ベルリン1945

  • 理論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (655ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784652077993

感想・レビュー・書評

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  • 『ベルリン1919』『ベルリン1933』に続く三部作完結編です。『ベルリン1919』の主人公ヘレとその娘エンネ、『ベルリン1933』の主人公ハンスとその恋人ミーツェ、その他大勢の登場人物のその後が明かされます。20世紀前半の激動のベルリンを彼らと駆け抜けてみてください。

  • 東からソビエト軍が迫り、西からわ米英軍が迫る大戦末期のベルリン。労働者階級のゲープハルト家の孫娘のエンネの眼から見た敗戦直前と直後のベルリン。米英軍の空襲にベルリンの市街は廃墟となった。そしてソビエト軍がやってくる。ナチに賛同していた人が一転としてソビエト軍にすりよる。人間の汚く嫌な面をいやというほど見た。自由の為に戦って強制収容所に入れられたエンネの父のヘレ(ヘルムート)は12年に及ぶ収容所生活からようやく解放されてアッカー通り37番地に戻ってきた。しかし実際にいままで見たことのない父親をお父さんと思えるのかと悩むエンネ。

  • 転換期三部作、どれも大変面白かった。ひとりでも多くの人に読んで欲しい。

  • そうか、こんなふうに終わるのか・・・なかなか希望は見えないけれど、でも、戦争のない初めての春、春は希望。それが少女が主人公の1945かな。まだまだベルリンの試練は続くことを知っている私達にも、ちゃんと生きて自分の頭で物事を考えて、自分で責任を取る大人になることを教えてくれる。ハイナーの最後は悲しかったな、違う未来はなかっただろうか。マルタがね、最後まで和解はできないのだけれど、でも、両親や減れとも行き交う関係になっていくところが、とても、家族らしい、絵空事ではないものを感じさせてくれてほんのりした。

  • クラウス・コルドンによる「転換期三部作」の第三作。
    原題『はじめての春』『Der Erste Fruhling』

    三作目は、ヘレの12歳になった娘のエレネの視点を通して物語がすすんでいく。

    1945年のベルリンは戦争を初めて6年目。ベルリン市内は大部分が頻発する空襲で破壊され、ソ連軍が迫っていた。

    空襲警報があると、人々は地下室に逃げ込まなければならない。そこにはアパートに住む人々の人間模様が表れる。
    エンネは、本当は祖父母であるルディとマリーを父と母と思い、成長していたが、ある日ふたりが祖父母であり、本当の父母は収容所にいることを知る。(おじいパとおばあマ)母はすでに亡くなり、父の帰りを待つ。とはいえ、彼女は両親の顔すらわからない。

    ある空襲の夜、地下室から戻ると、部屋にメッセージがあり、叔父のハインツが脱走してきていた。
    おじいパをつけ、ハインツのかくれがを知るエンネ。
    脱走したハインツは、みつかれば銃殺もまぬがれない。
    そんな逃亡に助け船を出してくれたのが、ハンスの恋人のミーツェおばさんだった。ハンスは4~5年前に亡くなっていた。
    ハインツに会いに行った帰りに、エンネとおばあマは空襲に遭い、おばあマは顔に大きな怪我をする。
    同じ空襲でアッカー通りの37番と38番のうちのいくつかの棟が炸裂弾に辺り被害を受ける。地下室に閉じ込められてしまう住民たち。だがおじいパは無事。
    その後、ソ連軍の侵攻してきて、町は砲撃が続く。住民はまたしても地下室の防空壕に缶詰めになる。
    最終戦争は、ちょうど通りの真向かいに陣取ったソ連軍に対抗すべく36,37,38番にたてこもるドイツ軍。といっても残党。そこに逃げ込んでくるヒトラー・ユーゲントの少年、負傷兵。最後まで気を吐く少尉。
    1945年5月2日水曜日
    とうとう、ベルリン陥落。
    ソ連軍が街に入る。

    P210死ぬよりつらいことがあると。それなのに、なんでがんばらなくちゃいけないだろう?

    P366「まだ読めるわ。本のない住まいなんて、笑いも夢もない人とおなじよ」おばさんはそういった。

    P410「なにもかぎたくなければ、なにもにおわない!」お父さんはまた立ちあがって、台所を歩きまわった。

    P412「だけど、見て見ぬふりすることこそ最悪だ」お父さんは絶望的になっていった。

  • ひたすら防空壕の中で耐え忍ぶシーンが恐ろし過ぎる。

  • 1945年のベルリン、12歳のエンネは英米軍の空襲に日夜脅かされる日々を送っていた。ヘレの娘が主役の転換期三部作の最終作。

    空襲が終わると、進攻して来たソ連軍との市街戦が始まった。運よく建物が残った37番地は立てこもったナチスのせいでなかなか地下防空壕から出られず10日も満足にものを食べていない。それでも脱走してきたハインツおじさん(ムルケル)や戦争が終われば強制収容所に入れられた会った記憶のないお父さんにも会えるかも知れない、人々はソ連兵の残虐行為に怯えながらも終わること、解放されることに期待している。ナチの同調者だったザウアーやちびのルツ、マルタのような人々は戦争が終わる頃になると、自分は騙されたから助けてくれとこびへつらうようになる。

