリーズの今後も楽しみ。

  • 読み終わってしまった…

    あー、良かった…。
    法月綸太郎さんの解説や帯にもある「読み終わるとため息が漏れ、また読むことができてよかったと思う」一この一文に尽きます。

    一気読みしたくなる良本と読み終えたくない良本があるけど、『 蝉かえる』は私の中では両方持ち合わせてる一冊。過不足のない連作短編でした。

    情に厚いけど、決して情に流されない。交友関係が狭くとも、深い。思慮深く、優しい魞沢泉にこれから先も会えますように。

  •  虫好きの青年が主人公の連作短編集。全体的に穏やかな雰囲気と主人公の優しさにより、一話毎に心に染み渡るようなホカホカした気持ちになった。また昆虫の知識が深く掘り下げられているのも良かった。

  • 昆虫は苦手で、しかも前作を読んでないのに手に取ってしまい、読み始めてから苦手分野ということがわかったのに、面白くてどんどん読みすすめ、最後は読み終わるのが惜しいくらいでした。前作も読みます!

    • とかさん
      昆虫は苦手で、普段なら手に取らないのに、何故か購入。
      こわごわ読んだら、苦手な昆虫を超えて面白く、前作も読もうと思いました。(前作読んでない...
      昆虫は苦手で、普段なら手に取らないのに、何故か購入。
      こわごわ読んだら、苦手な昆虫を超えて面白く、前作も読もうと思いました。(前作読んでないのに2作目を買うのもおかしな話ですが、何か呼ぶものがあったのでしょう)
      2023/04/14
  • 魞沢泉が羨ましい。
    興味関心が虫に一点集中しているようでありながら、思いやりにあふれている。

    人として大切なことを通せるかどうか、は、自分の足場を持っているかどうかなのかもしれない。
    リアルな虫は苦手だけれど、生物知識として、虫は本当におもしろい。ヒトとは異なるその生態が、ミステリーを解く鍵になることがおもしろいし、よくある探偵物とは異なり、虫愛に導かれるように、謎が解けてしまい、人への思いが行動を導く魞沢泉。
    今までにないミステリーだ。

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著者プロフィール

1977年北海道生まれ。埼玉大学大学院修士課程修了。2013年「サーチライトと誘蛾灯」で第10回ミステリーズ!新人賞を受賞。17年、受賞作を表題作にした連作短編集でデビュー。18年、同書収録の「火事と標本」が第71回日本推理作家協会賞候補になった。21年、『蝉かえる』で第74回日本推理作家協会賞と第21回本格ミステリ大賞を受賞。

「2023年 『蝉かえる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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