悪人

著者 :
  • 朝日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022502728

感想・レビュー・書評

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  • 私は映画のほうが好き。

  • 吉田修一はこれを書いた後、『横道世之介』を書いたんだなぁ、と思いました。って変なこと言ってるけど。

    周りがそう思うから、そう言うから、その人は「悪人」なんだ。
    逆に言えば、周りにそう思わせられれば「悪人」になれるわけで。うう、上手く言えないのがもどかしいけれど、とにかく、読んだ人にはわかるんじゃないかな、この「すごくよくわかるけど、なんか気持ち悪い、納得できない、納得したくない、これを納得できるような人間にはなりたくないな」みたいなかんじ。

  • これだけのページ数を一気に読ませる.
    しかし読んでよかったという実感がまったくわかない.
    登場人物は泣いたり,叫んだり,それこそ殺人までするわけだけど,それがすべてどこか表層的.気分で泣いたり,おもしろ半分にちゃかしたり,すぐに熱く逆上したり.若者から大人にまで人間のよいところがあまりみえない.たまに悪人でない部分も出るのだが,それもなにか発作的に出る感じ.

    私は宮部みゆきの小説を読んでもゲームの登場人物たちをみているような違和感を覚えてしまうのだが,それと似たような感触を持った.別の言い方をすれば映像が先にあって,感情が後づけされている感じ.

    ファンの人ごめんなさい.でも正直にかかないと意味がない.

  • 二元論という罠。

    このテーマは、芥川龍之介『藪の中』にも見いだせる。
    この本の評価は、キャラクタの人間性を詳細に書いた点に与えたい。

    殺された者やその周囲の人間の方が殺した者よりも悪人っぽく見えるという話は、現実でも物語でも別に珍しい話ではないし、ストーリー的にはそれ以上でもそれ以下でもない。
    どんな人でも、信号無視をする時もあれば、人助けをする時だってある。
    どっちにしろ、気まぐれに。

    一人の人間を「善」か「悪」かのどちらかに押し込めようとする二元論自体がそもそもの問題であることは、この本を読まなくても元々明らかなこと。
    マイケル・サンデルが白熱教室で提示していた「確かな答えのない問題」と同じで、実は問題自体が間違っている。
    そもそも誰かを「善悪」いずれかのキャラクタに押し込めたがること自体、「観客」の傲慢さ、悪辣さの表れに過ぎない。
    (平野啓一郎『決壊』は、この「観客」の悪さという点を、読者の手が汚れるという本の装丁上の仕掛けによって、より明確に示している。)

    眼前の現象に他者性の権化たる倫理を持ち込んで解釈しようとしてもダメだ。
    臨済禅の公案でよくあるテーマだ。庭前柏樹子。現象の解釈は、自己と現象の合一を経てから考えるべきものだ。

    本来人の心は、ある時は善であり、またある時は悪であり、更には別にどっちでもなかったり、色々である。
    しかもそれは気まぐれに近い。もはや善悪でさえ確率論の問題に過ぎない。
    結果観測前のシュレーディンガーの猫の生死と同様、善悪は外部から観測する事などもとより出来ない。

    だから人が死ねば美談で飾り立てることも出来れば、逆に徹底的に悪態を吐くことさえ出来るし、生きていた事さえ忘れた様に徹底的に無視することも出来る。
    善悪なんて、その程度のものなのだ。

    という哲学的な話の続きは臨済禅の公案とバタイユ辺りを参照してもらうとして、私たち「観客」の中にも、佳乃(殺された女)や増尾(金持ちボンボン)、祐一(殺した男)がたまたま表に出した悪性は元々潜んでいる。
    世評的には増尾を悪人扱いする声が大きいようだけれど、佳男(死んだ佳乃の父)が彼を殺さなかったように、元来殺す価値もない幼稚なガキに過ぎない。
    もし増尾が佳男に殺されたとして、それで読者が少しでもカタルシスを得られるとしたら、その元となっている読者の劣等感コンプレックスやそこから派生する妬み・嫉みという悪意は、増尾のガキ臭い虚勢と大差無い。
    にもかかわらずそういった自分の内面からは目を背けたまま、この小説の登場人物を比較して悪人を選ぼうとしている読者がいるとしたら、実は一番の悪人は、小説の中の誰かをスケープゴートに仕立て上げて、自らの悪性を自覚しないままでいる読者自身ではないだろうか。

