坂の途中の家

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.77
  • (166)
  • (357)
  • (235)
  • (37)
  • (13)
本棚登録 : 2301
感想 : 330
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022513458

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 相手の言葉や態度で、相手の感情に関係なく自分の怒りや恐怖心が増す。わかる。
    子どもがいないので所々理解できなかったけど、被告人と同化してしまう主人公 里沙子にはとても共感した。
    里沙子のピンと来ないところ、考えすぎるところにイライラしたけど、それは自分の嫌なところだとうっすら気づいて、里沙子じゃないけど戦慄した。
    元気なときじゃなければ読むのを控えた方がいいなあと読了してから思った。

  • 前半は、私小説のようなリアルさが続いて、読んでいて苦しかった。まるで自分のことのようで、ここまで苦しい小説はなかった。
    女性の自己暗示や、その周りにあるモラルハラスメントを、ここまで言葉で表現できるのはすごい。
    334ページあたりからの描写は本当に文章に力があって、そこから一気に読んだ。
    すっきりする終わり方ではないし、前半は本当にきつかったけど、無駄な描写はなかったなと思う。

  • 子供を殺した母親とその裁判の補充裁判員になった主人公の話。
    子供をもつ母親なら、多かれ少なかれ彼女達に共感できる部分があると思う。が、それ故にほんのささいなボタンのかけ違いで、自分にも起こりうるのではないかと言う恐怖を感じながら読み進めた。
    今まさに子供が産まれたばかり、または小さな子供がいるという男性はどういう感想が多いのだろう?

  • 「私もまた、進んでそんな人間になりきってきたのではないか。
    そのような愛しかたしか知らない人に、愛されるために。」

    物語終盤、この二文に
    私は吸い寄せられて、目が離せなくなった。

    いびつな愛し方でも良いから
    とにかく愛がほしくて。
    大切にされたくて。
    苦しいはずなのに、
    自らその苦しい世界にいつづける。

    過去の自分にも思い当たる節がある。
    今の自分の中にも
    まだわずかだが残っている。
    自分が思う、自分の1番嫌いなところ。
    思い出したくもないつらい日々。

    この本に登場する二人の女性も、
    愛される形が少しいびつだった。
    裁判員の補欠になった里沙子。
    子供を殺した水穂。
    どちらも
    夫や親からのいびつな愛で
    無意識に
    苦しめられていた。
    一人はそれに気付き、
    一人は気付かぬまま子どもを殺す。

    虐待はほんの少しのボタンのかけ違いから
    起きるのかもしれない。
    ニュースで取り上げられる度に
    「なんでそんなことを」
    「信じられない」
    と言う人がいるけれど。
    虐待するかしないかは
    もしかしたら紙一重なのかもしれない。

    決して虐待は他人ごとではない。
    そう思わせてくれる本だった。

    私にとって
    近い将来訪れるであろう、
    いびつな結婚生活を
    タイムマシンに乗って
    見に行ってきたような感覚だった。
    このままだと、あなたの将来は
    こうなりますよと。

    あまりにリアルな家庭内の描写、
    義父母とのやりとり。
    他人には見せない、
    他人にはわからない、
    人間の奥底にある感情。
    当事者だけが感じるいびつさ。
    違和感。

    これを里沙子は必死に他の裁判員に伝えようとするが、
    うまく言葉にできない。
    結局最後まで伝わることはなかった。

    それほど曖昧で表現の難しいことを
    この本は巧みに描いている。

    きっと、
    救われる読者は
    私だけではないだろう。

    第二の水穂が生まれないように、
    第二の里沙子にならないように、
    私はまっすぐな愛で
    大切な人を守れるようになりたい。

    独身の人も、
    既婚の人も、
    離別した人も。
    全ての人に読んでほしい。

    人生に大きく影響を与える一冊だった。

  • 年末読んだ「本屋の新井」さんに感化されてなんの予備知識もなしに「私も号泣して年越した-い♪」なんて読み始めたら、年末年始鬱ピークの私には荷が重すぎた。乳幼児を溺死させた主婦水穂の刑事事件の裁判員に選ばれた、自身も2歳の子を持つ主婦山咲里沙子。毎日義父母宅に子供を送迎して公判見守るうち投影する自分、思い出す過去。「どこが」と明確には言えない悪意に翻弄される水穂に同調する里沙子。【忘れていたのではなくて封印したのだ】という里沙子によって、私こそ、封印したあれやこれやをこじ開けられて心臓がバクバクする。

