リスク 上: 神々への反逆

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532190798

感想・レビュー・書評

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  • 確率論に基づくリスクマネジメントに関連する学問の歴史を約500年前から順に振り返りつつ、歴史の転換点や重要な発見についてこれでもかと言うほど詳しく説明している本。

    数学における「0」の発見から始まり現代の金融理論に至るまで、上下巻合わせて約600ページというなかなかのボリューム。
    正直なところ、読み物としては内容が冗長だと感じたし、個人的には名著とは言い難かった。
    しかしながら、(ところどころ読み飛ばしつつも)通読したことによって得られた知的発見が非常に大きかったので、星は5つ。

    特に、第6章に出てくる「サンクトペテルブルクのパラドックス」にとてつもない衝撃を受けた。
    日々の生活の中で、中等教育レベルの確率論が意思決定の基準となっていた自分にとっては大きなパラダイムシフトとなった。

    本書の全体を通しての結論をあえて一言で言うとすれば、「古典的な数学的確率論は、人間社会での実生活には容易には適用できない。なぜなら人間という生き物が不合理で矛盾に満ちているから」といったところか。

    日々の生活の中で、確率から期待値を計算して意思決定を行っているような人には一読の価値があると思う。

    以下メモ

    ・ダニエル・ベルヌーイによると、効用の増大は当初保有していた富に反比例する(基本的には)

    ・利益によって得られる効用よりも、同額の損失によって得られる「負の効用」は常に大きい(富を、大きなレンガを土台にして小さなレンガを積み重ねていくようなものと考えたとき、頂上から取り除かれるレンガは、次に付け加えられるレンガよりも確実に大きい)

    ・「確実に受け取ることができる25ドル」と、「50%-50%の確率で50ドルまたは0ドルを受け取ることができる機会」では、数学的期待値はともに25ドルだが、効用の期待値は前者の方が大きい

    ・分散が正規分布するための必要条件は、標本が互いに独立した事象であること(サイコロの1回目の目と2回目の目に依存関係がないことのように)であり、独立でない(純粋なランダムでない)標本を集めてしまうと重大な失敗につながる

    ・自然の摂理たる「平均への回帰」が長期的に作用していたとしても、我々は短期の世界に生きることを余儀なくされている

    ・数学的確率よりもむしろ不確実性こそが現実世界における支配的パラダイムである

    ・フォン・ノイマンのゲーム理論では「不確実性の真の原因は他人の意思にある」とされ、自身と他者との要求の交換の中で、最適ではない結果に妥協するということが起こる

    ・分散投資は数学的に正しい。分散されたポートフォリオの収益率は、各銘柄の収益率の平均に等しいが、ボラティリティは、各銘柄のボラティリティの平均よりも「小さくなる」。つまり無償でリスクを低減できる

    ・ベルヌーイの「効用の増大は当初保有していた富に反比例する」に一部誤解があったことが、カーネマンとトベルスキーによる「プロスペクト理論」によって判明。それによると、リスク機会の評価は、最終的な資産価値よりも、「利得・損失のどちらが生じるのか」という点にはるかに大きく依存する

    ・上記の実例。被験者に30ドルを与えた上で、「表が出れば9ドル勝ち、裏が出れば9ドル負け」というコイン投げを「するかしないか」の選択を迫る。この場合、被験者の70%がコイン投げを選んだ。他方、初めから「表が出れば39ドル勝ち、裏が出れば21ドル勝ち」というコイン投げか、「単に30ドルもらえる」権利、で選択を迫ると、コイン投げを選んだ被験者はわずか43%だった。いずれの場合も、最終的な利得額は全く同じ「39ドル、21ドル、または確実な30ドル」であるにもかかわらず、初めに30ドルを所持金として与えられたグループはリスクを取り、一文無しで始めたグループはリスクを回避した

    ・通常の金融取引は、安く買いたい買い手と、高く売りたい売り手の交渉によって成立するが、デリバティブは、金融の不確実性そのものを商品とする。つまり、リスク回避者からリスクを取ってもいいという他者へリスクを転嫁する手法に対して需要がある

