文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫 ダ 1-2)
- 草思社 (2012年2月2日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794218797
作品紹介・あらすじ
世界史の勢力地図は、侵略と淘汰が繰り返されるなかで幾度となく塗り替えられてきた。歴史の勝者と敗者を分けた要因とは、銃器や金属器技術の有無、農耕収穫物や家畜の種類、運搬・移動手段の差異、情報を伝達し保持する文字の存在など多岐にわたっている。だが、地域によるその差を生み出した真の要因とは何だったのか?文系・理系の枠を超えて最新の研究成果を編み上げ、まったく新しい人類史・文明史の視点を提示した知的興奮の書。ピュリッツァー賞・コスモス国際賞受賞作。朝日新聞「ゼロ年代の50冊」第1位。
感想・レビュー・書評
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長かったけれど大変面白かったです。
現代の国家間の裕福の違いは、異なる人種の差ではなく、
その地の環境や存在した動植物の種類によるもの。つまり運だという。人種に優劣は無いという結論には大賛成。
何故4大文明が生まれ、ヨーロッパと中国が発達したかは、大陸を通して比較的温暖な環境で変化が少ない東西に伸びたユーラシア大陸のおかげ。人間の進化を地球規模で解き明かしてくれた、この本に感謝。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
長すぎました。
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下巻は結論から絞っていく
なぜヨーロッパ人ひいてはユーラシア大陸の人類が征服者となり、主導権を握れたのか
ポイントは4つ
①栽培化や家畜化の候補となりうる動植物種の分布状況が大陸により異なっていた
ユーラシア大陸は家畜化や栽培可能な野生動植物が多様で、食料生産をより効率的におこなうことができた
食糧生産の実践が余剰作物の貯蓄を可能にした
つまりその余剰が非生産者階級の専門職を養うゆとりを生み出し、大規模集団の形成を可能とし、技術面、政治面、軍事面で有利となった
また家畜化できる動物が多かったため、人や荷物を運ぶ運搬する手段、さらには他地域へ侵略する際の戦闘用にも役立った
②伝播や拡散の速度
東西方向に伸びるユーラシアの陸塊が有利に
生体環境や地形上の障壁が他の大陸より少ない
アフリカ大陸や南北アメリカ大陸は南北方向のため、障壁が大きい
(例:南北アメリカ大陸→アマゾン川、砂漠、ジャングルにより地理的に分断)
③異なる大陸間での伝播の影響
地理的に孤立している大陸は不利
ユーラシア大陸から遠い、南北アメリカやオーストラリアなど
④大陸の大きさと総人口の違い
面積の大きな大陸や人口の多い大陸では、何かを発明する人間の数、競合する社会の数、利用可能な技術…などが相対的に多い
(ユーラシア大陸は社会の人口密度が高く、労働の分化や専門化が進んだ)
一部重複するが、他にも下記要因がある
・ユーラシア大陸は、定住生活が比較的早くからはじまった
・ユーラシア大陸は家畜化できる動物が他の大陸より多かったため、動物のかかる感染症が変化して人間がかかるようになった
しかしながらそのおかげで病気に対する免疫や遺伝性の抵抗力が(他の大陸より早く)自然に出来上がっていた
・特定の宗教を国教と定め、政教の結びつきを利用して征服戦争を正当化し政治的複合体を形成できた
・ユーラシア大陸は多くの国家で読み書きできる官僚がいた
理由としては、食糧生産とともに文字は発達した(納税の記録や、国王の布告、さらに文字は交易を通じて広がった)
そのため食糧生産が早くからさかんなユーラシア大陸は文字の伝播も早かった
そして下巻の中で一番気になったのが
ユーラシア大陸と似たような恵まれた条件の中国がなぜ主導権を握れなかったのか
東西方向に比較的ゆるやかな地形が続く中国
異なる地域を結ぶのに黄河と揚子江の水系が利用され、文化的及び政治的に統一されやすかった
食糧生産も早い時期に始まり、地形や環境の変化に富み、多様な作物や家畜や技術が誕生している
世界最多の人口を誇り、広大な土地を有している
著者の意見として、中国は国全体が政治的に統一されている このことがかえって裏目に出たという
何かを取りやめると国全体の流れが変わる…
そのため技術や文化が後退しやすい
そして比較的孤立している
この辺りはかなり興味深いのだが、いまいち納得のいく結論がなかったため、もう少し掘り下げて今後の個人的なテーマとしていきたい
結局のところ人類の能力などに差があるのではなく環境の差でしかないのだ
たまたま運よくユーラシア大陸に居たヨーロッパ人が恵まれていたがために傍若無人な振る舞いをし、
先住民を絶滅に追いやり世界を牛耳ることになったのだ
知れば知るほどこの理不尽さになんともやりきれない気持ちになってしまう
もっと身近なところにもたくさんある
恵まれた環境の人たちと、そうではない人たち…
あああ、何とも虚しい(嘆いたところで何も変わらないのだが…)
上下巻ようやく読み終えることができた
決して読みにくいこともわかりにくいこともないのだが、結論までがとてもとても丁寧で(笑)…
読む時間がなかなか取れない身としては、いったい何の話だったか都度都度テーマを確認しないと迷子になる
もちろんトピックによっては実に興味深いものもあったのは事実
面白かったのか微妙であるが一時間度は読んでみたかったのでおおむね満足である
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ハイジさん、こんばんは~
積読本ランキングですか! おもしろすぎ!
