管啓次郎の書評関係の短文をまとめたものらしく、初出一覧を見ると発表した媒体も書いた時期もバラバラなのだけど、ゆるやかに連想をつなげて断章をまとめあげる手つきがあざやかで一冊の本としてスタンスにブレがない。魔術的な上手さである。
帯に「読書の実用論」とあり、最初の章で「ただ楽しいからおもしろいから気持ちがいいから本を読み時を忘れ物語に没入するということは、ぼくにはまるでない」と断言されてビビるのだが、管さんが言う〈実用〉とはハウツー本を読んで実行するようなことを指すのではない。読書によって思考を促されること、または、ある事柄について考えるときに、全く別の主題を扱った本から学んだ考え方が応用できたりすること、そういう作用を指していると思う。
本は〈他者の思考〉であり、読書を通じて私たちは自分を作り変えてゆく。だから内容を全く覚えていなくても、「わからない」「読めてない」と感じてしまっても、本は緩やかにあなたを変え、思考のヒントを与え、"役に立つ"のだ。そんな読み方の実例として本書はある(こんなの完全に「読めてる」側の人の話じゃん!というツッコミはあるにせよ)。多和田葉子論は特に刺激的だった。大好きな『コロンブスの犬』に漂う青臭さは当たり前に消えているものの、相変わらずマジカルな文章で憧れる。
読書状況:読み終わった
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評論
- 感想投稿日 : 2022年8月30日
- 読了日 : 2022年8月23日
- 本棚登録日 : 2022年8月30日
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