ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語 (Zoran Zivkovic's Impossible Stories)

  • Zoran Zivkovic
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  • Amazon.co.jp ・本 (152ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784902075168

感想・レビュー・書評

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  • 現実的な幻想を描いた3つの短編が入っている。
    さらりと読めてしまい、読み終わると煙のように白く淡い余韻が残る。

    この作品をどう形容すればいいかはよく分からない。
    最近そんな本をたくさん読んでいる気がする。
    それは素敵なことだと思う。
    分かりやすいメッセージ性のある本を読んで、当然の結論に行き着くことの退屈さ!
    そんな読書に飽きた人におすすめ。

  • ずっと気になっていた小説。やっと時間ができて読めた。
    装丁が変わっていて、洋書のペーパーバックのよう。

    ひとつひとつの文章はとても簡潔、中学生でもわかるくらい。
    …ところが、読み進んでいくうちに不安になり、めまいがしてくる。

    冒頭の『ティーショップ』は、ファンタジックな物語が入れ子の
    ように語られ、物語の軽やかさにうっかり身を任せていると
    最後の最後で足払いをかけられる。
    あっけにとられて、しばらく小説の場に自分がぼーっと
    立ちすくんでいるような錯覚を覚えた。

    これは要注意、と続く2編は気を入れて読んだ。
    読書の達人と敬愛する知人から教えてもらった本。
    なるほど、出会えてよかった。

  • ティータイムがすごかった。すごいひきこまれた。
    次はボルヘスです。

  • ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語


    あたしの敬愛サイトでべた褒めだったので、
    そうして注意事項として「短いからさらっと読むと後悔する」とあったので、
    すごく気をつけて読んだ。

    ボトルから直接顔にスプレーするんじゃなくて、一度手のひらにとって、
    手のひらの温度で暖めて、自分の体温が移ったぬくい化粧水を顔に、
    ぎゅって丁寧に押し付けるくらい、丁寧に文字を拾った。


    自分を本の世界にすとん、と落としてしなやかに読書をすると、
    くるくるめまぐるしい、美しい物語に正しく入りこめる。
    そしたらきっと、唐突と思わせぶりの終幕を、最高の鳥肌で味わえることになる。



    第一話を読み終わって、あぜん。正直すごすぎて、うまく感想さえ書けない。
    カレイドスコープのような、きらきらした断片が、最後にあまりに美しい大団円に。
    でも、あたしの読み、本当に正しいのかな?
    いや多分、正しいと思う。
    でもお願いだから誰か、答えあわせさせて?

    http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2012/07/post-e4e9.html
    ここを読む限りはおおかた、私の鳥肌は正しかったんだと思う。



    第二話はまた、奇妙で乾いた物語。
    個人的には美しいとは思ったものの、第一話ほどの感銘はなかったのでパス。
    ひとつだけいえるのは、あたしも同じような夢、みたことあります。



    最後の第三話。
    これも、たまらなく美しくいびつで、涙が出るような孤独の物語だった。
    最後にカタリーナの目に映ったのが、できれば美しい空だったらいいのに、と、思う。





    なんともいえない、贅沢読書。
    透明感のある華奢な輝きの、とんがった氷のようでした。



    あーもう、コトバにならない。
    お願いだから誰かこの本を読んで、あたしに、何が見えたか教えてくれませんか?
    あなたとあたしの見た世界が少しでもクロスしたならば、ぜひ、一緒に、
    第一話のティーショップに行ってください。
    この物語と本当に、ね、シンクロできたなら、あなたはあたしの誘いを、断れないでしょう?
    一緒に、永遠に、反転しよう?











    ちなみに以下、全くの蛇足なのだが、第一話の表現というか訳が気になりまくりで最初はまったく、物語に入れず。
    地の文章はどうなっているんだろうか?というのは非常に、文章が平易だからだ。
    そうして常用漢字に変換できる箇所まであえて?ひらがなにしてあるのが非常に多いのも気にかかる。
    表記にも少し癖がある。ショーではなくてショウ、マンではなくウーマン。
    作者の意図と選び取った言葉が、間に入る翻訳家のオブラート越しにしか感じられない歯がゆさ。
    隔靴掻痒、というレベルではないけれど、オブラートがまとわりつくようで少し、居心地悪いよう。


    例えば24ページ最後の行:
    【男は新しいスタントウーマンに恋をして、彼女にてきびしくふられていたのですが、】
    この一行をつまんでも、恐ろしいほどにその表記を変えることができる。

    ・男は新しい女性のスタントマンに恋をして、カノジョに手厳しく振られていたのですが、
    ・オトコは新しいスタントウーマンに恋をして、かのじょに手きびしくふられていたのですが、
    ・男は、新しいスタントウィメンに恋をして、彼女にてきびしく、ふられていたのですが、

    表記だけでなく表現も変えてよいのであれば
    ・男は新しいスタントウーマンに恋慕の情を抱いたもののけんもほろろの扱いを受けたのでしたが、
    ・男、新しきスタントウーマンを見初めしも叶うことあたわず
    ・男は新しいスタントウーマンに岡惚れしてこっぴどく拒絶されていたのでしたが、

