経営戦略の思考法

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  • 日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532314781

作品紹介・あらすじ

リソースベース、ポジショニング等々様々な考え方が入り乱れている経営戦略。経営学の第一人者が切れ味鮮やかに戦略の地図を解説し、組織の暴走、シナジーの崩壊などの問題点も浮き彫りにする待望の経営戦略入門。

感想・レビュー・書評

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  • 経営戦略に関する理論概観に始まり、「思考法」という切り口をもとに実務家向けの提言を行う、理論/実務の両側面を捉えようとした一冊。
    序盤の理論概観は、既知の情報が多かったが、理論発展の経緯及びその背景を事細かく記載しているため、改めて頭の中を再整理する際に読み直したい。後半部(実務側)の肝は、やはり「経営戦略の思考法」としてまとめられた3つの思考法の整理であろう。自らの主張及び他社の主張を精査する際、それらが何れの思考法を基にしたものであり、根拠は十分なのかということを意識していきたい(例;カテゴリー適用法の場合、「高収益のインテルはデバイス事業を営み、自社もデバイス事業を手掛けるため、自社も高収益になるはずだ」等の発想になる。これは例外を探せば簡単に崩れる論理であり、重要なのはなぜインテルが高収益なのか?というメカニズムを解明すること)

    以下、印象に残ったポイント
    ・創発戦略はミドルマネジメントの自由闊達な創意工夫という文脈において、日本企業と整合性が取れていた。一方、「どうすればよいのか」という具体的な示唆に欠け、またHowを突き詰めると戦略計画派との区別が曖昧になるという理論的課題を抱えている(p.52周辺)
    ・RBVの視点に立つと、戦略は保有しているリソース(モノ)とフィットしている必要がある。一方、戦略を立案/実行する人間には学習能力があり、ヒトと情報は多少アンバランスな状態でも問題はない。むしろ、少しストレッチの効いた目標設定をした方が、結果的にメンバーの学習を促進させ、ダイナミックな成長を加速させることができる場合もある。これが、伊丹氏の「オーバーエクステンション」の論理(p.79周辺)
    ・経営戦略の思考法は、①カテゴリー適用法➁要因列挙法③メカニズム解明法の3つに分類できる。③は「なぜなぜ」を深堀り、物事の因果関係を解き明かそうとする思考法であり、相対的に時間展開・相互作用・ダイナミクスにフィットするため、筆者はこれを推奨している(p.161周辺)
    ・人間は実践から学ぶが、ここには幾つかの注意点がある。その1つが、苦労の過剰正当化である。人は苦労/失敗経験を通じて成長するが、中には意味のない苦労/失敗も存在するはずである。因果関係のないところに因果を創作するのではなく、冷静に「次につながる学びは何か」を抽出せねば、誤った方向に自分を導いてしまう可能性がある(p.330)

  • 各経営戦略を整理され、わかりやすい事例をもとに解説されている。

    特に以下の4点が重要だと思われた。

    ❶ p243
    差別化をチャレンジャーが達成できるようになるためには、少なくともリーダー企業よりも外向きの競争思考の組織を構築していなければならない。
    そして、リーダーの組織的問題を捉えて、差別化するタイミングを見計らうこと。

    ❷ p325
    リアルな小人の相互作用を頭に描き、徹底的に「なぜ」「どうして」と言う問いにこだわりを持って考え抜けば、全てとは言わないまでも暴走と英断の違いを少しでも判断可能なレベルと明確化していく。
    埋没費用を正当化の手段に使わないこと。

    ❸p29
    3×3のSWOT分析により、要因を結びつけて戦略の選択肢を生成する。

    ❹p126
    5つの戦略論を複眼的に用いていくプロセス

  • ロバート・ラスムセンがRTSの位置付けを説明するときの図と、ほぼ同じ図で、経営戦略論を分類し、解説がなされている。RTSが既存の戦略理論とどのように関連しているのか、考えて位置付けたい人におすすめです(ただし本書にはRTSそのものはでてきませんのでロバートの図と重ねて自分で咀嚼する必要があります)。

