おいしい記憶 (単行本)

  • 中央公論新社 (2017年12月6日発売)
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感想 : 15

自分が働いている新聞にも書きましたが、ブクログにも。
ちなみに、こっちが元の原稿です。
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だれにでも、食に関する思い出のひとつやふたつはあるもの。「おいしい記憶」(中央公論新社、1404円)は、作家や著名人ら12人が書き下ろした食にまつわるエッセー12本と、一般を対象に募集したエッセーコンテストの受賞作品10本を収録したアンソロジーだ。
何と言っても執筆者の顔ぶれが豪華かつ多彩。女優の上戸彩さんや元プロテニス選手の松岡修造さん、演出家の宮本亜門さん、直木賞作家の中島京子さんに姫野カオルコさん……。贅沢な高級料理をバラエティ豊かに詰め込んだデラックス幕の内弁当のようだ。
岩見沢で講演したこともある札幌在住の作家、森久美子さんは、ハイカラな祖母の作るおにぎりの思い出を語る。祖母が手の熱いのを我慢して作るおにぎりは「かぶりついても崩れない。そして口に入れると、ふわっとご飯がほどけ」たとか。思わず喉が鳴った。
直木賞作家の山本一力さんは、持ち前の硬派な筆で、冷やしそうめんの思い出をつづる。とびきり陽性で大好きだった異父兄と山の上で食べた冷やしそうめんの記憶は鮮明で、「夏の食べ物なら、なにをおいても『冷やしそうめん』」といわしめるほど人気作家を虜にした。
少々驚いたのは、漫画家の柴門ふみさんのエッセー。衝撃的なエピソードの後に、おむすびのおいしさが語られるのだが、その落差の大きさに不思議な感覚を味わった。いずれにしろ、食にまつわる記憶がテーマでありながら、人の記憶であるのが面白い。
かく言う筆者は、母が進取の気象に富む人で、食にまつわる思い出には苦いものが多い。冷蔵庫にあるものを適当にぶち込んで作るジュースを飲んで初めて「絶望」という言葉の本当の意味を知ったし、「ハワイアンカレー」だと嘯いてニンジン、タマネギ、ジャガイモがそのまま入ったカレーライスは悪い冗談としか思えなかった。
ただ、揚げ物は抜群においしかった。母の名誉のためにも言い添えておく。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2018年2月2日
読了日 : 2018年2月2日
本棚登録日 : 2018年2月2日

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