- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488446123
作品紹介・あらすじ
銭湯で起きた殺人の謎を解くデビュー作の本格ミステリ「電気風呂の怪死事件」。男が死んだはずの友人とすれ違ったことに端を発する、幻想的な冒険譚「火葬国風景」。国民を洗脳・支配する独裁国が辿った、皮肉な末路を描く歴史的名作「十八時の音楽浴」など珠玉の11編に、エッセイを収録。日本SFの先駆者にして、唯一無二の科学的奇想に満ちた作品を描いた著者の真髄を示す、傑作短編集。解説=日下三蔵
感想・レビュー・書評
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『獏鸚』に続き海野十三2冊目の短編集。とりあえず創元推理文庫で読める分は順番に制覇したい。
「恐しき通夜」が面白かった。徹夜で仕事をするために集まった3人の男がそれぞれ眠気覚ましに何か話をすることになるけれど、実はその内容が微妙にリンクしあってて・・・。最終的に復讐譚になるのだけれど、古今東西、殺すだけでは飽き足りないほど憎い相手への復讐方法として「内緒で人肉を食べさせて後からそれが誰の肉だったか明かす」っていうの、ある意味定番化してきてる気もする反面やっぱりそれだけ復讐手段として有効なんでしょうねえ。こわいこわい。
「十八時の音楽浴」は一種のディストピアもの。特定の音楽(振動)を聞かせることで国家に忠誠を誓う有能な人物になるというのが、奇想天外なようでいて洗脳方法として案外実現可能そうにも思える。人造人間の美少女、野心家の女大臣など、脇役もなかなか個性的。そしてやっぱり、憎い相手は殺して食べさせちゃうわけですね・・・。
表題作「火葬国風景」はディストピアというよりはユートピア建設ものかな。しかし主人公が建国の趣旨に賛同してくれなかったのでとんでもない終わり方に(苦笑)
「生きている腸」はタイトルそのまま。生きている腸を飼育(実験)しはじめた大学生の末路。くねくね動いて餌をねだる腸って・・・グロテスクなのだけれど、ちょっとユーモラスというか可愛らしいような気がしないでもないような。
「三人の双生児」は収録作では一番の長編。ある女性が幼い頃の記憶の断片をたよりに自分の双子の妹と思われる人物を探そうと広告を出す。妹はいつも座敷牢に入れられており、いつのまにか母と共にいなくなったが主人公の記憶は曖昧、父親の日記には「三人の双生児」という謎めいた言葉が残されていた。広告をみてやってきた胡散臭い女探偵、その女探偵が「彼女こそあなたの双子の妹!」と連れてきたあからさまに偽者っぽい女、幼少時に見世物小屋に売られ「ひとで娘」として生きてきたという畸形の男、親戚でもないのに主人公と顔がそっくりな幼馴染の男など、さまざまな怪しい人物が次々と現れ・・・。正直タイトルだけで、ある程度のオチは想像がつくのだけれど、モチーフの猟奇性と真相に辿りつくまでの展開のスリリングさでぐいぐい読まされてしまった。ラストの解決の仕方がもうちょっと丁寧だともっと良かったのだけど。
※収録作品
電気風呂の怪死事件/階段/恐しき通夜/蠅/顔/不思議なる空間断層/火葬国風景/十八時の音楽浴/盲光線事件/生きている腸/三人の双生児/「三人の双生児」の故郷に帰る詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
どこか怪しく変態的で幻想的な魅力に満ちた作品集。
表題作の「火葬国風景」は幻想SFかと思いきやの種明かしにやられる。「十八時の音楽浴」はオチにやられるディストピアもの。「三人の双生児」はこれまた怪しく変態的な不思議なミステリーで予想外の展開にやられる。三人ってそういうことかい。「電気風呂の怪死事件」は著者の電気工学の知識にやられる変態モノ。
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作品毎にムラがある。さすがに戦前の作品だけある。
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『十八時の音楽浴』がお気に入り。ラストの展開に圧倒。美しい。タイトルになった『火葬国風景』はアノ超展開に思わず声が出た。もっと続きが……(笑)
本書は『貘鸚』よりSF色が強いのでそちら方面のジャンルが好きな方にも読んで貰いたい作品集ですね。 -
『獏鸚』に続く海野十三の短編集。
前作『獏鸚』はSFっぽさを残しながらも、古き良き探偵小説の範疇に留まっているのに対し、本作は『日本SFの先駆者』としての側面が色濃く出た、SFミステリ(奇想ミステリ)の短編集となっている。
ディストピアSFとその崩壊を描いた『十八時の音楽浴』、グロテスクな怪奇小説『生きている腸』、曰く言い難い読後感を残す『三人の双生児』がお気に入り。また、ショートショート集『蠅』『顔』、スパイものの冒険小説『盲光線事件』など、作風のバリエーションも広かった。