誰か助けて 止まらない児童虐待 (リーダーズノート新書 G 303)

著者 :
  • リーダーズノート
3.90
  • (11)
  • (9)
  • (6)
  • (1)
  • (2)
本棚登録 : 90
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903722306

作品紹介・あらすじ

虐待に走る母親の心にはいったい何が起きているのか。「底が割れた」と形容される虐待の現場には、どのようなメカニズムが働いているのか。私は我が子を虐待した母親を訪ね、ありままの声を聞くことにした。変化する家族、親や子どもが抱える悩み、主婦の現状などを自分の目で確かめてきた著者が、児童虐待の凄惨な現実を訴える。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 二児の親として、読んでいて暗澹とした気分になった。もちろん児童相談所の中には使命感をもって仕事されている方も多いのだろうが、本書にもあったように、一地方公務員という立場や仕組みに限界がある。児童虐待は明らかな犯罪なのだから、対応する人は警察と同じ権限を持ち、児童心理学にも精通した専門職として名誉と重責に相応しい処遇を与えるべきだ。人の良心に依存したシステムはいつか破綻する。

  • チェック項目14箇所。児童虐待っていったいなんだろう、なぜ子どもたちは無残に殺されつづけ、なぜ救いの手は一向に差し伸べられないのであろうか、我が子を傷つけ、放置し、平然と見殺しにする親の心に、いったい何が起きているのだろうか。ここ数年、児童虐待の急増は大きな社会問題となっている、反面その数が多すぎて、個別のケースは詳細もわからないまま消えてしまう、世間の耳目を集めることもなく、報じられた翌日には忘れられるような児童虐待事件のほうが圧倒的だ、けれどそこには、「子どもが死んだ」という厳然とした事実がある。子どもの命ってそんなものなのか、と思うとやりきれなかった、私は懲役六年でも「軽い」と感じたが、素人の心情と法的解釈にはずいぶんと開きがあったらしい。虐待と聞くとどうしても、殴る、蹴るといった身体的虐待のイメージが強い、だが、衣食住など基本的な子どもの世話を放棄したり、愛情を示さないといったネグレクト事例は急増している、2009年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待件数は44211件だが、その内訳を見ると身体的虐待が17371件、ネグレクトは15185件拮抗している。私は今まで、子ども時代に虐待経験を持つ母親を二百人近く取材した、彼女たちの中には、自分の子どもを虐待している人もいたが、まったくしていない人のほうが多かった、そうして自分の過去を必死の思い出断ち切った母親たちは、一様に連鎖の「誤解」に苦しんだ。親との愛着形成が不完全な場合、おとなになってからも欲求不満を持ちつづけ、自分を愛してほしい、かまってほしいと求めやすい、自分の欲求を充足することが第一になってしまい、幼い我が子に対しても、自分を愛して、理解して、癒して、と求めるのです。親として生きるのは無理な人たちだと思うんですが、便利で豊かな現代社会ではなんとか生活できてしまう、子どもにコンビニ弁当を買い与え、紙オムツをつけっぱなしにして、最低限の生命レベルを維持することはできますよね、すると当の母親は、自分には子育ては無理だ、今の生活が無謀だとは気づけない。なんで真衣ばかりがみんなに注目され、大事にされ、お姫様みたいに扱われるのか、と、私のことを見てよ、生んだのは私なんだからこっちに注目してよ、私だって甘えたいのに、そんなくやしさが募る。今まで何人もの園児が、虐待を受けている現実から救われないまま卒園していったという、むろん、担当部署には事あるごとに電話を入れ、視察や児童相談所への通告を頼んできた、しかし、児童相談所に通告してもらえたところで、事態はほとんど変わらない。アメリカでは州によって州法や対応システムが異なるが、カリフォルニア州は教師や医師など子どもに関わる職種に対し、虐待の通告義務だけでなく通告を怠った場合の罰則規定がある、「見て見ぬふり」をすると、自分自身が資格停止処分を受けたり、資格をはく奪されることもあるのだ。世間では、「つべこべ言わず、怪しいヤツは一網打尽にしろ」といった風潮が高まっているが、もしそれがすべての「疑い」のケースに適用されたらどうだろう、子どもが激しく夜泣きをしているだけなのに、いきなり児童相談所の職員が「虐待してませんか」と乗り込んでくることにもなりかねない。児童相談所は子どもを虐待する親を指導したり、相談に乗ったりしている、しかしそれは、親が協力的であればこそ可能で、逆に非協力の親、指導や支援を拒否する親に接触するのは容易ではない。何度となく説得を試みても、母親は面会に来なかった、悲しい現実が突きつけられたが、洋介君は、「いつかお母さんに会って一緒に暮らせる日」をあきらめていない、「おとなになったら魚を扱う仕事をして、いっぱいお金を稼いで、お母さんを喜ばせるんだ」、職員には、そんな夢をけなげに語る。

  • サクサク読み進められた。ただ、虐待を巡る事実を生々しく取材を通して描いているのでぐっと苦しくなってしまう方はいるかもしれない。

    面白いなぁと感じたのは加害者(虐待した本人)から焦点を当てていくこと。筆者が加害者の裁判から児童虐待について触れていくのが興味深い。(被害者主体の話は1番最後に少しある程度だ)

    取材を進めていく様が、私の偏った知識や経験からするとパズルのピースをはめて行くような感覚を覚えた。私や周囲の友人たちは圧倒的に被害者で助けられることなく大人になった。
    その視点からだと大人に対する憎しみばかりが先走りがちだ。それを最後に持ってきたことで私は冷静に読み進めることが出来た。