  • 凄い。
    傑作、という言葉では言い尽くせない凄みがある。
    文句なく、今年読んだ小説の中では群を抜いている。

    主人公の女性が周囲の人たち(娘、夫、義父母、友人…)との間の価値観の齟齬を感じるや否や、坂を転がり落ちるかのように孤独と不信と焦燥に陥っていく様が物凄いリアリティで描かれていく。
    そんな主人公が唯一共感を覚える相手が、補助裁判員として関わることになった実の娘の殺害の罪に問われた被告人の女性であった。
    もちろん主人公は被告人の女性と言葉を交わしたことはない、これからも交わすことは決してないであろう。
    だが、一つ間違えれば自分自身が被告人の立場になっていてもおかしくなかったのではないか、と考え込んでしまうような深い共感に主人公は囚われていく。
    そしてその共感は、他の裁判員たちにはまったく理解されない、話がまったく噛み合わない。
    おかしいのは周囲なのか、それとも自分なのか?
    事件の真実はいったいどこにあったのか?
    すべては闇に包まれていく。

    このように、すべてを自分自身で受け止めて、悪い方へ悪い方へと深みに落ち込んでいく感覚は、出産・育児の経験の有無にかかわらず女性特有のものではなかろうか。
    この繊細さは男性には表現できない。
    角田光代が小説家としての一つの頂点を極めた一作と言ってよいのではないか。

  • 子ども殺しの裁判の補充裁判員に選ばれたとして、自分も幼い子供を育てている親だとしたら・・・。
    子どもを育てるのが楽しいというのは、苦しさを乗り越えて振り返った時に美しい思い出としての宝物に出会えるからなんでしょう。ちゃんと育つのか、間違えて死んでしまうんじゃないか。なんでこんなにいう事聞かないのか。私を苦しめようとしているんじゃないか。なんで夫はそんなに他人事なのか。何故親は余計な干渉をしてくるのか。ネットや雑誌で出てくる正しい親たちの姿と自分を比べてしまい落ち込む。思わず叩いてしまった子供のほほ。
    そんな誰しもが感じるであろう子育てのフォースの暗黒面をこれでもかと書かれていて、男でも陰鬱になるので読むのが結構つらい本ではないか。でもこれを読んだ経験者は大きく頷くのかもしれない。
    子どもを憎たらしく書き過ぎじゃないかと思う節がありますが、実際どうなんでしょうね。自分はどんな子供だったんだろうか。
    救いがあったのか無かったのかもちょっと分からんです。

  • 裁判員について全く知らなかったので、勉強になりました

    日経夕刊で酒井美紀が紹介していて、
    読んでみたいと思いました。
    子をもつ前と持ってからでは、感じ方が違う。
    他の本もまあそうだけど、読みながら辛いこともあった。うちの夫にも当てはまると考えてしまう。

  • 読み終わった時なんとも言えない開放感でなんか安心というかぐっときた。
    裁判員制度の補欠裁判員に選ばれた主人公が被告人と自分を重ねてその期間を過ごす。
    はじめは事件の内容に焦点を当てた話と思ったので序盤にそれがさらっとかかれていて拍子抜けして読み進めるのが途切れ途切れになったけど、読み進めていくうちにどんどん入り込めた。

  • 「対岸の彼女」を大学生の時に読んだあと、しばらくして30代で読んだときの感覚の違いに驚いた記憶がある。恐らく、映画や本、芝居を観て持つ印象や感想は自分がこれまで経験した価値観によって作られるから、歳をとったが故に読んだときの感覚が変わるのは当たり前といえば当たり前ではある。しかしその感じるギャップのデカさに驚くのは角田作品が抜きん出て多い。恐らくそれは作品の中で描く女性の表現精度が物凄く高いからなんだと思う。
    非常に面白かった。映画にするなら今ですね。紙の月よりもきっともっと面白い作品ができる気がする。

全330件中 41 - 50件を表示

著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

角田光代の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
東野 圭吾
塩田 武士
西 加奈子
森 絵都
朝井 リョウ
西川 美和
村田 沙耶香
桐野 夏生
米澤 穂信
西 加奈子
辻村 深月
湊 かなえ
角田 光代
柚木 麻子
角田 光代
東野 圭吾
奥田 英朗
湊 かなえ
奥田 英朗
西 加奈子
恩田 陸
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×