五重塔 (岩波文庫 緑 12-1)

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  • 岩波書店
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  • / ISBN・EAN: 9784003101216

感想・レビュー・書評

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  • 高校生のころに読んだはずなのに、ほとんど覚えていなかった。
    嵐とそれに耐えた五重塔というのは覚えていたのだが。

    それにしても小説の始まりのお吉の描写の見事なこと、もうそれだけでぐぐっと引っ張り込まれてしまったよ。
    日本語はこんなにも華麗で魅力的なものだったのだなぁ。

    それとやっぱり主人公十兵衛、そして川越の源太だよね。
    一世一代の精魂込めた塔を建て上げた十兵衛は確かに凄いけれども、女としては、源太がもう見事で見事で惚れる。
    男気があるというのは、ああいう人のことを言うのかと、いま改めて分かった気がした。
    最近はもうこんな人はいないかもしれない、というほどの見事な男気。
    とにかく寛容の上に寛容を積む訓練をどれほど重ねてきたことか。
    こういう人が棟梁というものなのか。
    いやはや、もう何年もこの手の人を描いた話を読んでいなかった。
    さすが幸田露伴、男性の男性的美徳美点を描かせたら最高位だろう。

    ところで嵐の描写、これもすごい。
    荒ぶる魔人、眷族が数十年に一度の大嵐を起こしているその様、こういう描き方もあったのかと目を瞠った。

  • わたしは、こういう双方丸く収める話が好きだ。
    義理と人情に厚い江戸っ子気質って、めんどくさいなぁ……。
    自分の中で筋を通すには、人の目に自分がどう映るかってとこが重要なのね。
    なりふり構わず意志を貫き通すのは、十兵衛みたいなわからずや、ってこと。
    けど、自分は恵まれていない、不運だ不幸だつまらん人生だ、と腐って諦めるくらいなら、命を賭けてもこれだけはやり遂げて見せる、って自信や信念があるなら行動に移しなさいって教えられたような。
    歴史的仮名遣いに抵抗がある人でも、すらっと読めてしまう傑作。

  • 著名作家による著名なタイトルに、なんだか読んだ気になっていましたが、初めての物語でした。
    技術は持っていながらも、融通のきかない性格が災いして、大口の仕事に巡り合えず、不遇をかこつ大工十兵衛。
    ところが、谷中感応寺の五重塔建築の話を聞きつけるやいなや、世話になっている親方を出し抜いてまでもその仕事をもらおうと寺に嘆願するという、周りが驚くほどの変わりぶりを見せます。
    仕事をする上で江戸っ子が何よりも重んじる義理人情、そして先達者への敬意。
    そういったものをすべて踏みにじって、五重塔建築へとその身を捧げる彼の様子は、失礼や非道といった感想を越える、すさまじい妄執を感じさせます。

    なにかに憑かれた人の圧倒的不可思議な力と、世の摂理をなぎ倒していく底知れぬ迫力。
    これは、芸術や自分の生きる道に向かい続ける人々の胸に響く話でしょう。

    主人公の度を過ぎた情熱を支えるのが、鳶の親方。
    隠れた主人公と言ってもよい、できた人物です。
    彼が自制のもとに十兵衛に職を譲り、手助け用に自分の子分や塔の下絵を提供するなどの美しい破格の譲歩を見せますが、そういった親方の好意をにべもなく断り続ける十兵衛。
    武骨さもここまで来ると癇に障りますが、彼をそうさせるのは、悪しき性格というわけではなく、ただ単に彼を捉えて離さない五重塔建築に向ける一念だということが、伝わってきます。

    古典風文章の上に、流れるような読みやすさではなく、息を詰めるような切迫感のある書き方のため、慣れていない身にはかなり読みづらさを感じます。
    ふりがなの多さに驚きました。

    いよいよ塔も完成を迎えるという最終段階で、全てをなぎ倒すような大嵐が町を襲います。
    さらに、十兵衛の態度に憤怒した親方の子分に襲われ、彼は片耳を失います。
    現実離れした完璧な芸術は、なにかの犠牲なくしては成り立たないということでしょうか。

    人をある意味狂わせ、その結果血を流させるようなどろどろとした背景を背負いながら、凛と美しく完成した五重塔。
    まるで呪われているかのように、芸術への憧れを抱きながら、地を這ってもがき続ける人々の幸せと苦しみが見事に表された作品となっています。

