鎌倉燃ゆ 歴史小説傑作選 (PHP文芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569901527

作品紹介・あらすじ

2022年大河ドラマの舞台は鎌倉幕府! 北条義時をはじめ、源頼朝を取り巻く鎌倉武士の生き様を実力派作家陣が描いた珠玉のアンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  • 編者によると、このアンソロジーはまさに現在放送中の大河ドラマに合わせるかのように集めたようだ。
    鎌倉の歴史小説を読んでみる第三弾はせっかくなので、大河ドラマとの比較という視点で書いてみようと思う。

    収録されているのは
    谷津矢車 「水草の言い条」  北条義時
    秋山香乃 「蝸牛」      大姫・静御前
    滝口康彦 「曾我兄弟」    曾我兄弟
    吉永永青 「讒訴の忠」    梶原景時
    高橋直樹 「非命に斃る」   源頼家
    矢野隆  「重忠なり」    畠山重忠
    安部龍太郎「八幡宮雪の石階」 源実朝
    の七編。

    今登場している人物が多いので、読みながらドラマで演じている役者さん達が脳内変換されていた。

    北条義時 → 従来の腹黒、老獪というイメージで描かれている作品もあったが、『気がつけば流れ流されていくうちにここにいる』という致し方なくそうなったというドラマに近いタイプや、表向きは時政や政子に逆らえないが、腹の底ではそれがたまらなく悔しく思っている描かれ方もあった。

    北条時政 → 伊豆時代は『実直』で『まとめ役』がうまかった彼を描いてあったのは一作品のみ。あとは『奸智に長け』謀略でライバルたちを次々追い落としたり、牧の方の『姦計に』踊らされた姿をさらしたりと良いところはない。個人的には牧氏事件後に伊豆に追放されるとき「いや~、わしも、やきが回っちまったなぁ」と言って欲しい。

    北条政子 → 全体的に従来のイメージ通り。『剛勇』で人の先々に行く感じ。自分が生んだ子供でも『幕府のため』ならあっさりと切り捨てていく。こうした感覚が分からないのだが、当時は位の高い女性ほど子供は手元で育てないから、情が薄くなるのだろうか。頼朝も乳母である比企の尼を大事にしていたし。

    牧の方 → こちらもイメージ通り。ある作品での『暇だったから』というのはドラマの牧の方なら言いそう~と思いながら読んでいた。

    北条時房 → ほとんど知らない方だったのだが、実は一番嫌なヤツだったような。ドラマではどう描かれるだろう。

    源頼朝 → 様々な顔があった。義時同様『己の意思で何かを決めたことなど一つ』もないという切ない頼朝もいれば、『坂東の道理を立てたい』と強い意志を持った彼も。娘・大姫が木曽義高を逃がした件では恐ろしい一面も見せた。義経との反目については頼朝に分があるか。
    『朝廷を祀り上げ、実の力は武士が握って国の全てを統べる』という考えはまさに後の世で家康が実行したこと。

    源義経 → ドラマではいかにも何かやらかしそうなヤバイ人という感じだが、こちらでは頼朝の考えることが全く理解できない、世間知らずで短慮な人というイメージが強かった。兄を乗り越えたいとか野心があるとかではなく、本気で兄のためと思っているのが辛い。

    大姫 → 七歳でここまで敏く情熱的というのはちょっと無理があるような。九歳の大姫もあまりにも大人過ぎていて、これが本当なら逆に怖い。

    梶原景時 → 不器用な人というイメージ。義経といい頼家といい何故彼の忠心は通じなかったのか。

    畠山重忠 → ドラマ通りまっすぐな人。生き様死に様で『関東武士の鑑』となったのだから、ドラマ後さらに人気が出そう。

    静御前 → 身重の体で『一世一代の舞い』を奉納することで頼朝に勝つとはどういう舞いなのか。ドラマで描かれるだろうか。

    今回の大河ドラマは素っ頓狂ドラマかと思っていたが、キャラクター造形についてはそれほど素っ頓狂でないのが分かった。これからの展開は暗澹たるもので辛そうだが、そこをどう魅力的に描いてくれるだろうか。

  • 【収録作品】「水草の言い条」谷津矢車/「蝸牛(カタツブリ)」秋山春乃/「曾我兄弟」滝口康彦/「讒訴の忠」吉川永青/「非命に斃る」高橋直樹/「重忠なり」矢野隆/「八幡宮雪の石階(イシバシ)」安部龍太郎

