- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004316176
感想・レビュー・書評
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弘前大の佐藤和之さんらが提唱する「やさしい日本語」は、災害初期に日本語に不慣れな人が生き延びるための情報伝達手段として開発された。
本書の著者、庵さんら一橋大グループは、外国にルーツを持つ人たち、障碍者(ろう者)が、社会で情報弱者にならないための手段として新たに〈やさしい日本語〉を提唱する。
使われる場面や役割がかなり大きく広がった感じだ。
実は私も地域の団体でやさしい日本語に関わるボランティアをしている。
佐藤流であれ、庵流であれ、やさしい日本語が社会で認知されているという実感はまだまだない。
社会での有用性、必要性がきちんと説明された新書が出ることで、認知度が高まるといいな、と思う。
本書は、これまでの開発の経緯、やさしい日本語で使える文法事項の枠組み、外国にルーツを持つ人やろう者が言語生活でどんな困難を抱えているかなど、この問題についての基本的な知識を、まとめて提供してくれる。
私には障碍者の方にやさしい日本語が貢献できるという意識がなかったので、その点が収穫だった。
やさしい日本語が多文化共生社会の基盤になるという理念には共感できる。
おそらく、やさしい日本語なんて必要ないでしょ、という向きを説得しようという傾きが強いせいだと思うが、移民や障碍者がよきタックスペイヤーになり、日本社会に貢献できるようになるから、やさしい日本語が必要だという言い方に、どうも違和感がぬぐえない。
日本国籍を持つ親のもと、日本社会で生まれ育った、「無標の」日本人は、よきタックスペイヤーであることを露骨に求められることがあるだろうか。
中学校の社会の時間あたりで、国民には納税の義務があると習うあたりではそうか?
だとすれば、人間はよきタックスペイヤーでないと社会に存在してはいけないのだろうか。
なんだかそんな人間観が感じられて、ちょっとつらい気持ちになった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【著者】
庵功雄ホームページ〈http://www12.plala.or.jp/isaoiori/〉
Twitter〈https://twitter.com/isaoiori〉
【書誌情報+紹介文】
著者:庵 功雄[いおり・いさお] (1967-)
■ 新赤版 1617
■ 体裁=新書判・並製・カバー・240頁
■ 定価(本体 840円 + 税)
■ 2016年8月19日
■ ISBN:978-4-00-431617-6
人口減少を背景に,移民受け入れの議論が盛んになっている.受け入れるとしたときに解決しなければならないのがことばの問題.地域社会で共通言語になりうるのは英語でも普通の日本語でもなく〈やさしい日本語〉だけ.移民とその子どもにとどまらず,障害をもつ人,日本語を母語とする人にとって〈やさしい日本語〉がもつ意義とは.
〈http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?head=y&isbn=ISBN4-00-431617〉
【目次】
まえがき [i-iv]
目次 [v-viii]
第1章 移⺠と⽇本 001
「移民」「難民」が世界的なニュースに
日本は移民を受け入れるべきか
日本は既に外国人抜きでは成り立たない社会になっている
移民を受け入れるとはどのようなことであるべきか
「ことば」から考えてみる
日本における言語的マイノリティーが直面する困難
「多文化共生社会」に必要なこと
国際語としての英語、そして、日本語
本章のまとめ
第2章 〈やさしい⽇本語〉の誕⽣ 023
外国人に対する情報提供――対象者は誰か
英語は共通言語になり得ない
多言語対応の必要性と問題点
阪神・淡路大震災の教訓――災害時の情報提供
災害時から平時へ――〈やさしい日本語〉の誕生
初期日本語教育の公的保障の対象としての〈やさしい日本語〉
地域社会の共通言語としての〈やさしい日本語〉
地域型初級としての〈やさしい日本語〉
〈やさしい日本語〉の実践例
NHKの News Web Easy
公的文書の書き換えと横浜市との協働事業
居場所作りのための〈やさしい日本語〉
本章のまとめ
第3章 〈やさしい⽇本語〉の形 065
〈やさしい日本語〉が満たすべき条件
学校型日本語教育と地域型日本語教育
〈やさしい日本語〉の実相
日本語文の構造(単文)
1機能1形式
本章のまとめ
第4章 外国にルーツを持つ⼦どもたちと〈やさしい⽇本語〉 093
「移民の受け入れと外国にルーツを持つ子どもたち
タックスペイヤーとセーフティーネット
外国籍の子どもの高校進学率は3割
日常言語だけでは十分ではない
バイパスとしての〈やさしい日本語〉
漢字の問題
多様性を持つ人材として
本章のまとめ
第5章 障害をもつ⼈と〈やさしい⽇本語〉 129
「普通」のものには名前がない
だれでも参加できるじゃんけん
ろう児と日本語
ろう児にとっての「母語」の習得
自然言語としての日本手話
音声がなくても言語は習得できるか?
第二言語としての書記日本語の習得
ろう児の日本語教育と〈やさしい日本語〉
同情を超え、競争できる社会を
本章のまとめ
第6章 ⽇本語⺟語話者と〈やさしい⽇本語〉 169
接触場面と〈やさしい日本語〉
話しことばの場合
書きことばの場合
日本語母語話者に求められる日本語能力とは何か?
有標なものが隠れた真実をあぶり出す
有標な存在としての「外国人の日本語」
日本語表現の鏡としての〈やさしい日本語〉
本章のまとめ
第7章 多⽂化共⽣社会に必要なこと 193
「外国人が増えると犯罪が増える」は本当か?
〈やさしい日本語〉でできること
「ヒューマニズム」だけでなく
「外国人に譲歩する」のではなく
「機能」から考える
〈やさしい日本語〉は国語教育の問題である
〈やさしい日本語〉は日本語教育の問題でもある
重要なのは「お互いさま」の気持ち
〈やさしい日本語〉と情報のバリアフリー
本章のまとめ
あとがき(2016年8月 庵功雄) [223-225]
参考⽂献 [5-12]
付録 〈やさしい⽇本語〉マニュアル [1-3]