時代の風音 (朝日文芸文庫)

  • 朝日新聞出版 (1997年3月1日発売)
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感想 : 38
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現代を代表する知識人・宮崎駿にとっては、故・堀田善衛と故・司馬遼太郎は仰ぎ見る知の巨人である。「広場の孤独(堀田)」「明治という国家(司馬)」2つの著書に大きく影響を受けたという。鼎談の言い出しっぺとして、「書生」として、宮崎は聞き役に徹している。この時、2人は未だ壮健だった。実際読めばわかるが、2人ほど汲めども尽きぬ古今東西の知見を持っている知識人は、今現在果たしているだろうか?私は数えることができない。いや、今の知識人(※)はこんなふうに矢継ぎ早に知を語らない、もっと優しく語るのかもしれない。早計はやめよう。

※一応断っておくと、単なる物知りを私は「知識人」とは呼ばない。知見の見は見識の見。司馬遼太郎の見識には私は異論を持っているけど、彼は生涯にわたりキチンと見識を披露した。

どうやら92年の鼎談のようだ(92年11月刊行)。中国民主化の失敗、ソ連邦の崩壊、ユーゴ解体そして戦争が起きた後である。彼らの話を聞いていると、まるでウクライナ戦争やガザの今を予見しているような話が出てきてビックリする。

以下少し紹介する。

堀田善衛 イデオロギーが崩壊したソ連ですが、この国はもともと難治の国ですな。←民主化が始まっても、結局は再び元の陰謀めいたボスの秘密会議でソ連邦の幕が閉じた。
司馬遼太郎 (ロシアは最低の資本主義)、つまり闇屋とマフィアと売春婦の資本主義、資本主義の1番初期の1番悪いやつになるでしょうね。

司馬遼太郎 (イスラエルは)あの国もアナザ・カントリーですね(笑)。普遍性の高い、人類とか世界とかの話の中で必ず話の通じない外国が出てきた。これまではソ連が外国でしたが、もうわれわれと同じ国になった。だけどいまや人類にとって外国とは、ピョンヤンでありイスラエルかもしれません。

宮崎駿 20世紀のもう一つの特徴に、マスコミ、とくにテレビの発達があって、武器を使いにくくする作用をもたらしたのではないでしょうか。
司馬遼太郎 電波の発展は、マルクスの予想外の一大要素でした。電波によって大衆がリアルタイムで自他を捉えることができるようになり、政治どころか人心を地滑りのように動かしたという事を、20世紀の後世の歴史家はあげるでしょうな。ユーゴスラヴィアみたいな局地的な喧嘩みたいな戦争はありますけど、大戦争はちょっとやりにくい。
←未だインターネットは予測できていないけど、言ってることは現在を言い当てている。ウクライナやイスラエルのような局地的戦争はあるけど、確かに第三次世界大戦は起こりにくくなっている。

堀田善衛 (ヒューマニズムとは?の問いに私はこう答えている)西洋では、高速道路は三車線あって、トラックは決して追い越し車線に入ってこない。トラックは、はしの方に数珠繋ぎになって走ってます。追い越し車線は乗用車専用、人間のために残しておく。トラックはモノを運ぶ。だからモノよりも人間を優先する。
(略)
ところが、日本ではモノのほうが偉いんだ。

司馬遼太郎 宮崎さんにぜひつくって欲しいテーマがあるんですが、平安時代の京の闇に棲んでいた物の怪のことです。
←以下、2人で延々と煽るけど、宮崎駿はほとんど黙して語らなかった。その後、「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」をつくったのは、この時の鼎談が影響していたのか?誰かインタビューしてほしい。

司馬遼太郎 (「吾妻鏡」における頼朝亡き後の承久の乱での北条政子の)演説というのは、シェークスピアの劇そのものです。
((略)政子を歴史上でもっと評価すべきだという堀田善衛の意見に対して)そうです。私は上方の人間ですけど、日本史に一番大きな影響をもたらしたのは鎌倉幕府だと思っています。
←この時から30年後にNHK大河「鎌倉殿の十三人」が出来上がった。あの北条政子の演説を最後のクライマックスに置いたのは、ホント素晴らしかったし、あそこから最終場面まで、ホントにシェークスピアをやっていた。シェークスピアにせよ、政子や鎌倉時代の評価にせよ、長いこと時間がかかった。いやもしかしたらいまだに評価できていないかもしれない。

等々、古本屋で88円で買ったのだけど、買い得でした。

今、3泊4日で旅の途中。これからあとは旅と記録に集中したいので、レビューとレビュー読みは暫くお休みします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: さ行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2023年11月12日
読了日 : 2023年11月12日
本棚登録日 : 2023年11月12日

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