    源頼朝を取り巻く鎌倉武士の生き様を描いたアンソロジー。
    「水草の言い条」は北条義時、「蝸牛」は大姫と義経の愛妾・静御前、「曾我兄弟」はタイトル通り、「讒訴の忠」は梶原景時、「非命に斃る」は頼家、「重忠なり」は畠山重忠、「八幡宮雪の石階」は実朝の話。

    誰の視点で描くか、というのがポイント。さまざまな物の見方があって、共通点、相違点を見ると興味深い。

  • 大河ドラマでのキャストが脳内で甦り、苦手な歴史小説でもとっつき易く分かりやすかったです。
    その時々の判断一つで一族郎党の生死と運命が分かれる、謀略と討伐を繰り返す血生臭い鎌倉時代。
    我が権力の為なら武功をたてた者も忠臣さえも平気で謀殺する、人の命のなんと軽い事よ。
    アンソロジーですが、大姫と静御前の愛の深さ、梶原景時の忠誠心、坂東武者の誇り高き畠山重忠等々、それぞれの生き様を描いた読みごたえのある一冊でした。

  • 頼朝から実朝までを御家人たちも交えながら描くアンソロジー。様々な作家の作品を読み進めていくと、時間軸も進んでいっている。この辺りの妙は、編者の細谷正充の手腕か。
    梶原景時を描いた吉川永春の「讒訴の忠」、北条義時の視点から畠山重忠を描いた矢野隆の「重忠なり」。特に、良かった。それぞれの忠義を尽くしながらも、組織の変革や権力や思惑などによって消えて(消されて)いく鎌倉武士の悲哀。

  • 7人の作家による鎌倉幕府草創期のアンソロジー。北条義時、梶原景時、静御前、頼家、実朝など、主人公は様々。1話の『水草の言い条』は、昨年の大河ドラマを凝縮したようなストーリー。ただ、義時と時政との距離感が、こちらの方が遠い感じがしました。そしてやはりアンソロジー。作家によってクセや捉え方が異なっていて、同じ人でも、書く人によって微妙に性格が違っていてそこが面白かったです。特に良かったのは『重忠なり』でしょうか。でも、どれもクオリティが高く、満足度の高いアンソロジーでした。にしても、どの話も誰かが殺されている、、。

  • NHK大河鎌倉殿の13人の舞台を複数の著作で人ごとに切り取ったオムニバス。谷津矢車→北条義時、秋山香乃→大姫と静御前、滝口康彦→曽我兄弟、吉川永青→梶原景時、高橋直樹→源頼家、矢野隆→畠山重忠、安部龍太郎→源実朝。そう北条政子・源頼朝・源義経という書きつくされた人ではない人たちにフォーカスした作品でして、これらを読むと特に北条義時のダークサイドを描き切った三谷幸喜脚本自体が非常に出来が良かったことも痛感できます。曽我兄弟の復しゅう物はこの作品を読んでようやく理解できたし、源義経がなぜあそこまで源頼朝に疎んじられたかも、わかりやすく描写してます。高橋直樹は鎌倉時代に特化した文庫作品をだしているそうなので機会があったら読んでみよう。畠山重忠も無骨に描かれてます。私の感性にいちばんあったのは意外にも秋山香乃の作品でした、女心の描き方がたおやか

  • ドラマ『鎌倉殿の13人』の影響で読み始める。
    ドラマをみていたお陰で、登場人物が頭の中ではっきりわかるので、かなり読みやすい。
    作家さん別の短編なので、ドラマをみていなくても、個々の作品にでてくる登場人物は、他の鎌倉を題材にした作品よりも少なめなので読みやすいかも。
    超絶カッコいい畠山重忠殿が読みたいかたと『鎌倉殿』にでてきたような、ほんの少しグレているけれど、本当は聡明で純で、かわいそうな頼家様を読みたい方にはお薦めです

  • 鎌倉幕府に焦点を置いた短編集。
    実力派の作家たちの作品であり、それぞれに読み込みあり。
    谷津矢車氏の水草の言い条が一番好きですね。

  • 鎌倉幕府成立前後の源氏とそれを支える御家人を中心として描かれている短編集。どの物語に関しても北条家の陰謀が暗い影を落としており、別々の作者が物語を書いているものの、どこか繋がっている様な感じがする。

  • 目次
    ・水草の言い条 谷津矢車
    ・蝸牛(かたつぶり) 秋山香乃
    ・曾我(そが)兄弟 滝口康彦
    ・讒訴(ざんそ)の忠 吉川永青
    ・非命に斃(たお)る 髙橋直樹
    ・重忠なり 矢野隆
    ・八幡宮(はちまんぐう)雪の石階(いしばし) 安部龍太郎