そういえば、うろ覚えなんですが、以前、作者が講師になって、野...ハイジさん、こんばんは~
積読本ランキングですか! おもしろすぎ!
そういえば、うろ覚えなんですが、以前、作者が講師になって、野外授業スタイルでアメリカの大学生(高校生かも)に講義をしていたNHKの番組をみた記憶があるのですよね。着眼点がおもしろかった覚えがあります(ちがってたらごめんなさい 笑)。
ノンフィクションなので、ハイジさんのアドバイスに従いながら、小説的な読み方というより、ざっと全体をながめつつ、繋がりやポイント重視で眺めてみようと思います。もちろんハイジさんのレビューを参考にさせてもらいますね。
いまから楽しみです♪
あ~でも手元に山のように積読本があっていまにも雪崩そうです……いまにはじまったことではないので、まっ、いいか!(汗)
追伸・またkuma0504さんのレビューも楽しみにしてますね~
2022/09/29 -
kuma0504さん
こんばんは
はいもちろんOKです!
積読本たちと一緒に首を長くしてお待ちしてます
どんな方向から攻められるのか楽しみで...kuma0504さん
こんばんは
はいもちろんOKです!
積読本たちと一緒に首を長くしてお待ちしてます
どんな方向から攻められるのか楽しみです(^ ^)2022/09/29 -
アテナイエさん
野外授業いいですね♪
日本はそういうの少ないから…
積読本の雪崩…
妄想したらクスクス笑えてきました
私も読みたい本が順番...アテナイエさん
野外授業いいですね♪
日本はそういうの少ないから…
積読本の雪崩…
妄想したらクスクス笑えてきました
私も読みたい本が順番待ちしているので、こちらも本たちが並んでいるところを想像したら可笑しいです(笑)
2022/09/29
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なぜ中国では無かったのか。
環境に依存した発展が中東やアジアを置き去りにした。
人類史に対する考え方の一つである。
これからはどうか。
時間が経てばまた評価は変わる。
新たなことが解れば、思考は常に使い捨てだ。
そして、その踏襲が人類史を描くのだ。
読了。 -
「銃・病原菌・鉄」上下巻、読み終わりました。
非常に勉強になりました。
アメリカ大陸にヨーロッパ人たちがやってきた時、彼らが原住民の文化を駆逐することになった直接の原因は、ヨーロッパ人が「銃・病原菌・鉄」を持っていたから。
…ということで付けられたタイトル。
読み始める前までは、なぜヨーロッパ人たちが、銃や病原菌や鉄を持っていたのか、という小さい問いに答える内容なのかと思っていたんですが、さらに広い科学的考察の数々を知ることができました。
アフリカで生まれたと思われる「人類」が、どんなタイムスケールで各大陸や島々に渡っていったのか。
そこで暮らす人々が、どのように食糧生産を始めたのか、始めなかった場所ではなぜ始めなかったのか。
考古学的な考察や、遺伝学的考察に加えて、言語学的な考察も加えて、各大陸での人々の暮らしがどうなっていったのか、それが現在の状況にどう関わっているのかの大まかな流れを知ることができました。
「人類の長い歴史が大陸ごとに異なるのは、それぞれの大陸に居住した人々が生まれながらにして異なっていたからではなく、それぞれの大陸ごとに環境が異なっていたからである」
人種の優劣があるのではなく、大陸や土地の特性や、人類がそこに到達したときの技術力など、様々な要因によって作り上げる社会が異なっていった結果、今があるのだ、という「歴史科学」。
地球を俯瞰して、人類が発生して、少しずつ住居地を広げていって、そこでどうやって暮らしていて、どんな工夫をして、どんな社会を作っていったのか、ジオラマを見ているような感覚で読みました。
歴史を「科学」で考察する。
確かにこれはベストセラーになるわけだ! -
本書の課題設定は下記のようなものであった。
アメリカ大陸の先住民はなぜ、旧大陸の住民に征服されたのか。なぜ、その逆は起こらなかったのか。現在の世界に広がる富とパワーの「地域格差」を生み出したものとは。
下巻のエピローグで、筆者はそれに対しての答えを四つに要約して答えている。