  • 金融経済史を振り返りたい人、哲学的内容が好きな人はこの上巻だけを読んでいれば楽しめると思う。

  • リスク管理をしたら、合理的に意思決定できる。
    敗者は短い時間を長く見せかける。
    勝者は長い時間を短く見せかける。
    リスクと時間はコインの裏表。明日がなければ、リスク
    なし
    統計学はリスク管理の基本
    正規分布はリスク管理の中核
    富の微量の増加から得られる効用と欲求は、それ以前にその人が保有していた財の量に反比例する
    平均への回帰
    人的資本 教育 訓練 経験
    事実は全ての人間に同様だが、主観は多種多様
    2つの重要なポイント

    簿記......数の記録
    予測 リスク許容と利益
    経験によって確実な答えを出すことはない
    大きいサンプルの平均は小さいのと比べて真の平均からの乖離が小さい

  • 視覚は知性への最初の扉である(ルカ・パチョーリ)

    判例の統計等を参照する際、「近年は勝訴率が上昇しているから裁判所の判断基準は…である」という意見があります。本書にあるように「過去の結果が将来を決定するという保証はない」であるならば、上記主張の信憑性は低いと思います。

    一つの問題としてサンプル数があります。以下、推定計算ですので間違っていたらごめんなさい。毎日一つの判決がなされると仮定すると、一年で365件の判例が生み出されます。信頼度を95%とするならば、300程度のサンプルを抽出する必要があります。さらに、機械・電気・化学等にカテゴライズ(各々1/3存在するとします)され、条文適用として進歩性・記載不備などに分類わけされます。条文の分類については29条、36条が多くを占めることから、各々1/2存在するとします。一例として、化学における記載不備の傾向を考慮する場合は、300×1/6=50件程度調べればよいとなります。

    上記推定でもそれなりの確度はあると思います。しかし、統計は「証拠と該当現象とのある関係の存在証明」にはなりますが、「常に予測可能とは限らない」です。

    ここで、一義的にある傾向が決める統計に対して、「ケースバイケース」はどんな場合でも使えます(ケースバイケースではない事象などない)。したがって、確度という観点から考えれば、ケースバイケースの主張のほうが圧倒的に有利です。

    しかし、何事もケースバイケースで片付けてしまえばそれまでであり、本来回避できたリスクを無駄に背負うことにもなりかねません。したがって、統計が使える観点と使えない観点のバランス感覚を養うことが、統計に振回されず、ケースバイケースという思慮のない意見を排除できる最良の処方箋ではないかと思いました。

  • 読んではみたものの、確率や統計の話が深まっていくほど、ついていけない。

  • 古代から様々な分野の知識人が未来を予測しようとする試みの壮大な物語が述べられている。上巻は主に、数学的な手法による未来の予測をしようとする人々の、歴史的な挑戦を描いている。今日では私たちの生活に親しい様々な経済活動、例えば保険業はもちろん、運搬業や、建築業でさえも、初歩的な数学の進化によるリスクの計量化によって大きく支えられていることを改めて実感した。つまりこの本は、先端的な考えを与えてくれるものではないが、金融業で働くにあたって必要な原理的な考えを示唆してくれる。人類の歴史における未来予測の進歩という壮大なスケールで、リスクに対する考え方が学べるという意味でこの本は興味深かった。金融に関する知識というよりも、リスクに対する数学的な教養を身に付けられ、勉強になる一冊だった。

  • 歴史。パラ読み。

  • 同じテーマの本を立て続けに読むと、どうしても後に読んだ本の方が評点の低くなる現象に誰か適切な名前を付けてくれないだろうか?
    統計、確率、リスクマネジメントに関する科学史書。面白いです。

  • リスク、数学、統計、確率に興味のある人なら絶対に読むべき!!
    わかりづらい文章が多いのが玉に瑕

  • 未来を現在の統制下におくためにどのようにすべきか?という点に主眼を置き書かれた作品。将来に対する判断について、計量的手法と数字に裏づけされている過去のパターンに依存するという考え方と、不確実な将来に関するより主観的な信念の程度に基づくという考え方が抗するストーリー仕立てとなっている。この上巻は18世紀までの確率・統計システムの発展について描かれている。数字システムは500年頃までにインドで確立されれ、1200年頃までには今のヒンズー・アラビア数字システムがヨーロッパに普及された。ただ、本格的に確率・統計が発展したのは宗教改革後(元来、未来は神のみぞ知るという考え)及び活版印刷普及後(手記ではごまかしが利いた)。元々は、賭博、様々な保険に対する考え方が動機となっており、専門的な内容をすっ飛ばしても興味深く読むことができます。当たり前のことかもしれませんが、リスクには、時間、計測、人々の主観が関与していること非常に興味深いです。

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