掌の中の小鳥 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M か 3-3)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488426033

作品紹介・あらすじ

カクテルリストの充実した小粋な店〈エッグ・スタンド〉の常連は、不思議な話を持ち込む若いカップルや何でもお見通しといった風の紳士など個性派揃い。そこで披露される謎物語の数々、人生模様のとりどりは……。キュートなミステリ連作集。

■目次
「掌の中の小鳥」
「桜月夜」
「自転車泥棒」
「できない相談」
「エッグ・スタンド」

感想・レビュー・書評

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  • 【収録作品】掌の中の小鳥/桜月夜/自転車泥棒/できない相談/エッグ・スタンド

    「掌の中の小鳥」 大学時代の片想い相手が絵を辞めるきっかけになった出来事に思いを巡らせる「僕」のパートと、厳しい校則に反発して登校拒否をしていた高校時代、再び登校するきっかけになった出来事を語る「私」のパートで構成されている。それぞれのラストで二人の出会いが描かれる。
    「桜月夜」 通りがかりのEGG STANDという店に入った二人。「私」は、不倫女性が不倫を辞めるきっかけとなった出来事について語る。それを聞いた「僕」は「私」の名前を言い当てる。
    「自転車泥棒」 「私」こと紗英の自転車が盗まれる。その前に人助けをしたという紗英の話とEGG STANDの常連である老紳士の話を聞いて、「僕」こと圭介はその裏に隠れている事情を察する。
    「できない相談」 紗英は幼なじみの武史と再会。以前再会したときに、武史が見せた消失トリックについて、圭介の推理を話す。
    「エッグ・スタンド」 従兄の婚約者を品定めするため、従妹に連れられて大寄せ茶会に参加した圭介。そこで、婚約者の婚約指輪がなくなった。その場で、圭介は幼なじみの噓つきミチルに再会する。

    謎には人の思いが隠されている。表面の謎を解いておしまいではないと思わされる連作。

  • 本書は、殺人事件等を扱った本格ものではなく、日常の謎を解き明かしていくミステリーで、これだけ書くと、地味な内容だと思われるかもしれないが、それでもストーリーにオリジナリティを感じられたのは、それぞれの謎に主要キャラが、どこかしらで関わっている点と、第1章の表題作が、まるまる主人公(後の探偵役)とヒロインの、シリアスなプロローグになっている点にもあるとは思うが、最も胸を打たれたのは、謎解き以上に、主人公とヒロインの物語だからである。

    ちなみに謎解きに関しては、専門的知識が要求されるものや、今となってはシンプルなものに、複雑にし過ぎた感のあるものや、人間心理の裏をついた渋いものと、様々ながら、私的には、あまりトリックに新鮮味を感じなかった。

    だが、それぞれの謎に必ずある、ホワイダニットの真相については、それぞれの人間の心の中に潜む、複雑でどうしようもない思いの葛藤に、やるせなさが窺えて切なく、また、それを物語の中でさり気なく補足していることで、より一層大きな余韻を残してくれて、そこには、謎解き+人間ドラマとしての意味合いもあるように感じ、私にはそれが、加納朋子さんならではのメッセージだと捉えられた。

    またメッセージといえば、本書のタイトルの裏に書かれていた『可愛らしくもしたたかな、女たちへ』も印象に残り、おそらく、本書のオリジナルが発売された1995年には、今ほどジェンダー平等が声高に叫ばれていなかった時代だと思うが、それでもきっと、心の奥底では同じものを感じていたのだろうと思わせるような、加納さんの創造したヒロインを始めとした、悩みや苦しみを抱えながらも、明るく愛らしく、シニカルながら憎めない、そんな思い思いに生きる女性キャラ達は、読んでいて痛快だった。

    『私は安っぽいフェミニズムで守ってほしいとは思いませんし、女だてらにとも言ってほしくないですね』

    『勘違いしないで。つまんない男になるくらいなら、つまんない女でいた方が百万倍もましよ』

    『私とその子では生き方も価値観もまるで違うみたいだけど、でも理解することはできるわ、女だから』

    おそらく上記の言葉たちは、今の時代でも変わらず通用するであろうと思わせる、そんな加納さんの世界の見方は、女性に対するものだけではなく、様々な状況に於いても、決して答えを一つにはせずに、向かい合わせで対照的な二つの要素を常に提示しているのが特徴的で、例えば、数羽の水鳥について、『彼らの日常は彼らなりに忙しく、それでいて、この上なくのどかだ』や、強さについて『どれだけの年月が流れようと変わらない強さと、反対に刻々と変わってゆける強さ』に加えて、当時のギャルの表現ですら、『無神経と無邪気との間を行きつ戻りつ』と表現しており、そこには、物事には決して一方通行の、つまらない価値観だけがあるのではなく、複数の面白い価値観や見方を知ることで、生きることには、自分の思い込んでいることばかりではない、夢や希望もあることを教えてくれる。

