海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること

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  • 山と渓谷社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635062954

感想・レビュー・書評

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  • 科博の研究員さんの話。高校生の時に読んでいたら絶対に進路変わってたと思う。

  • 海岸にクジラ類が打ち上げられるストランディング、それは海獣学者にとって解剖の貴重な機会。死因から環境破壊を推測したり地味な研究を語る。

    実は日本国内では年間300件ほどのストランディングが報告される海洋国。ニュースを知ると現地に駆け付けて処分される前に解剖を依頼する。ご存知のとおり多くの海獣類は巨大な体躯。解剖はガテン系の肉体労働、臭いも凄いという。

    海の哺乳類の生体と環境を解剖を通じて探る学者の楽しい1冊。

  • 海獣学者の仕事は想像以上に肉体労働で、クジラのような大型生物の解剖では特にそうだ。そんな海獣学者の汗まみれの毎日が写真や図を見ながら楽しく読める内容の本である。

    扱っている海獣はクジラだけではない。アザラシやジュゴンなどに対する章もあり、海の哺乳類の分類についても勉強になる。

    興味深いのは、3章のストランディングについてだ。日本では年間300件近くも水中から陸に海の哺乳類が打ち上げられるとは驚きだ。

    環境の変化でストランディングが起きているのは間違いないだろう。海獣学者やクジラのことだけでなく、環境についても考えさせられる内容の本だった。

  • 世界一クジラを解剖している女性とも言われる海獣学者の著者の20年以上の研究生活をもとに、クジラ、イルカ、アザラシ、ジュゴンなどの海の哺乳類の生態を紹介するとともに、その海の哺乳類が海岸に打ち上げられる現象である「ストランディング」の謎に迫る。
    クジラなどの海の哺乳類や、解剖などを通じてその研究を行う「海獣学」の知られざる世界を垣間見られて、とても知的な面白さを感じる内容だった。クジラなどの解剖は悪臭などたいへん過酷な状況の中で行われていることを知ったが、そんな状況も気にならないくらい夢中になって解剖に邁進する著者などの研究者の姿に、一種の憧憬の念を覚えた。

  • 大動物の研究者には女性が多い、と女性研究者の著者が述べている。それにしてもクジラは心臓も消化管も、何から何まで大きい。悠々と海を泳いでいるはずの彼らが時々浜辺に打ちあがって命を落とす。なぜか。その理由にはまだまだ謎が残されているらしい。興味深い本でした。

  • 驚きがいっぱいの研究の現場をユーモラスに描いた好著。
    最近、生物系の研究者の肩の力が抜けた面白い本が多いなー

  • 打ち上げられたクジラの臭いって、ものすごいという話は想像するだけで… 一方でマッコウクジラの腸で作られる龍涎香(りゅうぜんこう)は、シャネルの5番だという。ぜひ嗅いでみたい!!鳥羽一郎の兄弟船のくだりには、思わず笑った。
    科博のレジェンド渡邉さんの話や尊敬する山田先生エピソードは、とても面白く羨ましくさえ感じた。
    「おうちで体験!かはくVR」これからは全く違う視点で楽しめそうだ。色々知ることができて良かった。

  • 海獣学者、クジラを解剖する。
    海の哺乳類の死体が教えてくれること

    著者:田島木綿子
    発行:2021年8月5日
    山と渓谷社

    著者は獣医学博士、国立科学博物館研究主幹、筑波大学大学院准教授。海の哺乳類の研究者。
    鯨類(クジラ、イルカ、シャチ)、鰭(き)脚類(アシカ科、アザラシ科、セイウチ科)、海牛類(ジュゴン、マナティ)に分けられる海の哺乳類(約5400種)について基本的なことを書いている本。読むと、こうした海獣たちについて、自分は基本的なことですら知らない、たぶん多くの人にも知られていない、そんなことを実感する。その前に、分かっていないことが多いというべきかも知れない。

    著者の主な仕事は、クジラが中心となるが、ストランディングした海獣を解剖し、記録し、標本を保存すること。ストランディングとは、クジラなどが海岸に打ち上がること。死んでいることが多く、自治体が粗大ごみとして処理する前に交渉し、解剖などをさせてもらう。腐敗臭が酷く、地元住民からの苦情もあるため時間との闘いでもある。生きているものは、地元自治体などと協力して海に帰してあげる作業もする。