1)栽培化や家畜化の候補となりうる動植物種の分布状況が大陸によって異なっていたこと。すなわち、そういった種の数が多い大陸では食料生産がそうでない大陸に比べると多い、すなわち生産性が高く、より多くの人口を養うことが出来たと同時に、食料生産に携わらない専門職の人たちを養う余裕が、その地域全体として生じた。
2)ユーラシア大陸が東西方向に伸びる大陸であったのに対して、アフリカや南北アメリカは南北に伸びる大陸であったこと。栽培植物は、気候条件が近ければ同じように育つがそうでない場合には、うまく育たない。熱帯植物が寒帯ではうまく育たず、逆も同じである、ということだ。すなわち、ユーラシア大陸では東西に栽培植物が広く伝播していったのだ。
3)大陸内の伝播の容易さと同じくらいに、大陸「間」の伝播の容易さも重要であること。ユーラシアの動植物はアフリカの北側くらいまでは伝播したが、そこから以降のアフリカには広く伝播しなかったし、南北アメリカやオーストラリアに伝播することはなかった。
4)大陸の大きさと総人口の違い。総人口の違いは上記の1-3の結果でもある。総人口が多ければ、例えば何かを発明する人も多くなる。ある地域で技術的な発達が起こるかどうかは、その地域の人口の大きさの違いの影響が大きい。
本書は、これらを上下2巻を使って説明している。
もう少しテンポ良く書いて欲しいな、と読みながら思ってはいたが、書いてある内容はとても面白く、スリリングなものであった。 -
なぜ世界が今あるような力関係になっているのか、歴史的、生物的な視点で紐解いていく、ベストセラーの下巻。
全体的な話は上巻の感想と共通するので、下巻の中で興味深いと思ったところのメモ。第12章から始まる下巻は、まず「文字」の話で、どういう社会、状況で文字は生み出されたのか、という話。特に「セコイヤが考案したチェロキー語の音節文字」(p.39)が詳しく紹介されているが、まず「音節文字」はマヤの文字、ミケーネ文明の線文字Bなどもそうだ(p.28)というのが発見だった。文字の本も、マヤ文字の本も読んだことあるはずなのに、忘れている。あとはこのセコイヤという人はすごい。現代日本人は当たり前のように文字を見たら音声に変換してしまうし、逆に聞いた言葉は文字化できる訳だけれども、言葉があるから世界は分けられる、という考え方があるように、「セコイヤは、チェロキー語には有限個の音の要素があって、どの単語もそれらの要素の組み合わせて構成されていることに気づいた」(p.38)ということが、考えてみれば当たり前だけど新鮮だった。文字の話のつながりでは、「日本人が、効率のよいアルファベットやカナ文字ではなく、書くのがたいへんな漢字を優先して使うのも、漢字の社会的ステータスが高いから」(p.72)というのは、本当にそうなのだろうか。例えばこのレビューを全部分かち書きしないでカナで書いたらものすごい読みにくいと思うんだけど。表語文字のメリットは数の多さによって生まれるデメリットより大きい、と感じてしまうのは、おれが日本人だからなのだろうか。
あと、「『必要は発明の母』という錯覚」(p.62)の話が面白い。「実際の発明の多くは、人間の好奇心の産物であって、何か特定のものを作りだそうとして生みだされたわけではない。発明をどのように応用するかは、発明がなされたあとに考えだされている。」(p.62)ということと、そこに続く例(飛行機、自動車、内燃機関、電球、蓄音機、半導体)も、誰かが何か明確な意味や目的があって作り出したものではない、というのは目からうろこ。「発明好き」なおじいちゃんの訳分からん発明を面白がる番組があったが、ああいうことをしてみることが重要ということなのかもしれない。
オーストラリア先住民が「生きたディンゴを毛布代わりに使った」(p.181)ということから、「とても寒い夜」を意味するイディオムでfive-dog nightというのがある(同)らしい。手持ちの辞書にはなかったけど、どれくらい使えるイディオムなんだろう。
そして、「マダガスカル島からイースター島までをカバーする範囲に分布しているオーストロネシア語ファミリーの言語は、すべて台湾から広がり始めた人間集団の拡散がもたらしたもの」(p.243)だそうで、だとすれば台湾は人類の中の1つの大きなグループ発祥の地、というすごい土地という感じがする。
