堕ちたる者の書 (パラディスの秘録) (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (401ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488585044

作品紹介・あらすじ

退廃と背徳の都パラディス。この地において男女の別にいかなる意味があろうか? 吸血譚、悪魔崇拝、魔女の遍歴。「紅に染められ」「黄の殺意」「青の帝国」の中編3編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 献本でいただいた1冊、久々のタニス・リーさんです。
    時代は中世ヨーロッパ、舞台は架空の都“パラディス”。

    分類はファンタジーとなるのでしょうか、、
    中編が3つ、薄墨に隠されたような物語たち、です。

    1つは男女の性が混雑としたままに、背徳とそして、
    生と死の境目を行ったり来たりする「紅に染められ」。

    1つは昼と夜で2つの貌のみならず、
    2つの性別をも使い分ける「黄の殺意」。

    1つは性差をも超える美貌を持つ役者が魅入られた、
    この世ならぬ存在を描いた「青の帝国」

    共通しているのはいずれも、、

    “耽美”と“倒錯”、“退廃”と“背徳”、
    そんなフレーズに彩られた物語であること。

    読んでいるとどこか、薄闇の中を分け入っていくような、
    そんな夢うつつにくるまれていくような感じになります。

    読み手は正直選ぶかな、と。

    決して現実ではありえない物語、、
    でも心奥ではもしかして求めている、のかもしれない物語。

    それは性と生、そして死との狭間が曖昧で、
    時として行きつ戻りつするからかも、知れません。

    この世ではないどこか、その世界に耽溺したくなる、そんな1冊。

  • ヨーロッパの架空都市パラディスが舞台の三作品。
    曖昧な性、吸血、瀆聖と退廃的な物事が盛り沢山でしたが耽美さをこれでもか!と前面にぐいぐい押す文章がやや気になりました。
    『紅に染められ』は状況を把握するのに時間がかかり読み辛かったです。
    それでも絶望からの悪徳、悔悛、聖なるものへの回帰を鮮やかに書いた『黄の殺意』はテンポも良く面白かったです。

  • どの話も男と女の性がめまぐるしく変化。それに追いつけなかったのが「紅に染められ」。「黄の殺意」は主人公の変貌ぶりが残酷であるが、痛快にも感じた。翻訳のことばが美しかったけど、原文はどうなっているのだろう。。。

  • ・タニス・リー「墜ちたる者の書」(創元推理文庫)は 「パラディスの秘録」と題された一連の作品の(邦訳)3冊目に当たる。「紅に染められ」「黄の殺意」「青の帝国」の3中編を収める。これらの題名、何やら信号機めいてゐるが、原題にcrimson、saffron、azureとあることからすれば、これは訳者による恣意的な題名ではなささうで、よく見れ ば、むしろ、いづれも原題に忠実な邦題であつて、例へば“Stained with Crimson”は正に直訳であらうし、“Malice in Saffron”も“Empires of Azure”も同じく直訳であらう。色名が微妙に違ひはしても、題名は簡潔を旨とする、サフラン色よりも黄と言ひ切る方が良い。物語からしても、ある意 味、どぎつい印象の漢字の黄の方が良い。カバーにかうある、「退廃と背徳の都パラディス。この地において男女の別に、いかなる意味があろうか。」さう、正にかういふ物語である。タニス・リーは赤青黄をイメージして物語を書いたのであらう。個人的には色違ひではないかと思つたりもするのだが……。
    ・本書3中編の主人公を言はば極北のイメージとしたのが次に部分ではないか。「テュアモンは初めから二重花。女の衣類が床に横たわる今、持つ 雰囲気は断固として男のそれ、姿勢も落ち着きもまた。にもかかわらずきらめく髪の頭巾の下にある面は乙女のもの、顔と唇に感じられる尊大もほんの少年のそ れにすぎず、頸すじと、やはり少年めいた肩と腕と硬い林檎の乳房はー少女。(中略)テュアモンは両性具有であった。全ての点で男であり女。少女の顔と乳房、男の本質。双方の股間。」(「青の帝国」395頁)テュアモンは古代エジプトの魔道師、男として、女として生きた。いや生きてゐる。比喩的にではなく現実にである。主人公ルイは女としても生きたが両性具有ではない。「肉体の上ではルイは男だった。(中略)原理の点では 女。」(394頁)他の主人公も同様、男として、女して生きても男は男、女は女であつた。「紅に染められ」のサン・ジャンは途中から女に返つた。違和感は なささうである。「黄の殺意」のジュアニーヌは男のジュアンとしてある時でも女を意識してゐた。といふより、ジュアニーヌはさうしなければ世間を渡れなか つたと言ふべきではないか。生きる知恵で、女子修道院で生活し、そこから抜け出して男として悪事を働いたのではないか。ジュアニーヌは本質的に女であつ た。3人とも両性具有ではない。それでもその美しさゆゑに、3人とも両性具有のイメージがふさはしい。いやたぶん、タニス・リーは両性具有、ヘルマフロディトゥスかアンドロギュヌスか、そんなイメージを抱いてこの3人の物語を書いた。それがこのパラディスといふ町にふさはしいからである。「この地におい て男女の別に、いかなる意味があろうか。」さう、かういふことである。これはまた本書に実に多くのキリスト教的な背徳、背教のイメージを散りばめることになる。ジュアニーヌが女子修道院に住むのもその一つだが、その他にいくつあるか数知れない。「紅の染められ」の最後、「銀の十字架の見下ろす広間」 (161頁)である。そこで主人公は死ぬらしい。殺されるのである。これはどうやら吸血鬼譚であるらしい。吸血鬼兄妹に魅せられた者の物語である。主人公は両性具有を指向した。そして美しい。さういふ物語世界なのである、タニス・リーの世界は、パラディスは。 そして決定的なのは、「タニス・リーはエロスの作家である。」(萩原香「解説」398頁)、この一事である。物語のすべてはここに収斂し集約される。

  • 噂どおりの美しく退廃的で、背徳心くすぐる物語。心身ともに健康な時でないと、ちょっときついかも?(@@;) 比較的読後感のさっぱりする「青の帝国」が最後に配置されてるのがありがたい。

  • 『パラディスの秘録』シリーズ。既刊2冊と違い、こちらは以前、角川ホラー文庫から刊行されていたもの。
    『紅に染められ』『黄の殺意』『青の帝国』の3篇を収録。個人的には『黄の殺意』が一番面白かった。
    解説でも『タニス・リーはエロスの作家』と述べられているが、この3篇、どれも非常にエロティック。特にユニークな吸血鬼譚である『紅に染められ』にその傾向が強い。

  • 退廃と背徳の都パラディス。この地において男女の別にいかなる意味があろうか? 吸血譚、悪魔崇拝、魔女の遍歴。
    「紅に染められ」「黄の殺意」「青の帝国」の中編3編を収録。

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