「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822235659

作品紹介・あらすじ

2015年に突如起こった大塚家具騒動の顛末記
今、初めて明かされる 大塚久美子社長の「本音」

「理」で推した久美子社長と「情」に訴えた勝久会長の戦いで
本当に勝ったのは誰だったのか?

本書は、2015年に勃発した大塚家具騒動の顛末記である。父である会長と娘の社長が経営権を巡って株主総会で激突した様は、テレビのワイドショーの格好のネタになり、お茶の間の話題をさらった。

あれから一年。あの騒動はいったい何だったのか。本当の原因は何か。いったい誰が最も得をしたのか。
創業者が立ち上げた「家業」を、社会全体のものである「公器」に変えようとした大塚久美子社長の思いとは何だったのか――。騒動をつぶさに観察してきたジャーナリストが久美子氏の胸の内に迫る。

大塚家具を巡る家族間の対立は、どこの家庭でも、そして、どこの家族経営の企業でも、普通に起きることだろう。だからこそ、あれだけ世の中の関心を集めたに違いない。
逆に言えば、大塚家具の騒動から学ぶことはたくさんある。大塚家具騒動はまさに「コーポレートガバナンス」の格好の教材なのだ。

感想・レビュー・書評

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  • 日本で家具経営と言えば大塚家具の父娘対決がワイドショー的には盛り上がった。世間は父親の大塚勝久さんへの同情が強い。しかし、IKEAの成功など世界のビジネスの動きを踏まえれば、大塚久美子社長の改革の方が皆が手軽に家具を購入できるというコモディティ化に流れに乗っているとはならないだろうか。経営は結果が見られるため、久美子さんが失敗と評価されることは免れない。しかし、その失敗原因は改革を進めたことではなく、もっとドラスティックに改革できなかったことにあるかもしれない。

  • 日経記者によるコーポレートガバナンスについて書かれた本。親子の仁義なき戦いといわれた大塚勝久創業者と娘の久美子社長との経営権争いについて詳しく説明されている。「情」に訴える創業者と淡々と将来計画を説明する「理」の久美子社長の争いは、株主総会で娘に軍配が上がる。一昔前なら、厚い人間関係から創業者が勝ってもおかしくなかったと著者は言うが、今回は大差で娘が勝利した。株式会社とは、もはや創業家一族の所有物とは言えず、ステークホルダーを無視した身勝手な経営は、創業者であっても許されない。会社の利益を優先する将来を見据えた経営をしなければならないのは当然で、そのためのコーポレートガバナンスの重要性について、よくわかった。
    「創業者はたいがいワンマンである。たとえ娘でも自分に異を唱える人の意見は聞きたくないものだ。会見で勝久氏が「久美子はいくら言っても言うことを聞かない」「まだ反抗期だ」と言い放ったのは、そんな苛立ちの表れだった」p93
    「「社員は子供」と言い切る勝久氏にとって、大塚家具はまさに「自分の会社」だったのだろう。久美子氏は次の世代を考えれば、早く脱大塚家経営を進めた方が、株主としての大塚家の利益を守ることにもつながると考えていた。だからこそ弟妹4人のうち、3人が久美子社長を支持したのだろう」p110
    「(久美子社長)私を選ぶか、会長を選ぶかといった選択のように報道されていますが、決してそうではありません。株式公開企業として「あるべき経営」「あるべきガバナンス体制」を実現させようとする取締役会の多数意見に対して、個人商店流の経営がしたい勝久会長が抵抗しているという構図なのです」p117
    「大塚家具の営業部隊の社風は「体育会系」であるという。自分自身で考えて行動するというよりも、上司の命令には従う。ワンマンと言われる創業者のトップの下で育った社員は自らイエスマンとなっていく。久美子氏は5年間社長を務めた間、幹部社員はもっと自分自身で考えて意見を言うべきだと指導していた」p155
    「(JPX日経インデックス400)グローバルな投資基準に求められる要件を満たした投資者にとって投資魅力の高い会社400社で構成。株主資本利益率(ROE)や3年間の累積営業利益などでランキングし、その合計点が高い企業から順に400社を選んだ世界でもユニークな指数」p172
    「(久美子氏)いつまでも会社は自分のモノだという意識が消えないのでしょう。自分の自由にできないなら壊してしまった方がいいと感じているようにすら見えます」p217