    美と芸術に焦がれるあまりに自己破滅へと向かう構図に、『春琴抄』や『金閣寺』を連想しました。
    歴史に残る芸術品は、確かに冷静なデッサンだけでは成り立たず、そこに狂おしい激情と捨て身の犠牲が加わらないと、命が入らないのかもしれないとも考えます。

    解説者が「彼はこの仕事の後、名声を手にしてその道の大家になれたとは思えない」と書いていました。
    確かに私も、そう思います。五重塔に情熱の炎を上げすぎて、燃え尽きてしまったのではないかと思いますし、鳶の大工にとって片耳を失うということは、大きなバランスを崩すことだととれます。
    さらに、弟子を育てる器量はない、孤独な職人であるため、おそらく彼の名前が残るのは、この五重塔のみでしょう。
    だからこそ、彼の情熱をふんだんに注がれた塔は、彼の死後も魅力を失わずに存在し続けるのだと思います。

    美しさとはかなさを併せ持つ日本建築ならではの作品。
    最後まで読みづらさを感じさせる文ながら、最後まで著者の筆力に圧倒され、引きずられるように一気に読み通した、牽引力のある短編です。

  • 幸田露伴は大学に入って初めて読んだ作家で、基本的に漢文調なので最初とっつきにくかったが、慣れてくるとこのリズム感が非常に心地良い。

  • 汝らが鋭き剣は飢えたり汝ら剣に食をあたへよ

    かっこイイな、この表現。ラストの暴風雨の描写の一部だが、擬人化しているのが生き生きしてて評判通りよい。
    ただこれはどういう話なのだろう?主人公ののっそり十兵衛、腕はあるが処世術が全くない、こういうヤツが救われるべきだみたいな話か?
    あれだけの暴風雨でも塔が壊れずにいたことから、露伴は十兵衛に肩入れしてるんだろうけどどうにも受け入れられない。
    たんに自分勝手なだけ、そりゃ名も挙がらないでしょう、自業自得の境遇じゃね?と思う。一方、川越の源太さんなんていい男じゃないか。

    もしこれが十兵衛のような実直な男を賞賛する話だとしたら、建立にあたってのバックグラウンドを見落としてると思う。
    とにもかくにも、源太さんが一番ステキ。

  • 安藤忠雄 仕事をつくる からリファレンス。

    のっそりなんて、呑臭いの嫌いだよ。そっからはじまる絶対コモディティしない侠の仕事。幸田露伴、否、蝸牛露伴先生著。

    ”気持の好さそうな顔をして欣然と人を待つ男一人。唐桟揃いの淡泊住吉張りの銀煙管おとなしきは、職人らしい侠気の風の言語挙動に見えながらすこしも下卑ぬ上品質、いづれ親方親方と多くのものに立てられる棟梁株とは、予てから知り居る馴染みのお伝といふ女が、さぞお待ち遠でござりませう”か。

    スタンダップ・ワーキンクラス・ヒーロ!そんな一冊。

  • 薄いけど読みにくそう。というイメージが華麗に一転。リズムよく読点で繋がれた文が、非常に心地よい流れを作ってくれる。

    幸田文の文章にある父露伴像を描いていた私にとっては、随分拍子抜け。

    仕事仲間に蔑まれていた男、十兵衛が親分にたてついてまで手にした仕事。
    憑かれたように打ち込んだ結果、完成した五重塔に吹き荒れる風。

    芸術至上主義。確か芥川の「地獄変」を習った時に学んだっけなー。「地獄変」では良秀の絵への執念に、娘が生け贄となる形だが、「五重塔」では生け贄となるのは己自身と言える。

    だがそこで上人や源太の善き心に救われるのだから、露伴の方が健全である。(インパクト勝負では芥川だろうが)

    もっと早く読んでおけば良かったー。

  • クリエイティブなことしたいなら相応の精神を身につけよと

  • 「読書力」文庫百選
    6.つい声に出して読みたくなる歯ごたえのある名文
    →歯ごたえのある文体。精神の心地よい緊張感が伝わってくる

  • 旧仮名づかいの文章に接し、2ページ目でリタイアーしようかと思いもした。浪曲を謡うように読んでみるとずんずん読めて一気に読み終えた。
    そして清々しい気分になった。これは任侠物である。団塊の世代の我々も十兵衛の様な気持ちで仕事をしてきたはずだ。
    「私たちまるで母子家庭」と妻に言われながら子供の駆けっこの一等賞を願いつつ仕事へ出かけたものだ。この物語、主たる登場人物もさることながら 脇で出てくる女房ども、婆さんが素晴らしい。こういう嫁が欲しかったも後の祭り。