  • 学術的な本だと思っていたが、読み物としてもおもしろかった。

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BA91706967

  • 経営戦略の考え方、planning/emergence/positioning/resorces/games
    →考え方。として知っておくと良い

    副題の時間展開、相互作用、ダイナミクスの通り、複雑かつ不確実なビジネスで戦うための経営戦略思考法を解説している。すごいまとめ。

    アカデミックな文体なので、とっつきづらい感あり。
    二章は飛ばし読みした。→再読したい


    p293 企業レベルで多様性→産業レベルで同質化。企業レベルで差別化→産業レベルで多様化。

    意思決定フレームワーク。ゲインは保守的、ロスは一か八か。株式投資とかでもよく言われるよう、人は損切りがうまくできない。

    未来思考の意思決定。過去の努力などの埋没費用を考慮しちゃう[苦労の過剰正当化]

    もっと色々ありましたが、記憶に残ったところだけ列挙

  • 沼上さん、良いなあ。学者らしい論理を重視した語り口は読んでいてある意味気持ちいい。頭をしっかりと使って読むと、使った分だけ理解が進む気がする。こちらの頑張りに対して決して裏切らない。

    戦略論というものはもちろん学問なのだが、優れた戦略論の教科書を読み込むということは、一種のエンターテイメントになるということを改めて認識した。

  • 一般的には戦略論の概観を掴む際の良本とされているが、まさにその評価通りの本。また経営コンサルタントとして思考する事を求められる身にとっては、コンサルタントとしての思考法を学ぶことができる本。
    特に良かったのは下記3つ
    ①経営戦略を考えていくプロセス126〜127頁
    ②メカニズム解明法164貢
    ③人は実践から学ぶ328頁

  • 小田さんの「学習する組織入門」の参考文献にあがっていたので、読んでみた。

    「経営戦略」論は、昔、いろいろ読んでいたが、ロジカルな分析にもとづく事前の戦略策定の限界があって、結局のところ、RBVとか、創発戦略みたいな話になるんだよね、ということで納得して、それ以上、経営戦略を深めようという気持ちにはならなかった。

    そういうなかで、久しぶりの「経営戦略論」である。

    これが、本当に面白かったな。

    第1部が経営戦略論の歴史みたいな感じで、5つの学派にわけて紹介してあるのだが、この切り口が素晴らしい。ミンツバーグの「戦略サファリ」は、10個に分けていたのだが、この5つで十分だし、その位置関係がとても分かりやすい。そして、これが単なる復習におわらず、これまでの戦略論が、時間的な展開とか、相互作用みたいな観点がなかったという話になる。

    おお、そうそう、そこに不満をもって、シナリオプランニングとか、システム思考という方向にわたしは興味の方向を変えたんだ。

    で、第2部では、いよいよ時間的要素や相互作用を織り込んだ「思考法」。要するに、システム思考なんだけど、通常の因果関係の時間的展開を考えるものに加えて、関係者間の相互作用なども考えるもの。つまり、場と時間をしっかり考える動的な思考法。事例として上がっているのは、結構、単純なものなんだけど、でもそれは後知恵で、そのとき、その場にいた人は、そういうことになかなか気付かないんだよな。

    そして、第3部では、第2部の「思考法」をベースに、行動経済学やゲーム理論の成果を取り入れながら、さまざまな経営戦略論の定石的な考えを検証していく。そして、なんで、誰も望まないのに、こんなことになっちゃうのなパターンを読み解いて行く。ほんと、「あるある」です。ある意味、会社でよくある「システム原型」と言ってもいいかも。