    昨年の大河が終わった頃から、鎌倉時代をテーマにしたテレビ番組がやたらとやっていたらしくて、予習に余念のない10さん。
    それはいいんだけど、「鎌倉時代、得意?」って聞くから「全然」と答えると、実に嬉しそうに鎌倉クイズを出してくる。
    やれやれ。
    私の鎌倉時代は『草燃える』と『北条時宗』、及び『草燃える』に感動して読み漁った永井路子の作品群くらいしかないのよ。
    あと北条政子の伝記とね。

    でも、高橋克彦の『時宗』で、結構鎌倉幕府の成り立ちはじっくり書いてあったので、学校で習った執権政治のイメージでは全然なく、全く一枚岩じゃない御家人たちの合議制という、後の小田原評定を思わせるようなシステムだったことは知っていた。
    あのドロドロした利権の奪い合い&足の引っ張り合いは、幕府成立の頃からのものだったとこの本でよ~くわかり申した。

    三方を山に囲まれた鎌倉の地形は守るのに堅く…ってよく言うけれど、頼朝最初から鎌倉ひきこもりしか考えてなかったんじゃ?
    京に対しては、「荒ぶる武士たちを抑えられるのは自分だけだ」と言い、御家人たちに対しては「朝廷を動かして領地を安堵できるのは自分だけだ」という。
    実に危ういバランスの上で成立していたのが鎌倉幕府。
    万が一朝敵として討伐の対象になったらヤバいので、絶対鎌倉から出ていかない。
    反対に、朝廷(後醍醐天皇)が何をやらかすかわからないので京都に居座ったのが室町幕府。

    鎌倉時代は、ちょっと隙を見せるとすぐに謀反人扱いされ、寄ってたかったボコられる。
    室町時代は、親兄弟親戚一同が敵味方に分かれて延々戦い続ける。
    どちらも戦に勝たないと領地が増えないから争う。
    子どもの数だけ土地を分割して残さなければならないから、年代を経るほどに土地は減る。
    そう言った意味で、長男総取り制を敷いた家康のおかげで江戸時代は平和でいられたのだろうな。

    そうそう、ちょっと隙を見せるとよってたかってボコられるって、今の時代みたいだなと思った。
    それで三谷幸喜はあえてこの時代を舞台にしたのかなと深読みしてみたり。

    閑話休題。
    7つの作品中、既読は最後の『八幡宮雪の石階』のみ。
    実朝の哀しみと諦念が切ない。

    頼朝と義経の関係でいえば、義経は戦バカであり、政治や行政なんてものにはまったく理解がなかったんだろうと思う。
    梶原景時に何度説明されても、わからんものはわからんかったのだろう。
    だからこそ、頼朝が「今はわからないかもしれないが、わしの顔を立てて、わしの言うとおりにしてはくれないか」と頭を下げたら、義経いうことを聞いたんじゃないかな。
    徳川家康ならしれっとそんなこと言えたんじゃないかと思うけど、頼朝は器が小さくて言えなかったのが全ての元凶だと思う。
    忠臣中の忠臣・畠山重忠と、讒訴の奸物・梶原景時だけが人として尊敬でき、あとはみんな浅ましすぎる。

    個人的には大姫の話が好きなので、大泉頼朝が大姫にどんな態度を見せるのか興味がある。
    大河見てないけど。

    鎌倉幕府の感想であって、本の感想ではないね。
    曽我兄弟の仇討も、この本を読んで流れがわかりました。
    今までは「やじきた学園道中記」でさらっと出てきたことしか知らなかったので。

    今年一年鎌倉クイズは続くのだろうか。
    やめてほしいな。

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著者プロフィール

作家。1955年福岡県生まれ。久留米工業高等専門学校卒。東京の図書館司書を経て本格的な執筆活動に入る。1990年、『血の日本史』(新潮社)で単行本デビュー。『彷徨える帝』『関ヶ原連判状』『下天を謀る』(いずれも新潮社)、『信長燃ゆ』(日本経済新聞社)、『レオン氏郷』(PHP研究所)、『おんなの城』(文藝春秋)等、歴史小説の大作を次々に発表。2015年から徳川家康の一代記となる長編『家康』を連載開始。2005年に『天馬、翔ける』(新潮社)で中山義秀文学賞、2013年に『等伯』(日本経済新聞社)で直木賞を受賞。

「2023年 『司馬遼太郎『覇王の家』 2023年8月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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