    などなどなど。いかようにでもニュアンスは変化する。
    この作品の訳はこれで本当に、作者の狙い通りなんだろうか?
    とにかく平易な文章なだけに、気になって仕方ない。

  • 『そもそも待合室が好きではないし、そこで本を読みおえてしまったら、列車の中でなにを読めばいい? 読みかけの本はあと八十ページしか残っていない』-『ティーショップ』

    まるでニコルソン・ベイカーの「中二階」を読んでいるかのような出だし。描写された世界の中に自然と溶け込む。その場に居たらきっと自分もそう感じるだろう。冗長ではないが少しきめ細かい風景の描写。そしてその風景を見た瞬間に沸き上がる思い。その心理描写のテンポも極めて自然に進行する。自分の中でいくつもの似たような情景が思い浮かび、その時の心理もまたよみがえる。

    余りにも「言い当てられた」という思いが次第に強くなる。あちらの方を向いていると思っていた作家の視線がいつの間にか自分の方に向けられ、凝視されているかのような居心地の悪さも忍びよる。自然に文章に沿ってゆける心地よさと、その見透かされたような不安な気持ちが交差する。まるでぽかぽかの日当たりの中を気持ちよく散策しているのだが、ふと足元を見るとそこにあるはずの大地が無く、どこまでも続く深い闇の上に敷かれたガラスの板の上を歩いていたのを見い出した、というような。

    三つの短篇は、どれも似たような味わいがする。その余りに現実的な世界の現実味あふれる描写は、どこにも不自然なところがない。しかしそんな自然な世界の中に小さなほつれが生じる。そのほつれに目を向けてしまった途端、それは、これまたどこか変だとも思う間もなく余りに自然に拡大し、主人公を飲み込み、主人公に添うように歩んでいた読み手も飲み込む。

    小さな穴をにゅるっとくぐると、いつの間にか平行して存在していたと思われる全く異質な別世界に押し出されてしまったような感覚が広がる。その異質さの正体が最初はよく飲み込めない。何故ならそれは元の世界の姿に似たイミテーションな世界の中に存在する奇妙さで、背景と溶け合っているようでいて、その実、輪郭線を引いて全く別物として存在しているかのように浮いているからだ。しかし、そいつが気を許した途端喰われてしまう化け物のようなものであることは、ここまで来るともう解っている。飲み込まれればまた異なる平行世界へにゅるりと押し出されるに違いない。早くここから逃げなければという本能的な警戒心が次第に強くなる。

    元の世界に戻りさえすれば、何もかも元通りになるはず。そう思って、そろそろと後ろ向きに退却すると、やがて見慣れた風景が戻ってくる。ああ良かった、と一息つく。しかしその元の世界と思しき場所は本当に元の場所なのだろうか。そんな疑問が一端浮かんでくると、見慣れたと思った風景に違和感のようなものを感じ始めてしまう。これは同じものではない。いや、一見したところ何も変ったようではないけれど、何かが決定的に異なっている。そんな思いがぬぐい去れなくなる。

    そしてその違和感は決して本の中だけに留まってくれない。

  • これはとても素敵な一冊。タイトルの通り不思議で謎めいた、そしてとても心地よい物語が三編。心地よい面白さ、心地よい不安さ。出来るなら、お茶と一緒にお楽しみください。

  • 新世代のボルヘスのトップ候補とも評されるユーゴスラビア作家の短篇集。3つの奇妙な物語を収録。
    次々に連環していく奇妙な物語たちに惹き込まれる「ティーショップ」、視覚的なイメージが美しい「火事」、ミステリ風のハウダニットが愉しい「換気口」。
    そのどれもが素晴らしくシュールで、幻想的。まさに"不思議な物語"に酔いしれました。あ〜、面白かった♪。

  • 著者、ゾラン・ジフコヴィッチは、ブルース・スターリングによればスリップストリーム文学の新旗手であり、New York Timesに言わせると「新世代ボルヘス」へのトップ候補だそうです。

    3つの作品が収められた短編集ですが、いずれも幻想味豊かな物語で、知的に洗練され、構成も完璧。
    文章も読みやすく、この本に限れば薄くて字も大きいので、すぐに読了できます。
    でも中身も薄味と感じました。

    読者を引き込み、虜にしてしまうようなmagicが足りない。
    頭脳は非常に明晰な作家なんだろうなあ、という気はするんですが、狂気というか毒までが薄味なのが残念でした。
    東欧文学の流れと、それを生みだす底流に少しふれられた気になったのは収穫かな。

    現代文学はとりあえず抑えておきたいという方なら、読んでみると良いでしょう。
    決してツマラナイ作品集ではない。
    事実、燃え上がる神殿や、悲劇的な能力を持った一人の患者の死は、極めて印象的で、後後まで残るイメージに満ちています。
    でも過剰な期待には添えかねるという出来ですね。
    個人的にはそう感じました。

  • もっとたくさんの人に読まれるといいです。

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