戦艦大和と一万二百個の握り飯

著者 :
  • 柏書房
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784760151462

感想・レビュー・書評

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  • 12月8日に合わせて読んでみた。
    誰もが知っている「戦艦大和」の誕生から最期までを、もうひとつの動力源である「飯炊き兵」たちの視点から語るドキュメント。
    「主計員」という最下層の兵から大和がどのように見えていたか。
    旧軍での生活がどのようなものであったかを、プロのライターさんが怜悧な文章で描いている。
    大和に乗艦した人々や戦中戦後の生活を送った人々の生の声も多く載せてあり、その語り口は非常に平明で読みやすい。
    当時の写真も掲載され、巻末には一次資料の参考文献もある。

    人がいれば必ず食餌をとる。
    それは平時でも戦いのさなかでも変わらない。
    そんなことを一度も思わなかった自分が、むしろ不思議でさえある。
    2300人×朝昼晩=6900食分を賄う大厨房が、大和にはあったという。
    最大時には3400人を超えたこともあるというその食の内容と、供する際の苦労や工夫が事細かにしるされる。

    風呂釜のような炊飯器や食器の画像もあり、更には献立表まである。
    一日の総カロリーが3300カロリーと聞くと、いくら何でも摂取量が多すぎかと心配してしまうが、現代のような食事内容ではない。
    日露戦争時に海軍さんに脚気患者が急増したため主食は麦飯で、それも漫画のようなてんこ盛り。あとはみそ汁と漬物程度。
    もちろん粉末の出汁など、この頃はない。
    前の晩から水にいりこを投じて出汁をとり、出汁をとった後の昆布や削り節も天日干ししたのを醤油で煮しめて箸休めにしたという。

    入港中でもお風呂は週二回の海水風呂だったとか、真水は浴槽につかる前と身体を洗う際と最後の流しの3杯のみ。「武蔵」には対空レーダーや航空通信設備があったが大和にはなかったとか、
    いやそれよりも圧巻なのは「一万二百個の握り飯」の章以降だ。
    すでに戦況は悪化の一方で、実戦のさなかでも「戦闘配食用意」が発令されれば何が何でもやらねばならない。
    「戦闘配食」とはつまり「お握り」で、これを手で握って竹皮に包んでいく。
    消毒して海水に浸けた軍手をして握ったというが、低温やけどで真っ赤に焼けたらしい。
    しかもこれを、刻々と変化する戦況の中で「各班から受け取りに来るか、来られない場合は主計兵が配達する」という。更に配達も不可能な時は適当な場所に握り飯を置いたというのだ。7層にもなっている大和のデッキを、上に下に、右に左にと走り回ったということだ。
    血みどろの戦いのさなか、どれほどの緊張感をもって任務を遂行したかは想像に難くない。

    1945年4月7日、沖縄戦で最期を遂げた大和だが、その昼食は「銀シャリの握り飯」。
    銀シャリが出ると聞いただけで兵員は万歳三唱したとある。
    おそらくは生きて帰れまいと皆が知っていた、「ハレの日」の銀シャリだ。

    それを愚かしいと笑うひともいるだろうが、フラットな視線でお読みあれ。
    ここに書かれたのは賛美でも批判でもなく、細かな取材に基づいた事実である。
    そして、戦争が終わっても食べるための戦いは続いていった。
    大和生存者のうち、主計科は10名ほどだったという。
    今ではもう知ることも出来ない人間のドラマがここにある。読み応えのある秀作。

    • nejidonさん
      goya626さん、こんばんは(^^♪
      これは図書館にリクエストして購入してもらった本です。
      想像のはるか上を行く凄い本でした。goya...
      goya626さん、こんばんは(^^♪
      これは図書館にリクエストして購入してもらった本です。
      想像のはるか上を行く凄い本でした。goya626さんにもお勧めです。
      大和の機関部ですか?!それは何という奇遇でしょう。
      ああ、私もお話を聞きたかったですね。。
      2019/12/09
    • 地球っこさん
      nejidonさん、おはようございます♪
      胸に迫るレビューありがとうございました。
      私には「ハレの日」の銀シャリの万歳三唱を愚かしいなど...
      nejidonさん、おはようございます♪
      胸に迫るレビューありがとうございました。
      私には「ハレの日」の銀シャリの万歳三唱を愚かしいなどと笑うことなど出来ません。
      最近つくづく思うのは、賛美や批判などなくとも綿密な取材や研究などを通して著者の真摯な姿勢で記された事実であれば、人の心を揺り動かすことができるということです。
      事実が一方からの賛美や批判、そして虚飾や欺瞞に覆われることによって、本当に伝わってほしいこと、本当に考えなければいけないことが曖昧にされているのでは。
      そして、私はそれをすぐに信じてしまう。

      事実を知ることは、もしかしたら打ちのめされることの方が多いのかもしれません。
      それでも事実を知り、そして自分の頭で考えること、それがとても大事だなと思っています。
      事実はどんなに隠されても淡々と存在しているもの……かな。
      nejidonさんのおっしゃる「フラットな視線」を意識したいです。
      なんだかまとまりのないものになってしまいましたが、nejidonさんのレビューにはいつも考えさせられます。
      ありがとうございました(*^-^*)
      2019/12/10
    • nejidonさん
      地球っこさん、こんばんは(^^♪
      温かいコメントをいただいて、胸がジーンとしてしまいました。
      このような本はレビューが難しいし、コメント...
      地球っこさん、こんばんは(^^♪
      温かいコメントをいただいて、胸がジーンとしてしまいました。
      このような本はレビューが難しいし、コメントも更に難しいかと思います。
      ええ、まさかいただけるとは思いもしませんでした・笑