    日本はクジラ大国で、世界のクジラ約90種類のうち、半数が日本近海にいたり回遊したりする。そして、ストランディングも多く、報告されているものだけで年間300件あり、ほぼ毎日どこかで上がっていることになる。連絡があると、取るものも取りあえず現地に飛ぶ。

    ストランディングしたクジラは危険で、不用意に近づいてはいけない。大型クジラの場合、皮下脂肪がとても分厚く、死ぬと体温が外に放熱されないため体内の腐敗がどんどん進む。放置すると、体内に繁殖した大量の細菌がガスをどんどん出して風船のように体が膨張、爆発する。YouTubeでもいくつかその映像がアップされているので危険を知る意味でも見て欲しいと著者は言う。

    骨格の標本はとても貴重。しかし、骨についたタンパク質や脂分を完全に取り除く必要があり、大型の晒骨機で何日も煮込む。豚骨スープを取る要領だが、クジラの骨のスープは食べることができないらしい。

    イルカとクジラは生物学的には同じ。一般的には、体長4メートル以下のクジラをイルカ、それ以上をクジラと呼ぶ。

    ストランディングの原因として今の段階で分かっているのは
    ①病気や感染症
    ②餌の深追い(夢中になって浅瀬へ)
    ③海流移動の見誤り(南から来たクジラが誤って冷水塊に入ってしまうなど)
    ○例外的な事例として、3.11発生の約1週間前の3月6日に茨城県でカズハゴンドウというイルカが50頭近く大量にストランディングした。2011年にニュージーランドでマグニチュード7クラスの大地震発生直前にも、ヒレナガゴンドウが100頭以上、ストランディング。

    大量のものを「マスストランディング」と呼ぶ。なぜそれが起きるのか?
    ・感染症
    ・地球規模の磁場の変化による進路の選択ミス
    ・頭蓋骨内に寄生する寄生虫が脳を破壊して群れ全体がストランディングする
    ・軍事演習による低周波ソナーに驚いて急浮上し、減圧症(潜水病)になる

    ストランディングした乳飲み子のクジラなのに、体内から海洋プラスチックが見つかった。衝撃だった。
    奇妙なことに、海洋プラスチックが発見される個体のほとんどは、胃の中がからっぽで餌が見つからない。通常は、餌生物の残渣であるイカのクチバシや魚の耳石、骨などが見つかることが多い。

    人と海獣のこんな話も。
    ミャンマーのエーヤワディー川では、漁師とカワゴンドウ(イルカ)が協力して魚を捕る。カワゴンドウが船近くまで魚を追い込み、尾ビレを水面上で打ち振って合図を送る。それを見た漁師が網を水面へ拡げて魚を捕まえる。カワゴンドウはおこぼれをもらう。
    これをするために4-5年かけてイルカと意思疎通を図るらしいが、なぜイルカが猟師と協力するのかという理由は分かっていない。イルカは自分で魚を捕ることができるのに、自分の分を人間に捕らせる理由が分からない。
    なお、カワゴンドウは淡水に来ても大丈夫。


    ***********

    海外の水族館で、セイウチを担当していた飼育員が、水中でじゃれついてきたセイウチを振りほどくことができずに溺死したケースがある。日本でラッコの飼育をしている飼育員でも、水の中で引っ張られると生命に危険を覚えることがあると言う。

    1種類の動物のある特徴を知るためには、最低30体は研究や調査に使う必要がある。

    クジラは「ヒゲクジラ」と「ハクジラ」の仲間に大別される。ヒゲクジラは口の中にヒゲ板が大量に生えているクジラ。
    スキムフィーディング(漉き取り摂餌)は、泳ぎながら口先を少し上げるだけでオキアミや動物性プランクトンが海水とともに口の中に入ってくるが、ヒゲをフィルターにして餌だけを口の中に残し、海水を外へ排出させる。
    ボトムフィーディング(底質摂餌)は、海底の泥の中にすむカニやヨコエビなどを、口の右側を海底につけてから吸い込み、上に向けた左側から泥と海水を吐き出す。口の中に餌だけ残る。
    エンガルフフィーディング(飲み込み摂餌)には、有名なバブルネットフィーディングも含まれる。

