完全犯罪 加田伶太郎全集 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (449ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488478117

作品紹介・あらすじ

資産家が住まう洋館に届いた英文の脅迫状と、奇怪な密室殺人――迷宮入りとなった十数年前の事件に四人の男が推理を競う傑作短編「完全犯罪」。著者である加田伶太郎は、日本推理小説の爛熟期に突如として登場、本作を始めとする幾編かの短編小説をして斯界に名を知らしめた――。その謎に包まれた正体は、文学者・福永武彦が創りだした別の顔であった。精緻な論理と遊戯性を共存させ、日本推理小説史上でも最重要短編集のひとつに数えられる、文学全集の体裁を模した推理小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 推理小説家の加田伶太郎の全集…という体のこの本は、推理小説好きの福永武彦が「加田怜太郎」の名前で発表した8編の推理小説です。
    この短編集の名前になっている「完全犯罪」は、最初の作品名。第一作目がこの題名とは大きく出たな(笑)。

    短編集の前書きと後書きには、福永武彦さんの推理小説への考え、加田怜太郎名義での推理小説の限界点について書いています。
    加田怜太郎という名前は、どうせやるなら巫山戯た名前にしないと!ということで、「誰なんだろうか(darenandarouka)」を入れ替えた名前ということです。
    名探偵役は、フランス古典文学助教授の伊丹英典(いたみえいてん)氏。これは「名探偵meitantei」の入れ替えということ。助手役は研究室の助手の久木進で、父親が警察関係者なので、伊丹氏たちが事件現場に入れるという便利な役割です。
    伊丹氏は「自分のは机上の空論だよ」というタイプで、犯罪の状況や関係者の心理を考えての推理を進めます。

    他のジャンルの作家が推理小説を書く例は他にもありますが、こちらの短編集は推理小説としてはそこまで優れていませんが(ごめんなさい(^_^;)。それでも★5つなのは福永武彦さんが好きだからという贔屓目(^.^))、人間心理を考えたストーリーとなっていて、作者が楽しみながら考えているという感じがします。


     密室の死体。実はそれは被害者自身が企てた計画の裏をかかれたとわかる。/「完全犯罪」

     二階で死んでいるはずの男が、玄関から入ってきた。/「幽霊事件」

     旧家の温室で見つかった死体。旧家の矜持。/「温室事件」

     旅行したまま行方不明になった学生。彼は監禁され睡眠薬を盛られていた。/「失踪事件」

     夜中にかかってくる電話。中学生たちの無垢で純粋で冷酷さ。/「電話事件」

     夢遊病を患うという一家。かつて妻が死んだという家で、今度は夫が死ぬ。/「眠りの誘惑」

     争う声と血痕は残っているが死体がないという事件?/「湖畔事件」

     自殺した女優は、姉の亡霊に悩まされていた。
    ===この事件は被害者の女優さんがお気の毒な…。さぞかし怖かっただろう。
    /「赤い靴」

  • 伊丹英典という探偵が冴えてるのにお茶目で楽しかった。半世紀以上前の良書を読める幸せ。

  • お茶目で教養があり、どこか抜けてるけど分析力、論理的思考能力がずば抜けてる伊丹博士。
    題名とは矛盾するかもしれないけど、不完全さがとても魅力的な小説です。

  • 純文学作家の福永武彦が加田伶太郎名義で発表した探偵小説〈伊丹英典シリーズ〉全八篇に、エッセイと対談を加えて収録した文庫全集。


    過去の未解決事件の話を聞き、居合わせた4人がそれぞれの推理を披露する安楽椅子探偵もの「完全犯罪」に始まり、『高野聖』を思わせる妖しい夫婦に拐かされたかと思いきや金目当ての行き当たりばったりな犯罪だったと判明する「失踪事件」、女性の手記の形式で書かれた「眠りの誘惑」など、探偵役の伊丹が積極的に関わるものから終わりまで出てこないものまで、ひとつひとつ構成を変えてあるのが面白い。解説の法月倫太郎も言うように、この8篇で本格ミステリにおける探偵像の変遷が追えるようだ。
    トリックはやや興ざめだが、小説としては「湖畔事件」が面白かった。死体役と探偵役に分かれて遊ぶ子どもたちが出てきてそれまでの伊丹をパロディ化すると共に、事件の真相すら伊丹と推理作家の単なる推理ごっこだったと告げられる。この拍子抜けを子どもの会話で締めるのがちょっとおしゃれ。

  • 福永武彦さんがミステリを書いていたとは知らなかった。
    時代の古さは感じるが、なかなか面白い。
    特に最後の「赤い靴」は探偵が犯人に目をつけた理由が面白かった。