それから、おれが受けた比較言語学の授業は、ほとんど印欧祖語の再建の話だったけど、「バンツー祖語を話していた人びとの問題も、英語の祖語の発祥地を推論したのと同じ手法を使って言語学的に考えることができる。それによると、現在アフリカ全土に拡散している約二億人のバンツー族は、カメルーンやナイジェリアのあたりから広まっていったことがわかる。この結論は、言語学的な考察なしに求めることはできなかったと思われる。」(pp.332-3)だそうで、言語学の成果がこういう人類学に活かされるという例をもっと教えて欲しかった。(おれが勉強すべきだった。)
あとアフリカの話は意外なことがたくさんあったけど、その1つは「西アフリカの人びとは、そういう飲み物をコカコーラ社が売りはじめるはるか以前から、コーラナッツの実を口の中で噛みくだいて、成分のカフェインを一種の麻薬として使用していた」(p.337)らしい。コーラナッツというものも初耳。コーラっていかにも人工的な味、と思っていたのに。もう1つ、「銅の冶金技術が発展するかたちで鉄の冶金がアフリカで独自にはじまったとも考えられる。(略)十九世紀ヨーロッパやアメリカでベッセマー溶鉱炉が使われるようになる二〇〇〇年も前に村の鉱炉で高熱を発生させ、鋼鉄を製造する方法を知っていたのである。」(pp.352-3)ということで、事実だとすれば、これは本当に驚き。
最後に、色々な好条件がそろっている中国が、なぜヨーロッパにリードを奪われてしまったのか、という話で、「地域の地理的結びつきが強かったことがかえって逆に作用し、一人の支配者の決定が全国の技術革新の流れを再三再四止めてしまうようなことが起こった。」(pp.385-6)という、人口が多くて団結しているのは良いことだ、ということでも全くないらしい、ということで、謎解きの最後の最後まで面白さの味わえる本だった。
謎解きが終わって、「科学としての人類史」という部分では、科学としての歴史研究と、一般的に言われている科学との類似点や相違点を説明し、「歴史科学」の可能性について述べられている。文理問わず読むべき本、という感じがする。(20/03/31) -
アボリジニのような先住民に対して、少なからず自分は偏見を持っていたもしれない。でも読んでみて、彼らは厳しい環境の中で自分達の力で生きてきた、尊敬すべき人々であることに気づかされた。その一方で、自分の生活に目を向けたとき、自分の家の中には何一つ自分で一から作り出したものがないことに唖然とした。何一つとしてない。だからといって今から無人島で暮らせるような力をつけたいとは思わないけど、せめてこの満たされた生活ができることに感謝して過ごしたい。
この本の結論は、冒頭で既に述べてあったように、各国の貧富の差は、もとをたどれば人種の能力の差によるものでは決してなく、地形の違いによるもの。だったら今たまたま富める国で生活できる私たちは、苦しい生活を強いられている人々に対してできることを見つけなくてはならないと思う。探さなくちゃ。やらなくちゃ。 -
詳しく評価できるほど理解できたかは怪しいが、文字の重要性や、孤立した状況に置かれると一度手に入れた生産様式を放棄することがあること、ニューギニアとオーストラリアのように、近くでも気候が違いすぎて伝播しないなど、膨大な知識量のみならずそれを張り巡らせたネットワークのように、組織化できてることのすごさよな。
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この本を読んでいる間に国内で新型コロナウイルスが蔓延し始めて、本書の内容とのリンクぶりに驚かされました。
上巻に比べると、難しいところも多く感じました。特に、文字、オーストロネシア人、アフリカ民族の章は、理解しきれていない部分もあるので、読み直します。
少し長めのエピローグが感動的な内容でした。
中国がなぜ、ヨーロッパのように他の大陸に進出していかなかったのか、私も読みながら、気になっていたのですが、エピローグに出てきました。
また、この本では考察しきれていない課題について書かれているので、さらに好奇心が増しました。