  • 請求記号 : 913.6||K
    資料ID : 00131454
    配架場所 : 工大君に薦める

  • 均整の取れた筋書きに最高級に美しい文章。露伴初めて読んだけどかなりツボにはまる作家だな・・・。職人の霊感・魔性が一種のテーマなので仕事のモチベーションも上がるような気が。終盤の嵐の描写が特に良いね。

  • なぜ自分がこの本を読もうと思ったのか。
    理由は一種の義務感だ。
    『にごりえ』、『蒲団』、『武蔵野』、『浮雲』ぐらいは死ぬ前に一度は読んでおかなきゃならんだろうと考えている。
    『五重塔』もそれに入っている1冊だった。
    文語体で書かれているだけに読むのに時間がかかるかもしれないな、なんて考えていたのだが、近頃文語体に触れる機会が多く読み慣れてきたせいか以前に比べるとすんなりと読めた。



    物語は感応寺というお寺に建立される五重塔を巡るもの。
    私はてっきりまじめくさった内容かと思っていたのだが、いやいや全然。
    主人公は十兵衛という大工なのだが、あだ名がのっそり。こいつがほんとにダメ。
    腕はあるのだが、人間づきあいってのがまったく出来ず、口もダメで。そのくせ頑固ときている。
    この男が軸なのである。
    文語体でこういった色の強いキャラクターが出てくるのがまず私には新鮮だった。
    いや過去の人間が全てがちがちのお堅いモノを書いている訳がない。
    しかし、文語体があまり読めなかった頃は、全てが小難しく描かれているように私は思っていた。
    確かに文語体では体裁としてはある程度の堅さが出るが、それは着物をちゃんと着付けていると日本的な色が出ると言った所だ。実際は着物地によって粋にもこじゃれた風にもいくらでもアレンジは出来るのだ。
    こんな風に感じられたのは私が文章に慣れたからなのか、それとも露伴だからこそのなせる技なのか。はてさて。
    深くまでは切り込めないが今回初めて露伴の文章を読んで、まぁなんとリズムのよい文章を書く人なのだろうと感じた。
    まるで落語でも聞いているかのように、トントンと文章が小気味よくすすむ。そのリズムにのってしまえば、なんと楽しめる小説か。
    この読みやすさがあると、文語体が物語の抱える時代背景と自然にマッチし、世にも素敵な世界観を成立させる。
    正直、ストーリーもそこまで突飛なモノではないのだ。だからこそ世界感に酔える小説なんだと思う。
    しかしのっそりのキャラの濃さもあり、江戸の人情モノと分類づけするには、完全に言い切れない、露伴の時代だからこそ生まれる絶妙感も私に親しみやすい1冊と感じる要素になってくれたのだろう。
    果たして江戸と東京の境目とはどんなものだったのだろうな。



    単純におもしろかった。
    他の作品も是非読んでみたい。
    まさか自分が露伴にこんなに惹きつけられるとはおもわなんだ。

  • のっそりと呼ばれる主人公・大工の十兵衛を通し、作者の近代化しつつある当時の日本の現実に対する厳しい視線や本来かくあるべき日本に対する並々ならぬ思いが感じられた。
    現在の日本に蔓延する閉塞感から免れるためには、本書に見られるような職人的矜持や東洋的美意識を取り戻さねばならぬのではないかと思った。

  • 美しい日本語。
    金色夜叉などと違い、読み上げてリズムを味わう物でなく、じっくり読んで言葉の深みを味わう物。
    塔だけでなく、言葉も何層にもなってる´`*

    のっそり十兵衛だけではなく、源太と上人とそれぞれの人徳と信念があったからこそ、この物語は人々の心に届く名作になったのだと思う。

  • 独特な文のリズムと巧みな心理描写にぐいぐい引き込まれていく本。擬古文で少し読みにくいけど、好き。

  • 文体がすごく気に入った。
    のっそりと源太親方の、「どうしても自分が塔を建てたい」というところから、上人様の言葉を受けて心変わりするまでの描写が一生忘れられないくらい巧みだと思う。

