初めて読む作家だけれど実は映画化された作品は何作か観ていました。アニメの『コララインとボタンの魔女』(https://booklog.jp/item/1/B003IJ11IU)そしてエル・ファニングが宇宙人役だった『パーティで女の子に話しかけるには』(https://booklog.jp/item/1/B079Q2Y7JT)本書には「パーティ~」の原作が収録されていることと、解説:山尾悠子というので間違いないだろうと思い分厚い文庫をお買い上げ。
詩も含め全部で31作。映画の脚本からコミック原作までとにかく多方面で活躍する作者らしく、トーリ・エイモスのCDのライナーノーツのために書かれたもの(ストレンジ・リトル・ガールズ)や、映画『マトリックス』のウェブサイトに掲載されたもの(ゴリアテ)、イラストからインスパイアされたものなど、とにかく成立が雑多なので、ホラー、SF、ゴシック系などいろんなタイプの短編を楽しめた。冒頭の献辞に名前のある3人の作家=ブラッドベリ、ハーラン・エリスン、ロバート・シェクリィらが好きならきっと楽しめると思う。巻末に作者自身による作品ごとの解説もついていて親切。
個人的にゾンビや吸血鬼、不死者など、ゴシックホラー系が好きなので、ゾンビもの?の「苦いコーヒー」、一緒にサーカスに行った女性が行方不明になる「ミス・フィンチ失踪事件の真相」、イタリア喜劇のキャラクター:ハーレクインが人間の女性に恋して結果とんでもないことになる「ハーレクインのヴァレンタイン」、謎の老婆と係わったばかりに恐ろしい目に合わされる「食う者、食わせる者」などが好みだった。ゴシックホラーへの皮肉なパロディというか、現実と幻想が逆転した世界の「顔なき奴隷の禁断の花嫁が、恐ろしい欲望の夜の秘密の館で」も中2病みたいで面白い。
パスティーシュ系の作品も何作かあって、シャーロック・ホームズとクトゥルー神話が融合した「翠色の習作」、ナルニア物語シリーズで唯一生き残ったスーザンの後日譚「スーザンの問題」、千夜一夜のシェヘラザードの苦労「アラディン創造」など、どれも面白かった。
映画原作の「パーティで女の子に話しかけるには」は、映画の導入部にあたる部分だけで完結しており、その後の壮大な(?)エイリアン VS パンクスは映画オリジナルの展開だったようだ。原作は短編だけに、明確な答えは提示されておらず、色んな想像の余地が残されている。
最後の「谷間の王者」は、「アメリカン・ゴッズ」後日譚とサブタイトルがあるように、ドラマ化もされた別の長編『アメリカン・ゴッズ』の後日譚らしい。スコットランドを舞台に、ベオウルフよろしく怪物グレンデルと闘わされる主人公シャドウを北欧の妖精フルドルが助けに来てくれる。黒幕ミスター・アリスの忠実な手下スミスは本書に収録されている「形見と宝」の主人公。
※収録
翠色の習作/妖精のリール/十月の集まり/秘密の部屋/顔なき奴隷の禁断の花嫁が、恐ろしい欲望の夜の秘密の館で/メモリー・レーンの燧石/閉店時間/森人ウードゥになる/苦いコーヒー/他人/形見と宝/よい子にはごほうびを/ミス・フィンチ失踪事件の真相/ストレンジ・リトル・ガールズ/ハーレクインのヴァレンタイン/髪と鍵/スーザンの問題/指示/どんな気持ちかわかる?/おれの人生/ヴァンパイア・タロットの十五枚の絵入りカード/食う者、食わせる者/疾病考案者性喉頭炎/最後に/ゴリアテ/オクラホマ州タルサとケンタッキー州ルイヴィルのあいだのどこかで、グレイハウンド・バスに置き忘れられた靴箱の中の、日記の数ページ/パーティで女の子に話しかけるには/円盤が来た日/サンバード/アラディン創造/谷間の王者―「アメリカン・ゴッズ」後日譚
- 感想投稿日 : 2019年6月21日
- 読了日 : 2019年6月21日
- 本棚登録日 : 2019年6月18日
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