続氷点(下) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041003855

感想・レビュー・書評

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  • 許すことに焦点を当てている。
    誰もが持っている人間の様々な感情を巧みに表現されており、自分の今までの行動、考えを振り返ざるを得ない。

  • あまりに夢中になって読んだので、細かいディティールを読み飛ばしてしまっている気がして、またいつかきちんと読み直したい。

    続編は「ゆるすこと」に焦点を当てている。
    東京のホテルでの夏枝の謝罪には、なんとなく言い訳がましく悪い意味で彼女らしさがあるものの、もし飛行機が墜落したら陽子にきちんと謝っていないことを後悔するという言うところに夏枝なりの良心が表れていて目が潤んだ。
    その後のシーンで、夏枝の父が彼女を甘やかしすぎたと話すところからも、これが彼女にできる精一杯の謝罪の仕方なんだろうと思った。

    達哉はちょっと勝手すぎて、こんなやつをいちいち相手にする陽子や北原は優しいなあと思って読んでいた。わたしが陽子だったら絶対相手にしないけどな〜と浅はかなわたしは思うけど、育ての親に憎しみを向けられていた過去を持つ陽子が、初めて肉親に会ったときに感じる愛情の深さなんて到底分かりっこない。


    三井弥吉は全てを知ったうえで恵子を許していた。むしろ救われたような気持ちさえ持っていた。このシーンでは涙が出た。経済成長期の日本では、もはや戦後ではないと、明るいムードが漂っているイメージだった。その中にも戦争で生き延びた人たちが当然いたわけで、三井弥吉の手紙によって、その人たちがどんな思いで過ごしていたかを垣間見た。

    人生は何を集めたかではなく何を与えたか。
    陽子は結局、自らに足を与えてくれた北原の恩に報いるために、足を無くした彼の生活を支えるべく、彼を選ぶということなのかな。確信が持てない。

    最近ちょうどベン・ハーを観たけど、やはり宗教とはなんなのかよくわからない。
    自分の罪を他の誰が許してくれなくても、神というそれを許してくれる存在がいるということ、そしてその事実に支えられている自分は、同じように他者を許す存在であろう、さらには、その良い輪が広がるように、自分の罪を許してくれる存在を教えよう、そういうことなんだろうか。(他者に教えなくても、自分ひとりの心で信じていればいいのかもしれない。)
    祖母はキリスト教徒だったけど、どんなきっかけがあったんだろう。


    いまわたしは自分の将来が不安で、この世界の行く末が不安で、子供を持つことに前向きな感情を持てない。「何かを与える」ことは子供を持たなくてもできる。頭ではわかっていても、わたしが今まで関わってきた人から受けた愛情を、最大限で他者に与える方法は、自分の子供を持つということなんじゃないかなあとも思う。

  • 越谷支店 井芹さんお勧め本

    あらすじ
    昭和21年(1946年)、旭川市在住の医師辻口啓造は、妻の夏枝が村井靖夫と密会中に、佐石土雄によって3歳の娘ルリ子を殺される不幸に遭う。 ... ルリ子の代わりに女の子が欲しいとねだる夏枝に対し、啓造はそれとは知らせずに殺人犯佐石の娘とされる幼い女の子を引き取る。
    感想
    素晴らしい小説でした。

  • 大学で陽子は三井恵子の息子、達哉と遭遇する。
    達哉は自分の母親と陽子がそっくりであることに
    疑問を抱く。

    北原と徹と陽子の友人である順子が
    実はルリ子を殺害した佐石の娘だった。
    啓造も夏枝もその事実を知ったが
    順子のことを恨むよりむしろ哀れに思っていた。

    達哉は執拗に陽子に近づく。
    ある日、車に陽子を乗せ自分の母親と陽子が
    実の親子ではないかと陽子に問いただす。
    陽子が白を切るので、無理やり母親に合わせに行く。
    北原は2人の車を追いかけて自分の車を走らせる。
    達哉の車に追いつき陽子を下すよう促すが
    達哉が急発進したため、足を引かれてしまい、
    切断することになってしまった。