    それから、タイトルの『掌の中の小鳥』に籠められた意味は、「はたして掌の中に小鳥はいるのか、いないのか?」、それは誰にも分からないという可能性の持つ素晴らしさに加えて、その中の小鳥は、いつかきっと、多様なものの見方を身に付けて、逞しく巣立っていくのだろうといった夢や希望が、それを描いた「菊池健」さんの優しいイラストにも表れているようで印象的だったし、その素敵なものの見方を知ったことで、最後の章「エッグ・スタンド」に何度も現れたバイバイは、自暴自棄に悩み苦しんでいた、主人公の『自分を好きになれない』という思い込みとのバイバイだったのではないかと、私は思うのだった。

    そして、それはもちろん、ヒロインの理屈や論理じゃ分からない、一番大切で、一途な想いの強さが最も大きいことも、虚偽と欺瞞に満ち満ちているこの世の中から、本物であり真実なのだと見出した、多様なものの見方を表しているのである。


    《余談》
    加納朋子さんの作品に見られる、固定観念に縛られない多様なものの見方については、以前読んだ、「ななつのこ」も同様であり、本書の発表された1995年といえば、私が20代前半の、それこそ固定観念だらけの、目には見えない暴力に悩み苦しんでいた頃であり、後悔したところでどうにもならないとは思いつつも、思い続けるつもりは毛頭無いので、ここでだけ本音を言わせて下さい。あの頃の私に教えてやりたくて・・そんな時代にリアルタイムで出会いたかったよ、加納さん。

  • 友達のオススメで読んだ本
    知的なミステリー


    「嘘は彼女にとって、夢と同義語だったのよ」

  • 以前、加納朋子さんの作品にハマり読み漁っていた時があります。全作品を読んでないし、その時読んだ作品を全部覚えてる訳ではないんですが、この「掌の中の小鳥」は他の作品とちょっと違う印象を受けました。何て言っていいのか丁度いい言葉が浮かばないけど、大人な感じがしました。連作短編なんですが主人公の一人、冬城圭介がそういう雰囲気を出しているからなのかな?

    冬城圭介がカッコいいです。無駄な事は言わず、恋人の穂村紗英を優しくそっと見守るという感じです。グイグイいくタイプではないと思うけど、紗英と出会って知り合いになりたいと思った時の圭介の行動力は素敵です。私はギャップにやられますね。
    もう一人の主人公、穂村紗英はいわゆるクールビューティーでサバサバしていて、言いたい放題な感じです。もちろん、圭介にも同じなんですが、乙女なところもあります。圭介の前では可愛い女です。『自転車泥棒』という話でデートで遅刻した時、全力疾走で圭介のところに駆けつける姿や、『エッグ・スタンド』という話でネクタイの事でやきもちを焼く場面がありますが、私も可愛いなーなんて思います。とにかく、お似合いの二人です。

    登場人物を好きになると読むのも楽しいです。ミステリも面白かったです。日常の些細な事が、実は大きな意味を持っています。だから、各話の最後で謎が解けた時、なるほど、そういうことかと感心してしまいました。色んなところに伏線があり、隅々まで読み込まないと最後でやられたーってなります。私は、どういう事?となり読み返す事の方が多かったです。そこが悔しかったです。
    共通して出てくる、エッグ・スタンドという名前のBARがあります。その店名の由来を店主の泉が圭介に教える場面はすごく良かったです。名前の由来が心に響きました。
    話が少しずつ"人"で繋がっている感じがまた良いと思います。

  • 以前に「ななつのこ」を読んだときは、正直あまりハマらなかった。今回「掌の中の小鳥」を読んで、加納明子さんが好き!という方の気持ちがわかった気がした。きれいに伏線が回収されるのが気持ちよいし、連作のつながりも美しいし、なにより後味がよい。