    エンネは生まれてからずっとヒトラーの時代に生き、それが崩され去ろうとしている今、自分の人生が嘘で塗り固めたものであることが徐々に分かってくる。父母は祖父母で、本当の両親が共産主義活動でナチに不当逮捕され強制収容所に入れられ、母は死に、父も生死が分からないこと。大好きなミーツェおばさんがユダヤ人だったこと、ハンス叔父さんがなぜ亡くなったか、祖父母にマルタという娘がいたこと、色々なことを見てきた彼女はきちんと知ろうとする年齢だ。学校で教わってきたことも嘘だということが分かってくる。

    父ヘレが帰ってきて、かつてのルディのように変わり果てた姿にエンネは戸惑い、なかなか打ち解けられないし、そのことに罪悪感を感じて居心地が悪い。最終章はそんな二人が徐々に絆を深めていく様子や、ハイナーが語るロシアでの理想への絶望、ミーツェとヘレの恋愛など戦争は一旦は終わったような気もするけど、スターリンの脅威が迫っている。

    理想は費えたかのように思えるのに、へこたれないヘレの楽観主義に人はそんなに強くいられるんだろうかと一巻の最後で彼に感じた希望が繰り返し示されることに少し怖く感じた。その後の彼の変遷の記述を見ればそれは徒労なんだけど、人々との間に出来た溝や穴が多すぎて彼のまぶしさは本当に人々を幸せにするものだろうかとなぜだかぞっとしてしまったのだ。

    ずっとこの少数派の一家の歴史を見てきたけれど、やっぱりハンスが亡くなった事がすごく切なくやりきれないと共に、彼の生き方を誇らしくも感じた。それはたぶんこういう事態に陥ったとき、一番自分がこうありたいという理想に彼が適っているからかもしれない。それに二巻で主人公だった、一巻のあのハンス坊やが、と思うとつらい。
    後のことはあれだけれども、大好きな登場人物ハイナーが生きていたことも嬉しい。シェンクばあさんのことは切ないけれど。

    架空の少数派の一家だけれど、彼らを通してイマイチ見えてこなかった戦前のワイマール共和国やナチの台頭前後、ソ連軍の略奪以外の政治的な戦後など学ぶところが多かった。そしてドイツと自国の重なる状況、違いも。
    ヒトラーへの抵抗で共産主義者が評価されないことについて、もっと共産主義について知りたいと思った。ロシアの恐ろしい側面や日本赤軍、一方で共産党の理想的な選挙文句(ただし最終目標は革命)という少ない情報でもやっとした終わったイメージが形作られてしまっている。学園紛争後に青春を迎えた父母たち世代の否定的な視線もあるのかもしれない。でも歴史を少しでも自分の考えで正しく理解したいという欲求がこの本によってまた頭をもたげた。

    あとがきでゲーリングの言葉を引用している。
    「民主主義で自分達の代表を選んだアメリカでは宣戦布告できるのは議会だけだ」と言う心理学者に対して、
    ゲーリングは「国民に参政権があろうが無かろうが指導者の命令に従わせることは簡単だ。攻撃されたと国民に伝え、平和主義者を愛国心の欠如で非難し、彼らが国を危うくしていると主張すればすむ。これはどんな国でも有効だ」と。
    全くそのとおりだ。まるでイラク戦争のことを言ってるように見える。いや、太平洋戦争でも同じか。カールとローザが生きていたら本当にドイツ共産主義は理想のまま変わらなかっただろうか、この心理学者のように今でもアメリカの理想を見失っていない国民はいるんだろうか、過去から現代へ想いをはせると色々な思いの人々に触れ自分が歴史の流れの上にいることを強く意識させられ、胸がいっぱいになる。この分厚くも読みやすい本たちに描かれていることは私の中のベルリンの風景としてずっと胸に残るだろうな。