    ストランディングしたクジラは遺伝子を調べ、個体同士の血縁関係を判定する。オウギハクジラを分析すると、日本海側にはどうやら大きな二つの母系集団(母親の先祖が二つのグループで構成)があることが分かった。

    シャネルの5番は、マッコウクジラの腸から発見される「結石」で作る。「龍涎香(りゅうぜんこう)」といい、マッコウクジラからしか見つかっていない。発見できる確率は100頭ないし200頭につき1頭。
    マッコウクジラの脳油は食用、燃料用、薬用に活用された。なぜマッコウクジラだけが龍涎香と脳油を持ち合わせているかは解明されていない。

    通常のヒゲクジラは、10-39ヘルツの鳴き声だが、かつて「52ヘルツのクジラ」と呼ばれるクジラがいた。1989年にアメリカの研究チームにより発見。他のクジラには聞こえないはず。「世界でもっとも孤独のクジラ」と呼ばれるようになった。それでも成長の軌跡が記録され、1シーズンに移動した距離は最長で1万キロを超えるシーズンもあった。現在は行方不明。

    シャチはビッグママ1頭を中心とした母系社会をつくり、その一つの群れをポッドと呼び、ポッドごとになまりや方言がある。各ポッドは数頭から十数頭、交尾の季節になるとポッドが大集結してスーパーポッドになり、お見合いパーティをして近親交配を防ぐ。

    日本沿岸では
    アザラシ科は、ワモンアザラシ、ゼニガタアザラシ、ゴマフアザラシ、クラカケアザラシ、アゴヒゲアザラシの5種。
    アシカ科は、トドとオットセイの2種。

    「分解されにくい」「蓄積されやすい」「長距離移動性がある」「有害性がある」化学物質のことをPOPs(残留性有機汚染物質)と総称する。POPsは、食物連鎖を介して小さな生物から大きな生物へと移行し、そのたびにどんどん濃縮される。海の食物連鎖の頂点に位置するクジラやイルカなど哺乳類は、高濃度にPOPsを含んだ餌を日常的に口にしていることになる。それに加えて直接POPsを飲み込んでしまう。

  • 国立科学博物館でクジラなど海の哺乳類の調査や研究をしている研究者のフィールドワーク記。

    フィールドワーク系の研究者のエッセイは好物。最近の研究者は文章も上手!バード川上さんやダイナソー小林さんのエッセイはとてもおもしろいし、どちらも女性研究者による「キリン解剖記」「もがいて古生物学者」もおもしろかった。

    クジラやイルカなどが海岸に打ち上げられる「ストランディング」の連絡がくると、日本各地の海岸に駆けつける。生きているものは救おうとし、死んでいるものはニオイと戦いながら解剖し、部位を回収し、死因や生態などを調査する。体力と精神力勝負。ガテン系。

    クジラの解剖に使う大包丁の大きさ。骨格標本のために骨を煮込む鍋の大きさ。クジラが大きいがゆえの面白くも大変なエピソードが満載。クジラ愛が伝わってきて、応援したくなる。

  • 骨格標本が好きな私にとっては非常に読んでいて楽しい本だった。将来は標本をつくる業者に就職したいと思った。
    直近では科博にいってみたい。

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著者プロフィール

田島 木綿子
国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹、筑波大学大学院 生命環境科学研究科 准教授。博士(獣医学)。
1971年、埼玉県生まれ。1997年 日本獣医生命科学大学(旧・日本獣医畜産大学)獣医学科を卒業後、2004年 東京大学大学院 農学生命科学研究科にて博士(獣医学)取得、同研究科の特定研究員を経て、2005年からアメリカにあるMarine Mammals Commission の招聘研究員として、Texas大学医学部(Galveston, TX)とThe Marine Mammal Center(Sausalito, CA)に在籍。2006年 国立科学博物館 動物研究部 支援研究員を経て、現職に至る。

「2021年 『海棲哺乳類大全 彼らの体と生き方に迫る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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