ポイント・オメガ (フィクションの楽しみ)

  • 水声社
3.67
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本棚登録 : 80
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784801000100

作品紹介・あらすじ

ニューヨークの暗闇の中、超低速で映し出されるヒッチコックの映画『サイコ』。読者を幻惑する謎の空間から、舞台は荒涼たる砂漠が広がるサンディエゴへ。
戦争、記憶、意識、宇宙をめぐって続けられる対話。砂の彼方に消える声。意味を失ってゆく時間。暗闇に閃く欲望。そして、少女は消えた……
泥濘化する戦場から遠く離れ、虚空を領する絶対の静寂が、アメリカの野蛮、人間精神の孤独を穿つ。

感想・レビュー・書評

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  • むうん。引き込まれた。かっこつけてる訳でもなく、文章に吸い込まれるような、文章に読まれてるような、トリップ感に包まれた。なかなか望んでもそういう陶酔感に浸れることは稀であり、後書きにも記載されていた、瞑想を味わったようなのだ。実際の美術作品「24時間サイコ」をモチーフとした作品で、ヒチコックの映画をだいぶスローに上映している。見逃していた物が一杯見えてくる。間違った物も見えてくる。我々が普段見てる物は本物なのか、という。短いが力作。長けりゃいいってもんじゃない。表現出来なきゃ意味ない。

  • アルファポイント(始発の地)から向かう、ポイントオメガ(終局の地)。

    時間の概念などの小難しさとともに静かに展開する、心地よい小説でした。

    今回読むのは2回目だけれど、何回読んでも理解できたか不確かな本。

    『激しい雨が山を洗いながらやってきた。』

    雨もこう言われると、ゆっくり鑑賞したくなる。

  • 断念

  • 2021/4/15購入

  • 「ポイント・オメガ」

     元の映画の上演時間が二十四時間にまで引き延ばされていた。彼が見ていたのは純粋な映画、純粋な時間だった。ゴシック映画のあからさまな恐怖は、時間の中に溶け込んでいた。彼はどれだけここに立っていたら、何週間、あるいは何ヵ月立っていたら、この映画の時間の流れに一体化できるだろう。あるいは、もう一体化しはじめているのだろうか。
    (p13)
    この二十四時間に引き延ばされたヒッチコックの「サイコ」は実際にニューヨーク他の美術館で上映されたダグラス・ゴードンの作品。この作品をずっと見ている「彼」の部が「匿名の人物」として、小説の最初と最後に配される。その間には、砂漠の家で、イラク戦争の諜報機関?にいて今は隠遁しているエルスターと、彼についての映画を撮りたいという語り手の対話(沈黙含む)。あとでわかってくるが、その二人はこの「匿名の人物」部で十分くらい見る二人連れという役で出てきているのだ。

     人生を通してずっとあの子がいるんだ。歩道の割れ目の上は歩かない。別に迷信なんかじゃなくて、試練として、訓練としてまだそうしてる。他には? 親指の爪の横の皮を噛む。いつも右の親指だ。まだそうしてる。死んだ皮の部分。そうやって自分が誰だか確かめてる。
    (p56)
    あの子は子供の頃の自分。
     物質とは自意識を失いたがるものだ。我々の知性や感情は物質が変化してできた。そんなものはもうやめにするころだ。こうしたことに我々は今、突き動かされてるんだよ。
    (p66)
    最初はずっとこの二人での進行かと思いきや、彼の娘であるジェシーが現れて三人となる。ジェシーはなんかある男から逃げている(あるいは隔離するよう母親から言われている)
    p95では寝ているジェシーの部屋をそっと見る語り手の姿が描かれている。しかし、その後すぐにジェシーは忽然と消えてしまう。先のp95に対応する場面がこちら。
     その夜私は眠れなかった。次々と夢を見た…(中略)…彼女はジェシーだったが、同時にありえないほど表情豊かだった。私が彼女を自分のなかに導き入れているあいだも、ジェシーは自分の外に漂い出ているように見えた。私はそこにいて興奮していたが、開いたドアのそばに立っているもう一人の自分には、私の姿はほとんど見えなかった。
    (p121)
    p95の時にも実際には語り手はジェシーのそばにいたのではとか、ここでは語り手の精神が分裂して存在しているとか、そんなふうに考えることもできる。
     オメガ・ポイントは今ここで縮小し、体に突き刺さるナイフの先端になる。人類の巨大な主題は小さくなり、この場の悲しみ、一つの体となり、どこかにある、あるいはない。
    (p125)
    結局ジェシーは見つからぬまま、エルスターは虚弱して、語り手によって元妻、ジェシーの母親のところへ連れて行かれる。エルスターの意識とともにあった物質と意識の融合点であるオメガ・ポイントも彼とともに小さくなっていく。