    陽子は自殺未遂がきっかけで徹のことが
    好きだということに気づき始めていたのだが、
    この事件がきっかけで北原と結婚することを
    決める。

    ----------------------------------------------

    陽子は何も悪くないのに、不運が重なって重なって
    本当にかわいそう。。

    達哉がしつこすぎて本当に気持ち悪い。
    実の弟だとしても、決して許されることではない。

    最後の三井弥吉からの手紙はぐっときた。

  • 上下巻と続上からのラスト。

    ハッピーエンドとはいえないあたり
    現実に近くて良かったのかも。

    偶然の出会いが多いけど…
    北海道の描写や、古き日本人の美しい所作とかで
    良い意味でうやむやにできてた感があった

  • 順子が好きな言葉
    全てのこと相働きて益となる

    ルリ子のことを知ったのもよかったと。
    知らなければ幸せだったことを、知ってよかったと言えるのは、罪を理解して生きることの大切さを言っているのか。

    ラストで北原を選ぶに至った思いをもう少し描いて欲しかった。何度読み返しても、まだよくわからない。
    愛がよくわかっていないのだろうな。
    愛は意志…。

  • 自分の罪を知った時、人は人を許すのか…
    罪なき者なんか、存在しない…
    存在するのは、自分の罪に気付かない者…

    そして、自然のみが作り上げる情景を見た時、人は自分の罪を知るのかもしれない。

  • 上巻を読んでいた間は(続編は蛇足では)と思っていたが下巻を読んで色々納得できた.自分の罪の大きさを実感するからこそ,他人を裁くことから離れて,許せるようになるというのは深いと思った.

  • 罪を犯して激しく後悔していたり他人の罪をゆるせなかったりすると、こんなにも生きづらいのかと思った。では、罪はどのように償われるべきなのか。謝罪し、相手にゆるされたところで、その事実は消えない。罪とは、たとえゆるしゆるされても一生消せないものだ、と思った。

    p142
    「ごめんなさい、心配かけて。でもね、わたし自殺しようとしたからいえると思うけれど、真実に生きることよりは、死ぬことのほうが、やさしいわ」
    「なるほど、そういう考えって大切だね」
    「そしてね、考えたの。生れてきて悪かった人間なら、生れて来てよかったとみんなにいわれる人間になりたいって」

    p162
    ペンの先から思いが溢れてこぼれ散り、心のすべてを書きつくすことができないような気がした。

    p167
    「ほうたいを巻いてやれないのなら、他人の傷にふれてはならない」

    p192
    「傷つけたいと思わないけど、人間なんて、つきあっている限りの人間に、傷をつける存在じゃないのかなあ。かすり傷か深傷かのちがいはあってもさ。」

    p341
    「好きということと、愛することとは同じですよ。ねえ、あなた」
    「いや、よくはわからないが、好悪というのは感情で、愛というのは感情ではないようだね」


    p341
    「しかし人間が本当に問題にすべき愛は、本来意志的なものだろうね」
    「では好きではなくても、愛するということがありますの」
    「あるだろうね」

    p342
    「むずかしいことだよ。愛について書いてある本を読んでごらん。大変なことだよ、愛するとは。何しろ、自分の一番大事なものを他にあげるのが真の愛だそうだよ」
    「一番大事なものって、お金や着物でしょうか」
    「夏枝は命は二番目に大事なのかね」
    「あら、命は別ですわ」
    「その命をあげることのできるのが、愛だそうだ」

    p375
    相手より自分が正しいとする時、果して人間はあたたかな思いやりを持てるものだろうか。自分を正しいと思うことによって、いつしか人を見下げる冷たさが、心の中に育ってきたのではないか。

  • はあー救われない…
    この本を、ドロドロだったねで終わらせられる人はまだ人間の醜さみたいなものに気付いてないか鈍感でいられる人なんじゃないかなあ。徹の好奇心が全てを引き起こしてしまったわけだけど、元を辿ると啓造だって夏枝だって諸悪の根源になる。つまりは沢山の人間の醜い思いが積もり積もってこんな結末になってしまった。そして最後に怪我を負うのはなんの落ち度もない北原というのもやりきれないよ。なんという現実、という感じだ。
    夏枝のように自分の痛みにしか結局は目が向かない人もいるし、人の痛みを自分の痛みのように背負ってしまう人もいる。だからこそ悲劇は起こる。全4冊を通して、どうにもならない世の中のむなしさを伝えられたようだった。最近は忘れがちになるけど、すっきり終わらない物語こそが本当は現実なのだ。

    三浦綾子はすごい。人間の無常をこんなにも淡々と分かりやすく書いてしまう空恐ろしさ。ほうたいを巻いてやれないのなら、他人の傷にふれてはならない。そのとおりである。
    人間の病状の診断はあっても、ではどのように生きてゆくべきかという処方箋はない。あとがきも響きました。

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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