  • 〇 総合評価 
     草の花,死の鳥などの作品で有名な文学者「福永武彦」が「だれだろうか」のアナグラムである「加田怜太郎」という名義で残したミステリの全集。鼎談や序論なども掲載されている。時代を考えるとそれなりのクオリティの作品がそろっているともいえる。しかし,有名作家が残したミステリだという付加価値があるから古典として評価されている程度の平凡な短編集ともいえる。
     標題作の「完全犯罪」は,船上で4人がそれぞれ推理を披露するという多重解決モノ。無駄な描写がなく事件について描かれ,4人が推理をする。トリックがチープであり意外性もそれほどでもないが,無駄のない構成と分かりやすい構成なのでそれなりに楽しめる。しかし,メイントリックがチープなだけでなく分かりにくい。
     そのほかの作品は,短編ながら無駄なやり取りもあってますます完成度が下がる。さすがに文章は上手く,作品の雰囲気は風格があるのだが,いかんせんミステリとしてさほど面白くない。それぞれの時代を反映した描写になっていて古臭い。作品の雰囲気の良さを最大限評価しておまけの★3といったところか。

    〇 完全犯罪
     船の上で,迷宮入りになった10年以上前の事件を巡って4人の男が推理を競う「多重解決」モノ。事件は,雁金家という資産家の家に脅迫状が届く。そして,犯行予告があった日に雁金玄吉が殺害される。容疑者は妻の雁金弓子,社長秘書の別府正夫,居候の安原清,別府正夫の養母である雁金梅子,弓子の元恋人の本山太郎。この4人には,別府正夫を殺害する一応の動機はあった。別府正夫は密室で死体で発見される。捜査の中,別府正夫が妻の弓子を殺害しようとしていることが書かれているメモが発見される。
     この事件についての4人の推理。まずは船長。船長は犯人は中学生の居候だという。凶器は机の引き出し。合鍵で鍵を開けて殺害。合鍵を取りに行き,最初からそこにあったと見せ掛けたというもの。しかし,もと船乗りの別府正夫を中学生が殺害することは不可能ではないかと論破される。
     事務長の推理。秘書の別府正夫が犯人だという。ロープを使って3階の窓からぶら下がり,首を絞める。ロープは腹に巻き付けた。しかし,そもそも3階からロープでぶら下がるという犯行は見つかる危険が大きすぎると論破される。
     船医の推理。弓子と本山の共犯。本山への手紙は2通出されたというもの。夫人は夫の殺害計画を知らないはずであり,殺害されると思っても,危険を冒してまで夫を殺害するのは不自然と論破される。
     伊丹英典の推理。合鍵と焚火と殺人メモをベースに消去法で犯人を推理する。
     焚火の関係で,弓子夫人と中学生を消去
     合鍵の関係で,秘書が消去
     すると犯人はおばあさんしかいないことになる。おばあさんは編み物を利用して殺害をした。秘書の靴を履いて外に出る。焚火は本山への警告,雁金氏に窓から首を出させるという目的で焚いた。編み物の毛糸を使って殺害。たまにして凶器を隠した。
     小説というか,推理クイズという感じの作品。毛糸を使ったトリック部分が分かりにくいのが難点だが,無駄な描写がなく,こじんまりとまとまった秀作だと言える。

    〇 幽霊事件 ★★☆☆☆
     久木助手が登場。英文科の大山ひとみという女性の父親が,自分を陥れた元職場の上司に復讐に行くのではないかと伊丹に相談に来る。伊丹と久木が「黒田作兵衛」というその上司の家に向かう。黒田作兵衛の家では吉備弁護士が殺害されている。大山ひとみの父親が容疑者。黒田家の家政婦は黒田の幽霊を見たという。
     真相は殺害されたはずの吉備が黒田のふりをしていたうもの。死体は実は黒田の死体だった。
     いかにもひと昔前の短編ミステリという感じの作品。人物入れ替えトリックだが,特徴的なハゲ頭でごましているだけで,瓜二つでもない二人が入れ替わるというところがミソになっている。これは凡作

    〇 温室事件 ★★★☆☆
     久木助手の友人が家庭教師をしている伊豆の休暇で殺人事件が起こる。密室である温室での殺人。トリックはアキレスという訓練された犬を使って密室を作るというもの。犯人は香代子という女性で,久木と一緒にミステリを読み,久木が夢中になっているときに殺人。久木を自身のアリバイに使っていた。
     犬を使った密室トリックで,昔,藤原宰太郎か誰かが紹介していたような気がする。まさに古典。香代子がミステリをどのくらいまで読んでいたかをさりげなく確認するなど,伊丹の探偵ぶりがスマートで面白い。

    〇 失踪事件 ★★☆☆☆
     瀬戸という学生が伊豆に一人旅に行ったまま失踪してしまったという。瀬戸の兄が久木を通じ,伊丹に捜査を依頼する。伊丹は,瀬戸が焼き殺される寸前で犯人を見つけ出す。真相は,生命保険を得るために瀬戸を殺害しようとしたというもの。伊丹は,歯の治療により身元をごまかし得る歯医者に目を付け,久木の父が警察の偉いさんであることを利用して,生命保険に最近加入した歯医者を見つけ出し,犯人を特定した。
     ・・・なんというか。古典としてもややミステリとしては苦しい。バカミスを作ろうとはしていなかったがバカミスになってしまったパターンの作品か。時代と短編であることでなんとか作品として成立しているという作品か。