  • 騒動について時系列によくまとまっている本、この問題は単なる親子喧嘩ではなく、コーポレートガバナンスの問題という視点で捉えられていて面白い内容だった。

  • 企業は誰のものなのか?
    あるべき姿を問い続け、社会に約束し続けた大塚久美子社長の姿に感銘を受けました。正しいことを正しく実行することの難しさ。

  • 2014年頃から世間でさんざん注目を集めた大塚家具のお家騒動について書いた本。

    基本的には久美子側からの立ち位置の記述が多いので、
    これが第3者の目から見た騒動の内幕というわけではない。
    その点は割り引いて読む必要があると思う。

    理:久美子側
    情:勝久側として話が進んでいる。

    私は結婚後にマンションに引っ越す際に、大塚家具で
    色々と家具を買った経験から言えば、大塚家具は確かに
    良い品質の家具をそろえており、事前にほかの店で見た家具が完全に見劣りしてしまい、ほぼひとめぼれに近い状態になってしまう。
    そして店舗の雰囲気も落ち着いており、お店の人もゆっくり見て下さい。と言う感じで、他の店よりも「買うの?買わないの?早く決めて」という無言の圧力が少なかった。
    そういう面では勝久さんの考えるサービスは一定の力がある事は間違いない。

    しかしそれが今の経済状況に対応できているかと言うとそれは違うと思う。
    そういう面では、久美子側の主張は非常に納得できる。

    また勝久側の記述で、取締役会での暴言やパワハラ紛いの部下への叱責など典型的なワンマン創業者であり、自分の成功モデルを信じて世間の変化に対応できていない人として描かれている。
    どれだけ読むととんでもない人だなぁ。で終わってしまうが、実際は部下に慕われる「情」が魅力的な人なんだろうと思った。

    創業者やその親族は株式の価値を含めて会社への愛着が出発点となっているが、それ以外の人はあくまで会社の株を持つことは利益を得る事1点が興味であり、会社へのロイヤリティは天と地ほどの差がある。
    そこが今回のように上場しているファミリー企業のジレンマになるのだろう。
    持たざる者として気軽に読んだ。

    一応本の中では、株主総会で久美子側が勝利して、敗れた勝久側は会社を離れて「匠大塚」を立ち上げたところで終わっている。

    お互いに会社の事を思っているのに、いくつかのボタンの掛け違えで一族を二分する争いになってしまうほど、
    会社の後継者問題は難しいのだろう。
    まあ実際は家族間ではなく、結婚相手などの身内や、ある程度引き上げてもらったがNo2になれなかった様な部下の入れ知恵が事態を紛糾させる事が多いようだが、今回の本にはその辺のところは書かれていない。

  • 大塚家具の事例を基に考えるコーポレートガバナンス論。個人経営から集団経営に移行するにあたっての留意点まとめは革新性を売りにした企業である程にぶつかる壁であると感じた。メモ。
    (1)株主資本に対する配当額の割合を引き上げることで株主に報いるとした。(DOC)
    (2)経営権というのは権限であって権利ではありません。
    (3)創業者のリーダーシップというのは非常に強い、ある種のカリスマ性を持ち会社を引っ張っていく。その能力を十全に生かすための組織とか人のあり方というのが作られる。会社を興す起業家とそれを継承し発展させる企業家の素養は全く異なる。

  • 著者が日経ビジネスオンラインで大塚家具を取材した記事を読んだのを思い出した。親子喧嘩、美人社長などがメディアを賑わしていた頃、事の本質はそんなことではないのだと気が付いた記憶がある。
    本書も「理」と「情」というタイトルで、コーポレートガバナスを切り口にしてる点が新鮮であった。
    あの騒動は、同族企業の経営、上場企業のガバナンス、家具販売業という内需企業の経営戦略など、多くの日本企業が遭遇する課題を露わにしたものだと感じだ。

  • 大塚家具のお家騒動がよくまとまっている1冊。日経新聞の記事を時系列に並べて、著者の取材内容や見解が分かり易い。最後の方に書かれているが、コーポレートガバナンス・女性活用という旬のキーワードが今回のお家騒動につくづくよく当てはまる。

  • 出版業界の経営層も読んでおいたほうがいいね。夜郎自大。

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著者プロフィール

ジャーナリスト。1962年東京生まれ。1987年早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、日経ビジネス副編集長・編集委員。2011年4月からフリー。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』(PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP)など。

「2017年 『破天荒弁護士クボリ伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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