  • 美しい日本語。
    情景が目に浮かんで、溜め息がでるよう。。
    ぐいぐい読める。

  • なんという瑞々しい登場人物たち。明治文学の表記の雰囲気と、繰り返し言葉の妙味が心地良い。

  • 出色はリズム感のある美しい文体である。文語文特有の読みにくさは感じられず、人物や情景が生き生きと眼前に現れるようだった。
    巧みな心理描写で登場人物の性格が鮮やかに浮かび上がり、それぞれに感情移入しながら読んだ。

    源太と十兵衛のすれ違いの要因は、五重塔を工業生産物ととらえるか芸術作品ととらえるかの違いではないだろうか。
    工業生産物は分業が可能だが、芸術作品はそうはいかない。「五重塔を汝(きさま)作れ今直つくれと怖しい人に吩咐(いひつ)けられ」たと言うがごとく、天啓のような強いインスピレーションに突き動かされ創作する。その違いに思い至らない源太は、自分の絵図の「仕様を一所(ひととこ)二所(ふたとこ)は用ひ」よと言うのだ。

    五重塔に一身を捧げる十兵衛の姿勢は、彼の下で働く職人たちをも感化する。独善と紙一重ではあっても、芸に命を捧げる真摯さは尊いのだ。

    「源太が烈しい意趣返報は、為る時為さで置くべき歟」という源太の激昂を体現したような暴風雨の場面は、職人二人の凄まじい気迫がぶつかり合う名場面である。

  • ぼくの反抗期の終わりの本。(pj_f)

  • 江戸を舞台とした、五重塔普請をめぐる二人の職人の葛藤を描いた小説。
    主人公の十兵衛の職人気質には鬼気迫るものがある。職人としての生き様、体の張り方など、ものづくりの鑑だ。それに伴って、この小説はおそらく背後に、職人と企業との間でコピーライトを誰にするかという対立が描かれていると思った。
    それは塔を建てたとき、建てた銘版に「誰」の名前を刻むかと言う事だ。最終的な意思決定をした者/企業の名前が未来永劫歴史として銘版に記録されることの名誉を、誰とするかの問題である。そして、小説ではこのコピーライトを誰にするかが、紆余曲折はあるがはっきりと結末づけられているのが印象的だった。
    十兵衛の職人としての「個」と、源太の部下を束ねる棟梁としての「企業」が、二人の背負うものの違いとして現れている。そしてこれは、時代が江戸から明治になるにつれ、ますます個を薄めた全体主義、大量生産を主体とする政策に抵抗した背景も、この小説に含まれていると感じた。

  • 演劇倶楽部『座』の講演で見た「五重塔」が読みたくなって、本屋にいっても置いていなかったのですが、ジュンク堂にあったので購入しました。ルビがあるので何とか読める感じです。

  • 幸田露伴『五重塔』(岩波文庫)(2010:黒木章先生推薦)

  • 080509(s 101007)

  • 圧倒的な文体。
    露伴の中では、もっとも読みやすい上に、心理描写や情景描写の美しさが出ている作品。
    名著といえば間違いなくこれを挙げる。

  • 上人、源太、十兵衛それぞれ魅力のある人物だった。職人魂炸裂話。

  • むかし読んだ気がしていたのですが、あらためてこんな本だったのか、と発見しました。教科書にありそうなお話だったんですね。

  • 5/18
    嵐と記述がかみ合っていたような。

  • 高校のときに読んだ本。

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著者プロフィール

1867年(慶応3年)~1947年(昭和22年)。小説家。江戸下谷生まれ。別号に蝸牛庵ほかがある。東京府立第一中学校(現・日比谷高校)、東京英学校(現・青山学院大学)を中途退学。のちに逓信省の電信修義学校を卒業し、電信技手として北海道へ赴任するが、文学に目覚めて帰京、文筆を始める。1889年、「露団々」が山田美妙に評価され、「風流仏」「五重塔」などで小説家としての地位を確立、尾崎紅葉とともに「紅露時代」を築く。漢文学、日本古典に通じ、多くの随筆や史伝、古典研究を残す。京都帝国大学で国文学を講じ、のちに文学博士号を授与される。37年、第一回文化勲章を受章。

「2019年 『珍饌会 露伴の食』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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