    〇 電話事件 ★★☆☆☆
     遠藤という人物が電話で,謎の人物から脅される。遠藤は子どもが通う学校の校長の妻と不倫をしていた。相談を受けた警察から,さらに伊丹に依頼があり,伊丹が捜査をする。妻が不倫をしていた校長が犯人かと疑うが校長も同様の脅しを受けていた。最終的に遠藤氏は自殺する。真相は遠藤の子どもが犯人だというもの。遠藤の子どもは父と校長を脅し,遠藤はそのことを知って責任を感じたせいか,自殺をした。
     安楽椅子探偵というよりちょっとしたハードボイルド。伊丹は皮肉な結末を前に探偵趣味を廃業するつもりと言う。
     ミステリ的には凡作。子どもが犯人というのは少し意外性はあるが,ミスディレクションらしいミスディレクションもなく,こいつが犯人かもと推測できてしまう。凡作だろう。

    〇 眠りの誘惑 ★★☆☆☆
     鳥飼元子という女性が住み込みで家庭教師をした家の主人(赤沼)が殺害される。鳥飼が手紙を書いて,その手紙を読んだ伊丹が推理をするという趣向。真相は,その家の中2年生の娘のユリ子が犯人というもの。鳥飼自身の推理なども披露されておりちょっとした多重解決風の味付けがされている。水道の蛇口に付けたホースが凶器。トリックらしいトリックもなく,伊丹の推理も手紙形式で箇条書きで語られている。作品の幻想的な雰囲気だけはそこそこだが,ミステリとしては凡作

    〇 湖畔事件 ★★★☆☆
     伊丹が旅先の湖畔の近くのホテルで事件に巻き込まれる。ホテルで事件が起こるが,「死体」が消失する。真相はそもそも事件はなかったとうもの。「死体」のふりをした宮本小次郎という作家が,新聞記者のふりをしてホテルを脱出していたというもの。動機はかつての恋人への復讐と伊丹をからかうため。ミステリのパロディというイメージの作品。そもそも事件が起きていない。起きていない事件について子どもがいろいろと推理するという趣向。プロットはそこそこに面白い。趣向の面白さと文章の雰囲気の良さで★3か。しかし,トリックもそれほどでもなく,ミステリとしては及第点ギリギリ程度


    〇 赤い靴 ★★★☆☆
     伊丹の知り合いの医者が務める病院で葛野洋子という女優が死ぬ。伊丹は捜査の依頼を受ける。犯人は新人女優の葉山茂子。心理的に脅かしてから,姿を見せて脅して殺害した。葛野洋子の姉が幽霊として出ていたという部分があるが,幽霊は歳を取っていたことから,若い状態で出ると葉山茂子が葛野洋子に似ていることからばれると思い,あえて歳をとらせたというところから推理した。細かい部分の推理はスマート。しかし,全体的にリアリティに乏しく,事件としては平凡。作品の雰囲気は悪くない。おまけで★3

  • 戦前戦後、ミステリを物した純文学作家は幾人もいるが、この著者もその一人。発表当時の覆面作家として別人のように振る舞う茶目っ気が示すように、作品も遊び心のあるものとなっている。話の筋はオーソドックスで、大きく予想を外される大傑作ではないが、テンポの良い展開は頁を捲る手を止めさせない。

  • 『娯楽』★★★☆☆ 6
    【詩情】★★★★☆ 12
    【整合】★★★★☆ 12
    『意外』★★★★☆ 8
    「人物」★★★★☆ 4
    「可読」★★★☆☆ 3
    「作家」★★★★☆ 4
    【尖鋭】★★★★★ 15
    『奥行』★★★☆☆ 6
    『印象』★★★★☆ 8

    《総合》78 B+

  • ミステリ短編集。適度に古めかしい雰囲気と、今読んでもなお魅力的なきっちりとした論理の楽しめる作品ばかりです。難を言えば、いくつか「もうちょっとタイトルどうにかならなかったのか?」と思うものがあるけれど(笑)。ストーリーは問題なく楽しめました。
    お気に入りは「眠りの誘惑」。夢遊病や催眠術といった道具立てが魅力的で、その部分に気を取られていたらこの真相がまったく見抜けませんでした。
    「赤い靴」もインパクトのあった作品。歩く赤い靴、分かってみれば単純だけれどこれは怖い。そりゃあこれだけいろいろ追い込まれたら……怖かったろうな、とひたすらに思います。

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著者プロフィール

1918-79。福岡県生まれ。54年、長編『草の花』により作家としての地位を確立。『ゴーギャンの世界』で毎日出版文化賞、『死の鳥』で日本文学大賞を受賞。著書に『風土』『冥府』『廃市』『海市』他多数。

「2015年 『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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