      レビューにも載せた通り、「飯炊き兵」から見た大和のドキュメントです。
      俯瞰した視点。豊富な資料。あくまでも冷静な語り口。
      取材を元に描写したとはいえ、現場の有様がはからずも迫力を生みだしている点。
      これまで読んできた大和関連の本の中ではこれが一番かと。
      そこを、フィルターをかけずに受け止めて欲しくて、あえてあの一行を入れました。
      私は、ドキュメントと知りつつ読んだのに、最期の場面では泣けてしまいました。
      現在の価値観で安易に裁くべきではないと、つくづくそう思います。
      知らないことが多すぎるからです。
      仰る通り、事実を知ることが大切ですよね。
      ひとは信じたいものを信じてしまうので、事実を前にしても受け入れる覚悟は必要ですが。。
      この本、まだどなたもレビューを載せていません。不思議です。
      もしも手に取る機会がありましたら是非ご覧になってくださいませ。
      「読んだよー」と教えてくださったら、本当に嬉しいです♡♡♡
      こちらこそ、ありがとうございました!
      (手違いで削除してしまったので、もう一度載せました)
      2019/12/10
  • ブク友さんのレビューで知って。
    めちゃ面白かった。
    歴史に造形の深くない私のようなものでも、こんな食餌を切り口とした話はすらすら読める。視点が面白かった。

    〇一隻の強力な戦艦があれば、多数の劣性能戦艦をすべて排除できる。当時の常識であり、そう考えられ、造り上げられた戦艦が「大和」なのである。(p15)

    ☆大きければ大きいほどよい。砲撃が来ないところから一方的に打撃が与えられるように、遠くに飛ばせたほうが良い。日本には今までの成功体験があったから、ここから切り替えることができなかった。

    〇大和の竣工乗員数は二千三百名。これだけの人数の食餌を朝・昼・晩、作らなければならない。(p21)

    ☆そりゃそうだ。それにしてもすごい量。陸軍は食餌作りも持ちまわりだったが、海軍は「烹炊(ほうすい)」と呼ばれる食餌作り専門の兵がいたという。道理で海軍の食餌はおいうしいと言われるわけだ。
    食事と食餌の違いが・・

    〇「命令を発する者」が士官であり、「命令を実行する者」が兵である(p74)

    ☆こういう初心者にも分かりやすい解説がありがたいし、面白い。

    ☆一人6合の米(麦飯)それを二千人分。配食棚にスチームが通っていてごはんが冷めないとか、心配りもすごい。

    〇洋上では蒸留器を利用しなければ飲用水は得られない。(p94)

    ☆海水を沸かして蒸気から真水を得るのだという。沸かすには金がかかる。重油燃料。貴重だったろう。資源が豊富な国とこういうところでも差が付きそうだ。

    〇一食二合分の飯を三つに分け、人数分、手で握る。(p172)

    ☆乗員三千四百名。戦闘時、これを百人で握るとすると、一人百個!!!
    消毒して海水につけた軍手で握ったそうだ。熱さで低温やけど。竹筒に詰めて、出てきた側を包丁で切るとかの方法もあったらしいが、結局握るのが一番楽だよね。うん・・。

    • nejidonさん
      えりりんさん、こんにちは(^^♪
      この本、お読みいただいたのですね!!嬉しいなぁ。
      レビューは私がひとり目で、えりりんさんが二人目です。...
      えりりんさん、こんにちは(^^♪
      この本、お読みいただいたのですね!!嬉しいなぁ。
      レビューは私がひとり目で、えりりんさんが二人目です。
      すごく面白いのになかなか広まらなくて残念です。
      図書館で借りたのですが、返却するときに司書さんに「すごく良い本なので
      お薦めです!」と言って笑われて帰りました・笑
      呉市の記念館にも行ったことがありますが、ミニチュアでも圧倒的な
      迫力でしたよ。
      GHQの過激な粛清でこんな技術も葬られてしまいましたが、もったいなかったですね。
      こんなコメントが出来る平和な時代で、本当に良かったです。
      「わが指のオーケストラ」も興味深いです!
      2019/12/26
    • えりりんさん
      nejidonさん♪
      ありがとうございます!
      ずっとお話したいなあと思っていました。
      嬉しいです。
      本当、とっても面白いのに、レビューが少な...
      nejidonさん♪
      ありがとうございます!
      ずっとお話したいなあと思っていました。
      嬉しいです。
      本当、とっても面白いのに、レビューが少ないのですね。そんな中この本を見つけられたnejidonさん、すごいです!
      とても興味深く読ませていただき、私も周りの方に勧めました笑
      司書さんではありませんが♪
      呉市の博物館、また行ってみたいです。
      わが指のオーケストラ、ありがとうございます。
      漫画でしかも3巻完結なのですぐ読めます。
      2019/12/26
  • ふむ

  • 仕事の資料として読んだもの。

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著者プロフィール

東海大学物理学部卒。高校の物理教師を経てSF作家、ライターとして幅広く執筆活動中。著書に『ゼロ戦の操縦』、『自分でつくる うまい!海軍めし』(共著)、『戦艦大和3000人の仕事』などがある。

「2018年 『航空戦全史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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