- Amazon.co.jp ・本 (163ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560070994
作品紹介・あらすじ
失踪した友人を探してインド各地を旅する主人公の前に現れる幻想と瞑想に充ちた世界。ホテルとは名ばかりのスラム街の宿。すえた汗の匂いで息のつまりそうな夜の病院。不妊の女たちにあがめられた巨根の老人。夜中のバス停留所で出会う、うつくしい目の少年。インドの深層をなす事物や人物にふれる内面の旅行記とも言うべき、このミステリー仕立ての小説は読者をインドの夜の帳の中に誘い込む。イタリア文学の鬼才が描く十二の夜の物語。
感想・レビュー・書評
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この何かを忘れているような気持ちにさせられる不安定さが何故だか心地良かったのです。
ずっとこのまま眠っていたいような。ずっとこのままこの場所にいたいような。少しの罪悪感を背負いながら、インドという無秩序で神秘的な国の夜に永遠に抱かれていたい、そんな気持ちにさせられます。
バス停の待合室で会った美しい目の少年。その少年に背負われた兄。その2人との遣り取りから主人公の探している友人の輪郭がうっすらと見えてきたようで、この場面とても印象に残りました。
主人公は友人を探すために様々な人々に巡り会いながら歩きます。2人の関係はまるで、写し身が魂を求めるような、魂が写し身から逃れるような、インドの夜が魅せる幻惑のようでした。そしてそこにはいつもノクターンの調べが流れているかのよう。
須賀淳子の訳がとても読みやすくて、どこにも引っかからずにすっと物語の世界へ入っていけました。読み終えた後もゆらりゆらり夜を漂っている感覚に陥ってしまいます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
イタリア人作家によるミステリー仕立てのインド旅行記。行方不明の友人を探してインド各地を訪ね歩く体裁だけれど、文学的構造といい、そもそも自分探しのテーマってあんまり共感できないんだよなぁ。日頃刺激の強いSFとかホラーとか冒険物とか読んでいるせいか、こういう文学との向き合いが難しくなってしまったのだろうか?激辛食べすぎて繊細な味がわからなくなったみたいにそれとも白水Uブックスのラインナップとの相性?ちょっと修正せねば。
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須賀敦子さんのエッセイで何度かタイトルを目にし、いつか読んでみたかった本。ラヒリを読んだ勢いで、インドを舞台にしたこの本を手に取った。
読み始めた途端、不思議な迷宮の世界を彷徨ったような錯覚に陥る。
余分な言葉を削ぎ落とした洗練された詩的な文章。
どこまでが夢でどこまでが現かわからなくなる。訳者あとがきによると「みじかい各章が、それぞれ独立しているようでいて、ひとつの全体にしっかりと組み込まれている…」とあり、物語に入り込んでぼんやり読んでいると、違う章に移ったことに気がつかなくなる。
途中、作中の登場人物はここでは何語で話しているのだろう? と、漠然と感じることがあった。その後読んだ訳者あとがきに、「流麗で正確で、ときには感動をさそうイタリア語で書かれていながら、この中には、これまでイタリア語では表現されることのなかった思考回路が認められるように思う。」とあった。原語と思考回路の関係、興味深い。イタリア語の持つ思考回路とはどんなだろう、その言語に接したことのない私には知る術もないが、ここでは翻訳者と自分の感覚を信じて感じたままを受け止めようと思う。
とても読みやすく、読後感がよかったのは、読み慣れた須賀さんの翻訳だからだろうか? 素晴らしい原作に優れた翻訳、月並みだけど久々に良い本に出合えたという印象を持った。 -
「インドで失踪する人はたくさんいます。インドはそのためにあるような国です。」
失踪した友人を探しに、主人公は鞄ひとつでインドを巡る。
読んでいる先から、匂いが、空気が、むっとまとわりつく瞬間が何度もありました。旅行記のように様々な景色が描かれているものの、インドの陰の部分に焦点を当てた、深い深い夜が似合うエピソードで溢れています。静謐だけどディープ。読み手にも幻想的でまどろむような空気感が伝わってきます。
肝心の友人探しも一辺倒にはいかない仕掛けが。小説全体の雰囲気にとても合った余韻の残るラストです。
不思議な魅力と謎の義務感から大学生の頃は行きたい国No.1でしたが結局怯んで行かずに今に至ります。この作品からも感じ取れることですが、普段は心の奥の方にしまわれている「本能」や「生死」といった動物的な感覚が容赦なく引きずり出され、自分自身と向き合わざるを得なくなるのがインドという国に対する印象です。今となっては活字としてのこの距離感がちょうど良いかな。 -
再読。水のにおいの揺れるインドの街が闇にゆうらりと沈んでいく頃、宙を歩くような足どりで、僕は僕の影を探す旅に出る。時計の針は進むべき方向を指し示すみたいに時を刻むけれど、僕の足跡をたどる僕は幻惑の夜の谷間を浮遊する。もうずっと以前に忘れてしまった記憶を取り戻しながら、旅の途中、たくさんのものたちと出会う。日常にいるよりも長い時間が僕のなかで引き伸ばされ、うねっているから。
そのうねりというのは、私に心地よい眠りをもたらしてくれる気がする。張りつめた視線が緩み、夢のやわらかな唇が瞼を押しつつむような眠りだ。 -
インドの夜がもたらす幻想性と、主人公の旅、出会う不思議な人々とのやりとりを、ただ楽しんだ。旅をしたのは、現実あるいは夢、それとも両方...?読後は静かな余韻に浸る。
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舞台は夜のインド。失踪した友人を探すためにインドを旅する主人公の12夜の話からなる連作短篇集。
テレビや旅行本などのインド観光特集から受ける印象とはかなり異なるインドの様子が描かれています。どちらかと言えば、インドに留学していた大学教授から聞いた経験談に近い描写だと感じました。
ストーリーは、私にとっては難解でありました。一つ一つのお話が繋がって、一本の線を描いているのだろうとは思いますが、それがなかなか掴めず...
全体の流れを意識して読み直したら、何かが掴めるかもしれません。しかし、あれこれ考えて読むよりも、寝る前の半ば脳が休んでいるようなときに読む方が、かえって物語を感じられるかも...?
とにもかくにも、再読したくなる1冊です! -
須賀敦子の訳ということで、初タブッキ。
何かずっと夢の中をさまよっているような感覚。章どうしの繋がりも分からないままに…
自分もその夢の中に参加する読み方でないといけないのかもしれないな〜… -
ボンベイ、ゴア、マドラスを舞台にした12の夜の物語集。
独特な雰囲気の話。
ラストにぐぐっと引き込まれる。あれあれあれ?みたいな。
心と体とか
影と実体とか
アートマンとブラフマンとか -
有名な作家だし、大好きな須賀敦子さんの訳だし、そんなに長く無さそうだし、で、買いました。
でも中身は濃かった。主人公に連れられて、主人公の友人を探してあちこちさまよって、不思議な人々と出会い、会話をし、風景を見て何かを感じ、最後、えっ?…ええーっ?!(二度見)なラストに痺れました。背負い投げされる快感みたいなのがあった。
他の作品も読んでみます!