パンドラの匣 [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • たとえばフラれて何か月も何か月も涙目で過ごした末の末のある日の朝、フっと気持ちが軽くなって憑き物が落ちたように楽になる。ああ、今度もようやくヤマを越えることができたようだな、みたいな。私も雲雀も、スケールは違っても脳内レベルでは同じ処理を経ていると思う。パンドラの匣の隅っこにある「希望」を一瞬見失っても、よく見ればあるよ、「希望」は。そして男にとって女がパンドラなら、女にとっては男もパンドラだよね。
    読後感が実に爽やかなんですけど、こんな感じの読みでいいのかな?

  • 叶わない恋、死期が迫る体、終戦直後の日本。こんなにも辛い事ばかりが詰まっている話のはずなのに、どうしてこんなに幸せな気持ちになれるんだろう。

    戦争に晒された命は本当に軽くて、でもそんな軽い命を愛している。戦争を経験した人にしかきっと言えない言葉ばかり。

    軽くて愛おしいこの世界にずっと浸っていたいと思った。

  • 主人公が、親友へあてた手紙という体裁を採っているため、他の小説にはない独特の視点を感じる。すなわち、客観的事実のみを並べているものと違うのはもちろん、主観を淡々と語る小説とも違い、主人公が見栄を張って事実を誇張したり勘違いしたりという補正がかかっている。その点が、自分としては初めて出会った感覚だった。

  • 結核を患う青年の日々を、本人が友人に宛てた手紙風にした物語。青年の目標、それは新しい男。
    一話一話、いや一通一通がコンパクトで読みやすい。やたらと洒落のきいた手紙。男同士の手紙だと思うが、このレベルの皮肉と洒落を引受けてくれるんだから、かなりの親友だろう。
    言葉としては現れないが、どこか自分の行き着く先を覚悟してるような雰囲気にも見て取れる。弾けてる、そんな感じ。新しい男。人はどんな形であれ、ゴールがあると気持ちが明るくなるのかも知れない。
    それにしても、いわゆる太宰治らしさは全然ない。悪い意味ではない。設定こそ実際には暗い面があるが、表層は明るい。読み終わったあとも、どこか清々しさがある。

  • わりと明るめな題材とはなっているが、本作に収録されている2作目のパンドラの匣は、小説のもととなったのが太宰の読者であった木村庄助という人物の病床日記であり、また小説の内容も恋愛ものではあるが舞台が健康道場という名の結核療養所という暗めな設定である。

    結核という重い病に罹ってしまった主人公が、先の見えない人生において恋をして希望を見出していく話。

    正義と微笑は、主人公が16~18歳の頃の話で、とにかく主人公があまりに天邪鬼で気に食わなかった。

    執筆当時三十代半ばだった太宰。年齢を重ねたことで人生や世間を知ってしまってもなお弟子の弟の日記を元にしてまで純粋な少年像の青春小説を書こうとする彼の苦悩や必死さが伝わってくるようである。

    太宰はパンドラの匣以降明るい題材の小説を書かなくなったそうだが、それは彼がこの作品によってパンドラの匣に残っていた希望の部分をこの作品で書ききってしまった、現実にはもう良いことがないということだろうか。

  • 戦後の20歳の青年が、肺結核の為に療養所にいてそこでの暮らしの話。
    35歳の私からすれば「こんなことを考えているなんて、かわいいー」とのほほんとした気持ちで読めた。
    比較的読みやすくて、2日で読めた。

  • 戦後の健康道場(結核病棟)を舞台に、ひばり青年が時代を「新しい時代」と「古い時代」に分け、自分は「あたらしい男」として生きて行きたいと意気込んでいます。そんな決心を抱きながら、道場生活や人間関係によって、ある哲学的な結論に行き着きます。ストーリーだけでなく、物語中の手紙や会話からも、ハッとするような表現を多々見つけることができました。読み手に大きな驚きと成長を与える一作です。
     
    本書は映画で内容を知っていたために飛ばしていました...が、原作と映画はパラレルワールドのように別物でした。ここまで改変して良いものだろうか?映画ストーリーもそれなりに面白かったのですが、原作のそれには敵いません。逆に原作の良さが消えてしまっています。ちなみに訳あって河北新報社から発行されており、仙台人としてはちょっと縁のある作品です。

  • 今、ちょっとした太宰ブーム再来

  • 終戦直後、結核の療養で「健康道場」に長期入院している主人公の青年が、親友に宛てた手紙で世話をしてくれる看護婦や、同じ病室で療養を続ける人たちの動向をしたためている。終戦による混乱や死と隣り合わせの闘病というどん底の中でも、パンドラの匣の片隅に残る小さい石のような希望を見つけ、前向きに生きていこうとする青年の若さが眩しい。最後の文が素晴らしい太宰の名作のひとつ。

  • 結核治療所である「道場」内での出来事を主人公が綴った小説。書簡形式の小説は、今となってはたくさんあるけれど、この頃は斬新だったのかしら。
    あまりに小さなことに一喜一憂するものだから、途中は飽き始めたけれど、最後は爽快感。ああだこおだうだうだ逡巡したりした結果、最終的には突き抜けた感じが気持ちいい。書簡形式だからこそ、最初の手紙に比べたら最後の手紙に反映される主人公は成長し、潔く自ら「新しい男の看板」を降ろすことにしたと述べるあたりはまさに一皮むけた感じ。

    『献身とは、わが身を最も華やかに永遠に生かす事である。』

    けんしんの内容について、機会があればゆっくり考えたい。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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