- Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022502728
感想・レビュー・書評
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読了後とても切ない気持ちに包まれた。読了するのはたぶん2回目だが1回目に読んだ時より登場人物の想いを理解できたと思う。
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先に映画を見たが、小説では双子の設定で驚いた。
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「悪いひとなんかいない。淋しい人がいるだけなんだ。」
この本を読み終わったときに思ったのは、どうしても出典が思い出せないこのセリフ。
福岡県と佐賀県の県境の峠で殺された、保険外交員の佳乃。
ここではないどこかへ連れていってくれる人を探して、現実が見えていない。
出会い系で佳乃と出会った祐一。
親に捨てられ祖父母に育てられ、車以外なんの夢も興味も持たなかった。
出会い系で祐一と出会った光代。
双子の妹と暮らす家と、職場を往復するだけの毎日。
佳乃をナンパしたきり忘れていた増尾。
マンションの最上階に住み、面白おかしく毎日を過ごす大学生。
「悪人」とはいったい誰のことなのか。
わかりやすい悪人は佳乃であり、増尾だろう。
自分より下の人間を平気で見下し、踏みつける。
人の痛みを知ろうとしない傲慢さ。
でも佳乃は、多分あと2~3年もしたら現実に戻ってきたのではないかと思う、
虚栄心は残るだろうけど、あんなに狂おしいほどの上昇志向は治まったのではないだろうか。
親元を離れて都会に出て、ちょっとちやほやされたくて、でも思うほど華やかな暮らしはできず、少し焦ったのだろう。
何かに負けたくなかったんだろう。
本当はごくごく普通の女の子だったはずだ。
増尾は苦労知らずのお坊ちゃんで、友だちグループのトップに君臨して何の問題もないように見える。
だけど逃亡生活に脅えていたとき、誰にも相談ができなかった。
親にも友だちにも、誰にも。
本当に誰かを必要としていたときに誰もいない孤独。
もちろん祐一も光代も悪い、ことをしている。
悪い、自分を自覚はしているが。
だけどきっと、後悔はしていない。
なら、彼らだって悪い、人になるのだろう。
だけどやっぱり圧倒的に、寂しいんだよ、彼らは。
“寂しさというのは、自分の話を誰かに聞いてもらいたいと切望する気持ちなのかもしれないと祐一は思う。これまでは誰かに伝えたい自分の話などなかったのだ。でも、今の自分にはそれがあった。伝える誰かに出会いたかった。”
祖父母は祖父母なりに祐一を愛していたと思うのだ。
けれど老いてきた二人は祐一に甘えた。
祐一は優し過ぎる。相手の気持ちを慮って行動する祐一の想いは、誰にも伝わらない。
“祐一って、本当に昔からそういうところがあるんですよ。起承転結の起と結しかないっていうか、承と転は自分勝手に考えるだけで、その考えたことを相手に告げもせん。自分の中では筋道が通っとるのかもしれんけど、相手には伝わらんですよ。”
佳乃も光代も親に大事に育てられて大人になったと思うのだけど、どうしてか心のどこかがうつろなんだよなあ。
自分のことも、周囲の人のこともきっと好きではなくて、好きではない部分がどんどん空洞化していくような。
佳乃の父は言う。
“今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ」”
いつどこで、家族の愛情が届かなくなってしまったのか。
最後の彼の行動は、彼の優しさなのか、本人の言う通り計算なのか。
私は優しさだと思ったけど。
“一人の人間がこの世からおらんようになるってことは、ピラミッドの頂点の石がなくなるんじゃなくて、底辺の石が一個無くなることなんやなぁって。”
そう思える彼が、計算で逃げたとは思えない。
いつか彼女に伝わるといいと思う。
彼らの父がとった行動、祖母の見せた勇気。
届いただろうか。遅すぎたのか。
命だけは、取り返しがつかない。 -
傑作・・・と思います。
三瀬峠で絞殺体が見つかった。
保険外交員で、男性にだらしない佳乃。
疑われたのは行方不明の金持ちの大学生増尾。
真犯人は幼少のころに母親に捨てられ祖父母と暮らす裕一。
裕一と一緒に逃避行するのは三十路で独身の紳士服販売員光代。
被害者の家族。加害者の家族。
登場人物みんなに人間味があって…誰もがみな順風満帆に生きているわけじゃないってことがリアルに感じられる。
引用するなら、増尾の親友鶴田が「生まれて初めて人間の匂いがした」に尽きるような気がする。
ただ「幸せになりたい。」誰もが思っていることなのに、それだけを思って生きているけど、生きるって難しい。
誰にでもその人を大事に思ってる人はいて、でもそれを守るのって難しい。
被害者であっても佳乃に非がなかったとはやっぱりいえない。
加害者だけがいつも悪人なのかな?
だからと言って罪を犯すことは決して許されることではないけれど、人間味のない増尾がまるで英雄で被害者で…人生て理不尽なことも多い。
加害者が良人で被害者は悪人だって言えない奥深さは胸が詰まる。
誰も幸せになれなくて切なさの残る物語なんだけど…罪を償って社会復帰したときに光代が裕一の支えになってほしいと思うよ。
でも…あれは裕一の本音やったのかな。優しさやったのかな。
人の気持ちは結局、本人にしか分からん。
土地感があるので読みやすかった。 -
今日はチャリでりとるもんすたぁと図書館へw
ってな事で吉田修一の『悪人』
怒りを読んで面白かったのでこちらも予約したらすぐ来たw
保険外交員で気の強い石橋佳乃、おっとりした眞子、疑い深い沙里の3人が天神のバーで知り合った大学生の金持ち増尾圭吾たちと遊んでから、佳乃は眞子と沙里に圭吾と付き合ってると嘘をつく…。
実は佳乃は他にも出合い系サイトで清水祐一と言う車好きな土木作業員とも遊んでいた。
そんなある日、福岡市と佐賀市の間にある三瀬峠で佳乃が絞殺され発見された。
その直後に行方不明になった増尾圭吾が容疑者として捜査線上に浮かぶが…。
ここから更なる登場人物やそれぞれの生い立ちからの展開が何とも切ないw
やり切れない気持ちと共感する気持。
分からん事も無いけど犯罪はいけんよなぁと…。
現実の事件で公にされない当人だけの真相には、似た様な感情と生き様が有るんじゃろうな考えさせられた。
人殺しが悪人と言い切れず、根の腐ってる奴が悪人なのでは…。
2015年40冊目 -
うん…新聞小説って日本と中国は変わりないっていう感想。