  • 映画も見てないし、初めて吉田修一さんの本を読んだけど、どんどん引き込まれた。

  • “人”が描かれている。寂しさのもとで育った祐一、祐一に縋って生きてきた祖父母、虚栄心に操られた佳乃、大切に育てた娘を信じる佳男と里子、自分が上だと思っている増尾、増尾の友人で人の匂いがわからない鶴田。
    被害者がいるからそこに必ず加害者がいるわけではない。けれども、世の中は被害者と加害者を作っては、そこに感情を注ぎ込む。
    大切な人がいなく、失う恐怖や不安に苛まれずに余裕でいることが強さではない。
    ある物事における対象について何らかのレッテルを貼りたくなる。しかし、そこにはそこだけの感情があって必死になって生きている。それを馬鹿にすることはできない。
    人は複雑だからこそ、単純なモノを求めて、単純なモノを求めて複雑になっていく。
    自分のことを何があっても信じてくれて、何がっても必死になってくれる人が1人いれば救われると思う。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    保険外交員の女が殺害された。捜査線上に浮かぶ男。彼と出会ったもう一人の女。加害者と被害者、それぞれの家族たち。群像劇は、逃亡劇から純愛劇へ。なぜ、事件は起きたのか?なぜ、二人は逃げ続けるのか?そして、悪人とはいったい誰なのか。

  • 映画の方を先に観ていた。モントリオール国際映画祭で受賞してしまい、原作はなかなか借りられず、やっと図書館で予約していたのが届いたので、自宅待機のうちに読んでみた。映画も良かったけどそれ以上に原作は丁寧に描かれている。この本には色んな「悪人」が登場する。実は明らかな「悪人」であるはずの殺人を犯した“祐一”よりもある意味で本当の「悪人」がたくさん存在する。その不条理さは何なのか。「悪人」の定義が分からなくなる本作。

  • 直木賞候補になった「乱反射」を読んだ後、この小説のことを思い出した。テーマは似ているのに、「悪人」の方が作品として、はるかに自分にしっくりときていたことが図らずも発覚したみたい。

    乱反射は、他人の些細な無関心や身勝手さが、幼い子どもの命を奪うというプロット。一つ一つのエピソードは丁寧なのだけれど、小さなエピソードが、子どもの死に集約されていくのが、どうしても作為的な感じがしでしまう。

    「悪人」は、犯罪者となる人間よりも、はるかに傲慢で不遜な人間が我が物顔で生きているという、ある種、とても類型的な話を古くて新しい話として読ませている。特に理髪店を営んでいる父親のエピソードは、物語に深い彩りを持たせている。

    人が二人以上いれば、どちらが優位かどちらが裕福かなど格付けというか政治が発生してしまう。「悪人」は、繰り返される政治と格付けに傷付いたり、傷付けながらも、政治と切り離された絆や想いを丁寧に描いている。全体としては暗い話なのに救いがあるのは、そのあたりと深く関係している気がする。

  • 保険外交員、石橋佳乃が殺された。
    捜査線上に浮かんだ大学生、増尾圭吾。
    そして、もう一人、出会い系サイトで知り合った男、清水祐一。

    物語は、この後ある女性、馬込光代の出現によって急展開していきます。
    初めて出会い、心を寄せ合う二人…。
    切なく、苦しいラストです

    彼らを取り巻く家族、友人たち。
    それぞれが傷つき、苦しむ中、光を見つけていく様が救いになりました。

    『悪人』……
    本当に、悪人って誰だったのでしょう…。

    誰もが悪人となりえそうです。
    ほんのちょっとした心の陰りだったような気がしてなりません。

    吉田修一は、初めて読みましたが
    丁寧な心の描写に魅かれました。

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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