  • 二週間くらいちょこちょこ読んで、きのう読了。コルドン「ベルリン三部作」最終巻。
    マルタの登場に、ああやはりこうなってしまうのか、と思う。ヘレのことばはたしかに「正しい」、けれど、同時にマルタのことばにも真実がふくまれている。ヘレは兄、ムルケルは弟、そしてマルタは妹だから。マルタはきっと謝らずにはおれないだろう。でも、ナチを生んだドイツであろうとソ連に対して不正を不正という必要があるというなら、マルタにもヘレに、せめてひとことでも言い返させてあげてほしかった。ギュンターの妻でなく妹として、いつでも邪魔者として置いていかれた者として。
    とはいえ視点人物は十二歳のエンネ。これまでの二作と違い女の子だからか、それとも時代がそれだけ下ったせいか、おじいパの「教育」はそれほど色濃くない。明るい時代をしらないこどもは、これからをどう生きていくんだろう。
    冷戦を予感させるソ連とアメリカの支配体制の違い。ソ連のうしろ暗さ。ベルリンの物語は、まだまだつづく。

  • 1945年。ドイツが戦争を始めて6年目。ソ連軍、英米連合軍が迫るベルリン市内には尚、250万人の人々が生きていた。日夜空襲を受け、市街地の大部分を破壊され、それでもナチ政権は断固抗戦を唱えた──。

    ベルリンのヴェディンク地区、アッカー通りのアパートで祖父母のルディとマリーによって育てられたエンネは12歳になっていた。
    米英軍の空襲とソ連軍との市街戦から逃げ惑い、何よりナチに支配された日々は5月7日、ドイツの無条件降伏・ベルリン陥落によって終わりを告げ、そして、強制収容所から父親ヘレが生還する。
    遠くへ去ったまま還ってこない人々。ファシズムに抵抗し殺された家族。戦後の混乱の中で出会う不幸。自由だけど孤独な子どもたち。支配され、蹂躙され、破壊され、失ったものはあまりに多く、取り戻せるものは少なすぎた。しかし、希望を失っては生きてなど行けない。
    12年間の空白を越えて、エンネとヘレは瓦礫と廃墟の町、その空に、ピンク色の凧を飛ばす。
    それは、彼女が生まれて初めて見たベルリンの、本当の春だった……。
    共産主義者を貫いたヘレ。ナチへの抵抗運動に身を投じたハンスと恋人ミーツェ。豊かな生活を望み、突撃隊員と結婚したマルタ。成人し、出征したムルケル。過酷な時代を生きるゲープハルト家三代に渡る人々を軸に描いた「転換期三部作」完結編。原題は「はじめての春」。

    1919年のドイツ革命から第二次世界大戦の終わりまでを描く「転換期三部作」ゲープハルト家の物語はこれで終わりですが、ドイツはこの後東西分裂し、その象徴であるベルリンの壁が崩壊して1990年に再び統一国家となるまでに、更に長い時間を要するのです。

  • 転換期3部作の3作目。

    時は1945年春、舞台はベルリン。
    ドイツの敗北が決定的になる中、ナチス独裁政治・戦争によってバラバラになっていたゲープハルト一家とそれに繋がる登場人物たちが、長い離散の末再会する(もちろん、二度と再会できない人物も多い)。
    しかしその再会は単純に喜ばしいだけのものではなかった。
    戦争とナチス独裁政治を、それぞれが生き延びる中で身に付けたものの考え方、見方、立場、人生観・・・、多くのことが違ってしまった。
    たとえ血縁といえども、埋めるのには時間のかかる溝が出来てしまっている。
    それでも分断され、荒廃した祖国を復興させる、あるいは自分たちの生活を取り戻すという希望だけは一致している。それは一筋縄ではいかないことは分かっているが、「希望をなくしたら、人生おしまい」。

    このような終戦直前、および直後のドイツの民衆がおかれた混沌とした状況を、第1作目の主人公、ヘレの娘であるエンネの視点から描く。
    エンネ自身、ナチスが政権を掌握した以降に物心がついた世代なので、彼女の目線ももちろんある種の色眼鏡がかかっている状況である。
    その彼女が、このドイツに起こったこと、周りの人間に起こったことを理解していこうとする姿勢を通して、読者はこの時代の雰囲気を理解していくことになる。

    この3部作は、YA文学の位置づけを与えられている。
    自分が高校生くらいの時に、たとえばこの本を読んでいたら、どう感じていただろうかと、誰の立場に肩入れしただろうかと、少し時間を巻き戻したい気になった。

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著者プロフィール

著者 クラウス・コルドン(1943~)
ドイツのベルリン生まれ。旧東ドイツの東ベルリンで育つ。大学で経済学を学び、貿易商としてアフリカやアジア(特にインド)をよく訪れた。1972年、亡命を試みて失敗し、拘留される。73年に西ドイツ政府によって釈放され、その後、西ベルリンに移住。1977年、作家としてデビューし、児童書やYA作品を数多く手がける。本書でドイツ児童文学賞を受賞。代表作に『ベルリン1919 赤い水兵』『ベルリン1933 壁を背にして』『ベルリン1945 はじめての春』の〈ベルリン3部作〉などがある。

「2022年 『エーリッヒ・ケストナー こわれた時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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