    生々しい。

    保育所も、学校も、福祉現場も苦労がありそれぞれが助けてくれと思っている。いつ自分(たち)が当事者になるかわからない恐怖と、法や体制がしっかりしてない故自己保身するしかない現状。アメリカの「いい親になる努力をしないと子供と暮らせない」状況を作るのは今の日本でとても大事だと思う。外国の児童虐待の法律についても深めていきたい。

  • 虐待について、母親、母親の両親、保育園、学校、児童相談所など様々な視点から事例を挙げて紹介している本。
    なにもまとめ切れていないけど、状況についてはかなりわかった。

    親に対する支援があればいいっていうだけじゃない。
    親が人として認められること、情緒を受け止めてくれる人がいることが必要。

    行政の状況も厳しいなぁと思う。
    全てが法律という壁に邪魔されている現実と、異動の実態。

    中学校勤務の教員としては、今受け持つ生徒がそういう大人に育たないように育てていかなくてはならない。そういう親が中学時代どんな生徒だったのかとイメージしてしまう。

    親の立場としては、事例を読むのが辛い。子どものことを考えると、可哀想でたまらない。そして、逆にその立場にいる親の気持ちもわかってしまう。

    札幌市で図書館で借りた本。

  • 重たかった。
    でも、すごくいろいろ考えさせられた。
    いろんな立場からかかれているから、児童虐待について、いろんな方面から理解が深まった。

  • よくまとまっていると思う。最終章の施設長の言葉の重みを噛みしめる。

  • いろいろな視点で虐待を見られる本。
    どの視点からも聞こえる 助けて の声だが、子ども達のそれは生死に結びついおり、何より深刻だ。

  • データと取材のバランスがよく、淡々としているが抒情も織り込んであってすごく読ませる文章。
    やっぱりダントツで腐ってるのは教育現場の上層部なんだろうなあ。

  • 目次がいい感じだったので購入したが、予想以上の良書だった。

    「はじめに」で一般的な「加害者批判」「児相批判」「公務員批判」を想起させているが、その後の展開でそれを覆していくだけでなく、報道では伝わらない非常に細かい、だけど重要な問題点にも的確に言及している。
    特に重要なのは、「虐待の連鎖」という言説について。つまり、虐待によって子どもが大きな影響を受けて、それが巡り巡って次世代への虐待に繋がることはあるかもしれないが、だからといって虐待された過去=子ども虐待リスクではないという、微妙な違い。

    また構成の話に戻ると、本来子どもを守らなければならないとされている人々(ここでは、「母親」、「保育園」、「小学校」、「児童相談所」など)へのインタビューを通じて、現場の構造的な問題や、虐待問題に関わる人々の葛藤が浮き彫りにされていく。
    この過程で、タイトルの「誰か助けて」が決して子どもだけの声ではないことが少しずつ見えてくる構成は見事。

    また、例えば小学校の例で、現場で子どもに接する教師と、管理職とでは、問題に対する認識・態度が違っていて、且つどちらも正しいという葛藤をきちんと両者の目線から明らかにしている点は素晴らしい。
    第6章でも、世間から多くのバッシングを受ける児相の抱える問題をきちんと捉え、ただただ強制的介入の必要性を訴える論調を冷静に批判している。

    惜しい点としては、
    ・学術的な論文の引用の仕方が甘いところ
    ・アメリカの方法論を無条件に肯定的に紹介している点。紹介するのであれば、アメリカ型の虐待対策の限界や、親子分離しても子どもを引き取る里親が多くいるという前提条件も同時に提示するべき(それでも日本の数十倍進んでるけど)。
    ・児相については、キャリアが長くて児相の問題を客観視できる人だけでなく、その人に批判されているような、急に児相に異動させられて右も左もわからない状態で勤務することになった人の意見も見てみたかった。

    ともかく、とても良い本だった。虐待のニュースに触れて「子どもが可哀想!」などと言って、虐待の厳罰化や児相批判に走る人には、賛否は別にして、まずこれを読んで欲しい。
    タイトルにある「誰か」とは、この社会に生きる一人ひとりであって、他の誰でもないということを分ってもらいたい。

    今度は同じ著者に、虐待防止ネットワークの成功事例や、子どものケア、ペアレンティング・トレーニングや、大人の自己肯定感の醸成の必要性などについても著してもらいたい。

  • 児童虐待の当事者、そして取り巻く人びとをインタビュー形式で描きます。特に堅苦しいデータはなく、本人の気持ちがさしはさまれる文章。寒々しく、そして厳しい現状がストレートに伝わってきます。今月(11月)はオレンジリボンの月だから、読んでみました。生きられる子が、子どもらしく生きられる社会に少しでも近づいていきますように。

全12件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

ジャーナリスト。家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに、多数の話題作を発表。出版のみならず新聞連載、テレビ出演、講演会など幅広く活動する。
主な著書に『スマホ廃人』(文藝春秋社)、『ルポ 居所不明児童~消えた子どもたち』(筑
摩書房)、『ルポ 子どもの無縁社会』(中央公論新社)、『子どもとスマホ~おとなの知
らない子どもの現実』(花伝社)など。日本文藝家協会会員。
公式ホームページ https://ishikawa-yuki.com/

「2018年 『人生を豊かにするスマホとの付き合い方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石川結貴の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×