    魅力的な不思議ちゃんの紗英と、洞察力のあるヘタレの圭介。バーテンダーも交えての大人の会話劇が素敵。掌の中の小鳥の答えとは。

  • 文章がきれい。

  • 圭介と紗英、ちょっと変わり者同士のカップルが語る、それぞれが出会った謎めいた話。
    汚された絵画、碁石を使った祖母とのゲーム、自作自演の誘拐事件、おかしな自転車泥棒、マンションの部屋ごと住人を消してしまう<できる、できないゲーム>、茶会での指輪の盗難事件。なんともとりとめもないつかみどころのない話だが、前振りから余分な要素はなくて、きっちり伏線が回収される。
    相変わらず巧いなぁと思ったが、よく考えると初期の作品だからこの頃から巧いなぁということかな。

  • わたしの中で約20年間、好きな小説のトップを走り続ける作品。



    大人になったら、こんな風にオシャレで知的で軽やかな会話をしたいと思っていた。

    圭介みたいに、クールでたくさんの知識を持って。
    紗英のように、明るくて人好きのする性格になって。


    わたしはもぅ主人公たちの年を随分追い越して。
    どうやらその夢は、客観的に見ると叶わなかったらしい、と認めざるを得ないけれど。

    それでも、この本は未だに、わたしの中で好きな小説のトップを走り続けている。

  • 舞台はカクテルバー・エッグ・スタンド。
    男女が謎解きする日常のミステリー。
    掌に小鳥を隠し持ち、生きていると言えば握り潰す。小鳥の生死を問われ…「答えは汝の手の中に」賢者の答えが心に残る。

    • りまのさん
      あるさん、こんばんは!
      フォローにお返しいただいて、ありがとうございます!
      加納朋子さんの、この御本、読みたくて、積読中です。今は、「カーテ...
      あるさん、こんばんは!
      フォローにお返しいただいて、ありがとうございます!
      加納朋子さんの、この御本、読みたくて、積読中です。今は、「カーテンコール!」を、ゆっくり読んでいます。(遅読なのです。)
      いいね をたくさん、ありがとうございました!
      どうぞよろしくお願いいたします♪
      2022/02/26
    • あるさん
      はじめまして。りまさんの本棚は、見ているだけで癒されます。掌の中の小鳥は、ミステリー要素があり読み易かったです。これからも素敵な本を紹介して...
      はじめまして。りまさんの本棚は、見ているだけで癒されます。掌の中の小鳥は、ミステリー要素があり読み易かったです。これからも素敵な本を紹介して下さい。
      2022/02/28
    • りまのさん
      あるさんへ
      お返事ありがとうございます♪
      私の本選びは、ほとんどブクログの方の本棚や、レビューを読ませていただいて、読んでいます。すごく遅読...
      あるさんへ
      お返事ありがとうございます♪
      私の本選びは、ほとんどブクログの方の本棚や、レビューを読ませていただいて、読んでいます。すごく遅読の上、利用していた図書館が、6月まで工事のため、お休みしているため、レビューも ゆっくりになると思いますが、よろしくお願いいたします♪
      2022/02/28
  • フォローさせていただいてる方のレビューが魅力的で読んでみた1冊。
    普段好んで読んでいるような事件があって謎を解くと言うより、主人公の2人の日常を読み進める中に色んな謎解きがあるような感じ?
    と、とても面白かった。
    圭介や紗英、泉さんや先生みたいな人と出会ってみたいなと思った。
    なんだか自分も泉さんのお店で隣でずっとみんなの話を聞いてるような感じで読めた。
    すごく読みやすかった。

    【あなたがどんな人間なのか、決めるのはあなた自身】
    背中を押された1文。

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著者プロフィール

1966年福岡県生まれ。’92年『ななつのこ』で第3回鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。’95年に『ガラスの麒麟』で第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、2008年『レインレイン・ボウ』で第1回京都水無月大賞を受賞。著書に『掌の中の小鳥』『ささら さや』『モノレールねこ』『ぐるぐる猿と歌う鳥』『少年少女飛行倶楽部』『七人の敵がいる』『トオリヌケ キンシ』『カーテンコール!』『いつかの岸辺に跳ねていく』『二百十番館にようこそ』などがある。

「2021年 『ガラスの麒麟 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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