古道具おもかげ屋 (ポプラ文庫 た 13-1)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591172056

作品紹介・あらすじ

<内容紹介>
神田川に沿った往来から一本、北へ入った道の東角、湯島横町の小さな表店。
小料理屋と間違えそうな設えで、「迷い猫、探します」という風変わりな看板があれば、そこが古道具「おもかげ屋」だ。
店主の柚之助はめっぽういい男だが古道具にしか興味がない。商いに精を出さずに、店に棲みついた猫と戯れてばかりだが、古道具にまつわる客の「困りごと」を解決してくれると江戸で噂だ。そんな噂を聞きつけた客や、「猫探し屋」のさよに連れられてきた訳あり客が今日も訪れる。

「古道具」を通して、そこに詰まった人の想いを解き明かす柚之助だが、どうやら彼自身も捜している古道具があるようで――

感想・レビュー・書評

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  • 迷い猫探しも請け負っている古道具屋<おもかげ屋>。
    そこでは古道具を探すだけでなく、その客の困りごとも解決してくれる。

    田牧さんの作品には猫が登場するものが多い。よほどの猫好きなのだろう。
    だがこの作品に登場する猫たちの背景はちょっと切ない。
    人間の勝手な事情で捨てられた猫、迷った途中で見るも無残な姿になってしまったために飼い主から受け取りを拒否された猫、野良として生きることも出来ない弱った猫など。

    同時に店主の柚之助と猫探し担当のさよもまた傷付いた人間だ。
    柚之助は商売に失敗し失踪した父親を激しく憎んでいる。母は心労死、祖母は借金の清算と<おもかげ屋>立ち上げのために亡き祖父が贈った大切な珊瑚の簪を売ってしまったのだから無理はない。
    さよは父親が遊女と心中したことで精神をおかしくした母と、世間体を憚る祖父によって虐待され死ぬ寸前まで追い込まれた。
    結果、柚之助は人よりも古道具に興味を持ち、さよはいまだに大人と関わるのが怖い。

    どんな商売だろうが生き方だろうが人と関わらずにはいられないので、この二人がどうやって猫探しと古道具屋をやっていくのか…と思っていたが、本心はともかく商売ではそれなりに人と渡り合う知恵と経験値と意志を持っているので安心した。
    それに彼らには強い味方がいる。
    柚之助の祖母・菊とその「弟子」で地廻の両、同心の左右田(そうだ)に春米屋の太田屋徳左衛門。
    特にさよは両と左右田に命を助けられたし、菊や柚之助のおかげで生きる術を手に入れた。

    この作品では呆れるほど身勝手な人間もいればホッとするほど温かい人もいる。だが身勝手な人間が悪人で、さよを助けるきっかけとなった人が良い人とも限らないのが人間の複雑さだ。
    さよにしても被害者一方ではない。たまが「師匠」と名を変えることになるきっかけを紐解けば、さよに行き着くことに苦しむ。いや、もっと紐解けば別の人間に行き着くのだが。

    『人間だけなんですよ。「本心」を建前や意地で誤魔化すのは。古道具からは、大切にされたのか邪険にされたのかが、ちゃんと伝わってくる。うちにいる猫だって、信用できない人間には毛を逆立ててますし、信用できるとなれば、近づいてくれる』

    柚之助とさよが傷を抱えながらも周囲の人々や猫たちや古道具の魅力で前向きになっていく話になっていたのは良かった。
    ただ肝心の『古道具のおもかげ』については印象が薄かったのが残念。
    古道具絡みの依頼は一つだけで、あとはさよと柚之助、それぞれの話だった。
    祖母・菊の簪はまだ見つからないし、シリーズ化されるのだろうか。

  • シリーズになるのかな

  • 古道具屋さん巡りが好きなのでタイトルが気になってっ購入しました。
    おもかげ屋の主、柚子之助とおさよちゃん、そして菊ばあと両さんの優しい生活に惹きこまれます。 傷を持った人たちが信頼できる人と過ごす暖かい時間はかけがえのないもの。外は寒いけど心が温かくなる一冊でした。

  • 文庫書き下ろし

    古道具屋の若主人柚之介と、猫探し屋の少女さよは人に心を開かない。柚之介は先代の古道具屋を料理屋にしたのに、ふぐ中毒疑惑で失踪した父への怒りで。さよは父が遊女と心中したために祖父と母から死にかけるまでの虐待を受けた恐怖で。
    さよは古道具屋の店番兼看板借りで「おもかげ屋」に居場所を得、古道具が好きすぎて語りかける柚之介とぶっきらぼうだが面倒見良くつきあって、客も連れてくる。
    さよの客であった信次郎少年が買いに来たのは将棋の駒。一人暮らしをする元大工の祖父を心配し、親友の死で止めてしまった将棋の相手をしたいという。祖父が削り親友が書いた将棋の駒は、友人の死後祖父が売り払ったと聞いた柚之介は、祖父が将棋を始めるためにはその駒が要ると考え、伝手を頼って同業者から買い戻して、信次郎に作戦を授ける。で、めでたしめでたしとなるのだが、道具の幸せのためという柚之介さんは、実は結構な人情家だった。

    つぎの捜し物は、祖母が祖父から貰い父の借金のために売った珊瑚の簪と似た簪を持ち込んだ娘が、同じようなものを探して欲しいと言う。柚之介は失踪した父とその幼馴染みの隣家の主人の企みだと見抜き、内藤新宿で料理人をしているという父に会って怒りをぶつけるが、失踪の真相を知ることになる。
    柚之介の心理描写が多いが、屈折しながらもちゃんと前を向き、人と道具の幸せを考えていて、ほっこりする。続編希望。

  •  江戸の町の小さな古道具屋を舞台に、古道具に纏わる交流を描いた、人情物の時代小説。
     湯島横町の表店「おもかげ屋」を継いだ、風変わりな青年店主・柚子之助と、前店主の祖母・菊、店に間借りする「猫探し屋」の少女さよを中心に、慎ましく生きる市井の人々の悲哀や、ささやかな幸せをしっとりと描く。
     肉親から受けた仕打ちに翻弄され、人間に対し忌避感を抱いてしまった柚子之助やさよの痛みや苦しみ、二人に寄り添う年長者たちの優しさや情愛が、淡白ながらも丁寧に綴られている。
     彼らや顧客が、身近な道具に託した願いや屈折、通り雨のように遭遇してしまった苦難や人生の哀感が、静かに沁み入る一冊である。

  • 鯖猫長屋が気に入ったので、同じ方の作品も読んでみたくなりました。

  • さよも柚之助も親から大変な目にあってて人間不信なんだけど一生懸命。
    屈託はあるけど優しい大人に見守られてる感があります。
    サラッとしていて読みやすい。

  • 母や祖母に苦労をかけた、父親が許せない古道具屋の店主。
    人嫌いが高じて、古道具と話す日々。

    母や祖父から虐待を受けていた少女。
    命を落としそうな時に、隣人と同心の手で救われた。
    その少女も人付き合いが苦手だ。

    二人の周りの大人たちやお客と事件がつながって・・・

    新シリーズになるか??

  • 田牧さんは庶民のおかずの書き方が上手い。猫も。

  • 宮部みゆきの人情モノのようだった。

    キャラクター設定やお話はいいが、人間嫌いや変わり者を自負するほど強く設定でなかった

    続編がありそうな感じ。

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著者プロフィール

作家

「2022年 『鯖猫長屋ふしぎ草紙(十) 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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