    これは、ちょっと知らぬ間に「経営戦略論」に、いろいろな進化が起きていそう。しばし、この辺の本を読んでみようと思った。

    ちなみに、この本、写真からは分かりにくいけど、装丁が和のテイストもはいった素敵なものです。そういう意味でも、いい感じだな〜。

  • - 戦略とは組織全体の目標に向かってメンバーの活動を整合化させるシナリオ
    - 戦略でいうポジショニングとは特定の立地をとること
    - そのポジショニングを生み出すためにも経営資源が重要
    - シナジーがあるとよく聞きはするものの、具体的なシナジーを定量的に評価することが重要だし、なぜそれがシナジーを生むのかのメカニズムを理解することが大事
    - 戦略は市場・製品ポートフォリオ、成長ベクトル、競争優位、シナジーを規定する
    - ロードマップは戦略ではなく、目標水準の時系列のこと。そこから資源配分や活動の構造など目標達成のための実態を含んだシナリオを示していなければ戦略ではない
    - ステップ
    - 1.ミッションに立ち返る
    - 2.インプット:経営資源の把握、(社外ふくんだ)ステークホルダーの要求理解(株主、政府、地域、社員など)
    - 3.内状分析:自社の強み・弱みの把握
    - 4.環境分析:置かれている外的環境、経済的要因や社会的要因など、またそれらが将来に渡りどう変化していくか
    - 5.利益があがる十分な市場セグメントの仮説をつくり、自社のポジショニングを考える
    - 6.既存事業のコンピタンスを考え、それが他にどう活かせるのかを探索
    - 7.実際の計画を元に現場に移譲して、戦略の仮説を検証する
    - 8.ミドルから経営陣にあげられた情報をもとに戦略を修正する
    - SWOT分析の目的は、それぞれを組み合わせながら戦略の代替案を創出すること。それぞれでアイディエーションする
    - SO:機会に乗じる
    - WO:弱みを補填
    - ST:脅威を乗り越える
    - WT:弱みを強みに変換する
    - 創発戦略
    - トップダウンで細かな戦略までねるのではなく、大まかな方向性を呈示して現場が変化に応じながら仮説検証を繰り返しながら活動していくことが創発戦略の考え方
    - コア・コンピタンスとは、サービスやプロダクトの背景にある知識や行動の体系
    - 人が創り出し、学習・蓄積する情報に価値がある
    - 戦略を実行している間に学習がすすみ、成長を促す可能性があるため高いレベルの目標を実現するための戦略を描いたほうがよい
    - 自社にとっての本質的な経営資源とは何か?という問いを考える
    - 顧客が利用するサービスは何によって市場競争に勝っているのかという問いからスタートする
    - ドライバーとなる強みの要素にあたりをつけたら、それを分解していく
    - 何をもって価値ある経営資源か?という評価はVRIO分析というフレームをつかう
    - しかし、このValuableかどうかという観点は顧客視点でないといけないために調査がマストである
    - 市場の選択だけでなく、その市場にフィットした活動の連鎖やプロセスを設計し実行することが戦略の本質
    - ゲーム論的アプローチは、競合・顧客などの間の相互作用に関して、こちらのこの手により相手はこう反応するので、こちらはこうする、などの時間軸をもった展開を思考する
    - 人々の戦略観には相違があることが多いが、問題はそれにより戦略がないとみなされてしまうこと

    - シナリオとは、目的と手段の連鎖が時間とともに展開されていくストーリー
    - これは時間展開をふまえて相互作用する構造を考え創り出すことに等しい
    - 思考のステップとしては、「空間→時間→相互作用」という流れをふむ
    - ex:あるパソコンのマーケティングを考えるとする。まず使用してくれそうなセグメントを捉えてアーリーアダプターの仮説を考えて、モデル化する。その後、そのセグメントと他のセグメントとの関係性を空間配置する。例えばパソコン通の人は周りに相談しにくる初心者がいて頼られている、などと位置づけられるかもしれない。そうしてみると、特別な知識の教育→学習の関係性がみえてくる
    - そして、時間とともに人は変わる。学習して知識が増大したら、別の嗜好性が発達したり、他のサービスに移ったりする。初心者からパソコン通になる可能性もある。
    - それらの全体のパターン構造を理解することが重要である
    - 短期はトレードオフに見えるが、長期的に見ると良循環か悪循環のどちらかになる
    - そのメカニズムを解明できれば、ぶれずに意思決定ができる
    - 新しいサービスは顧客が学習するにつれて市場環境が大きく変化する
    - チャレンジャーがリーダーに勝つには、チャレンジャーの差別化だけでなく、リーダーの同質化の遅れが重要
    - 同質化の遅れを引き起こす原因としては、企業内の組織内合意形成が多い
    - 1手においての差別化は、例え競合より数ヶ月先にうったとしてもすぐに追随される。しかし先手をうったことで余裕がでるために打ち続けて、差別化の連鎖を起こすことで優位性が築かれる

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著者プロフィール

早稲田大学教授

「2023年 『わかりやすいマーケティング戦略〔第3版〕<2色>』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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