    と、語り手とエルスターの乗った車が大きな街に近づいていくところで主要部?は終わり、「匿名の人物」部に戻ってくる。日付がついていて、冒頭が九月三日、この結末が九月四日…ということは、こちらは全く連続していて、主要部が時間的に間に挟まっている展開ではないということだ。これは何かの夢でも見ていたのか、と感じさせる感覚。
     何であれスクリーンで起こっていることから何百キロも離れたところに立っているのだ、と彼女は言った。
    (p137)
    この結末の「匿名の人物」部でも焦点化される人物が現れる。もちろん「サイコ」の場所からは離れているけれど、他にもどこからかも離れているように思える。
     あるいは映画が彼について深く考えているのだろうか? まるで漏れ出した脳髄の液のように、彼のなかを流れていきながら。
    (p140)
     彼は言った。「自分が別の人生を生きていることを想像できる?」
    「そんなの簡単すぎるでしょ。何か他のことを訊いて」
    (p142)
    もうわかるだろう。冒頭の「匿名の人物」で、エルスターと若い映画製作者が出てきたのと対になって、ここではジェシーが現れているのだ。3ページ後にエルスターが語ったように唇の動きを見て言うことがわかる、という謎解きがされる。
    自分ではないもう一つの場所に、自分の意識を置くことができる、この時既にオメガ・ポイントに達しているのではないか…結構難解でついていけないかと思ったけれど、全くそういうことはなく、チャーミングとも言える作品だ。
    (2020 12/06)

  • 雰囲気は好き……なのだが、如何せん自分の感性ではよく分からなかった。
    読み終わってもぼんやりとした雰囲気だけが残っていて、ストーリーがどうなったかの印象が全然ない。

  • 超減速され再生される「サイコ」の映像作品の展示空間と砂漠に住む老人、この2つの設定に置かれて対話するような展開。日常と一線を課す空間で何を感じるかを問うような物語。哲学的で詩的でもある。‬

  • この本よんでグッとくる人がイマイチ想像できないなあと思いつつ,後半流し読み.翻訳はがんばってるので,原書にあたっても辛そう.ふだんから The New Yorker を隅々まで読んでるような人にはいいんだろうけど,割と読者を選ぶというか,読者の知性が問われる本です.SF的な近未来のパラレルワールドが展開されるかと勝手に想像していたけど,空間的移動はほとんどなく.正直読めなかった.

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著者プロフィール

1936年、ニューヨークに生まれる。アメリカ合衆国を代表する小説家、劇作家の一人。1971年、『アメリカーナ』で小説家デビュー。代表作に、本書『ホワイトノイズ』(1985年)の他、『リブラ――時の秤』(1988年/邦訳=文藝春秋、1991年)、『マオⅡ』(1991年/邦訳=本の友社、2000年)、『アンダーワールド』(1997年/邦訳=新潮社、2002年)、『堕ちてゆく男』(2007年/邦訳=新潮社、2009年)、『ポイント・オメガ』(2010年/邦訳=水声社、2019年)、『ゼロ・K』(2016年)、『沈黙』(2020年/邦訳=水声社、2021年)などがある。

「2022年 『ホワイト・ノイズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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