- Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
- / ISBN・EAN: 9784596550828
感想・レビュー・書評
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なんとか現状から抜け出そうと、もがき続けるマローンに、更なる圧力をかける連邦検事とFBI。
本来なら保護されなければならないマローンの供述調書が、何者かによってギャングに流され、四方八方から追い詰められる。
上巻から続く緊張感に読んでいて脳が酸欠になりそう。
行きつく先は見えているのだから、いっそひと思いにやってくれー!とマローンの代わり叫びたくなる。
ベストな終わり方だったと思う。
願わくば最後の会合に出席したすべてのメンバーが彼以上の苦しみを味わいますように・・・。
そしてナスティ・アスが安らかに眠れますように。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
作者は警察関係者に綿密に取材しているようなので、本書の内容は相当程度現実を反映していると思われるが、正義というか治安維持を実現するために悪徳に手を染めなければならないというのが現実だとすれば、かなり絶望的状況ということになるが、多分にウィンズロウ的世界ということなのか。
とはいえ人は絶望的な現実から目を背けつつ、一方で現実と折り合いを付けながら生きていくしかないのだが。 -
汚れた刑事の落ち着く先は、一つですね。
汚れきったとは言えども、どこかに刑事と言う意識はあるし、かといって、以前の様な汚れていない刑事でもなく見方も居ない。結果については、因果応報と言う言葉だけで語るのも、面白くない気がします。
いやぁ、それでも、汚れた警官って、西部劇の話かと思っていましたが、今でも小説になるほど居るのか・・・。って言うか、日本でもいるかもしれないので、あまり他人の事は言えないか。 -
仲間を売ったネズミにまで堕ちたニューヨーク市警特捜部「ダ・フォース」のマローン刑事部長。ダーティなお巡りがどこまで堕ちていくのか、人は自分のためにどこまで他人を犠牲にできるのかが問われているかのようだ。
最初はマローンの意志だったかもしれない、それがいつの間にか自分では制御できなくなるまで深刻になる。悪いことはできないなあと思う反面、現場では綺麗事だけですまないことも事実。それは自分達の身の回りで起こっていることからも分かるだろう。マーロンは最終的に正義を貫いたと思う。彼なりの正義だけれども。
クライマックスは、そのまま映画の脚本になりそうで、カット割りやBGMまで聞こえそうなくらい芸術的だった。 -
ニューヨーク市警の最強の男マローンが君臨する特捜部「ダ・フォース」。マローンは街を市民を仲間を家族を悪から守っている。だが同時に賄賂を受け取りマフィアとつるみ汚い金を溜め込んでいる。警察も法曹ももちろんマフィアも公正ではないんだから、自分たちも汚い事をしても仕方ない。俺が皆を守らないとと思い込んでるマローンが鼻持ちならなくてしょうがなかったが、読み進めると徐々に彼に同情してしまう。子供や女性が虐待され殺されても、マイノリティなら問題にならない社会で、マローンたち現場の刑事は文字通り命をはって秩序を保とうと日々努力している。人種差別や貧困や麻薬の問題で疲弊している社会は、分かりやすく権力を象徴している警察に刃を向ける。その街のただ中で戦う彼らを誰も守ろうとはしない。
自らの弱さを認め、それでも最後まで刑事であらんとする様の描写はさすがウィンズロウ。一気にラストまで読んで、しばらく余韻から抜け出せなかった。 -
夏休みは伊吹山2合目にある、ロッジ山へ。
天気が悪く、外には出歩けなかったが、眼前に拡がる琵琶湖をテラスから眺め、終日本書を読んでいた。コーヒーを飲むこと、本を読むこと以外が無い、良い休日でした。 -
現在も深刻な麻薬問題を抱える米国の実態を凄まじい暴力の中に描いた一大叙事詩「犬の力」(2005)/「ザ・カルテル」(2015)/「ザ・ボーダー」(2019)。作家人生の集大成ともいうべき、この渾身の三部作によって、ウィンズロウは紛れもなく頂点に達した。アクチュアルでラディカル。麻薬に関わる者は全て死する運命にあるという暗鬱なる黙示録。現在進行形の鋭利な文体を駆使して生々しい諸悪を抉り出した現代ノワールの境地。どの作品もページを捲る手が白い粉と紅い血に染まっていくような錯覚に陥ったほどだ。現時点での最終作「ザ・ボーダー」に取り掛かる前に構想した本作は、馴染みの〝ウインズロウ節〟が炸裂する犯罪小説の延長線上にあるが、根幹に麻薬戦争を置いており、三部作を補完する作品といっていい。
「ダ・フォース」では、米国/麻薬取締局(DEA)とメキシコ/カルテルは登場しない。フォーマットは悪徳警官物だ。舞台はニューヨーク。物語は、ここから一歩も離れることはない。それだけに分厚い。富裕/貧困という歴然とした格差社会保持の潤滑油としても機能/蔓延する麻薬。吹き荒れる暴力の嵐。ウィンズロウは、通り名や店名などの固有名詞を執拗に列挙してリアリティを高め、汚れた街に生きる者どもの生態を克明に描写する。
主人公はNY市警マンハッタン・ノース特捜部(通称〝ダ・フォース〟)部長刑事デニス・マローン。叩き上げの刑事で、荒々しく狡猾。不条理な犯罪を憎みつつも、男を突き動かすのは、徹底して打算的なエゴイズムだ。そのために小さな綻びから破滅を招くこととなる。マローンは、冒頭で既に何もかも失った男として姿を現す。つまり長大な本篇は、男がいかにして転落の道を辿ったのかという記録なのである。
この街を浄化したいというマローンの理想/清廉さは、ニューヨーク最下層の現実を前に脆くも崩れ去り、体内から腐り切る利己主義へと変転する。焦燥と居直り。私利私欲を貪り、掴んだ権力を過信した果てに堕ちてゆく泥沼。すべては偽善と虚構であった、とマローンが気付く時には、何もかもが手遅れになっている。
本作で特に印象に残るのは、独善的な正義と悪を主人公と共有し、常に行動を共にする「マローン班」各々の関わり方だ。そこには仲間意識よりも、おれたちの縄張り/特権を守るためには不正/暴力を辞さないという閉鎖的で排他的な帰属意識がある。平然と大物麻薬ディーラーを殺し、莫大なカネに代わるヘロインを掠め取り、懐に捩り込む。共犯関係にあるマローン一味は、限界を超えた傲慢に起因する事件を機に崩壊し、強固であったはずの信頼/愛情から、不信/裏切りへと急転直下し、互いを憎悪する最悪の結果へと至る。己の命を捨ててでも〝友〟を守り抜くと誓った男たち。マローンは、それが幻想に過ぎなかったことを、追い詰められ、易々と国家権力に屈する己の甘さを前に痛感するのである。終盤で延々と続く羞恥心の吐露。アンチ・ヒーローの末路は憐れではあるが、敢えて読み手の共感を拒むが如く、作者は主人公を突き放し、正義と悪に境界など無いことを示唆して、物語を断ち切る。
快楽に通じる歪んだ自愛こそが人生の麻薬である。ウインズロウの達観は、さらに深まっている。